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月が二つ

 バイトが終わって家に帰っている時、ふと夜空を見上げると月が二つになっていた。

 最初は見間違いだと思った。

 しかし、目をこすってもほほを引っ張っても月が一つになることはなかった。

 これはきつねたぬき仕業しわざかな?

 うーん、でも、どうしてそんなことを……。

 僕がそんなことを考えていると「キャハハハ!」という子どもの笑い声が聞こえてきた。


「ついに耳までおかしくなったのかな……」


 僕がそうつぶやくと、その笑い声が僕の方に近づいてきた。

 急にではなく、徐々に近づいてくる。

 まるで僕を狩ろうとしているかのように。

 僕は鬼の力を受け継いでいるが、容易にその力を使うなと言われている。

 だから僕はその場から離れた。

 家まで走った。無我夢中で走った。何分で家に着いたのかは覚えていないが、その声が僕を追ってきているのは分かった。

 理由は分からない。だが、得体の知れない何かに命を狙われているということが分かれば、誰だって逃げ出したくなるはずだ。

 だから僕は家まで走った。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 家に着くと、彼は息をととのえ始めた。

 大量の汗がひたいから首筋へと流れる。

 それらが床に落ちる前に彼の肩に手を置いたものがいた。


「……っ!?」


 彼は勢いよく振り返ると、こぶしを作った。

 その人物は黒く長い髪で彼の腕に絡み付いた。


「や、やめろ! 僕が何をしたっていうんだ!」


 彼がそう言うと、その人物は彼に近づいた。


「く、来るな!!」


 彼の声など聞こえていないかのように彼の方に近づくその人物は彼の頭に手を置くと、彼の頭を優しく撫で始めた。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「なつ……き」


 彼が自分の妹の存在を認識すると、彼はその場に両膝をついた。


「どうしたの? 汗びっしょりだよ?」


「……月が……二つ……子どもの声が……僕を」


 彼女は彼をギュッと抱きしめると、微笑みを浮かべた。


「よしよし、もう大丈夫だよ」


「……本当……か?」


 彼が彼女にそうたずねると、彼女は「うん、本当だよ」と言った。


「そうか……。なら、良かった……」


 彼は意識を失うかのように静かに眠りについた。

 彼を二階まで運んだのは座敷童子だったが、彼のとなりで朝まで添い寝していたのは夏樹なつきだった。

 彼にとってはいやな思い出になったが、彼女にとっては大好きな兄の体温を感じながら朝まで寝られるという素晴らしい思い出となった。

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