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第12話:ミラーニャの町で祖父母と

「よく戻ってきたな」

「はい、色々と……ええ、本当に色々と楽しい学生生活でした」

 

 ミラーニャの町で、祖父にジャストールに戻ってきたことを伝える。

 ここもここでよく分からない発展度合いだ。

 美容と観光の町ミラーニャへようこそという看板が、外壁の正門の上にでかでかと掛けられていた。

 その横には祖母のカーラの絵が。

 というか、ほぼ写真だよな?

 色々と加工してあるが。

 肌の皺とか発色とか。


 そう思いながら町に入ったが、正門から入ってすぐの目抜き通り入り口に祖父母が迎えに来てくれていたのだが。

 おばあさまは、看板の絵図そのままの美貌を輝かせていた。

 周辺の貴婦人方の視線が熱い。

 

「ずいぶんと久しい気がしますが、だいぶ背ものびたのではないですか?」

「あー、まあ……私は、過去にきたのかと錯覚してしまいそうでしたが」

「あら?」

「おばあさまは、ずいぶんと若返られましたね」

「いやですわ、この子ったら。こんなおべっかを」


 俺の言葉に祖母が一瞬キョトンとしたあとで、カラカラと笑い始めた。

 祖父は少し呆れた様子だ。

 

「あまりからかってやるな。まあ、ルークのためにと色々と頑張っておるからな」

「いま、年甲斐もなくと思いましたか?」

「まさか、妻が奇麗で不満などあるはずもない」


 祖父グリッドのからかうような物言いに、祖母が薄目でジトッと睨みつけている。

 確かに目尻の皺や瞼のたるみもなく、キリッとした細長の目でやや迫力が増した気がする。

 ぱっちり二重で、確かに明らかに奇麗になっている。


「オイルマッサージや加湿、フェイスマスクにリフトアップ体操……ルークが持ち込んだ美容関連は一通り試しておるからな。それにヒップブリッジやプランクなんかの弛み改善と体幹を鍛える運動も欠かさずしておるぞ」

「それは、言わないでください」

「それもこれも、お前の持ち込んだものが確かな効果があると周りにアピールするためじゃ。できることなら、わしのために奇麗になってもらいたかったがのう」


 照れくさそうにしている祖母の頭を自分の肩に抱き寄せながら、祖父が笑顔で首を横に振っている。

 本当に仲が良い。


「じいの為には無理でも、可愛い孫のためならこのくらい容易いことですよ」


 祖父に褒められて満更でもない様子で言われても、あまり説得力はない。

 どっちがついでか分からないけど、祖父のためでもあり俺のためでもあるのは事実だろう。

 うん、本当に良い祖父母に恵まれている。


「その結果が正門の素敵な看板なのですね」

「私は恥ずかしいから、下ろして欲しいのですけどね」

「これ以上のなんだったかのう、宣材として優れたものはないだろう。この町の美容関連の結果がお主なのだから」

「もう」


 そんなやり取りをしている祖父母を見ながら、庭に目をやる。

 今回はジェノスと俺だけだ。

 フォルスは別件で俺の傍を離れているが、場所がミラーニャなのでジェノスがつきっきりで世話をしてくれるらしい。

 

 ちなみにアリスはヒュマノにまだいる。

 アルトと一緒に、ジャストールに戻ってくるつもりらしい。

 完全に居候として居ついているけど、神様的な力で家人たちは特に訝しむ様子もない。

 そしてなぜヒュマノに残っているかというか、なぜ居候的立場で同居をしているかというと……


 カーラ、キール、クーラ、ケールがいるからだ。

 ちなみにこの4頭の狼はすでに中型犬くらいの大きさには片足を突っ込んでいるが。

 まだまだ甘えたい盛りの子犬みたいなもんだ。

 アルトと一緒に戻ってくることになっているから、まだヒュマノの屋敷にいる。

 だからアリスも残っている。

 

 そしてアマラは、神界の方でいろいろと溜まっている仕事を片付けているらしい。

 ジャストールに戻ってきたことで、特に警戒する必要もないとのこと。

 何かあれば、呼んでくれと言われた。


「しかし、女性の観光客が本当に多いな」

 

 祖父母との再会をしばし堪能すると、ジェノスを連れて町に出る。

 ミラーニャの町の騎士団団長のウェッジが団の中から若いのを、2人ほど護衛につけてくれたけど。

 必要ないと言ったら、知ってると言われた。

 俺の言葉にその2人の若い団員は、あからさまにムッとした表情を浮かべていた。

 そして、ウェッジに鼻で笑われていた。


「お前らが100人いても、坊ちゃんにもジェノス殿にも勝てんよ」


 煽るな、煽るな。

 思わずウェッジを睨んでしまった。

 笑って誤魔化された。

 

 2人の団員はどっちが前を守って、どっちが後ろを守るか揉めている。

 どっちでも関係ないからさっさとしてくれと言ったら、口を尖らせていた。

 色々と問題のある2人だ。

 俺に教育させようとしているのか、俺に粗相を働かせるように差し向けてクビにしようとしているのか。

 ウェッジの考えがいまいち分からないけど、どっちにしろお前は道連れだぞと再度目配せする。

 今度は少し効いたようだ。

 顔が青くなっていたので、ちょっとスッとした。


「お友達の方々の歓待は、この町でするとお伺いしてますが?」

「ああ、エルサの祖父とクリスタの伯父がこの町の別荘地に、別荘を持っているからね。2人ともその建物に興味津々のようだ」

「なるほど、他の方々は……」

「言わずもがなだ。リック殿下もジェニファも別荘を持っている……来るかは分からんが、ジャスパーとキーファも家族が別荘地に別荘を建てているからなぁ」

「では、宿の手配は……」

「それはそれ、リゾート地ならではの最高のもてなしも、体験してもらいたいだろう」

「なるほど、でしたらこちらも色々と手配をさせてもらいます」


 確定で来るのは、エルサとクリスタ。

 この2人は兄の引率で、こっちに戻ってくる。

 で、来そうなのがリック殿下とジェニファ。

 殿下は都合がつけばと言っていたが、何がなんでも都合をつける様子だったので苦笑いしてしまった。

 ジェニファは鼻息荒かったから、間違いないだろう。


 あとは……


「イービルと地竜はゴウエモンと留守番だから……」

「地竜ならもう、この町に来てますよ」

「……」


 そっか。

 まあ、地面をもぐってきたんだろうな。

 部屋にこもっているのかな?

 気配があまり感じられなかったから、てっきり大人しくしてると思った。


 ちなみにゴウエモンには長期休暇を与えて、鍛錬というか本業である冒険者稼業で息抜きをすると良いと伝えてある。

 気が向けば、観光でジャストールに来るかもしれないと言っていたが。

 そうなると、イービルも来そうだな。

 

「釘を刺しましょうか?」

「いや、来たなら来たで別にかまわないよ。特に何を頑張っているというわけでもないが、十分にやってくれているし」

「それなら、よかったです」


 うん、ジェノスとフォルスが働きすぎなんだと思う。

 まあいいや。

 せっかく友達が来るんだ、ジャストールの町にも連れて……いやまずいかな?

 殿下と公爵令嬢……

 連れていけるなら、エルサとクリスタくらいだけど……盛大に勘違いされそうだな。

 どっちが花嫁候補なの? と母が詰めてくる様子が目に浮かぶ。

 うん……もし行くなら、全員でだな。

 となると、ジャスパーとキーファにも来てもらった方が無難だな。

 恐らく、来るんじゃないかとは思ってるけど。

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