災厄
バイトが終わると僕は再び更衣室に向かった。
店長(猫又)に僕の体の中にいる存在のことについての話を聞くためだ。
「店長ー、いますかー?」
僕が更衣室に入ると店長(猫又)が机の上に座っていた。
「お疲れ様。まあ、とりあえず座って」
「はい」
僕かパイプ椅子に座ると、店長(猫又)は僕の目の前まで移動した。
「少し長い話になるけど、いいかな?」
「大丈夫です。明日も休日ですから」
店長(猫又)は髭をヒコヒコと動かしながら「そうか」と言った。
「では、まずは君の中にいる存在『鬼姫』についてのプロフィールを教えてあげよう。ただし、女性だから、身長や体重などは秘密だよ?」
「僕は別にそんなことは知りたくありません。彼女が何者で僕の何なのかを知りたいんです」
その直後、店長(猫又)は前足を合掌する時のようにポンと重ね合わせた。
すると、僕たちの以外の時が止まった。
「なっ! て、店長……これは、いったい」
「気にしないで。ただ外界とのリンクを断ち切っただけだから」
それはつまり、結界を作ったということか。
けど、猫又にそんな力があるなんて聞いたことないぞ?
僕は少し不思議に思ったが、特に気にしないことにした。
「分かりました。それで、鬼姫っていうのは何なんですか? 鬼なんですか?」
「この世界では人と妖怪が共に助け合って生きている。そうだね?」
この世界では?
「そうですね。たまに揉めることはあっても、完全に拒絶するようなことはありません」
「そうだね。では、どうしてそうなったのか知っているかね?」
そんなこと考えたこともなかったな。
呼吸するのが当たり前のように人と妖怪がお互いを支え合うのも常識だと思っていた。
「いえ、知りません」
「そうだろうね。真実を知っているのは一部の妖怪と人間だけなのだから」
店長(猫又)が意味深な発言をした後、僕は本題に入るよう促した。
「えーっと、それで、鬼姫というのは何者なんですか?」
「ふむ。一言で言い表すのなら、災厄だね。不幸の化身とも言うかな」
そんなのが僕の体の中にいるのか。
なんか怖いな。
「えっと、その災厄はどうして僕の体の中にいるんですか?」
「それはね、君がその災厄を封印するための器だからだよ」
器?
僕が?
「どういう意味ですか? それにどうしてそいつは僕の体の中に封印されているんですか?」
「最初の質問の答えは、そのままの意味だと思ってくれだね。次の質問の答えはその災厄が昔、人を滅ぼそうとしたから、その罰として封印されたんだよ。とある鬼の中にね」
それって、つまり。
「まあ、要するに君の祖父がその鬼だったというわけさ」
しばらくの間、沈黙が流れた。




