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大量虐殺

 店長(猫又)の話が本当だとしたら、僕の体の中にいる鬼姫ききが軽く二百年は生きていることになる。


「そいつは……鬼姫ききはどうして封印されたんですか?」


「昔、人と妖怪の仲は今のように良くはなかった。時折、妖怪絡みの事件や騒動が起きていたし、戦争にまで発展しかけたこともある。しかし、それがある日を境にピタリと止んだ」


 それに鬼姫ききが関わっているというのか?

 しかし、いったい何が……。


鬼姫ききはいったい何をしたんですか?」


「……大量虐殺だよ」


 え? 大量……虐殺?


「ど、どうしてそんなことを……」


「事の発端ほったんは人間の子どもが鬼姫ききの住処を荒らしてしまったことが原因だ。最初は彼女も注意だけしていた。しかし、彼女が困った顔を見るのが楽しくなってしまったのか、子どもたちの間で彼女の住処を荒らすのが当たり前のようになっていったんだ」


 そんな……どうして……。


「人間の子どもというのは無邪気で可愛らしい面もあるが、自分の感情を大人以上に抑制できないものなのだよ。まあ、それが彼女の怒りを増幅させるものだと誰かが気づいていれば、あんなことは起こらなかっただろうね」


「でも、たかが子どものいたずらでしょう? その程度で大量虐殺にまで発展するんですか?」


 その直後、店長(猫又)の口調が少しだけ威圧感のあるものになった。


「実際、そうだったんだよ。彼女はまず、子どもたちの家まで押しかけて、自分がされたことと同じようなことをした。それで終われば良かったのだが、彼女の怒りは限界を超えていた。彼女は子どもたちの両親を兄弟を親戚を老若男女ろうにゃくなんにょ問わず襲った。彼女の体は人の血で真っ赤に染まり、夕方になるとその姿はいっそう赤みを帯び、人々に恐怖と絶望を与えたそうだ」


「……だから、封印されたんですね。そいつの気持ちもよく分かるけど、そこまでやる必要があったんですかね?」


 僕がそうたずねると、店長(猫又)はいつものようにニコニコ笑い始めた。


「そうだね。いくら自分の住処を荒らされたとはいえ、大量虐殺をする必要はないよね。彼女の住処を荒らすのをやめなかった子どもたちにも非はあるが、彼女はあまりにもやりすぎた。まあ、そのおかげで妖怪を怒らせないようにしないと一族もろとも滅ぼされるという風潮が根付いていったんだけどね」


 そうだったのか。けど、どうして今になって鬼姫ききは僕の体を使って外の世界を見たいだなんて言い出したんだろう。

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