88話 秘密のご褒美
お城で国王への謁見を待つ間、王女からの依頼をこなす。
ネズミを獲ったり、幽霊退治したりと依頼はバリエーションに富んでいるが、その褒美として王家の書庫に入る事を許された。
これはちょっとラッキーである。シャングリ・ラで購入したPCとスキャナで、貴重な魔法の本をデジタル化――というチートな方法で持ち出しに成功した。
メイドさんに連れられて、お城の裏庭に設置した家に戻ってきた。
辺りは日が傾き始めて、城壁の影が長く伸びてきている。
「旦那、遅かったな。ハラが減ったぜ」「ウチもにゃ」
獣人達とベルが地面に座り込んで、俺の帰りを待っていた。
「悪い悪い。面白そうな本が沢山あってな」
「ケンイチ、本を読みたい」
「夕飯を食べてからな」
「うん!」
「旦那、アイテムBOXに残り物があるなら、俺はそれでいいぜ」「カレーがあるなら、カレーを食いたいにゃ」
獣人達は残り物で良いと言うので、ニャメナにはビーフシチューを、ミャレーにはカレーを出してやる。
「ニャメナには酒な」
除霊している時にも日本酒を飲みたそうだったので、日本酒を出してやった。
「そうそう、これこれ」
「肉料理なら、ワインの方がよくないか?」
「はは、飲めりゃどっちでもいいよ」
「うみゃー!」
ミャレーはカレーがいいようだ。ベルには猫缶を開けてやる事にした。たまに、マグロ缶にしてみるか?
ベルの皿に猫缶を開けてやると、美味しそうにぱくついている。
「う~ん、俺は久々に牛丼が食いたいな」
「ギュウドン?」
アネモネが聞きなれない言葉に首を傾げた。まぁ、実際にサンプルを食わせてみた方がいいだろう。
大食らいの王女がやって来ていたので、ご飯は沢山炊いてあるからな。
シャングリ・ラで1個500円の丼を3つ購入。その1つにご飯をよそう。
そして、シャングリ・ラで吉○家の牛丼の素を買う。店で出ているのと同じ物がパックになっていて売っているのだ。
大盛り30食入りで1万5千円。1食500円か……牛丼の大盛りっていくらするっけ? しばらく食ってないから忘れたな。
俺が若い時、北海道には牛丼屋はなかった。東京で初めて牛丼を食ったのだが、当時特盛りで550円ぐらいだったような。
もう殆ど毎日食ってたな。牛丼のパックを3つアネモネの魔法で温めてもらい、その1つを丼のご飯へ掛ける。
「アネモネ、牛丼ってこれだぞ? 食べてみるか?」
「うん!」
スプーンで一口掬って、アネモネの口へ運んでやると、美味しそうに食べている。
「美味しいよ、これ!」
「そうか、じゃあ夕飯で決まりだな。プリムラはどうする? 同じものにするか?」
「ええ、私も挑戦してみますわ」
彼女がそう言うので牛丼を差し出す。すると早速、口へ運んでいる。
「はふはふ――お肉にスープが染み込んでいて、とても柔らかいですわ」
「そういえば、こういった料理は、街にはないなぁ」
俺も牛丼を一口食べる。タレが染みた牛肉の味と米の飯が、口の中で渾然一体となる。
「こんなにお肉が沢山では、値段が上がってしまい、街の住民では食べられません」
まぁ大規模な畜産が行われているわけでもなく、肉はそれなりに高級品だ。
普通の露店でスープを買っても具なんて殆ど入っていなかったりするしな。
アネモネとプリムラはスプーンで牛丼を食べているが、俺もスプーンだ。
この世界へ来てから、箸で食ったのはカップ麺ぐらいかな。餃子もスプーンで食べたし。
たまにはカップ麺も食いたいのだが、皆に合わせていると麺類を食べる機会がない。
あの王女様なら、面白がって麺類も口にするかもしれないが……。
夕飯を食べ終わったので、コピーしてきたデータをアネモネが読めるようにしよう。
シャングリ・ラには、電子ペーパーを使った独自の電子書籍リーダがあるので、そいつを購入する。
ノートPCをアイテムBOXから出して、取り込んだ本のデータを電子書籍で読めるように変換する。
そして電子書籍リーダをノートPCにUSBで接続すれば、ストレージとして認識するので、コピーすればいい。
試しに、取り込んだ一冊をリーダーにコピーして、起動してみる。
「ん~、おっ! 意外と綺麗に読めるな」
電子ペーパーなので、完全な白黒だ。ちょっとレスポンスが悪いが十分に使用可能。
アネモネに電子書籍リーダの使い方を教える。
「絵を拡大するときは、指2本でこうな」
「すごーい!」
「お城の人間がいる所で、その板を出さないようにな」
「うん!」
よし、上手くいったので、残りのデータも変換してしまおう。貴重な本なので、バックアップもしなくちゃな。
外付けのHDDを買ってコピーする。SDカードなどは、通電してないとデータが消えると聞いた事があるからな。
アイテムBOXに入れておけば、HDDも劣化はしないだろう。
CDーRとかも消えるって話だしな、丈夫だと言えばMOかな? シャングリ・ラを検索すると、MOのメディアもドライブもまだ売っているようだ。
懐かしい。以前は仕事でデータ持ち込みといえば、MOだったのだ。暇をみて、MOドライブを買ってコピーするか。
「あの……それってもしかして……?」
どうやら、勘の良いプリムラが俺達がやった事に気がついたようだ。
「ははは、プリムラは俺の妻だから、一蓮托生だよなぁ」
「?」
彼女が首を傾げている。
どうも通じてないようだ。
これは仏教用語だからか? もしかして、蓮という植物がないせいかも。
言葉の意味を説明した。
「勿論ですけど、バレたら首が飛ぶかもしれませんよ」
「別の場所で複製を作ったと言えば、証拠はないから大丈夫さ」
「もう、本当に……」
プリムラは少々呆れ顔であるが――もしかしたら、アネモネをこの世界一の魔導師に出来るかもしれないのだ。
何の因果か解らんが巡りあった才能だ。十二分に資金を入れてあげようじゃないか。
全部の本を変換し終わったので、電子書籍リーダへ転送する。35冊が全部リーダーの中へ入った。
ニャメナに頼まれてアイテムBOXから捌いた鳥を出す。焚き火で焼いて酒の肴にするようだ。
「そういえば、ゴースト退治の分前がいるな……」
「はは、あんなの仕事のうちに入らないから要らないよ。俺達は、ただウロウロしてただけじゃん」「そうだにゃ」「にゃーん」
暗くなった、お城の裏庭で、LEDランタンを点けて、まったりとしていると、メイドさんが1人やって来た。
それを見たアネモネが端末を隠した。
「ケンイチ様、姫様がおよびで御座います」
「旦那ぁ、やったな。夜のお誘いだぞ?」
ニャメナがとんでもない事を言うので、プリムラの顔が怒りで赤くなる。
「未婚の王族だぞ? ありえないだろ」
だが用件はどうであれ、呼び出されたという事は、参らなくてはいけないだろう。
メイドさんに案内されて、お城の中へ入った。
手に持った明かりで、暗くなった廊下を照らし階段を上る。そして案内された部屋。
大きな茶色の立派な扉が待ち構えていた。
扉を開けると、天蓋付きの大きなベッドと、その脇に立つ王女とメイド長さん。だが、ここは王女の私室というよりは、来賓者のベッドルームのような……。
「リリス様、およびでございましょうか?」
「うむ! 色々と其方には世話になったからの、褒美を取らせようと思うての」
「褒美でございますか?」
う~ん、それなりに褒美は貰ったつもりだったが。書庫の貴重な本もコピーしてしまったしな。
「其方、このマイレンのような女子が好みなのであろう?」
アップした黒い髪と、メガネ――そして豊かな胸と白と紺のメイド服。これが嫌いな男がいるだろうか? いやいるはずがない(反語)。
「はい? 正直好みですが、よくお解りで?」
「其方、妾の事なぞ目もくれず、ずっとマイレンの事を目で追っておったろう?」
え~? そこまで凝視してたかな。だって王女はまだ子供だしな……アネモネと2歳ぐらいしか違わないし。
「これは、お恥ずかしい限りでございます。それで私にどうしろと?」
「うむ、これが褒美じゃ。このマイレンを其方の好きにするがよい」
王女がとんでもない事を言い出した。
「ええ~っ! ちょっと、お待ちください」
「不服か?」
「滅相もございません。光栄なのですが、私には妻もおります故……」
「なんじゃ意外と堅いの。もっと野心に溢れる者かと思うたが」
「いえいえ、片田舎で静かに暮らしたいだけの、平民でございますから」
「ふむ――」
王女は、ニヤニヤと何かを考えているのだが、あまり良い事を考えている顔ではない。完全に悪巧みを思い浮かべている表情だ。
「それでは――其方のアイテムBOXの中には、女をいたぶる魔道具が沢山入っていると申したな。それをこのマイレンに使ってみるがよい」
「ええええ?!」
チラリとメイドさんの方を見るのだが、赤くなって下を向いてしまった。
「どうした? まさか、それも出来ぬと申すのか?」
ちょっと、メイド長さんにヒソヒソ声で話しかける。
「よろしいので?」
「あの……姫様の無理難題には慣れておりますので……それに、逆らうのは得策ではありません」
そう言うと、メイド長さんは長い紺のスカートをたくし上げた。
う~ん、これは彼女には悪いが、逆らえる状況ではないらしい。俺は、アイテムBOXから、色々とアイテムを取り出した。
「あの、やさしくしていただけますか?」
残念、男はその台詞を聞いてしまうと、野獣と化してしまうのだ。
そして、暗いお城の廊下にメイド長さんの悲鳴がこだました。
「ひいいいっ! 姫様お許しおぉぉ!」
お尻を丸出しにしたメイド長が、床に四つん這いにされて、王女からお仕置きをされている。
う~む、なんというファンタジーな光景――まさに男のロマン。
「これは、素晴らしい威力だの! メイドに仕置きをする時には、これを使えばよいのか」
「リリス様。残念ながら、それを使うためには特殊な魔力が必要で、私にしか充填出来ません」
「何? それは残念じゃのう」
「はひっ! あああっ!」
「しかし、お城には魔道具作りが得意な魔導師がいらっしゃるのでは? その方に複製を作らせてはいかがでしょう」
「おおっ! そうじゃ! 誰かある! カールドンを呼べ!」
パタパタと走る音が聞こえたので、誰かが件の魔導師を呼びにいったようだ。
その間にも、王女はメイド長を責め続け、メイド服の肢体が床の上でぐったりと失神した時――1人の背の高い男が現れた。
黒い装束に、黒い外套、黒く長い髪を後ろに結び――神経質そうな男が丸い小さなメガネを左目につけている。
歳は40近いだろうな――俺と同じぐらいか。
「王女殿下、お呼びでございましょうか?」
「うむ、近う寄れ」
魔導師は、絨毯に大きなシミを作り、床に転がっているメイド長には目もくれず王女の下へ膝をついた。
女には興味がない奴なのか、それとも、こんなのが日常茶飯事なのでどうでもいい事なのか――あるいは両方か。
「これの複製を其方に作ってもらいたい」
「拝見いたします」
魔導師は、玩具を隅々まで観察して、スイッチを入れて驚いた声を上げた。
「ほう、振動を発するカラクリですか」
「そうじゃ」
「振動を起こすのは魔石でも可能でございますが、この首の所の造りは……」
「ケンイチ」
王女から説明を求める声がかかったので、俺はアイテムBOXからスケッチブックを取り出して、構造図を描いた。
「この首の所には、図のような鋼の線を螺旋状にした物が入っているはずです」
「なるほど、それで自由に動くわけですな。これは興味深い――これを貸していただくわけには?」
「それはちょっと困ります。私が秘蔵している魔道具なので」
「そうですか。残念ではありますが、おおよその構造は解りましたので、製作は可能でございます」
魔導師は再び王女に向き直ると膝をついた。
「よし、直ちに製作に移るがよい」
「ははっ!」
魔導師は一礼すると、その場から立ち去った。本当に複製が作れるとなると――王侯貴族の間に、この玩具が流行ったりして。
「ところでケンイチ――其方、本当にやらぬか? このように準備万端整っておるぞ?」
そんな事を言いつつ、剥き出しになっているメイド長の白く大きな尻を叩いてみせる。
「いたしませんが……」
「なんじゃ、つまらぬのう」
「だいたい、私が手を出したとして、リリス様はどうなさるので?」
「当然、見物するのだが?」
王侯貴族ってのは、やっぱり平民とはちょっと違うようだ。こんな事を見世物にするというのだから。
「それじゃ勃つものも勃ちませんよ。それに、こういう事は、2人の愛情を確かめ合うものでなければなりません」
「ほう? それでは、妾のような政略結婚の駒には一生無理じゃの」
「そんな事はありません。見知らぬ貴方と見知らぬ君が、一目会ったその日から恋の花咲く事もある!」
「其方、中々詩人じゃの」
まぁなぁ、あのアストランティアの子爵夫人もそうだったが、愛情とはちょっとかけ離れているような……。
「お褒めいただきありがとうございます。しかしながら、このような事をお求めになられても、私は小心者でございますから」
「ははは、それは中々面白い冗談だの。小心者が、このような状況に置かれて平常心でいられるわけがない」
「そうでしょうか?」
「うむ、其方はどんな状況でも切り抜けられると思うておるから、平気なのじゃろ?」
「平気というか――いざとなれば、アネモネの魔法と私の召喚獣を使って、お城を半壊させて逐電するつもりではありますが」
「やはり、独自魔法使いは剣呑じゃのう。はてさて、このような危険な者を召して、父上はどうするおつもりなのか」
この言葉からすると、今回、俺を呼び寄せた事に王女は関わっていないようだ。
てっきり、暇を持て余した王女が、国王に玩具をおねだりした結果なのか――そんな事を考えていた。
「何もしてこなければ、何もしませんけど」
「反対に、何かしてくれば――この前話したように、妾を人質にして逃げるのか?」
「その手もありですねぇ」
「そうなれば――妾もこうなるのか?」
王女が床に転がっているメイド長の尻を踏むと、彼女が恍惚の表情を浮かべている。
メイドさんが一方的にイジメられて、ちょっと可哀想と思ったのだが――これは、いつも行われている双方が了承済みのプレイなのかも……。
「それは、リリス様次第でございますれば」
「ふむ、それはそれで、面白そうじゃの」
しかし、そうなれば王族の地位を追われる事と同義なのだが――その事を尋ねると。
「妾はどちらでもよい。ただ、我が父は怒り狂うであろうがな」
王女は、王族の地位には執着はないようだな。色々とあったが、マジで用件はこれだけらしい。暇だったから玩具にされたようだ。
それと大事なことを聞いた――そろそろ謁見が決まりそうだという事だ。やっとか。
再び、メイドさんに連れられて皆の所に戻る事にした。
家に戻ると、皆は家の中に入っていたので、外にあったテーブルをアイテムBOXに収納して家に入った。
ニャメナは自分の小屋で寝ているらしい。
オレンジ色のガソリンランタンの下、皆がベッドの上や、縁に腰掛けている。
そこからベルがやって来て、身体を擦りつけてくるのだが――いつもと違う人の匂いがするせいであろうか?
しかし、王女とメイド長と一緒にいただけだから、匂いはそんなについていないと思うのだが。
「あ、帰ってきたにゃ」
「おかえりなさい」
「何のご用件だったのですか?」
「魔道具について、色々と聞かれたよ」
まぁ、本当の事は言えるはずもないし、一応、嘘も言ってない。
「それと、謁見の予定が決まりそうだよ」
「やっとかにゃー! こんな所にいると、身体が鈍るにゃ、狩りも出来ないし」
「にゃー」
ベルも狭い所にずっといるので、退屈のようだ。
「ケンイチ、これってどうやって作るの? 作りたい」
アネモネが見せてきたのは、電子書籍リーダの画面。丸い頭の付いた十字架のような物が載っている。材質は木らしい。
イメージ的には、海にいるクリオネに似ているような……。
説明を読むと、ゴーレムの核のようだな。こいつを使ってゴーレムの身体を構成するのか――。
核の大きさがゴーレムの大きさに比例するとも書いてある。そうすると、工事に使っていた巨大なゴーレムには同じく巨大な核があるって事か。
勿論、デカい核は魔力も沢山消費するようだ。
う~ん本を読んでも、よく解らんな。とりあえず同じ形になっていれば、OKって事なのか?
まぁ、なにはともあれ作ってみない事には解らない。
アイテムBOXから板を一枚取り出した。
「先ずは、板に形を描く」
「うん」
「そして、周りをノコギリで切り出します」
この世界にも、ノコギリは存在しているので、彼女にも使い方を教える。
勿論、この世界の物よりも、シャングリ・ラで売っている1000円の替え刃式の方が高性能なのだが。
「切り出した後は、小刀や切出しで角を落として丸くすればいい」
「解った!」
彼女に、1本1万円の鍛造の切出しを買ってやると、床に座って核の角を削り始めた。
見ていてハラハラするのだが、ちょっとずつでも教えていかないとな。
「使っていて切れなくなったら、刃物は研がないとダメだぞ。研ぎ方も教えてやるから」
「うん!」
「やっぱり、師匠は大切だにゃー」
「獣人は親から習うのか?」
「親からも習うし、一族の大人全部から習うにゃ」
獲物の獲り方、捌き方、罠の作り方、道具の手入れの仕方、多岐に渡るという。
「そりゃ効率的だな」
これで読み書きが出来れば、獣人最強説なのだが――天は二物を与えなかった。
「でもにゃ、教え方が違うとか、ここがこうだとか、あーだこーだ結構喧嘩になるにゃ」
「ああ――人によって流儀みたいなものもあるからな」
この子はワシが育てた! って言いたいだろうし。
「そうなのにゃー、ウチ等はどうでも良いのににゃ」
魔法の本を読むと、木の人形――核の出来によって、ゴーレムの性能が違うなんて書かれている。
それじゃ、工作機械等で作ったら性能アップしたりするのか? 木工旋盤で削ればいいんだからな。
そのうち、ちょっと試してみたくなるじゃないか。
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――次の日。
皆で朝飯を食っていると、お城から使いがやってきた。
国王との謁見は昼過ぎに決まったようだ。
「今日の昼過ぎか……」
「やっと決まったな、旦那」「うにゃー」
そこへ王女が、派手な服を着た商人らしき男たちをぞろぞろと引き連れて、やって来た。
太っている、背が高い、若い、年寄りで白髪――と色々と揃っているが、皆が原色の色使いの服をまとっている。
「ケンイチ、其方のアイテムBOXに入っておる、巨大蜘蛛を買いに来た連中だぞ」
あんな蜘蛛を仕留めても運ぶ手段がない。それ故、王都まで運ばれる機会は滅多にないというから、貴重なのかもな。
王女の話では、皆が御用商人のようだ。この商人達が獲物を買って加工――鎧などを製作して、王家に卸すらしい。
王女に言われて、アイテムBOXから、オスとメスの洞窟蜘蛛を出した。
アイテムBOXを占領していた巨大な蜘蛛も、やっと引き取り手が決まるか。
目の前に現れた、巨大な二匹の蜘蛛に、商人達がたじろぐ。
「「「おおおおっ!」」」「これは、なんと見事な」「損傷も殆どない」
損傷は、俺がコ○ツさんでどついた頭の部分だけだな。アネモネも憤怒の炎を撃ったのだが、焦げている風でもない。
魔法に耐性があるというのは本当のようだ。
「ウチに売ってくれ」「いや、ウチだぞ」「こちらは、そいつ等より金を払う!」
――という事は、オークションになるな。商人達の相手となれば、プリムラの出番だろう。
「プリムラ、任せた。君の出番だぞ」
「勿論、任せて下さい。やっと私の出番がやって来ましたね」
餅は餅屋。商人には商人。俺も商人だが、インチキだからな。
商人達のオークションの結果。デカいメス蜘蛛は金貨350枚(7000万円)。小さいオス蜘蛛の方は、金貨80枚(1600万円)となったようだ。
少々高い気もするのだが、この甲殻から削りだして作られたプレートアーマーとなると、1億を超える値段になるそうだから、原料の仕入れとしてはこんな感じらしい。
軽くて丈夫、しかも魔法を弾く――金がある騎士や貴族なら、欲しい逸品だろう。
しかも、こいつは白くて美しいからな。見栄えもするだろう。金持ちの虚栄心をくすぐると思われる。
しかし、売ったは良いが、商人達にも運ぶ手段がないというので、俺のアイテムBOXへ入れて、サービスの配達という事になった。
まぁ、大金で買ってもらったから、このぐらいのサービスはいいけどな。
一応、毒を使ったので、肉は食わないでくれ――という話をしたのだが、笑われてしまった。
いや、もしかして美味いかもしれないじゃん。
まぁ誰に聞いても食ったことはないらしい。
焼いたら美味そうだがな……。
オークションの後、俺のアイテムBOXを知った商人達が、荷物を運ぶ仕事をしてくれとしつこい。
生鮮食料品も運べるし大物も運べる。商人からみれば、かなり魅力的なようだ。
だが、そんな仕事をしなくても十分に金は持っているからな。
大体、義理の父であるマロウさんでさえ、そんな事は俺に頼んでこないのだ。
もっとも、彼自身がアイテムBOX持ちであり、そういう連中につきまとわれて、難儀した経験があるせいかもしれないが。
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