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決闘

 僕は鉄鼠てっそと共に地下闘技場にやってきた。

 観客たちはなぜか静まり返っているが……。


「小僧、覚悟はできたか?」


「僕の名前は『山本やまもと 雅人まさと』だ。小僧じゃない」


 鉄鼠てっそはニシリと笑う。


「そうか。では、雅人まさとよ。お前の本気を我に見せてみろ」


「あんたに言われるまでもないよ。というか、こんなせまいところで戦うのか?」


 まあ、二十五メートルプールが六個くらい入りそうな闘技場なんだけどね。

 けど、僕の鬼の力が暴走すれば、おそらく半径十キロ圏内に被害が及ぶ。

 ただの鬼なら、そんなことはない。

 しかし、人と鬼の血が混じると、ごく稀にこの世のものとは思えないほどの力を持って生まれてくる時がある。

 突然変異とでも言うべきだろうか。まあ、それは今から分かるからいいとして。


「それで? あんたを倒せば、僕や僕の知人たちに危害を加えるようなことはやめてくれるのか?」


「無論、そのつもりだ。しかし、仮に我が勝った場合は」


「勝った場合は?」


 僕の問いに鉄鼠てっそはこう答える。


「ここに来る前に言った通り、お前の力を我のものにする」


「僕の力はそんなにいいものじゃないぞ。僕でさえ、コントロールできなくなる時があるんだから」


 まあ、妹がこの世にいる限り、完全に暴走することはないんだけどね。


おのれですら制御するのが難しい力か。ふっふっふっふっふ、ますます気に入ったぞ。さぁ、見せてくれ、その絶対的な力というやつを」


 僕は鉄鼠てっその言葉を聞き終わると同時に、彼の目の前に移動した。

 そして、腹にりを入れた。


「ガハァ!?」


 彼は闘技場の壁まで吹っ飛ばされたが、なぜかニコニコ笑っていた。


「いいぞ、もっとだ。もっと我を楽しませてくれ!」


「じゃあ、遠慮なく」


 鬼の力は使えば使うほど、所有者ですら把握できなくなるほど、大きく膨れ上がる。

 故に長時間使えば、所有者の心身を支配しようとする。

 鬼の力を何の代償もなく扱えたら、妹の負担が軽くなるというのに。


「ゴハァ!?」


「おーい、生きてるかー? まだ戦えるかー?」


 彼の笑顔が少し引きつっている。

 無理もない。僕の攻撃をまともにくらったのだから。


「なんの……これしき! まだやれる!!」


「あっ、そう。じゃあ、もう少し強めでもいいよな?」


 彼が今以上の攻撃を受けてしまったら、確実に殺されるという顔をした瞬間、僕は彼の顔面を殴っていた。


「うわああああああああああああああああああ!!」


「……ちょっとやりすぎたかな」


 彼が闘技場の壁にめり込んでいるのを見ながら、僕はそうつぶやいた。

 あまり本気を出しすぎるのは良くない。

 僕の鬼の力が暴走する要因になるからだ。


「おーい、大丈夫かー」


 その時、彼は体長が十メートルほどになった。


「……次は、こちらの番だ!!」


 なるほど。戦いが長引くほど倒すのが難しくなるタイプだったか。

 はぁ……厄介だな。

 僕はため息をくと、拳に妖力を込めた。

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