用は済んだ
童子は急に立ち止まった。
「どうしたんだ? もう用は済んだはずだろ?」
「あなたは自分が何をしたのか全く理解していません!」
ん? いったい何のことだ?
「私はまだ、あなたのことを好きなのかどうか分からないのですよ? それなのに、その時が来たら私と結婚するなどと」
「あの時はそう言うしかなかったんだよ。それにお前だって困ってただろ?」
童子は目をパチクリさせる。
「そ、それはまあ……そうですが……。あ、あんなの実質プロポーズじゃないですか」
「プロポーズ……か。たしかにそう解釈されても仕方ないな。けど、あれは夏樹が僕なしで生きていけるようになったらの話だ。だから、あと数年はかかるぞ?」
数年なんて、あっという間ですよ。
「そうですね。ですが、約束してしまった以上、その時が来たら……」
「分かってるよ。僕がその時までに鬼になってなかったら、お前と結婚してやるよ」
雅人さん……もしかして、怒ってませんか?
「不愉快ですか?」
「え?」
何がだ?
「分かっています。精神は大人で体は未発達の私なんかと結婚しても、あなたは満足できません」
「そんなこと……言うなよ」
え?
「そんなこと言うなよ! 僕はお前が倒れた時、本気で心配したんだぞ! だから、自分のことを出来損ないみたいに言わないでくれ……」
「え、えっと、その……ご、ごめんなさい」
彼は彼女を抱き寄せる。
「謝るなよ。お前はお前のままでいいんだよ。だから、僕のそばにいてくれ」
「お、怒っていないのですか?」
え?
「僕は怒ってなんかない。ずっと畳の上に座ってたから、ちょっと足が痺れただけだ」
「えっと、つまり、それで腹を立てていただけなのですか?」
それ以外、何もないよ。
「ああ、そうだよ」
「そうでしたか。では、帰りましょう。我が家に」
ああ、そうだな。
こうして、二人は無事に山本家に戻ることができたのであった。




