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五分だけ
僕がいつも通りにバイトに行こうとすると、座敷童子が声をかけてきた。
「今日もバイトに行くんですか?」
「ああ、そうだよ。特に食費を稼がないといけないからな」
靴紐が緩んでいたため、縛りなおしていると座敷童子は僕の背中に抱きついた。
「おい、これはいったい何のつもりだ?」
「特に意味はありません。ただの儀式です」
儀式?
こんなのが?
「そうか。けど、もうそろそろ行かないといけないから、そろそろ離してくれないか?」
「……嫌です」
は?
「いや、そんなこと言われても遅刻するわけにはいかないんだから、仕方ないだろ?」
「あなたの中にあの女がいる限り、あなたは不幸になります。だから、せめて少しでもそれが軽減されるようにしているのです」
そうなのか?
うーん、それなら仕方ない……かな?
「分かったよ。けど、あと五分だけだぞ? 本当に遅刻したら、僕の信用度がゼロに近い値になるから」
「分かりました。そうします……」
彼女はそう言うと、五分ジャストになるまで僕の背中に抱きついていた。




