79話 キャッツ&ドッグス
皆で泊まる事が出来る宿屋を探すために冒険者ギルドへ行ったのだが、ゴブリン退治などという余計な仕事を押し付けられた。
だが無事にクリア。回復の魔導書も手に入ったし、結果オーライだろう。
俺達はイベリスを後にした。
車で普通に走れば、王都まで1日で到着する距離なのだが、余計な時間を食ってしまった。
だがアストランティアから王都まで普通の馬車で向かえば、1週間~10日はかかるのだ。
それを考えれば2~3日の遅れは、どうってことはない。車を北へ街道を走らせる。
途中、小さな集落への脇道と、続く小麦畑。そして背の高い草むら。低木はたまに生えているが、森や林は見当たらない。
集落があると、その近くでは燃料として木が伐採されてしまうようだ。
今は火石があるので伐採も少なくなったようだが、それでも火石を使ったコンロ等はそれなりに高価。
それ故、金がない家庭では未だに薪が使われていると言う。
そんな景色を見ながら鼻歌混じりのご機嫌ドライブなのだが、にわかに空が真っ黒くなりポツリポツリとフロントガラスに雨が落ちてきた。
この世界に雨はあまり降らず、少ないと感じるのだが、それは日本人の感覚らしい。そう考えると日本は、ちょっと降り過ぎのようだ。
――だが次第に雨脚が強くなってきた。ワイパーを動かして視界を確保する。
「すごい雨だな」
だが、ギッタンバッタン、目の前で動く黒い枝に、獣人達とベルが釘付けになっている。
左右にワイパーが動く度に、首を左右に振ってそれを追う。
助手席にアネモネと一緒に乗っていたベルが猫パンチを出し始めた。
「おいおい、飛びかかるなよ」
「気になるにゃ~気になるにゃ~」
「ああ、もう! 我慢出来ないぜ!」
こりゃ、アカン! それに雨脚が一層強くなってきて視界が悪い。こりゃ、ゲリラ豪雨ってやつか?
こんな激しい雨は、この世界にやって来て初めてだな。
道から外れて車を止める。これだけ視界が悪いと、馬車に追突されそうだ。
だが、この雨の中じゃ馬車に乗っていてもずぶ濡れだろうから、停車しているとは思うが。
「はぁ~この召喚獣はすごいねぇ。こんな雨でも濡れないんだからさ」
「そうにゃ」
「ちょっと高めの馬車なら囲いもしてあるし、窓にはガラスも嵌っている。雨風はしのげるだろう?」
「そうでもありませんよ。あまり激しい雨だと、雨漏りしますし」
プリムラがそう言うのだから、マロウ商会のあの立派な馬車でも、雨漏りするんだろう。
防水する技術がないのだろうか?
「防水の技術は何かないのか?」
「防水ですか?」
プリムラの話では、木の接着には膠が使われているが、コーキング剤のような充填剤はないようだ。
それに、木に塗る塗料もあまりないようだしな。馬車に塗っている黒い塗料は木タール、白いのは鉛白を使った物らしい。
「鉛白って、化粧品に使われてたりしないよな?」
「水銀や鉛白は昔は使われていましたが、今は毒性があるのが知られてますから、使われていませんよ」
だが、毒性が知られるまで犠牲者が山のように出たらしい。ここらへんは元世界と同じようだな。
「そうかぁ、ここには漆がないからなぁ」
「ウルシ?」
聞いた事がない単語に首を捻る皆のために、シャングリ・ラから漆のお椀を1個購入。
「これだよ」
「こ、これは……軽いですが木の器ですか? でも、この滑らかな塗料は……ワニスですか?」
「ワニスに近いね。ある種の木の樹液を薄く何層にも塗り重ねて、磨いた物さ」
俺が買ったのは、1000円ぐらいの量産品だけどな。
「これは素晴らしいですわ」
雨に打たれる車の中で、プリムラが漆器を掲げる。
家具などにワニスが使われているし、馬車の内装にも塗られているが、外装に使われる事はないようだ。
そもそも、雨があまり降らないので、防水の技術が発達しないだけらしい。
「この器も売れますわ……」
プリムラの顔を見ると、どのぐらいの値段にするか、打算している顔だ。
「もしかして、森の中を探せば漆もあるかもしれないが……」
中国や東南アジアでも生えているらしいから、ここにもあるかも……。
「旦那、そりゃどういう木なんで?」
「樹液に触れると、かぶれるんだ。そういう木に森で出会った事はないか?」
「かぶれる……ないねぇ。刺さるといたい草なら結構生えているんだけどな」
「そうにゃ」
刺さると痛いってのは、イラクサか何かだな。
漆はないらしい――ということは、漆器が貴重品になる可能性があるって事だ。
「プリムラ、売るならこういう高めの方がいいかもな」
俺は、シャングリ・ラから1個1万円の漆器を購入し、彼女に見せた。黒地に金の蒔絵が施された物だ。
「これは、素晴らしい! 王侯貴族が飛びつきますわ!」
多分、持ち上げて軽さにびっくりするだろうな。「これって木なの?」って感じで。
会話に入ってこれないアネモネの機嫌が悪いので、フルーツ牛乳をだしてやる。
お茶うけは、かっ○えびせんだ。降りしきる雨の中、一心不乱に皆でカリカリと食う。
「うめぇ!」「あと引くにゃ~!」「本当だね!」
「これって、小麦粉を油で揚げた物ですか?」
「俺が作ったわけじゃないから、解らないが――多分そうだ」
特殊な原料は使っていなかったはず。しかしパッケを見ると、ノンフライと書いてある。
そうなのか……だが、説明が難しいな。具体的作り方は解らないし……。
かっ○えびせんを食い終わっても、雨は止まない。
「しょうがねぇよ、旦那ぁ。ゆっくりしようぜ」
ニャメナは、1人で座っている3列目シートで横になって、脚を上げている。
狭い車の中でやることもないので、音楽でも聞いてみるか。車にはCDデッキがついている。
シャングリ・ラでCDを物色する。ポップスを聞かせるのもなぁ……ギター――クロ○ド・チアリとかはどうだろうか?
CDを購入して、車のデッキへ挿入する。
すると、車載スピーカーからギターが流れ始めた。雨の日にふさわしい、悲しげな曲だ。
「にゃ! にゃんだ! どこから、音楽が聞こえるにゃ?!」
獣人達が、耳をくるくると回し始めた。
「クロ助、この穴から聞こえるぞ?」
「これはリュートですか?」
プリムラは目を瞑ってじっと音楽を聞いている。
「まぁ、それに似たような楽器だな。魔法で音楽を出しているんだよ」
「なんか、悲しそうな音楽……」
結局、雨が止むのに3時間ぐらいかかった。でも、すごい雨だったので、3時間で200~300mmぐらい降ったものと思われる。
獣人達に聞いても滅多にない、まとまった雨らしい。
「よっしゃ! それじゃ、行くか」
「ええっ? 大丈夫なのかい旦那ぁ?」
「ん? 何か問題があるのか?」
ニャメナが異議を唱えたのだが、道へ出てみて、その意味が解った。
この世界の道は土道である。しかも砂利なども敷いておらず、雨が降ると泥濘んでぐちゃぐちゃ。
それでも4WDであれば、どうって事はない。多少のスタックならデフロックで抜け出せる。
完全に、スタックしたのであれば、一旦アイテムBOXへ収納して後、泥濘んでいない場所に出せばいい。
道には、スタックしている馬車が、あちこちに停まっている。あの細い木の車輪では、すぐにめり込んでしまうだろう。
だが、車輪を太くしてしまえば、抵抗が大きくなって、馬が引くのが大変になってしまう。
だが、森などで伐採した木々を運び出す大型の馬車には、そういう幅広車輪タイプもあるようだ。
スタックしている馬車の間を縫うようにして街道をゆっくりと進んでいく。
こりゃ、今日中に着くのは無理だな……そんな事を考えていると、さらにまずい状況が目の前に見えてきた。
轟々とコーヒー牛乳色の川が自然堤防から溢れ出て周りを浸している。
だが、それはまだいい。川に掛かっていた木造の橋が真ん中から落ちているのだ。
「ありゃ、橋が落ちてる」
「げ! 本当だ!」
「本当にゃ!」
獣人達が、車の窓から身を乗り出した。
落ちた橋の手前で数台の馬車が停まって立ち往生。こりゃ復旧にしばらくかかりそうだ。
だが俺達なら、車を一旦アイテムBOXへ収納して、なんらかの方法で向こうへ渡った後、また車を召喚すれば良い。
とりあえず、車から降りて偵察だ。皆が降りたら、ラ○クルプ○ドをアイテムBOXへ収納した。
目の前で轟々と流れる茶色の濁流を眺める。俺達の他にも派手な格好をした商人らしき者達が、途方に暮れている。
その商人達も、俺達の中に見事な黒い毛皮を着たベルを見つけて、ヒソヒソ話をしている。
「ケンイチどうします?」
「あの柔らかい船で渡るにゃ?」
「いや、この激流じゃ危険だろう、ひっくり返ったりしたらあの世行きだ。数日待てば水は引くと思うが……」
俺達はすぐに渡れると思うが、この橋が復旧するには、数ヶ月掛るだろうな。
「う~ん……」
橋が落ちている距離を測ってみるか……。俺はアイテムBOXからレーザー距離計を取り出し、覗きこんでスイッチを入れた。
結果、8mらしい――ということは、アイテムBOXに入っている10mの丸太を出せば、渡せるかもな。
試しにやってみるか……。
俺は、橋が落ちているギリギリの場所へ行くと、足元をドンドンと踏み鳴らし、安全を確かめた。
「丸太召喚!」
だが、アイテムBOXから出てきた丸太は俺に対して、横に出現した。
当然、そのままドボンとデカイ水しぶきを上げて川へ落下。小さな虹を出しながら下流に流されていった。
「ありゃ、やっぱりそうか」
家の前の丸太橋を架けた時も、俺が川に入ったんだよな。やはり橋に対して直角に立たないと、丸太橋を架けられない。
さて、どうするか……コ○ツさんのアームを伸ばして――と考えたのだが、重機をこの橋に載せたら落ちるだろうな――多分。
土手も水に浸かってるし、脆くなっているだろう……。
「どうするの?」
アネモネとベルが俺の顔を見上げている。
「こりゃ無理だな。とりあえず水が引くのを待とう」
水が引いてから、ゴムボートで渡るのが一番安全そうだ。
少し街道を戻り、道脇の草を草刈機で刈る。終わったら、シャングリ・ラで1級破石ってやつを買う。20kgで500円もしない。
10袋購入して、皆で協力し家を置くスペースに敷く。
「よし、家召喚!」
敷いた砂利の上に家が落ちてきた。
「ジタバタしてもしょうがない。休むとしよう」
「あの、ケンイチ――ここで商売してもいいですか?」
「いいけど……」
プリムラは根っからの商売人だ。本当に物を売って、金を稼ぐのが好きなようだ。それが、小銭でも構わないらしい。
「それじゃ、ウチは晩飯を獲ってくるにゃー!」
「俺も行くぜ!」
こちらの獣人は根っからの狩人だ。
「よしよし、行ってこい」
「にゃー」
ベルもパトロールへ行くようだ。大丈夫だろうな、ここら辺の住民に見つかって狩られたりしないだろうな。
彼女の顔を見ると、「私はそんな間抜けじゃないわよ」みたいな顔をしているので、黙って見送る事にした。
プリムラはスープや食べ物を売りたいようなので、道具や食材をアイテムBOXから出してやる。
アネモネも、やる事がないのでプリムラの料理を手伝うようだ。ついでに晩飯の作りおきを作ってしまうと言う。
「皆に任せて、俺は休むよ」
家の前はプリムラとアネモネに任せて、俺はベッドを出して、家の中で横になる事にした。
――目が覚めた。横になっていたら、ちょっと眠ってしまったようだ。
だが、なにやら外が騒がしい。
外へ出ると、プリムラの露店は客で一杯だった。なにやら知らない女も働いている。
「これは美味いスープだ!」「焼きたてのパンも美味い!」「こんな所でこんな食事が出来るとは……」
旅先だと保存食が多くなるからな。パンも保存が利くようにカチカチだし。
「ああ、ケンイチいいところへ。ワインを出してください」
「なんだ、ワインも売るのか?」
「はい」
「それは、良いが――その女性は?」
「忙しいので雇いました」
「あはは、だって今日半日、手伝っただけで小四角銀貨1枚(5000円)だって言うしさ」
中年の女性だ。ちょっと小太りだが胸がデカい。粗末な麻の上着と紺のロングスカートを履いて、小さな前掛けをしている。
さすがプリムラ。役に立ちそうな人材には、目ざといな。
俺は後ろを向くと、シャングリ・ラから1万5千円で小型のオーク樽のワインサーバーと、12本で6000円の赤ワインを2セット買う。
本物のワイン樽も売っているのだが、新品とアンティーク含めて5万円~15万円ぐらいする。
結構高い物なんだな。それに容量も225Lとか半端ない。
このワインサーバーには10L入るようだから、750mlボトルの赤ワインが12本で9L――ちょうどいいぐらいに一杯になる。
ワインのスクリューキャップやコルクを抜くと、漏斗を差し込んだオーク樽の中へドボドボと流し込んだ。
銘柄が違うのに中で全部混じってしまうが、一番安いワインでもここでは上物らしいから、これでいいだろう。
そして、テーブルをもう一個追加して、ワインサーバーをデーン! と載せた。
「悪いが、手酌でやってくれ。この取手を押すと、ワインが出るから」
俺に言われて、金を払った商人らしい男が、自前のカップにワインを注いだ。
緑色の服を着た、口髭を生やした40ぐらいの男だ。そして一口飲む。
他の客がそれをじっと見つめている。おそらく金を払う価値があるのか、様子を窺っているのだろう。
さすが商人だ。価値のないものには絶対金を出さない。
「おおっ! こいつはなんと上等なワインだ! これが銅貨1枚だと?! 売ってくれ! この樽ごと売ってくれ!」
「いやいや、他のお客さんもいるので、そいつはちょっと拙いなぁ」
「おい! 独り占めは止めろよ!」「こっちにも飲ませろ!」「そうだそうだ」
案の定、他の客からブーイングが出始めた。
そして、他の客も金を払うとワインの立ち飲みを始めた。橋は落ちているし、どうしようも出来ない。ほぼ、やけ酒に近いのかもしれない。
売れ行きが良さそうなので、樽をもう1個買って、次の12本を入れる。
ワインは1杯銅貨1枚(1000円)だ。カップが1杯250mlだとすると9Lで36杯取れる。売上は3万6千円。
1回樽を空にすれば、樽2つとワインの元が取れる計算だな。次のセットからプラスになるわけだ。
「おおっ! こりゃ、マジで美味いぜ!」「こんな上等なワインが銅貨1枚とは……」「貴族邸で飲んだ物より上等なのだが……」
商人が集まってきて樽ごと売ってくれコールが凄いのだが、瓶のワインを樽に入れるのが面倒なので断った。
一応、シャングリ・ラで樽入りのワインを探したのだが、売っていない。
「プリムラ、ワインの空樽ってどのぐらいするんだ?」
「え~、金貨3枚ぐらいだと思います」
60万円か?! ワイン樽だけでも、一財産だな。そういえば、この世界は物を運ぶのにワイン樽に突っ込んで運んでいる場合が多い。
小物や、果物、豆類、穀物などもワイン樽で輸送されたり、売られてたりしている。
ボロボロになった穴あきのワイン樽でも、コンテナ代わりとしての需要があるようだ。
ワイン樽って丈夫だからな。
「お客さん、ワインは売れないが空樽なら売ってもいいぜ」
俺はシャングリ・ラから、新品のワイン空樽を購入した。容量は225Lで7万5千円だ。
それを客の目の前に出した。さすがにこれだけ大きな物を出すからには、人の目は誤魔化せない。
「アイテムBOX!」
客から、ざわめきが起こる。
「こ、これは、なんと見事なワイン樽だ。さぞかし名のある名工の手による物では?」
商人達はしゃがみこみ、樽の隅から隅までチェックを入れている。
「まぁな」
「この樽がいかほど……?」
「ここだけの特価、金貨3枚(60万円)でいい」
「買った! 3樽くれ!」
「いいのかい? 橋が落ちてるから、しばらく動けなくなるんだぜ?」
「構わん。商売とは出会いだ、出会った時が運命だと思って買わねば、その後一生会えないかもしれんからな」
日本語でいう、一期一会か。
「あ~、解りますぞ。ワシも若い頃のあの時に、借金でもして買っておれば……と後悔する事も多いです」
えんじ色の服を着た、ヒゲの爺さん商人が割って入ってきた。
それを聞いた他の商人も頷いている――どうやら、商人のあるあるネタのようだ。
新品の樽を買った商人が、手代を連れてきて樽を運んでいる。
それを見た、他の商人も樽を買うようだ。空樽だけで10樽売れ、金貨30枚(600万円)である。下手な商売より儲かる。
他にも樽が欲しそうな顔をしている商人もいるのだが、ここで買う余裕がないのだろう。
日が傾き始めた頃、獣人達が帰宅。手には獲物の鳩ぐらいの鳥が2羽ずつ握られている。
すでに毛が毟られて下拵えが出来ているようだ。
「ケンイチ、これで唐揚げを作ってにゃ~」「俺のも!」
「よっしゃ、今日は唐揚げだな」
カセットコンロと鍋を出して準備をした後、獣人達がぶつ切りにした鳥に唐揚げ粉をまぶして、油で揚げる。
ジュワジュワと油の弾ける音と香ばしい匂いが辺りに充満する。
「その料理も売ってくれ!」「俺にもくれ!」「こっちもだ!」
未だに残っていた客が叫びだした。
「4個で銅貨1枚(1000円)!」
客の声にプリムラが反応した。売れと言われると、何でも売ってしまうのが、商人らしい。
「よし! 買った!」「こっちもだ!」「俺にはワインをくれ!」
「ちょっとちょっと、プリムラ~俺達の晩飯が無くなるだろ」
「……しかし」
「しょうがない」
シャングリ・ラから冷凍の袋パックされた唐揚げを買う。1kg入って1200円ぐらいだ。
それを3つ程買って、大皿に山盛りにする。客に売るならこれで十分だろう。
せっかくの、野鳥を使った出来たてアチアチの唐揚げを取られたくない。
「アネモネ、この山を魔法で加熱してくれ」
「解った、温め!」
すぐに、唐揚げの山がチリチリといいだし、湯気といい匂いが立つ。
「ほらよ。出来たてだぞ」
嘘である。
だが、一斉に客が唐揚げに飛びついた。
「あちあち!」「おほう、こいつは美味い!」「なるほど、鳥の肉を小麦の衣でくるんで油で揚げたのか……」
食いながら断面をしげしげと眺めて、分析している商人もいる。さすがプロだ。
彼等の頭の中で、材料費と人件費等々を計算して、ソロバンを弾いている真っ最中なのだろう。
俺達の晩飯の唐揚げも揚がったので、皆で食う。
俺は、ご飯を食べたいので、もう一工夫。唐揚げを卵でとじて、ご飯に載せたら、唐揚げ丼の完成だ。
アネモネもご飯を食べるので、彼女の分も作った。
商売に忙しいプリムラは、目の前にある寸胴に入ったスープを飲んで、売り物の唐揚げを摘んでいる。
一緒に働いている、臨時のバイトの女性も同じだ。
店を閉めりゃ良いのに……商人の血がうずいて、止められないようである。
「ふわぁ――美味しい! 口の中が幸せでいっぱい」
唐揚げ丼を食べて、口の周りにご飯がついているアネモネの感想である。
「うん、美味いな。ちょっと肉が固いが、いい味が出てる」
「うみゃー!」「相変わらず、うめぇ! ははは、ワインは勝手に樽から貰ってるぜ」
「にゃー」
ベルには、衣を外した唐揚げと、猫缶を2缶開けた。
最近、獣人達は猫缶を食べないようである。他に美味しい物が沢山あると解ったからかな?
猫缶よりカレーの方が大好物になったようだ。
飯を食い終わったのだが、家の前では酒盛りが始まってしまった。
ここは飲み屋じゃないんだがなぁ……。
ワインが空になったので、2つ樽のサーバーに大○郎をなみなみと入れて、前金で金を貰った。
そのまま放置して、俺達は寝る準備を始めた。
念の為に、家の周りには、丸太のバリケードを設置。
酒を飲まないミャレーは家に入ってきたが、ニャメナはまだ飲んでいるようだ。
こうやって飲み屋を渡り歩いて、世間話から情報を集めるのが彼女の趣味みたいだが――。
俺達と住み始めてから、飲み屋歩きが疎遠になっていたようだから、久々のどんちゃん騒ぎが楽しいのだろう。
延々と酒盛りが終わらないようなので、俺はそれを放置して寝ることにした。





