67話 役に立たない連中に困り果てる
背の高い大木が並ぶ暗い森の中、巨大な黄色い重機が黒い煙を吐き出しながら、丸太を転がし木の根っこを掘り出している。
ガタガタとシートに伝わる振動、巧みなレバー捌き。
「俺もすっかりとベテランだな。元世界に帰ったら、免許の実技は満点かもな」
だが、全て我流。実家が農家で重機を運転してた奴は、変な癖がついているので一発でバレるというし。
「「「おおお~っ!」」」「すげぇぇ!」「こんなの掘り出すにゃ数十人がかりで半日は掛かるぜ」
外から、そんな声も聞こえてくるのだが、たとえ数百人の人夫がいても、このコ○ツさんが無かったら間に合う仕事だったのか?
工事が遅れたらどうなるのか? その点を少々夫人に聞いてみた。
メンツが潰れて、王都で肩身の狭い思いをするのは当然なのだが、予算が削られたり統治能力を疑われて領地を没収される事もあると言う。
そうなれば、他の領地に吸収合併されるか、別の貴族がやって来て統治する事になる。
ユーパトリウム子爵は無役の有象無象の貴族に成り下がるわけだ。貴族の領地は代々受け継がれているものだから、空きが少ない。
子爵様が突然王都へ呼び出されたりしている話を聞くと――そこで無理やり空きを作って、誰かが子爵領を乗っ取ろうと企んでいるのかもしれない。
なるほど、確かに子爵様の危機だが、その割には――やはり危機感に欠けているような気がしてならない。
コ○ツさんで大木の根っこを掘り起こしたら、次はアイテムBOXの出番だ。
根っこをアイテムBOXへ入れて、離れた場所へ出す。力も労働力も、全く必要ない。
切り倒した木はそのまま転がして放置だ。ここに運搬用の馬車を入れるためには道路を整備しないとダメだし、ここから100km運んでも元が取れない。
10mにカットすれば、アイテムBOXに入るが……運んでくれとも言われないので、黙っている。
余計な仕事が増えるからな。
「こいつがアイテムBOXか」「滅茶苦茶便利だな」「でも、持っている奴が滅多にいないって話だ」
人夫達のひそひそ話を聞きながら、再び重機の座席へ戻り――水路を掘っていく地道な作業。
そして今度は、水路上に巨大な岩だ。
少々試してみたが、このままではアイテムBOXへ入れる事が不可能らしい。どうやら土と一体と認識されているようだ。
油圧ブレーカで砕く手もあるが――アタッチメントの交換の手間を考えると、周りを掘り出して土から分離させた方が簡単だと思われる。
頭が土の上に出ているが、本体は地面の中に埋まっている模様。岩の本体より地面の下を掘り返して、ゴロリと転がせばいい。
コ○ツさんなら地面の下も9mぐらいは掘れるので、余裕だろう。
――とはいえ、海を漂っている氷山のように、9m以上の巨大な本体が隠れていたらアウトだが。
だが、4m程掘ったところで、岩の下が見えてきた。さらにその下を掘り返す。
「お~い! そっちから押せないか?」
「解りやした!」
人夫達が数十人集まると、巨大な岩に丸太を差し込み、テコの原理で動かし始めた。
俺も重機のバケットの爪を岩に引っ掛けて少々アシストする。
しばらくの格闘の末、苔むした岩は地面から引き剥がされて、コ○ツさんが掘った穴へ落ち込んだ。
「この鉄の爪はすげぇな!」「どのぐらいの深さまで掘れるんだ?」「俺達なら、迂回するしかなかったな」
ああ、そうか迂回すりゃよかったか。
だが、真っ直ぐにしないと、水の流れで水路が削られて蛇行が酷くなってしまう。
掘り起こせないぐらい大きな岩なら、上を削るしかなかったな。
しかし、こんな巨大な岩がどこからやって来たんだ? 崖から転がってきたのか?
かなり苔だらけだったので、かなり前から埋まっていたと思われるが……。
アイテムBOXへ岩を入れて、水路から離れた所へ転がした。
「「「おおお~っ!」」」
アイテムBOXを使う度に、人夫達に受けているのだが――まぁ、最初だけ物珍しさで騒いでるだけだろう。
外に出さないで、ゴミ箱へそのまま入れてもいいのだが、あれの存在は家族の皆にも秘匿しているからな。
再び、コ○ツさんへ乗り込もうとすると、夫人が現場監督を連れてやって来た。
彼女は、俺がプレゼントした紺のワンピースを着たままだ。ドレスでは動きづらいのだろう。
2人の話を聞くと斧の数が足りないと言う。商人から購入しようとしたのだが、かなりふっかけられたようだ。
そりゃ、慌てて購入しようとすれば、足元を見られるのに決まっている。やむを得ず、追加で斧10挺と砥石を10個程渡す。
その後は、順調に森の腐葉土を掘り起こし、森の中へ200m程進んだ。
一日200mなら25日で5km――なんとかなりそうだな。今日みたいな岩がなければ200m以上掘れるだろう。
暗くなってきたので、ベースキャンプへ戻る。
家では、すでにスープが出来上がっていた。作業の休みの合間を縫って、脚の速い獣人達が、スープの素になる獲物を持ち込んでいたようだ。
「獣も皆で捌いたのか?」
「ああ、素材としての売り物じゃないんだ、それならなんとかなる。内臓を傷つけなければいいんだからな」
「にゃ」
アネモネが、焼きたてのパンを差し出してきた。一口頬張る。
「美味い! アネモネも解体を手伝ったのか?」
「うん! 内臓を捨てる場所がないので、魔法で乾燥させてから燃やした。スープを作る時の燃料にも使っているよ」
そうか――水分がなくなれば脂身も多いから、よく燃えるかもしれない。
皆の協力がないと、とてもじゃないが、こんな仕事は出来ないな。
完成しているスープは、人夫達に振る舞われるが、当然、俺達の食事にもなる。
子爵夫人も一緒に、プリムラ達を手伝っているのだが、見慣れない女性が複数人いる。
「彼女達は?」
「ああ、これは私のメイド達だ。やっと私の馬車が到着したのでな」
「まさか、カナン様がこのような事をしているとは思ってもみませんでした」
「私達が不甲斐ないばかりに、カナン様に……」
紺色のメイド服と白い前掛けをしたメイドさん達が、夫人にペコペコと頭を下げているのだが。
「其方達、勘違いするなよ。私は好きでやっているのだ」
そう断言する夫人の顔は明るい。それと対照的に、ちょっと離れた場所で、憤懣やるかたない顔をしているのは、夫人の護衛をしている若い騎士達だ。
彼女がこういう下賎な仕事をしているのが、我慢出来ないらしい。まぁ、俺が無理やりやらせているとでも思っているんだろう。
最初俺達の所へやって来た時に同行していた女性の魔導師は、付いてきていない。
何もない僻地で1ヶ月もの苦行のため、固辞されたようだ。
料理は全てプリムラ達が用意してくれたので、俺の出番は全くない。
焼き肉もあるので、最後にシャングリ・ラで買った焼き肉のタレを付けて食う事にした。
白い飯を食いたいところだが、せっかくアネモネが美味いパンを焼いてくれたからな。
皆で焼き肉のタレをつけたり、塩胡椒で食べているのだが、醤油系が苦手だった獣人達も最近は少しずつタレに慣れてきたようだ。
市販のタレは、香辛料やニンニクなどが入っているから、ベースになっている醤油の臭いが気にならないのかもな。
「ん~! 今日の料理も美味いの! 何の肉だかは解らぬが。このソースも美味いの」
夫人は笑っているのだが、恐らく大ネズミとか大トカゲみたいな生き物だと思う。
この世界では普通に食われている素材なので、何の問題もない。
だが、夫人の後ろでは、メイドさん達があたふたしている。
主人が何かヤバい物を食わされていると思っているのかもしれない――そんなわけないだろ。
「それに、料理には香辛料がタップリと使われているではないか? ケンイチ殿が持っているのか?」
「ええ、街では売れませんから、個人的に使っているわけです」
「なるほどのう……ソースも美味いが、塩と香辛料の組み合わせも単純だが実に美味い。それに今日のスープは少々辛いが、それもまた食欲をそそるのう」
「それでは――カナン様の家臣の方々がおいでになったという事は、今日からそちらでお休みになるということでよろしいですね」
それを聞いた、夫人の動きがピタリと止まった。
「私が邪魔だから、追い出すのか?」
彼女が俺の顔を覗き込んでくる。
「そんな事はございませんが」
「ならば、厄介になるとしよう」
「カナン様がそう仰るのであれば、しかし……」
「それとも――夫婦と愛人共との営みのために、私が邪魔だと申すのか? それなれば問題はないぞ。私も一緒に混ぜればいい」
俺と彼女の会話を、プリムラ達がじ~っと見ている。
「ははは、カナン様は冗談がお好きなようで」
「乗りが悪くてつまらんのう……」
天真爛漫な性格は魅力的、これが貴族っぽさかもしれないが――かのフランス王妃、マリー・アントワネットは、革命が起きてパリから脱出する際に豪華な馬車や家具や食器、ワインの樽まで積み、ノロノロ逃避行で逃げそこなったって話だからな。
飯を食い終わったが、水が少ないために入浴は3日に1度ぐらいになってしまう。
入らない日は、身体を拭いて終了――これはしょうがないな。
しかし、近くに水場が無いために、人夫達は1ヶ月も風呂に入らない。水をもらい身体を拭く程度――汗をかく力仕事をしているのにだ。
人夫の中には綺麗好きな獣人達もいる、彼等は汚れているようにも見えないし、身体の洗浄はどうしているのだろう。
カップに、いつもの焼酎を一杯注ぐと――焚き火の前で横になっている身綺麗な獣人へ話を聞いてみた。
「この酒をもらっていいんで?」
白黒斑の彼は身体を起こすと、両手で酒を受け取った。
「ああ、獣人は綺麗好きだろ? こんな場所でどうやって身体を綺麗にしているのかと思ってな」
「へへ……おお! うめぇ! 強いけど、こりゃ美味い酒だ」
「隣の領にあるカズラ湖まで走っているのか?」
「最初は、毎日行ってたんでやんすが、森の中で泉を見つけましてね」
彼の話では2km程、森の中へ入った所に泉があると言う。
木々の切れ目に大きな凹みがあり、そこに水が溜まっているらしい。地下水が湧き出ているのか?
それなら、コ○ツさんで大穴を掘れば、水の確保は出来そうだが……。
「綺麗な水か?」
「ええ、もちろんでさぁ」
隣の領にある湖までは片道20km以上あるというからな。獣人の脚なら2kmは大したことはないだろうが、普通の人間じゃちょっと大変だ。
近くに綺麗な泉があるのならコ○ツさんを動かすより、水の確保を獣人に頼んだ方が得策だ。
「お~い、獣人達、ちょっと酒代を稼がないか?」
横になっていた、獣人達がむくりむくりと身体を起こして、こちらを見つめている。
俺はアイテムBOXから、20L入る白いポリタンクを取り出した。
「この容器に水を持ってきたら、酒をカップに一杯やる。この男が今飲んでいるが、美味いぞ」
「おう! 強くて、マジで美味い酒だぞ」
獣人達が、俺の周りに集まってきた。
「その容れ物の数はいくらあるんでやす?」
さて、風呂一つで120Lぐらいか……2つで240L。20Lのポリタンクが20個あれば、色々と水を使っても足りるか。
「20個あるから、20人に酒をやる」
シャングリ・ラから、ポリタンクを20個購入すると、ガラガラと黒い空から白いプラ容器が降ってきた。
「よっしゃ!」「俺によこせ!」「バカ俺だ!」「こっちは5日ぐらい飲んでねぇんだぞ」「んなことしるかボケ」
食事にワインは支給されるが、彼等にとって水みたいな物だ。
商人が売っている酒やツマミは高い。某漫画に出てくるペ○カが使える地下王国のように……。
おまけに、ここには移動娼館まで揃っている。金が出ていくばかりだ。
獣人達はジャンケンらしき物で、ポリタンクの取り合いを決めると、暗い森の中へ消えていく。
彼等の脚と夜目があれば、水を汲んで戻ってくるぐらいは容易いだろう。
多分、すぐに戻ってくると思うから、カップを20個と酒を用意しないとな。
俺が酒を用意している10分ぐらいで、次々と獣人達がポリタンクを持って帰ってきた。
「よっしゃ、順番に並んでくれ」
ポリタンクと引き換えに、カップに入った焼酎を獣人達に渡す。
「うひゃ! こりゃ、うめぇ!」「強い酒だな!」「こいつはいいぜ」
この焼酎はダリアの連中にも好評だったからな。この世界に蒸留酒は無いようなのだが――。
俺の買った液体を分ける魔道具を使えば、アルコール濃度は上げる事は出来るから、どこかに強い酒は存在しているかもしれない。
とりあえずこれで水に困る事はなさそうだ。食器を洗ったりも出来るしな。
蓋を開けて中身を確認してみたが、澄んでいる水だ。沸かせば料理にも使えるだろう。
「上手く人を使うのぅ」
「私など、大した事はございません。妻のプリムラはもっと人使いが上手いですよ」
「ほう……」
俺が上手いというよりは、ここの役人達が役に立たなすぎだ。
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それから10日、森の中へ2.5km程進んだ所で作業中。
ベースキャンプも森の中へ入り、皆が森の中で寝泊まりしている。
人夫達も作業が終わった後で疲れているのに、森の外までテクテクと40分程歩くのは面倒なのだろう。
今のところ危険はないようだが、交代で見張りを立てている。
戦いは数だからな――こちらには人夫が100人以上いるので、魔物も襲ってはこないという判断なのだが。
それに近くに街道も走っているし、そんなに危険は無いという話ではある。
それでも商人達や移動娼館は仕事が終わると、さっさと森の外へ退避してしまう。
俺がアイテムBOXからトラックを出して、ピストン輸送してやれば移動も可能だろうが、そんな事をしてやる義理もない。
獣人達は俺から容れ物を借りて、他の人夫達にも泉で汲んできた水を売り始めた。ちょっとしたバイト代だな。
人夫達も、少々小奇麗にしないと、皮膚病や感染症の危険性が高まる。
こんな場所で、皆で固まって生活しているんだ、集団感染もあり得るからな。そんな事になれば、ますます作業が遅れる。
街から離れた僻地で作業をしているというのに、現場を管理している役人達は全くそういう対策を練っていない。
これじゃ、作業が捗らないわけだ。
子爵夫人は自分の馬車があるのに、俺達と一緒に寝泊まりを繰り返しているのだが――全く、何が楽しいやら……。
「楽しいに決まっているではないか! 美味い料理に美味いワイン、そして聞いたこともない国の興味深い話。其方は本当に賢者だの」
「カナン様、もう勘弁して下さいよ。いつまでお遊び感覚なんですか。それに、カナン様が連れてきた役人達が、全く役に立たなくて、殆どの業務をプリムラが代行しているんですよ」
そう、全く役に立たない役人達は商人達の言いなり、そしてボッタされまくりで全く機能しておらず、見かねたプリムラが代行し始めたのだ。
歳は若いが子供の頃からの英才教育を受けた、ベテラン商人のプリムラが入って、状況が一変した。
誤魔化しも利かなくなり、商人達が不平不満を言うのであれば、俺がシャングリ・ラからの物資を回せばいいのである。
買い込んだ物資が全く売れないとなると、彼等も大赤字になってしまう。渋々値段を下げて適正価格で売り始め、俺達の話も聞くようになった。
「帳簿までプリムラがつけているんですよ!」
見かねて――シャングリ・ラから、『そろばん』を買ってあげたのだが、彼女はすぐにそれを使いこなした。
勿論、電卓もあるのだが、アラビア数字を覚えないとダメだし、この世界にはオーバーテクノロジーすぎる。
夫人の話では、そろばんに似た計算機が帝国から入ってきているらしい。
「あの、ケンイチ。私、帳簿付け好きですし……」
「そういう事を言ってるんじゃない」
「ごめんなさい……」
プリムラの言葉に俺はハッとなった。別に彼女が悪いわけではない。
「いや、済まない。プリムラが悪いわけじゃないんだよ。全部、子爵領の役立たず共のせいなんだから」
彼女が役人の代行をして手が一杯になってしまったので、料理の手伝いは夫人のメイドさん達がやっている。
あれこれ煩い彼女達だが、能力はあるようだ。
「いや、それについては申し訳ないと思っている」
夫人が珍しくしょんぼりとしているのだが。
「本気でそう思っているのであれば、身分などに関係なく、もう少しまともな人材を確保した方がよろしいですよ」
「……」
その話を後ろで聞いていた、いつもの若い騎士が食って掛かってきた。
「貴様~! カナン様に向かって」
もう、うんざりだ。俺はアイテムBOXから爆竹を取り出すと、火を点けて騎士へ向けて投げつけた。
それが何か知っている俺の家族は、一斉に耳を閉じた。すでに暗くなっている森の中に、閃光と爆裂音が響く。
突然の出来事に、人夫達はその場を逃げ出し、若い騎士は剣を放り投げて尻もちをついた。
これは、恥ずかしい――騎士が剣を手から離してしまっては戦意喪失であり、最も不名誉な事。
冒険者は剣を投げたりするが、騎士は投げないというからな。
俺は、アイテムBOXからカットラス刀を取り出すと――それを突きつけられた騎士は、両膝を突いてうなだれた。
「くっ、殺せ」
くっころ、キター! でも、男かよ! くっころは女騎士だろ。男のくっころとか誰得なんだよ。
「それじゃ、俺の言うことは何でも聞くって事だな」
「……」
黙っているということは、その通りなんだろう。だって、殺されてもいいって事なんだからな。
「それじゃ、俺のやる事に口を出すな。何もするな」
戦意を喪失したもう一人の騎士と、煩いメイド達、そして役人達にも約束を徹底させる。
もう本当に、働き者の無能ほど恐ろしいものはない。
例えば、5日で終わる仕事があるとする。やり方を工夫して皆で頑張れば3日で終わるのに、それが1週間~10日と、いくらでも無駄に増えていくのだ。
ダリアではかなり優秀な人々が多かったので、あれがこの世界のデフォルトかと思っていたのだが、そうではないらしい。
あの領は、かなりまともな部類で、プリムラもアスクレピオス伯爵を高く評価していたので、そういう事なのだろう。
そりゃ、クロトンみたいな役人が蔓延るわけだ。
アイテムBOXに刀を収納すると、鼻息を荒くした夫人が、いきなり俺に抱きついてきた。
「ケンイチ殿! 其方の強く逞しいたぎる物で、私を貫くのだ! ハァハァ」
「どこが、なんでそうなるんだ!」
夫人を引き離そうとするのだが、意外としつこい。
「あ~やっぱり、こうなるよな」
「思った通りにゃ」
「む~!」
獣人達が呆れているのだが、アネモネは俺を睨んでいる。
「解りました! そんなに仰るのなら、相手になって差し上げましょう! もうたっぷりとな」
「あ……」
プリムラは俺の言っている事を理解したようだ。
そんなにやりたいなら、たっぷりやってやろうじゃないの。
その晩、漆黒の森の中、家から離れた所に出した小屋の中から、夫人の叫び声が終夜続いた。





