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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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91話 狂気と優しさ


 王都へ続く街道で崖崩れらしい。

 俺達が王都へやってくる時にも橋が落ちていたしな。多分、あの大雨が引き金になったものと思われる。

 この都は膨大な民の食料を四方から輸入しているという。このままでは物資の供給が滞り、餓死者が多数でると予測される。

 

 王宮でとても素敵な歓待を受けた俺は、そのままバックレようとしたが、国王の謝罪と説得を受けて、崖の崩落現場へ向かう事になった。

 だが、1人の貴族に呼び止められた。男はユーフォルビア伯爵というらしい。


「ケンイチ殿は、そちらの小さな魔導師様を、アネモネと呼ばれましたね」

「はい――確かに、あの子はアネモネですが……」

「私、ユーフォルビア伯爵は、大魔導師白金のアルメリア様と懇意にさせていただいておりまして……」

「そのアルメリアという魔導師は辺境で病死なさったらしいと……」

「え? 行方不明なのは存じておりますが、病死なさったのですか?」

 貴族はかなり動揺をしている。その大魔導師と何か関係があったのかもしれない。


「いや、そのアルメリアさんだとは確証はないのですが」

 その貴族によれば、アルメリアという魔導師から手紙をもらい、辺境でアネモネという子供を産んだという連絡を受けたようだ。


「こういう物もあります」

 俺は、アイテムBOXから至高の障壁(ハイプロテクション)の魔導書を取り出して、貴族に最後のページを見せた。


「こ、これは確かにアルメリア様の直筆――これをどこで?」

「これは、ユーパトリウム子爵から譲り受けました。先代のユーパトリウム子爵が旅の魔導師から買った物だというお話でした」

「あの若さで、至高の障壁(ハイプロテクション)という大魔法を使いこなし、名前もアネモネ――これはもう、アルメリア様の忘れ形見で間違いないのでは?」

「俺も、そう思うんだが……お~い、アネモネ~」

 アネモネが俺の側にやってきた。

 彼女に伯爵様を紹介して、白金のアルメリアという魔導師の事を改めて話した。


「どうでしょう? 貴方がその気であれば、我が伯爵家で支援して、さらなる魔導の高みに――」

「興味ない」

「は? ――いや、大学等で学べば、より高度な魔導の世界が……」

「魔法ならケンイチから教わるから要らない。それに学校の先生より、賢者のケンイチの方が色々な事を知っていると思うし」

「……は? 賢者?」

 俺達の会話に王女が割り込んできた。


「その者と数日話したが、妾が舌を巻く程の博学じゃぞ? あれだけの知識を、大学の教師共が持っているとも思えん」

「王女殿下がそう仰るのであれば……」

「だから要らない」

 アネモネはつっけんどんだ。そもそも、こんな事態に巻き込まれて、貴族に良い印象を持てっていう方が間違っている。


「呆れた! 魔法を独学で学ぶ? そんな事出来るわけないじゃない!」

「独学?」

 突然、会話に入ってきたメリッサという魔導師の言葉だが、アネモネが聞きなれない単語に首を傾げている。


「独学ってのは1人で勉強する事だよ」

「1人じゃない! ケンイチも一緒!」

「賢者か何かしらないけど、あの訳の解らない召喚魔法だけしか使えないのよね?」

 ぐっ、鋭い! あの戦いだけで、他に魔法がないってのがバレたようだ。


「それでも、憤怒の炎(ファイヤーボール)も覚えたし、爆裂魔法エクスプロージョンも覚えた! ケンイチ、腕を出して!」

 さっき王女に囓られた傷を見せる。


回復ヒール!」

 彼女の魔法に導かれるように、俺の腕に青い光が集まってくる。


「――ほら! 回復ヒールだって使えるし!」

 アネモネの魔法で、血が止まり痛みがひく。普通、かみ傷は治りにくいが、魔法なら跡形も無く治るのかもしれない。

 ついでに、ニャメナに囓られた所にも魔法を掛けてもらう。


「そんなのは、全部魔導書で覚えたものでしょ? それじゃゴーレムは? ゴーレムを操る魔法に魔導書はないわよ?」

 ゴーレム系の魔導書はないのか? それじゃ、簡単に覚えるってわけにはいかないな。


「そんなの平気! 本が沢山あるし!」

「本?」

「お~っと!」

 不思議そうな顔をしている魔導師を横目に――アネモネと一緒に後ろを向いて、ひそひそ話をする。


「アネモネ、王家の図書館から複製した話は内緒な?」

 彼女が慌てて口を押さえた。


「俺は無理に彼女を学校へ行かせたりはしないよ」

「ふん、好きにすればいいわ」

 随分と鼻っ柱が強い女だな。あの婆さんもこうだったのか?

 しかし、あの性格じゃ――スタイル良いのに勿体ない……。


「ケンイチは、ああいう服が好きなの?」

「えっと、あの……」

「私も、ああいうのを着る!」

「いや、君にはちょっと早いから」

 出る所が出て、引っ込む所は引っ込んで、脚がスラリと伸びてからにしてほしいね。


 そんな事より――遠出をすると決まれば、ちょっと準備がいるな。

 件のベロニカ峡谷は王都より東へ200km先らしい。


 どういう場所かも解らんし、情報も欲しいな。

 その前に色々と用意しなければ……お城の中庭に滞在しつつ、色々と考えていた事があるので、実行に移す。


「リリス様、魔導具に詳しい魔導師様がいらっしゃいましたよね?」

「カールドンじゃな」

「その方に、もう一度会わせていただけないでしょうか?」

「承知した、奴の所へ案内してやる」

「いいえ、場所だけ教えていただければ……」

「其方が何をするのか、妾も興味があるからの」

 だが、俺と王女の会話を聞いていた王妃様がへそを曲げたようだ。


「リリスには頼みごとをして、妾には何も頼みごとをせぬのかえ?」

「え~……」

 そんなことを急に言われてもな。


「それでは王妃様。峡谷の土砂を排除する普請を、私が手伝う事になったのですが、色々と用意しなくてはなりません。そのためには軍資金が必要です」

「なるほどな。妾に金を用意しろと?」

「いいえ、王宮で使っていない家具はありませんか?」

「家具? それはあるが……」

 王妃は扇子を開いて顔を覆い、訝しげな顔をしている。


「それを軍資金代わりにいただきたいのです」

「売って金にするのかえ?」

「最終的にはそうなりますが、売却するためには、時間がかかります故、当面は私の金を使いまする」

「慌てて売ろうとすると、足下を見られるからな……」

「その通りでございます」

 王妃が斜め上を見て、何かを考えている。俺の真意を汲みかねているのだろう。

 まぁ確かに、シャングリ・ラというわけの解らない能力を使う事を行動原理にしているのだ。

 常人には理解不可能だろうな。


「金が必要なら、妾が用意するが……?」

「不要な物を売却して、金にできるのであれば、双方にとって利益になるでしょう」

「確かに倉庫に山積みになっており、邪魔だからな……よし、それでは早速倉庫へ案内しよう」

「あの、先に魔導師の所へ……」

「ん? 何ぞ申したか?」

「いいえ」

 有無を言わせてくれない。


「皆は、家に戻っていてくれ」

「解りました」

「にゃー」

 ミャレーの肩にはニャメナが担がれている。


「ミャレー、ニャメナは大丈夫そうか?」

「多分、大丈夫だにゃ」

「なんだってまた、こんな時に……」

「多分、ケンイチのせいにゃ」

「俺の?」

 彼女の話では、レッサードラゴンという大物を一発で屠ったので、過剰な興奮状態に陥り、それで発情期が早まったのではないか? ――という事だった。


「ウチも、時期が近かったらヤバかったにゃ。あんなの見せられたら、獣人の女は我慢出来ないにゃ」

「そうなのか……まぁ、ニャメナを頼むよ。酒も後2本ぐらい渡しておくか」

「もう、トラ公はしょうがないにゃ~」

 ニャメナに恩を売れそうなミャレーは機嫌が良い。

 だがそれと対照的にアネモネが不機嫌だ。


「すぐに戻ってくるから、心配いらないよ」

「それでも、心配」

「別に、捕って食われるわけじゃないし」

「にゃはは、別の所を食われるにゃ」

「子供の前でそういう事を言うんじゃない」

「子供じゃないから!」

 子供って言われて怒るのは、子供の証拠なんだなぁ。

 それに大丈夫に決まってるだろ――多分……大丈夫だよね?


「それじゃ、王妃様と一緒に行くか?」

「……それは、怖いから止めとく……」

 アネモネも怖いのか。


 それじゃ、まずは軍資金作りといこう。コ○ツさんを使えば文字通りの100人力。

 何せ、本来はそのために作られた文明の利器なんだからな。

 それを異世界へ持ち込んで、とんでもない事に使っているのは――私です。

 重機を動かすには、また大量の燃料が必要になるし、他にも必要な物が増えるかもしれない――それを揃えるためには金が必要だ。


 そのために王宮にある不要な家具を、シャングリ・ラへ買い取らせて、金をいただく。

 普通に金をもらうより、アンティーク家具を譲り受け査定してもらったほうが金になる。

 王家としても、要らない家具を処分できるのだから、まさにWINWIN。


 だが俺と王妃様の後ろから王女もついてくる。


「リリス、なぜついてくるのだ?」

「母上とケンイチを二人きりにするのは危険じゃ」

「それって、どういう意味ですか?」

「いろんな意味で危険だと申しておる」

 王女の言葉が冗談だとは思えん。

 俺と王女の会話にも王妃は背中を向けたままだ。何を考えているかは不明。


「リリス様、私は生きて戻れるんでしょうね?」

「とりあえず、妾と一緒におれば、母上も無茶はせん」

 王女との会話を聞いていた王妃が振り向くと大声をあげた。


「それだ!」

「な、何がでございますか?」

「リリスは名前を呼んで、何故妾は王妃なのだ?!」

「え~? それではなんとお呼びすればよろしいので?」

「アマランサスだ。アマラでよいぞ」

「それでは、アマラ様とお呼びいたしますが――そんな事で王女と張り合わなくてもよろしいのでは?」

「……」

 王妃は黙っているが、母娘とはいえ血は繋がっておらず、実質ライバル。

 張り合いたくもなるのだろうが――全く何を考えているか不明。


 美人母娘に挟まれて暗い廊下を進み、行き止まりにあった倉庫へついた。

 王妃が茶色のニスを塗られた両開きの扉を引くと、錆びついた蝶番の音と共に開いた。

 殆ど使っていないのだろう。窓のない暗い部屋に家具やら、椅子やらが山積みになって、埃をかぶっている。

 床も埃だらけで、俺達の足あとが残る。


「おおっ! ケンイチ、これがよいぞ」

 王妃が小ぶりで棚付きの机を指さした。


「中々、良い物ですね」

「ここを見てみるがよい」

 王妃が指で埃を拭い、指差したところに何か書いてある。おそらく、何かで傷を付けたものだろう。


「ア マ ラ……かな?」

「そうだ。妾が小さき頃に使っていた勉強机だ」

「え? これをお売りになってよろしいので? 思い出の品では……?」

「だからこそ、手放したいのよ。これを見ると、小さい部屋に閉じ込められて、来る日も来る日も、勉強させられた、あの地獄のような日々が蘇るようだ」

 王妃は小さい頃に、このお城にいたのか……ということは、このお城のお姫様って事になる。

 もしかしたら、あの国王はマ○オさんなのか? まぁ、それじゃ立場も弱いかもな。

 だが側室を迎えて、その子供も王女として認められているし、国王も王族って事か……。

 ひょっとして近親婚? しかし、そんな込み入った事を聞けるはずもない。


「そうですか……では――」

 俺は机をアイテムBOXへ収納すると、査定に入れた。


【査定結果】【アンティーク机 買い取り価格2000万円】


 ひょえっ! やっぱり小さい机でも高い。

 次は立派な飾りが彫られた、ガラス入りの扉が付いた本棚だ。


【査定結果】【アンティーク本棚 買い取り価格6500万円】


 どひゃー、そりゃ本物の王族が使っていた、本物のアンティークだからな。

 こんなの元世界なら博物館級だろう。


「あと、こいつの処分に困っておるのだ」

 王妃が指さしたのは、埃で塗れているが微かに金色が見えている天蓋付きのベッド。

 骨組みだけになっているが、全周に彫刻が彫られて、見るからに只物ではない。


「これは……」

「これは、先代の王妃が使っていたベッドだ」

「ええ? これを手放してもよろしいので?」

「臨終までこのベッドで横になっていたのだぞ? そのベッドに誰が寝たいと思うのだ?」

「確かに、そう言われればそうですが……」

 本当に誰も使いたがらないので、供養のために燃やそうかという話もあったらしい。


「いや――燃やすのであれば、いただきますよ」

「うむ、どこへ売るのかは知らぬが、先代の強欲が移らねばいいがの」

「そういう、お方だったので?」

 黙っている王女の方を向くと、彼女も頷いている。

 王妃も色々と苦労しているのだな。まぁ、それよりも査定だ――。


【査定結果】【アンティークベッド 買い取り価格1億5千万円】


 どへー! さすが、元世界風に言えばマリー・アントワネット級が寝たベッドって事になるからな。

 歴史的な遺物と考えれば、これでも安いかも……。


「ありがとうございました。これで十分でございます」

「もう、よいのか? 其方は欲がないの……」

 だが、王妃は何かを考えている。


「王妃――いや、アマラ様、何か?」

「うむ……其方、ネズミ退治に毒を使ったと聞いたが?」

「あ~、毒をお譲りする件であれば、お断りいたしますよ」

「何故だ? 金なら言い値で払うぞ?」

「母上!」

 割って入ろうとした王女を、王妃が止める。


「私が売った毒で見ず知らずの方が亡くなるのはぞっとしませんし、回り回って、お二方の口に入るかもしれませんよ。私の故郷では、人を呪わば穴二つ――といいます」

「穴とはなんだ?」

「死体を埋めるための穴ですよ。ダリア周辺では、『呪いは、小鳥が巣に戻るように自分に返ってくる』というらしいですよ。せっかく知り合いになった美しいお二方が亡くなられては悲しいですからね」

 とりあえず、ゴマをすっておく。


「ふむ、解った――其方が、簡単に毒を売るようであれば、付き合いを考え直さねばならぬところだった」

 王妃に試されたようだな。危ない――金欲しさに毒を簡単に売り渡すような者と判断されれば、刺客が送り込まれたかもしれない。


「アマラ様、いつもそうやって人を試したり、真意を確かめる企てをしておられるのですか?」

「はは、王族故の悲しいさがだ、許せよ――人は追い詰められた時に本性を出すからの。敵か味方か、確かめねばならぬ」

 俺や家族にした事を多少は悪いとは思っているのか? だが行動原理が、王族らしい王族といえる。


「しかし謁見の間で、ドラゴンを使って試合をさせるのは悪ふざけが過ぎるのでは? 私の小さな魔導師が至高の障壁(ハイプロテクション)を使わなければ、全員死んでおりましたよ?」

「ふふ……まさにの。だが、かなりの実力者と報告を受けていたから、敢えてぶつけてみたのだが?」

「王妃様……」

「おおっ! 怒ったのか? 怒ったのかぇ? ならば、その怒りを妾の身体にぶつけてみるか? 王族の肢体を嬲ってみたいであろ?」

 王妃はそんな事を言いながら、俺に抱きついてきた。

 挑発に乗るなぁ――こういう人間は、人を挑発して遊んでいるだけだ。


「謁見の間も盛大に壊れましたが?」

「その通りよのぉ――結界が張ってあったとはいえ予想外に壊れたわぇ。敷石は交換が必要だろうの。だが其方を闘技場などへ呼び出したら、絶対に逃げておったろ?」

「まぁ確かに……」

「多少の経費は掛かったが、其方とその家族がドラゴンすら退ける力を持つ魔導師だと判明したぞ? これは万金に値する」

 この世界で優れた魔導師は戦力になるし、国に貢献が求められる。王族としても本当の実力を把握しておきたいのだろう。

 それでも、やり過ぎではないのか? 王族の務めと退屈しのぎの悪ふざけが一体になった結果なのだろうか。


「貴族に死人も多数出ましたが?」

「全員、承知の上であそこにいた者ばかりだ。強制したわけではないぞ。魔導師の売り込みや売名の試合など珍しくないからの」

「らしいですね」

「むしろ、それに巻き込まれて死んだなどと、笑い話にしかならぬ」

 そういう事なのか。暇人の貴族達が売り込みに来た魔導師の試合を見物にやってきて巻き込まれた。

 しかも、受けた相手が『優美なるメリッサ』という大魔導師、激戦になるのは必至で、それの対策を怠った奴が悪い……ということか。


「騎士達が死んだのは?」

「王族を守って死ぬのは騎士の誉れ。レッサードラゴンを一撃で仕留める者に躊躇なく向かっていったのだから、褒めてやらねばならぬ」

 これが異世界――王族の思考なのか。ちょっと日本人には相容れないものがあるな。

 

「……」

 王妃が俺の首に手を回し、身体に抱きついている。鼻腔を擽る甘い匂い。

 何かの香料か、それとも魅惑成分を含んだりしている何かか。


「ふふ――何の変哲もない、普通の男の身体よのう」

 王妃が俺の身体を――背中から脇腹、そして胸へと撫で回す。


「王女が止めに入らなかったら、お城が半壊した挙句、国が傾いていましたよね?」

「――ほんにのう危機一髪だの」

 俺の台詞にも全く動揺する気配はない。


「その時は、どうなさるおつもりでした?」

「リリスは優しいからのう――其方達の命を助けるべく、必ずや間に入ると思うていたわぇ」

 その話を聞いた王女が、顔を赤くして下を向いている。そこまで計算ずくか?


「国が傾いたら、王族の責任が問われておりましたね?」

「その時はやむを得んのう――玉座を追われたのであれば、其方に囲ってもらえばよいであろ?」

 王妃が俺に抱きついたまま、身体をくねらす。


「母上、悪ふざけが過ぎますぞ?!」

 王女が王妃を引き離そうとするのだが離れない。


「私が、貴方様を助けるとお思いで?」

「ふふ――血がつながっておらぬ子供に獣人が2人――困っている女子おなごを見ると、手を伸ばさずにおられんのだろ?」

 俺とアネモネを見れば、血が繋がっていないと一目で解る。人種が違うし、全然似ていないしな。


「そんな事はありませんよ。私だって相手は選びますから」

 だが、この際だ色々と聞いてみるか――。


「最初から私の能力を確かめるために、こんな茶番を?」

「その通りだが、最初は半信半疑だったの。大抵この手の噂でやってくるのは、凡なる者ばかり――というのが普通だ。だが王女の報告で、本当に鉄の召喚獣を使う事や、妾の寝室の謎解きをした手練、本物だと確信した」

「それで、あの女魔導師をけしかけた?」

「その通りだ。あの者は最近驕り高ぶっておっての。あれでは自滅する可能性が高いため、仕置が必要だと思うたわけだ」

 王妃の言う自滅というのは――悪事に手を染めたり、魔導をあらぬ方向へ使う――つまり『禁呪』への一里塚だ。

 そのために急遽、貴族達を集めたり魔導師を呼んだりで時間がかかったようだ。


「のう――ケンイチ。この身体のどこにその秘密があるのか、妾にちと見せてみぬか?」

「お断りいたします」

「つれないのう――妾が嫌いか?」

「嫌いです」

 その言葉を聞いた王妃は、一瞬で顔をクシャっと変える。そして俺に背中を向けると、顔を掌で覆って震え始めた。

 嗚咽を漏らしているようだが――。


「嘘泣き乙」

 俺の言葉で嗚咽がピタリと止んだ。俺は20歳以上の女の涙は信用しない。


「ちっ! やはり敏腕の狩人も、狩りを怠れば腕が落ちるものよのう!」

「やっぱり、嘘泣きか……」

「おおっ! 怒ったのかぇ? 怒ったのかぇ? さぁ、妾の身体を嬲るがよい! どんな行為も其方の思うがままだ。家族の命を狙った妾を、どうしても許せぬと申すのであれば、鋭き刃で腹を割き子袋を引きずり出してもよいのだぞ?」

 再び王妃が俺に抱きついてきた。

 だめだ。こういう人種には嫌味も何も通じない、無視するのが一番。


「お断りいたします」

「即断かえ? もうちと、悩むとかはないのか?」

 俺の即断に王妃は不満顔だ。


「ありません」

「うら若き王女の願いを拒否する男が、母上の願いを聞くはずがないでしょう」

「若さが最強の武器と思うているうちは、子供よのう――若さ“だけ”が取り柄とならぬようにの」

「「ぐぬぬ……」」

 2人の王族の間に火花が飛ぶ。


「いやはや、王族というのは色々と大変なのでございますね」

「それはそうだ。国内外に目を光らせ、人心を把握し、そして殺すか殺されるか――だからな」

「でも、それは森の中でも一緒でございますよ。私達は魔物を狩り、魔物は私達を襲ってくる」

「だが、そ奴らは罠を仕掛けてきたり、毒を盛ったり、呪いの品を持ってきたりはせんであろ?」

 王妃のやるせない表情をみると、そういう事が多々あるようだ。

 実際に呪いが掛かった壷が、王妃の寝室へ持ち込まれていたのだからな。


「では、そろそろ、カールドンという魔導師の所へ……」

「おや、ここでは何もせぬのか?」

 王妃が俺に軽いくちづけをした。意外としつこい。

 だが憂いに満ちた美しい瞳に光るまつ毛――その下には小さい泣きぼくろ。

 顔だけみれば、絶世の美女。顔だけは――大事なことなので二回言いました。


「母上!」

「アマラ様、お戯れを。こんな所を誰かに見られたらいかがなさいます」

「構わぬ、陛下もそろそろ、うら若い側室が欲しかろうて」

「その側室に権力を握られても、よろしいので?」

「はは――それが望みであれば、妾も公務から引退出来て万々歳よ。やっと晴れて自由の身になれるわ。ただし我が目に適う人物であれば、という注釈はつくがの」

 逆にいえば、目に適わない輩が座を狙ってくるのであれば容赦なく迎え撃って叩き潰す――ということだ。

 王妃が、俺から離れて言葉を続ける――。


「それに、そろそろ男子が生まれねば王家が危ない。陛下は妾を真剣に抱いてはくださらぬようであるし……」

 それは、王妃様に問題があるのでは? ――と言いたいところだが、口を噤む。

 そんなことを言えるはずもない。


「そう考えると、ルクリアの死は、国の大きな損失だったの」

 今は亡き、王女の実母――側室だった方らしい。


「新しい側室よりは、リリスの嫁ぐ姿を見る方が早いか――」

 その話を聞いた王女は、横を向いてしまった。どうも、その話は聞きたくないようだ。

 まぁ意にそぐわない男に嫁がなければならないのだ。いくらお家のためとはいえ、少なからず抵抗はあるだろう。


「もう、お相手は決まっておられるので?」

「王家の傍流の血を引いた公爵家がある。そこから相手を迎える話が進んでおる」

 ここで話されているのは、国家の行く末を決めるトップシークレットだな。

 とてもじゃないが外では話せない。


「リリス様は、お気に召さぬご様子ですが……」

「気に入るも気に入らんも、王族の務めだからの」

 おそらくは、自分もそうだったので、王女にもそうしろと言いたいのだろう。

 話はここで終了。

 なるほど、この王妃は優しさと狂気が複雑に絡み合った方。こりゃ逆らったり、怒らせると怖いわけだ。


 選んだアンティーク家具をアイテムBOXへ入れると、カールドンという魔導師の所へ向かう。

 王女の案内だが、王妃も一緒だ。

 場所は――階段の下の扉から入る半地下。階段を降りると高い所に明かり取りの窓があるが、あそこが地上だろうか?

 しかし、この造りだと雨が降ったらここへ流れこんできそうだが。

 そして、四隅を鉄板で補強してある分厚い木で出来た扉の前にやって来た。


 ここが、カールドンさんの工房か。


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