一晩中
白猫は座敷童子が家のどこにいるのか知らない。
というか、雅人と夏樹も知らないことであるため、彼女を見つけ出すのは容易ではない。
「童子ちゃーん、どこにいるのー?」
彼女の声は暗闇に飲み込まれてしまった。
誰にも届かず、誰にも気づかれない。
きっと自分しかいなくなった世界は、こんな感じなのだろうと彼女は考えながら、歩みを進めた。
「……どこにいるの? 私、もう疲れちゃったよ」
家中を見て回ったが、彼女がいそうな部屋の扉さえ見つけることができなかった。
いったい彼女はどこにいるのだろう。
もしかしたら、もうこの家から出て行ってしまったのかもしれない。
そんなことを考え始めた頃、彼女の前に自分より数倍大きい物体が現れた。
彼女がそれに気づくのと、それにぶつかったのは、ほぼ同時だった。
「あら? まだ起きていたのですか?」
「わ、童子ちゃん……。童子ちゃーん!!」
白猫は彼女の絶壁に飛び込んだ。
いや、絶壁ではない。少しはある。
甘食くらいはある。
「どうしたのですか? 何か嫌なことでもあったのですか?」
「えっとね、ダーリンと童子ちゃんがケンカしてたでしょ? そのあと、童子ちゃんが消えちゃったから、もうこの家から出て行っちゃったのかもしれないって思ったら……なんか悲しくなってきて、私それをどうにかしたくて、それで……」
童子は彼女の頭を撫でながら、こう言う。
「こんな夜遅くまで家中を見て回っていたということですね?」
「う、うん」
彼女はリビングに向かいながら、今まで姿を消していた理由を話し始めた。
「まあ、どんなに長く生きていようと腹は立ちますし、悲しくなる時だってあります。先ほどの私は自分が一方的に自分の考えを相手に押し付けていることに気づかず、押してダメなら押し倒せ状態でした。なので、少し頭を冷やしていたのですよ。別にここから出て行くつもりはありません」
「そう……だったんだ……。良かったー」
彼女はソファに腰を下ろすと、白猫を太ももの上に乗せた。
「雅人さんは私が思っているより、優秀で優しくて、頑張り屋さんです。けれど、自分のやり方以外を知らないせいか、ぶつかることもあります。まあ、そんなことはこれからどうにでもなります。彼が人をやめない限りは……」
「そ、そんなこと言わないでよー。ダーリンは人間らしく生きていけば、鬼にならないんでしょ?」
座敷童子の表情が少し曇る。
「さぁ、それはどうでしょうね。鬼姫という鬼は暴走するタイミングがよく分かりませんから、彼が鬼にならずに一生を終えられる可能性は限りなく低いです」
「それ……本当なの?」
座敷童子は白猫の額をつつきながら、こう言う。
「現時点では、なんとも言えませんね。雅人さんの頑張り次第だと思います」
「どうにかできないの? ダーリンは何にも悪いことしてないのに、どうしてそんな……」
座敷童子は白猫のシッポを触りながら、こう言う。
「気持ちは分かりますが、それは雅人さんが一番よく分かっています。私たちが何かしたところで状況は変わりません」
「でも、それじゃあダーリンがかわいそうだよ」
かわいそう……ですか。
「そうですね。けれど、それが現実です。弱音をいくら吐いても何の解決にもなりません」
「……私たちに、何かできることはないのかな?」
彼女たちは一晩中、彼のことについて語り合った。




