表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/102

第3話:聖属性

「聖属性は愛と希望と勇気と正義と優しさを司る最高神様の扱う属性だぞ? 光の女神のはただの光属性だ。神官職についておきながら無学にもほどがあるぞドンファン」

「ぐっ、そんな神など聞いたことがないですぞ!」


 俺が笑いながら言った言葉に、ドンファンが顔を真っ赤にして反論してくる。

 そうはいってもだな、それは神様の中では常識というか。

 この世界では、6大神なんて感じで中級神のみを崇めさせてる部分があるからなぁ。

 その中でも、光と闇の扱いは少し上のようだが。


 俺の知ってる神からすれば、それらも有象無象の神の1柱なんていってるくらいだし。

 この世界の宗教は、ただただ残念……なのは、こいつらだけか。


「流石ルーク……ス様ですわ! 神の世界にも明るいなんて」


 危ないな。

 ジェニファにはあまりしゃべらせない方が、いいかもしれない。

 すぐに襤褸を出しそうだ。


「というかだ、聖属性を司る神を知らずして、聖教会などを開くことの方がよほど罰当たりな行為だと思うぞ? だから、お前らの中にというか……この世界で、聖属性を使える人間が少ないんだ」

「愚弄しないでいただきたい! 我が教会の信徒のなかには、聖属性に秀でた者も多く……事実、私もそれなりに扱うことができますぞ?」

「だから、それ光属性だって……聖属性とは別ものなんだよ」

「いえ、これこそ聖属性です」


 はあ……どこまでも光の女神を妄信し続けているのか。

 流石だな、宗教。

 凄いよ、光の女神。

 お前が、そのまま教祖様にでもなった方がいいんじゃないか?

 てか、神様が自ら布教って……


「我が聖属性の魔法を、ぜひご覧いただきましょう! 【鎮静魔法(リラクゼーション)】!」


 そういってドンファンが手を空にかざすと、光が降り注ぎ気持ち心が落ち着いた気がする。

 元から落ち着いていたけど。

 ただ、ちょっと眩しくて、これ浴びたら眠気が覚めそうな部分もある。

 ある意味、副作用とも考えられるか?


「へえ、なかなか」


 ジェニファが、少しだけ頬を緩めている。

 まあ、さっきまでドンファンにイライラ、カリカリしてたからな。

 彼女が落ち着いてくれたのは良かった。


「どうですか? 素晴らしい効果でしょう?」

「……その程度のこと、他の属性魔法でもできますよね? 水も、火も、地も、風も、闇も心を落ち着かせる効果はいくらでもありますし……治療魔法も、勿論他の属性にもありますよ? アンデッド? 確かに光に弱いですが、火にも弱いですし……氷漬けにすればそれまでですし、地魔法による浄化も」

「ぐぬっ」

「聖属性魔法だったら、アンデッドを浄化するだけじゃなく、人の魂に戻したうえで昇天させることができるのですが?」

「そ……そんな魔法、聞いたことがない」


 アンデッドがいないから、披露のしようがないけどな。

 

「触れてみれば、違いが分かるかもしれませんね?」


 俺が、聖属性の魔力を周囲へと降らせる。

 金色に輝く光の粒子が、上から降り注ぎドンファンやジェニファに触れては、消えていく。


「こ……これは……」

「心が洗われるような、それでいて温かくも心地よいですわ」


 2人の目がトロンとしてきた。

 いささか、効きすぎなような気がしてきたが。


「まあ、私は直接加護を受けているわけではなく、間接的に例の女神様の子にあたる神の加護を受けているだけですのでこの程度ですが」

「認めぬ……私は、認めぬぞ! 貴様、何者だ!」


 必死に頭を振り払い、こちらを睨みつけてくるドンファンにため息が出る。

 モルダーもそうだが、この世界の宗教関係者って本当に……胡散臭いよな。

 いやモルダーは、心根や本質こそ神父様に向いているが、神を感じる能力が壊滅的に低いというか。

 なぜか実物の神を目の前にして、神を疑ったり。

 むしろ、妄信してないというか。

 神の言葉でも、おかしなところには平気で突っ込んだりできる。

 美点といえば、美点か。


「何者……ですか」


 そう言われたら、答えるしかないかな?

 思わず、笑みを深めてしまった。

 口角がぐっと上がるのを、堪えることができない。


「魔王……と言えばいいですか? あなた達にとっての」

「ルーク……フォン・ジャストール」


 俺の言葉に、ドンファンが目を見開く。

 いや、流石有名人だな俺。

 魔王といっただけで、名前が割れちゃうなんて。


「まあ、もっともそう言ってるのは、貴方たちだけですけどね。私にとっては、凄く大事な人なのですから……不快でしかありませんわ」


 横で、ジェニファがプリプリと怒っている。

 身近な人たちが、俺の方を信用してくれているのは本当に嬉しいな。

 アルトも、このことに関しては相当に頭に来てるみたいだし。

 てか、神の使徒というか、神の加護持ちをことごとく敵に回しているけど、いいのかな? 

 聖教会こそ、邪教になりそうだな。


「皆を誑かす悪魔め! ようやく、正体を現したな!」

「ふふ、ふふふふ……面白い。お前たち教徒を誑かしているのは、光の女神そのものじゃないか! たかだか中級神にいいように騙されて利用されて、本当に滑稽だな」

「貴様、これ以上我らが崇める神を侮辱するなら、許さぬぞ?」


 ドンファンが顔を真っ赤にして、怒鳴りつけてきたが。

 先に、なんだかんだ言ってきたのはそっちだろうに。


「おい、フォルス……帰るぞ。やっぱり、碌なもんじゃなかった」

「ルーク様?」


 俺が呟くと、ジェニファが不思議そうな表情を浮かべて声を掛けてきた。

 他の部屋にいる人間に声を掛ける行為とか、傍から見たらおかしいわな。


「はっ」


 しかし、そんなことおかまいなしで、部屋の中心部に黒い影ができたと思ったらそこからフォルスが現れる。

 見た目的には、地面から生えてきた感じだな。

 そんなことを考えていたら、少し訝し気にされてしまった。


「お前は……どこから、ここに」

「お前? たかが、光の女神の奴隷の分際で、ずいぶんと生意気な口を利くものだ」

「なっ……」


 ドンファンがいきなり現れたフォルスに、驚きと恐怖が綯い交ぜになった声で話しかけていたが。

 ギョロリという表現が似合いそうな視線で睨まれて、言葉を詰まらせる。


「あの女についても、碌なことにならんぞ?」

「きっ……きさまも、そこの魔王と同じか!」


 その様子を見て鼻で笑ったフォルスに、ドンファンがどうにか食いつく。

 

「むぐ」


 だがフォルスが、チャックでも閉めるかのように、自分の口の前で人差し指と親指で宙をつまんで横にスライドさせるとドンファンの口が閉じられる。


「あの女への信仰を捨てぬ限り、いつまでも喋れないと思っておけ。そうだな……あいつに願えば助けてもらえるかもしれんが……無理だろうな」


 まるで興味を失ったかのような冷たい目でドンファンを見つめると、部屋にあった女神像を親指で指しながらまたも鼻で笑う。

 悪そうな顔してるなぁ。


「ジェニファ嬢、いきましょうか」

「……はい」


 なぜ、不満そうなんだ?

 ちょっと、不服な表情をしたジェニファをエスコートしながら、部屋から出る。

 背後から声にならない声というか、荒い鼻息だけが聞こえてきたが無視して建物から出る。

 結局のところ、得るものはなかったな。

 ただ、この教会がろくでもないことだけは、分かった。


***

「しかし、宜しかったのですか? 何か、必要な情報でもあったのでは?」

「ん? どんな教会か気になっただけだ。モルダーをあんな目に合わせるような場所だからな」

「まあ、自分の信仰する神に疑惑を向ければ、破門されることもあるでしょう」

「殺されかけていたぞ?」


 組織が大きすぎて、まとまり切れていないのかもしれない。

 今のところ、出会った教会関係者はモルダー以外は、あまり信用できないというか。

 可もなく不可もなくというものも多いが、少しばかり実利主義が過ぎるところが見え隠れしている。

 金集めに熱心というか。


「ルークは、本当に何者なのですか? それに、フォルス殿も」

「私は、普通の貴族の次男坊ですよ? 少しばかり魔法が得意ですが。フォルスは……まあ、秘密の多い従者です」

「はあ」


 ジェニファが少し思いつめた様子で問いかけてきたが、正直に答えるのも気が引けたので適当に誤魔化す。

 本人は納得している様子ではないが。

 

「もっとも、国王陛下どころの騒ぎじゃない、やんごとなき身分の従者ですけどね」

「不敬ですが……まあ、2人の秘密にしておきましょう」


 俺の言葉にジェニファがそんなことを言っているが、フォルスも聞いてるんだけどな。

 本人は、あまり気にした様子もなく苦笑いしているが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ