第316話 すみません、調子に乗ってました!
26層まで上がると森林エリアに入って、ますますヤマトが活躍しだした。
木が生えてるエリアだから、小回りが効くヤマトは元々有利なんだよね。……とはいえ、今のステータスでは海エリアだろうがなんだろうが、あんまり関係ない気もするけど。
「ガルルルッ!」
でかいヘビと接敵して、すかさず先手を取って首に噛みつき、ヤマトがヘビを振り回す。あ、もう終了ですね。ヘビ、だらんとしてるもん。
アルミラージもやっぱり的確な首への噛みつき攻撃で瞬殺だ。
ヤバい。ヤバいしか言えない。
元々ヤマトの強さは凄かったけど、今は「すんごーーーーーーい!!」って感じになってる。だって、小型化したアグさんが走り回って小さい体を活かして死角から急所を狙ってくるようなもんだもん。
「んもー! 先にヤマトが倒しちゃうよー!」
「諦めなよ。ヤマトって前からこうだもん」
彩花ちゃんが「敵を取られた!」って地団駄踏むので、そんな無茶言うなと宥める。
ヤマトは敵の中に放っておくと、延々戦っちゃうからね。前からそれで収拾付かなくなって敵を全滅させるまで戦ってたりしたし。
「首……首をよこせぇー!」
「長谷部がご乱心だー」
「二手に分かれた方がいいかも」
首狩り蛮族と化した彩花ちゃんの雄叫びに、蓮は「なんでそんなに戦いたいのかわからねえ」って顔でいるし、聖弥くんは彩花ちゃんのフラストレーションが溜まらないような提案をしてくれた。
……多分、彩花ちゃんが爆発すると周囲の人間への当たりがきつくなるからだと思われ。
確かに、ヤマトに頼り切りになるのは……あれ、そんなに問題ないか。だって、学校関連でダンジョン行くとき以外はヤマトがずっといるもんね。戦闘技術が伸びないっていう心配はあるけど、もうここまでステータスが上がっちゃうと「本職冒険者になるつもりがないのに、強さをそこまで追求しなくても」って感じになっちゃう。
しかも、私も蓮も聖弥くんも、多分高校卒業したらダンジョン行かなくなりそう。
「ゆずっち」
私が「んんー」って顔で天井を見上げてるのに気づいた彩花ちゃんが、じっとりとした目をこちらに向けた。
「高校卒業したら冒険者終わりだから強さ追求しなくていいやとか思ってる? 手合わせでボクの本気を受け止められる人間が誰もいなくなるじゃん、やめてよね」
「うーわー、すっごい自己中発言いただきました! てか、彩花ちゃんって私と手合わせするときに本気出してたの?」
「出してた出してた、7割くらい」
「それを本気とは言わんのだわ!」
彩花ちゃん相手だと、私がステータス的有利を最大限に発揮してやっと互角ってところかもしれないな……。
彩花ちゃんこそ冒険者になるつもりなかったとか言ってたけど、その有り余る強さをどうするつもりだったんだろうか。
「とりあえず、私とヤマトは次の分岐で左の回廊行くから、みんなは右行って。大丈夫、ヤマト任せにしないで私も戦うし」
「じゃあ、こっちも長谷部さんに思う存分暴れてもらうことにするよ」
「由井聖弥、おまえもバリバリ戦うんだよ! ここから出たら冬休みの間は江ノ島ダンジョンで特訓だぞ?」
「あー……うん、お願いします」
そっか、聖弥くんステータスがアレだから、新宿ダンジョンでLVアップを確認した後彩花ちゃんに「僕に戦闘指導してください」って言っちゃったもんね。
「が、頑張れ-」
「あー、俺魔法使いで良かった」
蓮が「魔法使いで良かった」って言ったの、もしかして初めてかもしれないなあ。その理由が「彩花ちゃんの特訓」だとしたら聖弥くん、かなり不憫…………ま、いっか! 聖弥くんが自分で選んで決めたんだもんね!
「じゃあ、私とアグさんはど・ち・ら・に・し・よ・う・か・なっと! ユズの後ろに付いていくわね」
「イエスマム!」
こっちが戦力飽和なんだけど、まあ、アグさん単体でも、ヤマト単体でも、私ひとりでも、どうせここら辺の敵相手だと戦力飽和だもんね!
私たちは分岐点で別れ、木に囲まれた道をそれぞれ別方向から回り込むことにした。
「さーてと、ママ、ドロップ拾っておいてね! ウインドカッター!」
点々と生えている木を、ズパッと下の方で斬り倒す。エルダートレントも混じってたみたいで、そのまま普通に倒れる挙動をしない奴がいるね。植物系って、火に弱いし両断しちゃえば死ぬから楽なんだけど。
木の上に潜んでいたヘビや、木の陰に隠れていたモンスが慌ててこちらに向かってくる。私は村雨丸を握り直すと、既に走り出しているヤマトを追った。
「ヤマト! アルミラージから倒して!」
アルミラージは上級ダンジョンに出現するモンスターの中でも多分一番小型なんだろうけど、ヤマトはそれよりも小さい。私が警戒するのは幻影なんだよね。私もRSTが高くなったから簡単には魔法は通用しないはずだけど、万が一ママとかが幻影を食らうと阿鼻叫喚の地獄絵図になる。
ヤマトはアルミラージを一撃で仕留め、すぐ次の個体へと向かって行く。私はヤマトが優先的に倒してるアルミラージ以外の敵が相手だ。
ジャンプしてくるヘビを両断して、その先にいたアルラウネが伸ばしてきた蔓も斬り、手首を返して本体を真っ二つに。その直後にもっと前方にいたアルラウネが何か魔法を使ったっぽい気がした。
風もないのに、甘い花の匂いが漂ってくる。――まずい、これ精神攻撃系だ!
戦わなきゃと思うのに、村雨丸の鋒が下がる。足がふらふらとアルラウネに吸い寄せられているように動いてしまう。
「ヤマト、ダメ!」
ヤマトが、あの美しい花に攻撃しようとしてる! 止めなきゃ、私が!
猛ダッシュでアルラウネを庇おうと私が飛び出したとき――。
「ライトキュア!」
鋭く響いたママの声に、私がダメと言ったのにアルラウネに突進していったヤマト。
「うっひゃああああああ!」
その状況がやっと理解できて、私は凄い悲鳴を上げてしまった。





