第341話 デスナイト再戦
私はセフィロトと戦ったときに使い切ってしまった棒手裏剣に、再び毒シートを貼り付けていく。
タイムさんは矢の回収とかはしないけど、効率重視のために「毒シートを付けた矢」「付けてない普通の矢」を分けてるので、もう少し毒付きを増やそうということだね。
「前回どうやって倒した?」
「普通に……柚香とヤマトが物理攻撃で、俺が眷属召喚された奴らを魔法で倒してました」
「結構瞬殺だったよね」
私が作業していると、デスナイトへの対策としてライトさんの問いかけに蓮と聖弥くんが説明している。
うん、「普通に」倒したよね……全然参考にならないと思うけど。
「確かに私も見てたけど、参考になりそうでならない件」
颯姫さんも頭を抱えてしまった。確かに、新宿ダンジョンに出る敵は通常よりも強くなってるしなあ。セフィロトの硬さはなかなか面倒だった。
「デュラハン系って、どうも馬と人間がばらけるみたいなんですよね。前回も個別に倒さないと消えてくれなくて。でもあのでっかい馬をヤマトが蹴り飛ばして倒してたので、比較的楽に一刀両断しちゃいましたけど」
「それだわ」
前回はデスナイト本体より馬が大変だった記憶があるんだよね。でっかいし。
それを思いながら私が話したら、ママがパチンと指を鳴らした。
「ヤマトに片っ端から転ばせてもらって、あとはフルボッコね。ユズは多分ここに出るデスナイトでも一刀両断できると思うわ」
「魔法を使わないことだけ気を付ければ、眷属召喚以外はそれほど面倒なことはしてこない敵のはずだし。蓮くん、ロータスロッドは属性付いてるんでしょう? 特効とまでは言えないけど効果高いから、思いっきりぶん殴ってやって」
物理も行ける魔法使いの颯姫さんが、笑顔で蓮の肩を叩いた。蓮は「えええ……」と嫌そうにしているけど、まさか階段で体育座りしてなさいってわけにもいかないんだから、戦ってもらわないとね。
「じゃあ、この棒手裏剣は彩花ちゃんに渡すよ。私は倒していくから、彩花ちゃんは麻痺させていって」
「りょー。使用済みはここにいれるんだね、さすがあいっち、いい仕事」
毒シートを巻いた分は仕切りの有る部分に挿して、ホルダーを彩花ちゃんに渡す。彩花ちゃんはウエストにホルダーを付けると何度か取り出す練習をした。
「とにかく、一番気を付けることは魔法を使わないこと。蓮くん、眷属召喚されたモンスター相手にも絶対魔法は使わないで欲しい。間違ってデスナイトに当たって反射してきたら大惨事だから」
「は、はい」
今までで一番真剣では? って語調でライトさんが蓮に念押ししている。
蓮の攻撃魔法が反射――それはとんでもないフレンドリーファイアーなんだわ。多分デスナイトの普通の攻撃よりもダメージがでかい。ここにいる人たちは、MAGとRSTが低いファイター系ステータスの持ち主が多いからね。HPが高い人が多いから一撃死はないと思うけど、かなり危険。
準備を終えた私たちは、再度99層へ向かった。
「よし、シンプルに行こう。ひたすら物理でフルボッコ!」
「押忍!」
大分疲れてきてるのか、ライトさんも指示が若干おかしい気がする。
物理と聞いて彩花ちゃんとバス屋さんが、すっごく嬉しそうに拳を突き上げてた。
魔法じゃないとどうにもならない状態だとこの人たちは手出しできないから、今の状況で俄然生き生きとしだしたね。
「GO!」
その掛け声で、私たちはそれぞれの武器を手に一斉にフロアへ駆け下りる。
「ヤマト、体当たりで転ばせて!」
「ゥワン!」
矢のように駆けるヤマトは、彩花ちゃんたち以上に楽しそう。物凄いスピードでフロアを縦横無尽に走りながら、体当たりと跳び蹴りでデスナイトの巨躯を横倒しにしていく。
あの一撃も相当ダメージ入ってるんじゃないかな。
眷属召喚もバンバンされているけど、バス屋さんが一気になぎ払っていた。タイムさんと彩花ちゃんがデスナイトを麻痺させ、眷属召喚できるデスナイトも減っていく。
「イヤァァァア!」
思い切り振りかぶった村雨丸での、渾身の斬撃。
手応えは重かったけど、私の一太刀は鎧を纏った本体と馬を一気に両断した。
よし、行ける!
蓮もロータスロッドを両手で握り、まるで野球をしているようにアンデッドモンスターたちをぶっ飛ばしている。最初こそ大変だったけども、動けない敵が増えていくからどんどん敵の攻撃は減ってきて楽になる!
「よし! 姫、ぶちかませ!」
動けるデスナイトがいなくなって、ライトさんが叫ぶ。颯姫さんは角材を脇に抱えると、そのまま体当たりする勢いで打撃を叩き込んだ。
横須賀の破城槌と呼ばれるに相応しい、けれどそれほどがっしりしているわけじゃない颯姫さんからは想像も付かない攻撃。
重い音が響いてデスナイトが沈む。「次!」と鋭い声を上げ、颯姫さんは次のデスナイトに振り上げた角材でまた一撃を入れる。
ヤマトの攻撃でもしかしたら半分くらいHP削れてたのかもしれないけど、颯姫さんは息つく間もなく一撃ずつでデスナイトを屠っていった。
フロアから全てのモンスターが消え去って、肩で息をしていた颯姫さんは角材をドンと床に立てると「はぁぁぁ~」と肺の空気を全て吐き出すようなため息をついた。
「セフィロトよりは楽でよかった……」
「あれと一緒にしちゃダメです」
すかさず聖弥くんがツッコんでいたけど。いや、セフィロトは通常ボスだけど強すぎだからね。





