第7話:人生楽しく
「さてと、ある程度は把握できたか」
どうにかこうにか、オンオフに関してはなんとなくできるようになってきた。
色々と訓練を行い、その成果はカーラ達子狼を実験台にして試してきた。
子狼と呼ぶには、だいぶでかくなってきたが。
事象を司る能力というのは、本当に厄介だった。
最初は思うことすら、許されないレベルで。
主が願ったから……そのレベルで、発動する。
これを制御するのは、まさに無理ゲーじゃないかと恨みもした。
世界の理が気が利きすぎる。
無意識レベルでの受けた印象が、どんどん増長されていくのだ。
恐らく最初の人生のルークが拗らせた原因の一端でもあるだろう。
良い人だと思えば相手はどんどん良い人になる。
でも卑屈な彼だ。
もしかして、何か裏があるのではと思ったとたん、相手に下心が生まれるのだろう。
そこからの転落は、まさに上空からの落下に等しい速度だろう。
裏を疑い、裏が露呈する。
そして、良い人からの反動で相手に強く悪い印象を感じることで、一気に負の方向へと加速が始まる。
思わず、頭を抱えてしまった。
子供には、酷な能力過ぎる。
まずは、その能力がどういった力で周囲に影響を及ぼすのかを探るところからだった。
オーラ的なものなのか、魔力的なものなのか、はたまた目に見えないなんらかの力なのか。
結論……人の目には見えない、何かしらの力だった。
神力とよばれる、魔力とは違った不定形のエネルギー。
産まれた時に魔力を暴走させたのと同様、それをコントロールできていないルークや今の俺はその神力が駄々洩れ状態だったわけだ。
しかし、それをコントロールするのは、人の身であってかなりの難易度だった。
普通であれば。
しかし、俺は変化の事象を操る能力も持っている。
そっちの使い方もいまいち分かってなかったが、そこはあれだ。
優秀な家族が多くいるからな。
アマラとアリスに協力してもらって、神力を理解して操作することから訓練を始めた。
まずは彼らと同調することで、彼らがどのようにして神力を操っているかを感じた。
お世辞にもアマラは得意そうではなかったが、それでも十分に助けになったな。
そこから、変化の事象の仕組みも理解するよう、必死に頑張った。
なるほど、どっちも反則的な能力だった。
勿論、水をワインにとか、石をパンにといった変化はできない。
いやできることはできるが、そっちはスキルや魔法に近い能力とのこと。
俺の司る事象の能力では、難しいらしい。
実際の変化というのは、かなり範囲が狭い。
その系統に連なる変化くらいしか、起こせない。
変化する前と、変化した後に明確な繋がりが必要らしい。
完全なる物質変化は事象の力では難しいだけで、それ系のスキルにブーストが掛かっているから結果的に簡単なんだけどな。
変化の事象の能力が関わるもので物理的にいえば土を泥にとか、鉄鉱石から鉄を作り出したりとか。
あとは、生物の進化を早めたり。
植物の成長も自由自在。
人の感情的なものも、変化させることはできる。
うん、便利だな。
かなり。
ほとんどの問題が解決する。
同調と変化……いや、人の心をどうこうするのは気が引けるが、正常な状態に戻すのであれば問題ないだろう。
まずは、クラスメイトからだな。
俺に対する先入観を消して、一から人間関係を構築し直さないと。
***
「おはよう」
完全に同調を切って教室に入って挨拶すると、全員がこちらをチラリと見た後で半分以上が目を逸らして各々の会話に戻った。
昨日挨拶したときは、みんな返事してくれたんだけどな。
ある程度は関係改善できて友達も増えたが、同調無しだとこんなもんか。
でも、半数は挨拶を返してくれたり、一声掛けてくれている。
素の状態でも、こんな俺に声を掛けてくれるなんて貴族の子供たちも捨てたもんじゃないな。
好意的に挨拶を返して、会話をしてくれる子もいた。
主に、ボード関連で仲良くなった子ばかりだが、やはり共通の趣味があると仲良くなりなすいんだな。
ただ、そもそもが生徒の半数くらいしかまだ登校していないが。
同調が影響しないようにした結果、そういった一部の友達を除いて元の微妙な関係に戻ってしまった。
今までの俺の行動に、引きずられているのだろう。
なんせ、俺は殿下をはめて退学に追い込んだ、大罪人だからな。
殿下と繋がりを持つことを楽しみにしていた彼らからすれば。
「おはようルーク、なんだか雰囲気が変わったな」
「普通ですね……今日は心に響くような感情の伝わりがないですし。さては、何も考えていないとか?」
落ち着いたところでジャスパーとキーファが話しかけてくれたが、キーファが何気に酷いことを言っている。
この2人、ともに侯爵家の子息にしてはいつも登校が早いよな。
俺も、もう少し早く来たほうがいいのかな?
「ジャスパー様と、キーファ様はなぜこんな奴と?」
そんなことを考えていたら、さきほど目を逸らした子の一人が声を掛けてきた。
言ってることはあまり良い印象を受けないが、純粋に不思議そうな顔もしているし。
本気で不思議なのだろう。
言っても、まだ12歳の子供だしな。
「ポール、お前……我が師の一人であり、同時に俺の友達でもあるルークを侮辱する気か?」
ジャスパー……
いきなり、不快感全開で脅すなよ。
ポールがドン引きだよ。
ここで、俺がえっ? 友達? 誰と? とかって言ったら、ショック受けそうだな。
てか、いつの間に正式に師として認められたのだろう。
「ポール君……君はオラリオと仲が良かったですね。なるほど……」
キーファも何がなるほどなんだか。
「それよりも、私の師であり友人でもあるルークに、何か?」
いや、まて!
キーファの師ではないぞ?
断じて、そういった事実はない。
面白がって、ジャスパーに乗っかってるだけだろうけど。
「私のエアボードの師匠ではないですか」
なん……だと?
同調を切った状態で、考えていることを?
「流石に、そんな顔をされれば、何を考えているかくらいわかりますよ」
そうか……顔に出てたか。
無意識に神力が漏れてたのかと焦った。
「そいつは殿下を、この学園から追い出した奴ですよ!」
「あれは、殿下に非があったのだ。ルークに落ち度はないよ」
「全く無いわけではないですけどね。タイミングが絶妙で」
せっかくジャスパーが庇ってくれたのに、キーファが余計なことを言う。
しかし、本人には悪気は無さそうだ。
だから、余計に性質が悪い。
「ほら、キーファ様もそうおっしゃってる! やはり、お前が嵌めたんだろ!」
「ふふ、周りが見えていないリカルド殿下の落ち度の方が大きいですよ。そも、王族足る者は常に冷静で公正な立場でないといけませんから。その点でいえば、今回の件……ルークに責を求めるのは、お門違いですね」
「キーファ様……」
上がった瞬間に、即行で梯子を外すキーファを見て思わず顔を顰めてしまった。
うん、この子は本当に良い性格のようだ。
危なかった。
もし、同調の力を抑えることが出来なかったら、とんでもない性格の子になっていたかもしれない。
これ、自分の力を自覚しなかったら、どうやっても世界破滅ルートしか無かった気がする。
まあ、あと1カ月で夏休み突入だからな。
それまでに、クラスメイトとの関係を修復しておかないと。
夏休みは2カ月ある。
とりあえず、一月は領地でゆっくりと産業を視察したり、色々と開発に力を入れるとして。
残りの1カ月で、リカルドを捜してどうにかしないとな。
夏休み楽しみだな。
この1カ月の間に友達もたくさん増やしてさ……うん、うちの領地に案内してあげたりして。
そういえば、エルサもジャストール領に興味持ってたみたいだし。
彼女の叔父さんの別荘地もあることだし、誘ってみようかな?
美味しいものもたくさんあるし、うん……
ボールの顔が視界に入ったとたん、現実に引き戻された。
「あまり級友を虐めないであげてくれる? 2人とも影響力半端ないんだから」
「まあ、師が望まれるなら」
キーファ?
「ポール、殿下に取り入りたかったのかもしれませんが、元々第三王子であるリカルド殿下は、外交の為に他国の王族か、上位貴族に婿として向かう可能性が高かったのですよ? それか公爵として、王太子殿下の補佐につくか……どちらにせよ、君が考えているほど華やかな生活にはなりませんよ」
「ぐっ……」
「それよりも、ルークに敵対するというのなら、俺も敵になるからな?」
「申し訳ありませんでした」
キーファがフォローの体制に入ったのに、ジャスパーが力技で黙らせてしまった。
うん、あとで俺がフォローしておこう。
しかし、リカルドか……
このままだと、聖教会絡みの秘密結社とかで神輿にされたりしてそうだし。
隣国の勇者とかってのも気になるな。
女神経由で、勇者が結束。
異世界の四戦士とか、九英雄とかってのが産まれたりしないよう、先手を打たないと。
いやでも、こっちも相手と同等の神がついているわけだし。
直接的に。
その上の神も手伝ってくれるし。
そもそも、俺も現在進行形で自身の能力の把握に努めてるわけで。
もはや、光の女神にどうこうされる心配は全くと言っていいほどないな。
うん、のんびりこの世界を楽しめるよう軌道修正しつつ、まずは王子の改心から始めないと。
できれば、家族の縁も取り戻させてやりたいし。
俺が変えてしまったようなものだからな。
本来の性格に戻してやるのが……戻るものなのかな?
どんな人格だったか分からないが、最悪は多少のテコ入れは必要になるかも。
気が進まないが。
そのためにも、日々訓練だな。




