第324話 魔改造の昼
今年最初の3連休、私たちはまた新宿ダンジョンに向かっていた。
前回はレベリング。今回は「最下層を目指す攻略」として。
メンバーは前回と同じく私とママ、彩花ちゃん、蓮、聖弥くん。そして、今回はヤマトがいる。
実は、私的にあそこのホテル並みの設備、ちょっと楽しみだったりする……。常に綺麗でさ、お風呂も広いしベッドもセミダブルだし、ゲーム機8台あるし!
今回は彩花ちゃんの防具も新調したし、ヤマトもいるし前回より戦力的には上だ。その分敵も強くなるけどね。
ヤマトはケージに入れて電車に乗ったけど、今回は大船からライトニング・グロウと合流することになってる。
理由は――颯姫さんが車の中でヤマトをモフりたいからだって!
「あけましておめでとう!」
「あけおめことよろ!」
大船駅前にいつもの白い車が停まっていて、颯姫さんとバス屋さんが私たちを見つけてすぐ車から出てきた。
「わー、あけましておめでとうございますー!」
年賀LIMEは送り合ったけど、実際に顔を合わせたらやっぱり言うよね!
車に乗り込んだらヤマトはケージから出した。今日もライトさんが運転席、タイムさんが助手席で、私と蓮と颯姫さんは最後部の座席だ。理由は「犬をモフリたい人間」ってところかな。
「ヤマトー、本当によかったねえ。おかえり」
颯姫さんが「おいで!」と膝を叩いたので、ヤマトはぴょこんとその膝に飛び乗った。本当に、ヤマトってフレンドリー柴犬だよね。あ、柴犬じゃないんだった。
でも、マナ溜まりに私が落ちて助けに飛び込んできたときには本来の姿に戻ってたししゃべってたけど、あれ以来ずっとこの姿なんだよね。
元々がフレンドリーな性格だったから、みんなに「可愛い-」って言ってもらえる今の姿が気に入ってるのかな。
「はあ、可愛い……可愛い」
颯姫さんが語彙力をなくしてヤマトを愛でているし、ヤマトは嬉しそうに撫でられてる。
「颯姫さんたちはお正月どうしてたんですか?」
「7日までは私たちもお正月休みってことにしてたよ。ゆ~かちゃんたちの助太刀があれば新宿ダンジョンの攻略ももうすぐ終わるだろうから、たまにはまとまって休みにしようってことで意見が一致したの。で、家に籠もってゲームしてたらあっという間にプレイ時間が100時間超えちゃった」
「俺も」
「僕は実家に帰省したけど実家でそれやって、『あんたいつになったらあっちに帰るの』って言われたよ」
颯姫さんだけじゃなくてライトさんとタイムさんもか! わ、わあ……。さすが、ゲーマー集団。
「そんな中、ひとりで黙々と走り込みをしたりジムに行ったりしてた偉い俺を褒め称えて!」
「え、バス屋が?」
彩花ちゃんが心底意外そうに返事をしたけど、私も驚いたよ。バス屋さんって地道な努力とかとは縁遠そうな性格なんだもん!
「凄い! トレーニングマシンとか破壊しませんでした?」
「冒険者用のジムに行ったから大丈夫だったぜ!」
それでも、バス屋さんみたいな高レベルの人のことは想定してなさそうだけどなあ。
「へえ、僕も1日20キロは走るようにしてるんですよ。LVだけ高くてもブートキャンプしてないからクラスメイトに成長率で劣るし……できる努力はしないと。冬休みは元旦以外毎日長谷部さんに特訓されてたし」
「あ、俺10キロしか走ってない。聖弥の方が努力は上でした、スミマセン。毎日彩花の特訓とか死の予感しかない」
聖弥くんの冬休みについて聞いて、バス屋さんが深々と頭を下げている。こ、この人はなんで見えている地雷を踏みに行くんだろう! 1級フラグ建築士すぎない!?
「ボクの特訓が死の予感ってどういうことかな? じっくり聞かせて欲しいなあ」
ほら、低音の怨念こもった彩花ちゃんの声で車内の気温が下がったじゃん!
「申し訳ありません、彩花様。貴様が強すぎるのが怖いんです」
「ライトさーん、次のコンビニでこいつとボク降ろして! ちょっと体に教え込まなきゃいけないみたいだからー!」
「キャー! 体に教え込むって、俺に何をするつもりー! ヤダー、コワーイ!」
彩花ちゃんは怒るし、バス屋さんはふざけた感じもなく本気でビビってるみたいだし、もうめちゃくちゃだなあ。
「すっごい語弊がある言い方してるね」
隣の颯姫さんが生温い視線でぽつりと呟いて、私と蓮はうんうんと頷いた。
ヤマトは新宿に着くまで、蓮に抱っこされたり颯姫さんに抱っこされたり、彩花ちゃんにちょっかい出しに行ったりしながら車内をウロウロしていた。
そして新宿駅のロータリーで車を降りて、アイテムバッグに収納。ああ、二度見されるこの感じが楽しい!
「じゃ、今日はさくっと片付けてお部屋に向かいましょう!」
新宿ダンジョンの1層で準備運動かなと思ったら、準備運動すら不要ってことらしい。確かに、5層までだったらあっという間に片付いちゃうね。
「じゃあ、ヤマトのレベリングも兼ねて、パーティー設定を解除してヤマトとゆ~かちゃんだけで戦ってもらおうかな」
タイムさんの提案に私はなるほどと手を打った。この中ではヤマトが一番レベル低いから、まだ低層階でもLVアップできそうなんだよね。
5層までは、あっという間に片付いた。前回と違って今回は私が魔法を覚えてるからね。中級の範囲魔法でモンスターが簡単に倒れてくれる。
「さーて、お部屋お部屋! 颯姫さん、設定タブレット見せてください!」
「いいけど、何かするの?」
居住区域に入ったら、私はまっすぐリビングダイニングにあるタブレットに向かった。颯姫さんに操作してもらいながら、いろいろと詳しく見ていく。
「おお、おおおおお……なんとなくそうじゃないかと思ってたけど、これは」
「……必要最低限のところしかいじってなかったから、こんなに設定があるなんて私ですら知らなかった」
んっふふふふふ。お正月番組で「冬休みに今からでも泊まれる宿」とか見てて気づいちゃったんだよね。
前から部屋とかがホテルっぽいと思ってたけど、多分上野さんはこの居住区域を設定するときにホテルの写真とかを参考にしたんだと思う。
「これと、これと、えーと、これも! 颯姫さん、設定お願いします」
「うーわー、なんだろうこれ……」
私の注文に若干顔を引きつらせつつ、颯姫さんがタブレットを操作する。途端にまたぐにゃりと視界が歪んで、今までのリビングダイニングとはちょっと違う部屋に変化した。
リビングセットはより大きくゴージャスに! 部屋のベッドは無駄にダブルサイズ! お風呂も更に大きくして、ヒノキ造りの浴槽にサウナ付き!
「お値段無料で泊まれるなんて凄いって感じの部屋になったわね」
「わー、サウナだー! めちゃくちゃ嬉しい!」
確認に行った人たちが戻ってきて、ママと彩花ちゃんは感動してた。蓮と聖弥くんは呆れてたけど。
「藤さん、なんで今まで気づかなかったの!?」
「タイムさんって、取扱説明書を最初から最後まで全部読む人? 私は読まない人だけど!!」
「なんだか……数年間損した気分だな」
そしてライトニング・グロウの人たちはちょっと複雑そうだった。





