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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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69話 アストランティアへ帰ってきた


 子爵領から請け負った用水路の工事を完成させて、アストランティアへ戻ってきた。

 そのまま子爵様の屋敷へ行くと、至高の障壁(ハイプロテクション)の魔導書をもらう事に。


「しばし、待たれよ」

 夫人に言われるまま応接室へ案内されて、待つことに。

 さすがに貴族の屋敷だ。立派な造り――白い石造りの壁だが、下側には黒いマホガニーのような板が貼ってある。

 並んでいる家具も一流品だ。素人の俺が見ても凄いと思うのだから、間違いない。

 実際に、倉庫にあった家具をシャングリ・ラの買取査定に突っ込んだら凄い金額が出たので、これらも高額査定間違いないだろう。


「待たせたな」

 白いドレスに着替えてきた夫人が差し出した魔導書。黒い革製の表皮に金の細工が施され、中心に大きな石が嵌った立派な物。

 見た目でも、価値がありそうな感じではある。それにしても、やっと手に入れたぜ。


「我らは友人なのであろう? その……其方の所へ遊びに行っても良いかの?」

「まぁな――だが、断る!」

「何故じゃ!」

「ケンイチ、カナン様が可哀想ですし……」

「君が敵に塩を送る人間だと思わなかった」

「塩ですか? よく解りませんが、友達がいないのは寂しい事ですし」

 ああ、これは日本のことわざだったな……まぁ、意味はなんとなく通じるだろう。

 プリムラも、子供の頃から親父さんの商売に付き合わされて、あちこちへ飛び回っていたので、同年代の友人がいないらしい。

 子供らしい遊びもしたことがないという話も聞いた事がある。同年代の男に興味を示さないのも、その辺の事情があるのかも。


「まぁ、プリムラがいいと言ってるから、良しとしましょう」

「本当か!」

 夫人の顔にパッと華が咲く。


「反対! 反対~!」

「アネモネが反対しているから、やっぱりダメだな」

「私は子供以下なのか?」

「だって、アネモネはとっても役に立つ良い子だしな~」

 至高の障壁(ハイプロテクション)の魔導書を持っているアネモネの頭を撫でる。

 まぁ、子爵領の財務を見るために、プリムラがここを訪れるんだ、話し相手ぐらいはするだろうし、それで我慢してもらおう。


 帰り際、夫人から羊皮紙を一枚もらう。ギルドへ口添えの書類だと言う。

 彼女の話からすると、街の中で動物を連れて歩くためには鑑札が必要らしい。

 動物というのは、森猫のベルの事だ。


「それじゃ、最初は冒険者ギルドへ行くか」

「俺の獲物も、旦那のアイテムBOXに入っているしな」

「そうだな」

 車で冒険者ギルドに乗り付け、アイテムBOXへ入れる。駐車スペースも要らないし、便利この上ない。

 元世界でも、これがあれば色々と捗っただろうな。それどころか世界が変わるぞ。

 輸送だって、引っ越しだって、自由自在なんだからな。

 ベルと一緒に冒険者ギルドの扉を潜ると、中にいた人々から驚きの声が上がり、黒い神の使いに獣人達は頭を下げに来た。

 いつもの受付のお姉さんの所へいく。


「あの~、この森猫の鑑札が欲しいんですけど……ここに、ユーパトリウム子爵夫人からの書状もあります」

「少々お待ちください!」

 書状を確認した、受付のお姉さんが、奥に消える。

 そしてしばらくすると、赤いベストを着たメガネを掛けた中年の男性が出てきた。


「あの、森猫と一緒に、こちらの部屋へ来ていただけますでしょうか?」

「はい――皆はちょっと待っててくれ」

「あ、旦那! 黒狼を出してくれよ。俺が窓口へ持っていくからさ」

「そうか、解った」

 アイテムBOXから、4頭の黒狼を出してやる。ニャメナとミャレーでカウンターまで運ぶようだ。

 俺とベルは一緒に奥の部屋に向かうと、応接室のような所へ案内された。

 赤い絨毯と低いテーブルと革製のソファー。貴族の屋敷のようにはいかないが、中々立派な部屋だ。

 ベルと一緒にソファーに座り、ギルドの職員が出した書類にサインをする。そして、彼女の手型というか、足型も取る。


「本来は、本当に獣や魔物が主人マスターの支配下にあるかの試験があるのですが、ユーパトリウム子爵夫人からの書状もありますし、今回は特例になります」

「良かったな」

 ベルの顎を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす。


「しかし、こんな見事な森猫をどのようにして……?」

「ダリア近くの森でな」

 そして、銀で出来た鑑札の首飾りを貰ったので、彼女につけてやる。

 鑑札に繋がっているのは、ただの紐だが。後で組紐などに替えてあげよう。

 それに、これが必要なのは街の中だけだ。俺の家や、森の中でこんなのは必要ないからな。

 森の中で、どこかに引っ掛けて紛失したり、狩りの時に邪魔になるだろう。


「これって紛失した場合は?」

「すぐに届けていただければ、再発行いたしますので」

 ギルドの情報は各都市で共有されているので、どこで申請しても大丈夫のようだ。

 ただ、情報の更新には少々時間がかかるようなので、それは気をつけねばならない。

 例えば、俺が車で街道を行けば、明日にでも王都に到着してしまうが、そこでは当然まだ情報が更新されていない。

 まぁ、こういう世界なので、それは仕方ないといえる。


 ギルドのホールへ戻ると、ニャメナ達が待っていた。


「黒狼は売れたか?」

「ああ、旦那のアイテムBOXに入っていたからな。出来たてのホヤホヤで、いい値段になったぜ」

 彼女は、黒狼を丸ごと売ったらしい。まぁ、アイテムBOXの中に肉はあるしな。


「あ~、ベルに首輪がついた!」

「そうなんだ。街にいる時は、こいつを付けてないとダメらしい」

「へぇ~」

 ベルが、アネモネに身体を巻き付けて、スリスリしている。

 冒険者ギルドから大通りへ出る。ここから、婆さんの道具屋へは然程の距離はないので、皆で歩いていく事にした。

 大通りでも、黒光りしている身体のベルは注目の的だ。

 そりゃ、普段は森の深い所にいる生き物が、街の中を堂々と歩いているんだからな。

 わざわざ、走ってきて挨拶していく獣人もいる。


「ちわ~、婆さんいるかい」

「はいよ~」

 よく解らない物が乱雑に積まれた店の奥から、ローブを被った婆さんが現れた。


「おや、兄さんかい」

「こんにちは!」

「おや、お嬢ちゃんも……随分と今日は団体さんだねぇ。これ、全部あんたの『これ』かい?」

 婆さんが小指を立てた――この世界でも、こういうのは小指なのかい。


「家族だよ、家族」

「中々やるもんだねぇ、ホホホ……どうだい、このお婆も養ってみちゃ」

「冗談はよせ」

「ホホホ、つれないねぇ」

「にゃー」

「なんと! 森猫までいるのかい? 兄さん、調教師(テイマー)か何かかい?」

「まぁ、そんなところだ。婆さん、魔導書の名義変更を頼む」

 アネモネが、大事に抱えていた魔導書を婆さんに差し出す。


「ふむ……こりゃ、たまげた! 至高の障壁(ハイプロテクション)かい! こんな物をどこで手に入れたんだい!」

「ある仕事をしてな。ここの領主様から貰ったんだよ。なぁアネモネ、皆で頑張ったんだよな」

「うん!」

「なんとまぁ、こんなの見るのも初めてだよ」

「魔法に詳しい婆さんでも見たことない物があるのか?」

「そりゃそうさ。こいつは帝国で作られた物で、この国に入ってきている絶対数が少ないからね」

「らしいな」

 ダリアの爺さんに見せたら、喜ぶかもな。

 とりあえず、婆さんに名義変更を頼んだ。


「婆さんから貰った生活魔法の本はとても役立っているよ。この子もすぐに使いこなしたからな」

「やっぱり、才能があるよ。王都に行ったらどうなんだい?」

「や! ケンイチと一緒にいるの!」

「まぁ、女だったら、そうだねぇ……よしよし」

 婆さんが、アネモネの頭をでている。

 しかし、せっかく皆で街へ出てきたんだ、何か……そうだ、アイテムBOXに蜘蛛の糸が入りっぱなしだったな。


「婆さん、服の仕立てをしてくれる店で、オススメの所はないか?」

「この通りをちょっと行った所にあるよ。何をするんだい?」

 アイテムBOXから、蜘蛛の糸を出して婆さんに見せる。


「これで、アネモネのローブを作ってやろうかと思ってな」

「こりゃ、立派な虫糸だねぇ。私にも売ってくれないかい?」

「皆の服を作って、余ったらな」

「兄さん、やっぱり私を養うつもりはないかい?」

「ははは、もう増やすなって言われてるから、無理だな」

 

 婆さんの道具屋を出て、彼女に教えてもらった、服屋に行く。

 この世界に既製品は売ってない。全部、新品の注文品か中古かのどちらかだ。

 デザインを見せるためのサンプルを置いてある店もあるのだが、そのまま着れる物を売っている店は無い。

 元世界のように、SMLなどの標準サイズ等も無いからだ。それ故、普通は自分のサイズに合う中古を買って着る事が多い。

 無地でシンプルな物が多く、デザイン性などは望むべくもない。


「いらっしゃいませ――ひい!」

 店主らしき女性が出迎えてくれたのだが、ベルを見て驚いたようだ。


「ああ、俺がマスターになっているから大丈夫だ。ほら、ギルドの鑑札もついている」

 だが、店の中に入るのは少々拙いかもしれない――服に毛がついてしまうからな。

 ベルに店の入り口へ待ってくれるように頼むと、店先の床に香箱座りをした。

 丁度、玄関から日差しが入ってきているのだが、その影に入るように座っている。

 ぱっと見、影と一体化して解らないから置物か何かだと思うだろう。突然動いたら驚く人もいるはずだ。


 森猫に驚き顔の店主は、少々胸が開いた派手な色合いのワンピースに石を繋げたアクセサリーをジャラジャラとつけている。

 派手な服装で商人をアピールしているのだろう。ダリアのアマナを思い出す。


「この糸でローブと服を作ってもらいたい」

 アイテムBOXから蜘蛛の糸をだすと、店主に見せた。


「虫糸ですか? これは見事な……しかし、糸を紡いでからの注文ですと、値段が跳ね上がりますけど」

「構わない。前金を払ってもいいぞ」

「かしこまりました、それでは……」

「この2人だ」

 店内で服を眺めていた、アネモネとプリムラを引っ張ってきて、採寸をしてもらう。


「ミャレーとニャメナはどうだ?」

「森の中を走り回るのに、そんな上等な物は要らないよ」

「そうだにゃ」

 彼女達には、蜘蛛の甲殻で作ったアーマーの方が似合いそうだな。


「色はいかが致しましょう?」

「青!」

 アネモネは自分が着ている青いワンピースに合わせた青をすぐさま選択したようだ。


「それでは、私も青で……」

 プリムラも青で、ブレザーのような上着を注文した。冠婚葬祭、どれでも使えるだろう。


「青の染料は良い物が入ってますよ」

「じゃあ、決まりだな」

 店主の話では、仕上がりには1ヶ月程掛かるようだ。前金に金貨1枚(20万円)払う。完成したら金貨2枚(40万円)だ。

 プリムラの話では、普通の値段の模様。上限は無くて、いくらでも積み増しが出来るという。


「けど、刺繍とかいれたくない?」

「質素の方が飽きがこないですから」

 プリムラはそう言うのだが、刺繍を入れてもらうことにした。デザインを選んで注文する。

 追加で金貨1枚――仕上がりが、さらに1ヶ月延びる。

 まぁ、仕方ない。せっかく高い金を払うんだ、良い物が欲しいじゃないか。


「そうだ、ここに組紐は売ってないか?」

「ございますよ」

「金糸を使った物が欲しい」

 店主にサンプルを見せてもらう。黒い糸と金糸を組み合わせた物がいい感じなので、購入する事にする。

 組紐は計り売りらしい。この組紐はベルのために購入するので、店主に測ってもらう。


「……あ、あの……」

 だが、店主は森猫に近づくのを怖がっている。

 まぁ、チーターとか豹を飼っている奴に、「慣れているから、大丈夫だよ」と言われても近づき難いものがあるだろう。


「アネモネ代わってやってくれ」

「うん!」

 アネモネが店主からメジャーらしき物をもらい、ベルの首周りを測っている。


「あの、金具もございますが……」

「いや、金具は手持ちがあるからな」

「承知いたしました」

 金物は、シャングリ・ラで買ったほうが安いし、クオリティが高い。家に帰ったら首輪を作ってやろうと思う。


 さて、買うものは全て買ったし、家に帰る事にするか~! ――といっても、家自体はアイテムBOXの中に入っているんだけどな。


 皆で、車に乗り込み、アストランティアの街を後にする。

 日が傾く頃――街道を走り川を渡り、家のあった場所へ帰ってきた。

 夕日に染まりつつある鏡のような水面――やっぱり、ここの景色は美しい。


「やっと帰ってきた~!」

 アネモネの言葉と同時に、ベルが窓から飛び出した。早速、パトロールだろう。

 車をアイテムBOXへ収納すると、家を元あった場所に召喚した。

 だが、位置合わせが中々難しい。全く同じ場所でなくても構わないのだが、やはり気になる。

 何回か繰り返し、妥協点を見つけた。


「ケンイチ! あの女のベッドを片付けて!」

 あの女ってのは子爵夫人の事だ。アネモネは夫人の事が嫌いらしい。


「そんなに嫌わなくてもいいじゃないか。友達もいなくて可哀想な人だろ?」

「友達なら私だっていなかったし!」

「君は弟妹がいたじゃないか。あの人は一人っ子らしいし」

 そういえば、貴族で一人っ子は珍しくないか? 普通は子供が多い印象があるが……。


「そうですねぇ、普通はやっぱり子供が多いでしょうか……」

 プリムラの話でも普通は5~6人は子供がいるようだ。

 だが、アネモネの言うとおり、夫人が寝ていたベッドは必要ない。片付ける事にする。

 後のツリーハウスや、崖に登るための足場等は明日で良いだろう。

 

 もう暗くなりそうだ、飯を食おう。


「何を食う?」

「カレー!」「にゃー!」

「またかよ。いいけどさ」

 時間がないので、レトルトにする。

 だが、一手間加える事によって、レトルトもそれなりに美味くなる。

 アイテムBOXに入っていた鳥肉を大鍋に取り出して野菜と一緒に炒める。鳥肉は獣人達が獲ってきてくれた物だ。

 そして炒めながらアネモネの魔法を併用する。


「む~、温め(ウォーム)!」

 これで簡単に火が通る。そして出汁の素を少々。

 そしてレトルトカレーを鍋にあけて再び魔法で加熱すれば完成だ。

 正確には、肉野菜炒めぶっかけカレーだけどな。これでも、レトルトカレー単体よりは数段美味くなる。


「もっと、大量にカレーを作ってアイテムBOXへ入れておけば良いんだが――それでも、あっという間になくなるからな」

「だって、美味しいし!」

「にゃー!」

「食おうぜ!」

「はい」

 ベルの鑑札を取って、焼いた鳥肉と猫缶を開けてやる。ここじゃ、鑑札は必要ない。

 俺とアネモネとプリムラはご飯。ミャレーとニャメナはシャングリ・ラのパンだ。

 アネモネがパンを焼いている暇がなかったからな。


「うみゃー!」

「いつ食ってもウメェぜ! たまんねぇ」

「いろんな種類があるしね」

「何にでも合うしな」

「このご飯という穀物も美味しいですね」

 プリムラもすっかり米派になってしまったようだが、食わず嫌いでも、1度食べれば日本の米が美味いのは解るだろうし。

 ただ、炊きたての匂いは少々苦手のようだ。


「ケンイチ、子爵領の事で、父を頼っても良いですか?」

「ああ、構わんよ。人材を揃えるにも、ダリアの方が楽だろうし」

 ダリアの方がデカいし、人口も多いからな。

 アストランティアでは、コネもあまり無いだろうし。まぁ、ここの商人からの反発も少々あるだろうが、子爵様直々のご指名なら逆らえまい。

 まして、子爵様や役人が商人達の言いなりになっているのをいいことに、好き放題やってきたんだからな。

 ここら辺で、ご退場願おうじゃないか。


 食事も終わったので、風呂を設置する。

 シャングリ・ラから『すのこ』を買って、その上に工事現場の森で使っていたFRP製の白い浴槽を2つ並べるのだ。

 ドラム缶風呂のように入るのに苦労することもないし、皆と一緒に入れるからな。

 水を入れるのは簡単。家の隣に流れている川に沈めて、それをアイテムBOXへ入れればいい。

 そして、すのこの上に浴槽を設置すれば、準備完了だ。ここは近くに川も湖もあるから便利だ。

 やっぱり、住処の近くに水があるってのは基本だな。


「アネモネ頼む」

「む~! 温め(ウォーム)!」

 水はすぐに適温になり、風呂に入れるようになる。料理のように沸騰する温度まで上げる必要はないからな。


「ケンイチ、このお風呂もう1つないの?」

「そうか――3つあれば、皆で一緒に入れるな……よし!」

 同じ浴槽をもう1つ買う。金はあるし余裕だ。すのこも追加で購入して、白い浴槽を3つ並べた。


「しかし、湯船に3つもお湯を沸かして平気か?」

「平気だよ、余裕!」

 皆で素っ裸になって風呂へ入る。獣人達は毛が抜けるので、一緒の湯船だ。

 相変わらず、押し合いへし合い、仲が良いのか悪いのか悪態をつきながら浸かっている。

 アネモネはプリムラと――思ったのだが、俺の湯船に脚をいれてきた。


「プリムラと一緒に入りなさいよ」

「や!」

「アネモネ、何故当然のように、ケンイチと一緒に入るのです。私にだって、ケンイチと一緒に入る権利があるのですよ?」

 バスタオルを巻いたプリムラの抗議を受けて、アネモネは口を尖らせる。


「む~」

 アネモネは素っ裸のまま、外へ出るとプリムラと向き合い――気合をいれて、手の甲を突きだして、サインを出し始めた。

 プリムラもそれに応える。どうやら、この世界のジャンケンらしい。


「「チ・チ・チ!」」

 どうやら勝負がついたらしい。


「今夜は私の勝ちですわね」

 負けたアネモネは、そのまま1人でドブンと湯船に飛び込んだ。入り方が乱暴なので、彼女が不機嫌なのが解る。

 そして勝ったプリムラは、バスタオルを外すと俺の湯船に入ってきて、向かい側に座る。


「大人げないねぇ」

「何をおっしゃいます。あれの日も来たのですから、もう立派な大人です。なれば、大人として扱ってやらないと」

「そうだなぁ」

「ケンイチも、そう思っているから、彼女にパン作りや料理を任せ始めたのでしょう?」

「まぁな……」

 彼女はそう言うと、身体をクルリと回し、俺に背中をくっつけてきた。

 俺も彼女を抱きかかえるように手を回す。


「あ~! プリムラ、くっつきすぎ!」

「今日は私が勝ったのですから、私の好きにします」

「む~!」

 アネモネが湯船から出ると、俺の背中に強引に割り込もうとしてくる。


「ちょっとアネモネ、3人は無理だから止めなさい。お湯が溢れるだろ」

 俺にたしなめられたアネモネは、黙って自分の湯船に戻った。


「そんなに胸が触りたいなら、私の胸を触ればいいのに……」

 なにやら、アネモネがブツブツ言っているが、あえて無視する。


「……しかし、この開放感はやっぱり良いよな。森の中じゃ周りに人夫達が沢山いたから、こんな格好は無理だったし」

「ウチ等は関係にゃいけどにゃー」

「でも、獣人の男共が沢山覗きに来てただろ?」

「森猫に怒られて、すぐに来なくなったにゃ」

 さすがにスケベな男共も、神様の使いに怒られたら退散するしかない。


 風呂から上がり、皆で家に入る。ニャメナの家は設置してないので、今日も一緒だ。

 そして俺は、テーブルを出して少々工作だ。

 寝る前に、ベルの首輪に使う組紐の加工をする。シャングリ・ラで丁度良い金具を見つけた。

 イヤホンジャックのように、スポッと差し込むとロックされる金具だ。

 組紐の両端に、エポキシ接着剤を塗って金具に固定。


「アネモネ、ちょっとこの金具の所を魔法で乾燥させてくれ」

「む~! 乾燥(ドライ)!」

 魔法が終わった後、強く引っ張ってみても紐は抜けてこない。

 完成だ。


 全く、魔法ってのは便利だぜ。

 

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