けど……
座敷童子と夏樹は雅人の部屋にやってきた。
まあ、座敷童子は半ば無理やり連れてこられたが。
「童子ちゃん! 童子ちゃん!」
「……何ですか?」
彼女は少し……いや、かなり不機嫌だ。
夏樹(雅人の実の妹)は座敷童子の両肩に手を置くと、彼女の顔をじっと見つめ始めた。
「何ですか? 私の顔に何かついていますか?」
「別に何もついてないよ。けど、そろそろ本当のことを言ってほしいなー」
本当の……こと。
「ですから、何度も言っているように私は雅人さんのことなんて……」
「お兄ちゃんは誰にでも優しいから、その気になっちゃうのは分かるよー。けど、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから、いくら童子ちゃんでも……」
あー、これは完全に勘違いしてますね。
「何を勘違いしているのですか? 私は雅人さんと恋人になりたいだなんて思ったことは一度もありませんよ?」
「そうなの? なら、どうして昨日、お兄ちゃんの唾液を飲んでたの?」
見られていたのですか。
あれは単に霊力を補充していただけなのですが。
「あれは座敷童子……いえ、文字使いにとっては必要不可欠なことなのです。ですから、生理現象だと思ってください」
「生理現象ね。まあ、そういうことにしておこうかな。でもさ、今朝のアレはそれじゃないよね? ねえ?」
雅人さんの頬にキスをしたという事実は過去にでも行かない限り、変わりません。
しかし、私はあの時、自分が何をしているのか分からなかった。
どうして私はあんなことを……。
「たしかに今朝のアレはそれとは違います。ですが、私は恋愛というものはよく分からないのです。なので、アレは私なりの日頃の感謝の気持ちだと思ってもらえると助かります」
「感謝の気持ちか……。うん、分かった。今回はそういうことにしておいてあげるよ」
あら? 意外とすんなり受け入れてくれましたね。
「けど……」
夏樹は座敷童子の目の前に一瞬で移動すると、黒い長髪の先端を彼女に向けた。
「私、お兄ちゃんは誰にも譲るつもりはないから。それは覚えておいてね?」
「はい、分かりました。それでは、私はこれで失礼します」
座敷童子はそう言うと、彼女の前から姿を消した。
「恋のライバル登場……じゃなければいいんだけどね」
夏樹は雅人のベッドに横になると、彼の枕を抱き寄せた。
「あー……お兄ちゃんのにおいがする……」
彼女がそのあと何をしていたのかは本人と座敷童子以外、知らない。




