背徳感
登校前。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい、お兄ちゃん。車に気をつけてね」
大丈夫だよ。多分、車の方が大変なことになるから。
「ああ、気をつけるよ。車を壊さないように……」
「たしかにそうだね。じゃあ、言い直すね。お兄ちゃん、車を壊さないように気をつけてね」
わざわざ言い直してくれた。なんて可愛い妹なんだ。
雅人は実の妹である夏樹のことが好きで仕方ない。
本人はそれを夏樹に悟られないようにしているようだが、普通にバレている。
反応しても、しなくても好意があることが分かってしまう。
つまり、どうしても感情が態度に出てしまうのだ。
「ああ、分かった」
「雅人さん、忘れ物ですよ」
座敷童子の童子が音もなく出現する。
「ん? なんだ? え? それはひょっとして」
「はい、私があなたのために作った『お弁当』です。ちゃんと全部食べないと一生私に逆らえないようにしますからね」
おー、怖い、怖い。
「はいはい、分かってるよ。いつもありがとな」
「こ、これは私がやりたくてやっているだけです! 感謝されるようなことではありません」
童子は彼をチラ見しながら頬を真っ赤に染めている。
照れてる。
照れてるねー。
「な、何ですか? 二人して人の顔を見ながらニヤケないでください!」
「朝からこんないいものを見せられたら誰でもこうなるんだよ。なあ? 夏樹」
その通り!
「うんうん、これには激しく同意せざるを得ないね」
「も、もうー! 二人して私をからかわないでくださいよー!」
怒ってても可愛いなー。
怒ってる姿も可愛いなー。
「ん? ダーリン、学校行くの?」
「ん? あー、そういえば、そうだったな。それじゃあ、いってきます」
家出中の白猫と童子と夏樹が彼を見送る。
『いってらっしゃーい!』
「い、いってらっしゃい」
なんだろう。この背徳感。
「いってきます」
*
彼が家を出てから数分後。
彼女は突然やってきた。
「おはよう! 雅人!!」
「ん? あー、おはよう」
それは彼の幼馴染である『百々目鬼 羅々』だった。




