黒い鎖
「えーっと、まあ、とりあえず、部活の内容は少し変えるが、新しく部を設立するのに反対するやつはいないってことでいいのか?」
僕がそう言うと、その場にいる全員が首を縦に振った。
「なるほど。了解した。じゃあ、今日の放課後、生徒会にそのことを伝えに行こうか」
「ねえ、雅人」
このタイミングで口を挟むのかよ。
もう勘弁してくれ。
「なんだ? 羅々」
「さっき、私の口の中に……いや、気管の中に入ってきた髪の毛ってさ……。夏樹ちゃんのでしょ?」
バレないわけがないとは思っていたが、このタイミングでそれを訊くのか。
まあ、答えられないわけじゃないから、答えてやるか。
「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」
「いや、普通に考えたら気持ち悪いよね? それ」
ん? それって、どれだ?
「気持ち悪い?」
「だってさ、いつも雅人の体のどこかに自分の体の一部をひっつけて、ストーキングしてるんでしょ? 普通に気持ち悪いじゃん」
いや、まあ、たしかにそうかもしれないが、妹は僕のことが心配だから、それをやっているのであってだな。
「お前はそうでも、僕はそうは思わない。むしろ安心するね」
「安心? 四六時中、誰かに監視されてるのに?」
ああ、そうだよ。
妹が僕のことを心配してくれているということが実感できるんだから、安心するに決まってるじゃないか。
「ああ」
「なるほどね……。ねえ、雅人」
まだ何かあるのか?
「なんだ?」
「……いつから?」
は?
「雅人はいつからそう思うようになったの?」
「いつからって、それは……」
待てよ、僕はいつから妹のことを兄妹ではなく、恋人のように思うようになったんだ?
それに、どうして僕の体は妹が近くにいる時、すごく落ち着くんだ?
いつからだ? いったいいつから、僕は……。
「答えられないの? 自分のことなのに」
「違う……。僕は……」
彼女は僕の目の前にやってくると、僕の両肩に手を置いた。
「雅人は夏樹ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「そ、それは……」
何なんだよ、いきなりそんなこと訊くなよ。
「雅人のその気持ちは本当に雅人自身のものなの? それとも……誰かに植え付けられたものなの?」
「……うるさい」
黙れ……。
「ねえ、答えてよ。ねえ」
「……うるさい」
黙れ……黙れ……。
「ねえ、雅人。早く答え……」
「うるさあああああああああああああああああああああああい!!」
その叫び声と共に大気が震え始める。
彼女は数メートル吹っ飛び、僕の体からは黒いオーラが出始める。
「……お前に僕の何が分かる! 僕の何を知っている! そうだ! お前なんかに僕の気持ちが分かるわけがない! だってお前は! 僕じゃないんだから!」
「そうだね。けど、雅人自身も気づいてないよね? 自分のことなのに……」
うるさい……黙れ……。
「黙れえええええええええええええええええ!!」
僕の手が彼女を貫こうとした時、鬼姫が出現。
彼女は黒い鎖で僕を拘束した。
「少し落ち着いてよ。昔のあたしを思い出すから」




