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結婚式は麗らかに

読んでくださってありがとうございます。

 春うららかなその日、神殿へ続く道には沢山の人が列をなして、今日通るはずの馬車を今か今かと待ち望んでいた。


 空には一点の曇りもなく、風は爽やかに頬を撫でる。


 サラマイン王国、王都リスカスの白亜の城から神殿まで、騎士団率いる騎士、衛兵がその時を待っていた。


 ガラガラガラとレンガ張りのその道を隊列を組んだ騎馬と、一台の馬車が列をなす。馬は、白馬でそろえられ、そのあまりの美しさに皆息を飲む。


 今、王宮から国王の祝福を受けて、国の英雄であるアルファード・リングス・アルテイル侯爵と彼の妻になるエリアル・シュノーク・グレンリズム伯爵令嬢と、彼の部下であり未来のグレンリズム伯爵である兄クレイン・クロス・アゼル子爵と妻になるアルティシア・ジル・アルテイルが馬車に乗り、その通りを通るのだ。壮麗な馬車は白く光輝いて一切の曇りがない。


 人々は沿道に立ち、花という花を蒼穹に、彼らの馬車の前に後ろに投げかけて祝福をするのだった。


 馬車の上の部分はなく、そこに座る今日の主役達の笑顔が眩しい。


「花嫁様美しいわ~」

「いえ、花婿様も美しいわ~」


 見とれ、見惚れ、目に焼き付けることは忘れない。


 警備上、本来は沿道の人々に姿を見せることはあり得ないのだが、それが国一番の猛者であれば、問題はなかったのかもしれない。


 神殿の門をくぐり、馬車は一番背の高い建物聖堂に到着した。花嫁二人は花婿たちに付き添われて控え室に迎えられる。

 

「アルフォード様」


 クイクイと彼の袖をひき、エリアルは「凄い人でしたね。皆が祝福してくれてるようで嬉しいです」とこぼれんばかりの笑顔で言う。見た目は、どこの精霊の国の女王かという姿でありながら、そんな可愛いことを言うので、アルフォードは頭に血がのぼりそうになる。

 最近、どうも血管がおかしいとアルフォードは思っていた。医師にみてもらったほうがいいかもしれない。


「シア、具合悪くないですか? 疲れたでしょう」


 そっとアルティシアの手を握り、普段屋敷にこもっている彼女を心配そうにクレインは言う。頬をそおっと撫でるとアルティシアは少し震えて、頭を振る。


「皆様が祝福してくれるのですもの、ちょっとぐらいがんばれるわ。それより、貴方のほうが疲れているでしょう。少し休んだら?」


 そっと手をひいて、自分の隣の椅子に座らせると、クレインの瞳を覗き込む。


「シア、貴女のほうがしんどいだろうに、おれの心配をしてくれるんですね。貴女は本当は天使じゃないんですか……もちろん、おれだけの……」


「もおおお!だから貴方は恥ずかしすぎるの!!」


 真っ赤になったアルティシアを、愛しくてたまらないとクレインは抱きしめようとして、止められる。


「お前達は! ここは花嫁の控え室だ、でていかないか!!」


 グレンリズム伯爵の一喝で、直立不動の姿勢で、踵を鳴らす。


「「はい!!」」


 二人は父親&舅には逆らえなかった。ちなみに父親の名前はレナート・セイズ・グレンリズムという。

 二人が出て行ったのを、深いため息で見送ったレナートは、今日の主役である二人の娘に苦笑いをする。太陽のような実の娘と月のような義理の娘、対照的な二人でありながら、どちらも贔屓目なしに美しい。息子と婿の狂乱がわからないでもないが、父としてはうっとおしい。追い出してすっきりした。


 エリアルは、そこでやっと両親に挨拶をすることを思い出した。


「お父様、お母様、今まで育てていただいてありがとうございました。私はこれからアルフォード様に嫁ぎ、幸せになります」


 エリアルが、そういって膝をおり丁寧にお辞儀をすると、母は泣き出してしまった。母の肩を抱く父の目も潤んでいるのがわかる。


 エリアルの挨拶の後、アルティシアは立つことはできなかったが、そっと頭を下げて挨拶をする。


「お義父様、お義母さま。わたくしは、このような足りぬ身でございます。伯爵家の嫁として何ができると言うことができません……。それでもクレイン様をささえ、きっとお二人にも満足していただけるように努力していく所存でございます。よろしくご指導お願いいたします」


 アルティシアの手を握るためにファレルは、膝をついて顔を見上げた。見目麗しいと絶賛される兄妹の母であるファレルの目にも可憐な令嬢だった。意思の強さはクレインの長年の求婚を断っていたことを知っているので理解していたが、彼女がこの結婚を決めるのにただならない勇気がいったのだと知る。


「いいえ、貴女は私の娘ですもの。努力なんて必要ありませんよ。貴女が貴方らしくあれば、クレインにとっての幸せなんですもの。それが一番私達が嬉しいことですよ」

「大体、エリアルをみればわかると思うが、私たちは娘にそれほど厳しいことは求めていないよ。そうだね、できれば皆が笑顔であればいい。君達が笑っていられるかは、息子達の仕事次第だ。ちなみに私は男には厳しいよ」


 レナートもそんな風にアルティシアを歓迎していることを伝える。


 アルティシアは心が温かくなるのを感じた。アルティシアは、泣いちゃだめよとエリアルにいわれて必死に耐えた。


 時刻になると、アルフォードが部屋を訪れる。エスコートするはずの父がいないので、本来なら叔父のシジマール侯爵にでもお願いするところだが、アルフォードは自分がエスコートしたいと告げて、教会にも了解をもらった。


 二組同時の結婚式自体が異例なことなので、教会も文句は言わなかった。


「アルティシア、行こうか」


 アルティシアを軽く抱き上げ、アルフォードはエリアルに笑みかける。


 パイプオルガンの旋律が大きな聖堂を神聖なものへと変えて行く。聖堂に集まるものは、血縁、王宮の関係者、騎士団の関係者数かぎりない。なのにその場はパイプオルガンの音と小さな衣擦れの音しかなく、人の気配も薄い。

 中央を走る赤い敷物は普段結婚式などに使われるものより大きくて、特注だろうと思われる。


 父にエスコートされて、エリアルはその道を歩く。ゆっくりと。父の向こうには、アルフォードがアルティシアを抱き上げて歩く。一歩一歩――。


 敷物の真ん中でクレインが立っていた。白い騎士団の正装は礼典用で、クレインに似合っている。

 たまにため息と共に女性が眩暈を起こして倒れ、運ばれていく。


「クレイン、妹をアルティシアをよろしく頼む」


 アルフォードは、ますます頼もしくなっていくクレインに安心してアルティシアを預けることができた。

 あちこちから、感激の涙を拭く(鼻をすするともいう)音がする。アルティシアの悲劇を皆覚えているのだ。


「ええ。本望です」


 アルティシアをアルフォードから譲り受け、クレインは抱き上げたアルティシアにそっと口付けると、「早い!」と父に足を踏まれた。


「アルフォード君、エリアルのことをよろしく頼む」

「はい。義父上、アルフォードと呼んでください」

「ああ、アルフォード。これからは私のことも父と思って頼ってくれたまえ。まぁあんまり王都にはいないがな」


 レナードは、そういってアルフォードの肩を叩いた。

 アルフォードは、レナートからエスコートを譲りうけて、エリアルを覗き込む。


「行こう」


 四人は揃って進み、階段を上がる。

 そこには国王から直々に頼まれたという神官長が待っていた。


 厳かに誓いの言葉がかけられる。


「アルファード・リングス。貴方は病めるときも健やかなるときもエリアル・シュノークを妻とし、愛し護ることを誓いますか」

 

 初老の神官長の声は、それほど大きなものではなかったが、聖堂が静まり返っていることもあり、不思議なほど響いた。このとき、家名を呼ばないのは決まりである。


「はい。いかなるときも、愛し、護ることを誓います」


 低いアルフォードの声が、力強く響くと「はぅっ!」とあちこちから声が上がり、にわかに騒がしくなる。五人は運ばれたようだった。

 この低音、本当にやばいって……とエリアルは引きつりそうになる頬を鉄壁の笑顔で固める。


「エリアル・シュノーク。貴女もアルフォード・リングスが病めるときも健やかなる時も彼を支え、愛することを誓いますか」


 エリアルは、軽く頷き、声が震えないように返事をした。


「はい、彼をささえ、愛します」


 横で聞いていたアルティシアが、感極まったのか涙を浮かべる。


「シア、泣かないで……」


 クレインは、神官長どころではなくなったのか困ったように、彼女の眦に光る涙をそっと唇で拭うと、下段の席から「きゃーー!」と声が上がった。パタパタとまたもや音が聞こえて騒がしくなる。


「あ、これこれ……」


 その隙に気持ちが昂ぶってしまったアルフォードがエリアルに口付けてるのを神官長が止める。


「あ、こっちも……。まだ誓いがおわっとらん!!」


 神官長がアルフォードに注意をすれば、まだ誓いが終わっていないにも関わらず、クレインがアルティシアの頬やら唇に優しく触れている。


「こりゃ! ちゃんとせんと、結婚させんぞ!」


 この台詞に二人の馬鹿(父談)は顔をひきつらせて、神官長に向き直る。

 頭を下げた二人に、激昂したかに思えた神官長は、よしよしと頷く。




「クレイン・クロス。貴方は病めるときも健やかなるときもアルティシア・ジルを妻とし、愛し護ることを誓いますか」

 

 仕切りなおすようにクレインに尋ねる。


「はい。いかなるときも、愛し、護ることを誓います」


 悲鳴は増えていく一方だったが、見守る客も神殿の人間たちも慣れて、運んでいく。随分騒がしい結婚式だと、神官長は笑いそうになる。


「アルティシア・ジル。貴女もクレイン・クロスが病めるときも健やかなる時も彼を支え、愛することを誓いますか」


 アルティシアはクレインの胸の中で、既に涙をこぼしていた。その清らかさに神官長も息を飲むほどだった。


「はい、彼をささえて、愛します」


 ギュッと抱きしめるクレインに、アルティシアは彼の顔に手を伸ばす。


「では、両新郎新婦は誓いの口付けを……。その辺で終わっていただけますかな……」


 疲れたような神官長の声を客は拍手で掻き消した。


「おめでとう、幸せに」

「しあわせに~」


 という言葉の合間に「私にもわけて~」「素敵です~」「アル×クレの新刊はまだですか~?」など、不埒な言葉も飛んでいたが、皆、二組の新婚さんを祝福していた。


 エリアルはアルフォードの、アルティシアはクレインの胸の中で幸せそうに笑みを浮かべるのだった。

 その姿は、11年前の悲劇を知る人々は勿論、知らない人々も涙を浮かべて喜べるそんな温かいもので、疲れた神官長も、皺の深い眦を細めて優しく笑んでいた。

エリアルとアルフォードの話の完結は求婚のところと思っていたのですが、まあこちらが本当の完結になるのでしょうねw。

昔は何度か小説ぽいものを書いたりしてたのですが、はしょらずにに完結したのは初めてでした。これもブックマークやメッセをいただいた、読んでくれていた皆様のお陰です。ありがとうございました。

今の時点でブックマークは69。6人の方に評価いただけました。とても嬉しくおもっています。ユニークでは最高で376人の方が一日にみてもらえたようです。

PVは間違って3話投稿した日が3000越えで一番多かったですね。どれも私にとっては励みであり、嬉しさ一杯でした。

どうもこういう世界設定が私には好きなようなので、これからも違うキャラで書いていくとは思いますが、何分語彙もシーンの妄想力もとぼしいので、同じようなことを書いていたら笑ってやってください。

言ってた通り、何話か書くとは思いますが、ありがとうございました!

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