無理です
放課後。
僕はいつもより早足で家に戻っていた。
このままずっと座敷童子の機嫌が悪いままだと、気まずいからだ。
それの原因が僕なのかどうかは分からないが、とりあえずやれるだけのことはやってみよう。
「ただいまー」
「あっ、お兄ちゃん。おかえりー」
家に帰ると夏樹(雅人の実の妹)が出迎えてくれた。
「おかえり、ダーリン」
ついでに白猫も。
「ああ、ただいま。あれ? 童子は?」
「え? 童子ちゃん? それなら、さっきまで私たちの近くに……あれ? どこに行ったのかな?」
さっきまで一緒だったってことは、僕が帰ってきたから隠れたってことかな?
「そうか。ありがとう」
「あー、うん」
さて、座敷童子はどこにいるのかな。
おっと、その前に手洗いとうがいをしよう。
僕が洗面所に行くと、何かが姿を消した。
ん? 今なんかいたような……。
気のせいかな?
彼はやるべきことを済ますと、座敷童子の捜索を始めた。
「……よし、じゃあ、さっそく……」
「私に何か用があるのですか?」
しかし、それは始まる前に終わってしまった。
座敷童子が自分から姿を現したからである。
「うわっ! びっくりした……。お前さ、当然のように気配を消すなよ。僕が探知できないだろ?」
「あなたに探知されたくないから、気配を消しているのです。それで? 私に何か言いたいことでもあるのですか?」
言いたいこと。
あるには、ある。
しかし、いざ本人に言おうとすると、どう言ったらいいのか分からない。
まあ、とりあえず……。
「えっと……今朝から気になってたんだけどさ。お前、なんか機嫌悪いだろ?」
「……そうですか? 私はいつも通りですよ?」
いや、なんか明らかに言葉に重みがあるよな?
わざとなのか?
僕はこいつに弄ばれているのか?
「なら、どうして僕にだけ強気なんだよ」
「それは……その……なんでもありません」
なんでもないはずないだろ。
「なあ、童子。僕の目を見て話せよ」
「……嫌です」
どうしてだ?
「じゃあ、せめて僕の首の根本を見てくれ」
「……それも嫌です」
なんだと?
「うーん、じゃあ、僕の心臓……」
「無理です」
無理?
お前はいつから僕のことが嫌いになったんだ?
そもそも、こいつに好きとか嫌いとかあるのか?
まあ、いいや。
「そうか。なら、そのままでいいから聞いてくれ」
「はい」
さて、どうしたものかな。




