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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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57話 天然物


 指輪に刻まれた宝の隠し場所らしき、文面を発見した。

 それに従い、アストランティアの街が見渡せる崖の上で、宝探しを行うと――あっさりと、それは見つかった。

 フクロウ型の像の下から出てきたのは、金貨と銀貨が詰まった袋と、爆裂魔法エクスプロージョンの魔導書。

 この指輪は、クロトン夫妻へ貸した金のかたとして預かっているものだが、十分にその元は取ったようだ。


 昼飯を食うために、崖に設置した足場を降りる。


「にゃ~!」

 崖の上の森をパトロールしていた、ベルが一緒に降りてきた。上の森は彼女だけの森だからな。探検し放題だろう。


「ミャレー、クロトンに貸した金は、今日だけで回収出来たぞ」

「こんなの、たまたま上手くいっただけにゃ」

 彼女は、儲からない人助けにはあくまで否定的なようだ。世知辛いねぇ――こういう世界で生きていたら、仕方ないのかもしれないが。


 家に到着したら、パンと牛乳で簡単に食事を取る。

 そして、ちょっと作ってみたいデザートがあるのだ。蜘蛛の卵で茶碗蒸しを作ったが、これでプリンは作れないだろうか?

 具を入れないで、出汁の代わりに牛乳を使い――砂糖を多めにして蒸せば、ゼラチン等を入れなくてもプリンになると思うのだが……。


「まぁ、何事もチャレンジだ。やってみるか」

 ボウルに入れた普通の卵に牛乳を注ぎ、砂糖を多めに入れる。ミャレーにも食べさせたいので、普通の卵だ。

 牛乳は少なめにした、多くすると多分固まらないだろう。


 そして、アイテムBOXから蒸し器を出して、カセットコンロの火に掛ける。

 茶碗蒸しと同じように、上に刺した松の葉っぱが茶色になれば蒸し上がりだ。蒸しすぎると、スが入ってしまう。


「この前の美味しい料理と、ちょっと違うね!」

「これは、お菓子だよ。初めて作ったんだが、出来たら冷やして食べてみよう」

「うん!」

 お菓子と聞いてアネモネが嬉しいのか、コンロが載ってるテーブルの周りでクルクルと回っている。

 彼女と手をつないで、ミャレーも一緒に踊りだした。2人は本当に仲がいい。その2人の周りを、ベルもクルクルと回り始めた。

 とりあえず動いているものがあると、反応してしまうらしい。


 プリンが蒸しあがったので、滝から流れる流水に浸ける。これで、すぐ熱が取れるだろう。

 ――30分後。冷えたので、早速試食してみる事に。


「甘くてプルプルで美味しいよ!」

「美味いにゃ! 卵の香りがするにゃ」

「う~ん、これだと――甘い茶碗蒸しか、ゆで卵みたいな……」

 この匂いを消して、お菓子らしい香りにするとなると…………バニラエッセンスか。

 シャングリ・ラからバニラエッセンスを購入して、再び作り始めたプリンへ投入する。

 今度は本番なので、俺とアネモネ用には、蜘蛛の卵を使った。


「それなんにゃ?! 凄く良い匂いがするにゃ」

 臭いに敏感なミャレーが反応した。


「本当! とても甘そうな匂い!」

「香料だよ。凄くいい匂いだけど、これ自体は不味いからな」

 アネモネの手の甲にバニラエッセンスを垂らしてやった、その匂いをクンカクンカしている。

 再び、プリンを蒸し器に入れて、蒸しあがったら水に浸けて冷ます――完成だ。

 これは、夕飯のデザートにしよう。


「魔法の実験は明日にしようか。明日なら皆が揃っているだろうし……」

「解った」

 アネモネは、すぐにでも試したいようだが、爆裂魔法エクスプロージョンとなると簡単には試せない。広い場所が必要だろうしな。

 ここで、そんな場所といえば――湖か。

 それに、ニャメナが留守なところで、あれこれやったりすると、彼女がへそを曲げそうだ。


 夕方になり、日が傾き始めたので、プリムラとニャメナを街へ迎えに行く事にした。

 だが街道に到着した俺を待ち受けていたのは――。


「モー!」

 俺の目の前にいるのは、焦げ茶色で小さく長い脚をした子牛――だろう。多分、牛だと思う。だって、「モー」って鳴いているしな。

 プリムラとニャメナが、子牛を連れていたのだ。


「プリムラが買いたかったのは、これだったのか?」

「そうです」

「家で飼うのか? しかし、こいつは、まだ乳離れしていないと思うんだが……」

「その通りです。だって、このくらいの子牛じゃないと、役に立たないのでしょ?」

「……まさか。子牛の胃袋を使って、チーズが本当に出来るかどうか、調べるつもりか?」

「はい、この目で見るまでは信じられませんので」

 なんということだ、本当に子牛の胃袋に含まれるレンネットを使って、チーズが作れるかどうか確認するために、子牛を買ってきたようだ。


「何故、確かめようと?」

「それが本当なら、貴族相手の取引材料として、有効だと思ったからです」

 なるほど。チーズの作成法は秘匿されているらしいから――それを取引材料にして、彼女の店への嫌がらせを止めさせるように交渉をするつもりか。

 いくら相手が悪徳商人でも、領主の命令を無視するわけにはいくまい。


「ダメでしょうか?」

 彼女が、じっと俺の顔を見てくるのだが……。

 まぁ、元世界の知識とはいえ俺の専売特許というわけでもない。重機を使ってバイオレンスモードに突入するよりは、スマートな取引といえるだろう。


「いや、構わんよ。無頼相手に大立ち回りするよりはいいだろう」

「俺としては、そっちの方がいいんだけどなぁ」

 ニャメナは不満そうなのだが、派手に暴れてしまうと、この街からも逃げないといけなくなるだろ。


「しかし、プリムラ。俺のアイテムBOXは、生き物は入らないぞ」

「なんだ旦那。そんな事か」

 ニャメナは街道から外れて、森の中へ子牛を連れていくと、ナイフを取り出した。


「ちょっと……」

 俺が声を掛けるより先に、ニャメナは何の躊躇もなく子牛にナイフを突き立てた。

 それは一瞬の手練の技で、子牛は小さな唸り声を上げてその場に崩れ落ちた。


「こ、殺してよかったのか?」

「はい、どうせ胃袋を取り出すのですから」

 プリムラも実に淡々としている。見たこともない巨大な大蜘蛛には青くなった彼女であったが、買い付けの旅に出たりすると、狩りで仕留めた動物を食べる事も多いらしいから、こういうのは慣れっこなのだろう。

 さすが容赦ない世界だ。だが市場で売っている肉も、シャングリ・ラで売っている肉も、皆こうやって処理されているのだ。

 かくいう俺も、四脚は捌いた事はないが、夜店で買ってきたカラーひよこがあっという間にデカくなってしまい、コケコッコーと煩いので、絞めて鶏鍋にしたことはあった。

 あの時は知らなかったが、カラーひよこって全部オスなんだよな。

 

 たった今まで、子牛だった物をアイテムBOXへ入れる――複雑な思いが交差するが、魔物を仕留めてアイテムBOXへ入れるのと同じ事だ。

 

「――そうか」

 子牛をアイテムBOXへ入れると、ある事を思いついた。


「旦那、どうしたんだい?」

「いや、なんでもない」

 これはちょっと、彼女達にも話せないな――死体をアイテムBOXへ入れて、そいつをステータス画面のゴミ箱へ投入すれば、消えて無くなるのだ。

 つまり死体も残らない……恐ろしすぎる。血糊等を残さなければ完全犯罪も可能。

 密輸もし放題だし、こいつを悪用しようとすれば、なんでも出来るな。勿論もちろん、そんな事をするつもりもないが。


 プリムラをオフロードバイクの後ろに乗せて、家まで帰ってきた。


「プリムラの店の従業員達の様子はどうだ?」

「皆、おとなしくしていますよ。さすがに今のところは手の打ちようがないですからね」

「ええと、あの子――アイリスだっけ? 彼女の親は役人だと聞いたが、そのつては使えないのかい?」

「稼ぎが途絶えたアイリスの親が、役人の上層部を使おうとしたのですが、多額の袖の下を要求されたようで……」

「はぁ、順調に腐っているなぁ」

「全くだね……それはそうと、旦那。崖の上でお宝は出たのかい?」

 ニャメナが、頭の後ろで手を組み、俺達の後をついてくる。


「ああ、金貨と銀貨、それと魔導書が一冊だ」

「そりゃ、結構大当たりじゃないか」

「まぁな」

 耳のいいミャレーが、俺のバイクの音に気がついたのだろう。家からアネモネと一緒に出てきた。


「プリムラ、今日はもう暗い。チーズの検証は明日でいいか?」

「もちろんです」

「ケンイチ~!」

 アネモネが、俺に抱きついてきた。


「よう、クロ助。今日の宝探しは当たりだったんだってな」

「まぁまぁにゃ。でも、動く骨とかが出てきたにゃ」

「本当かよ! 結構面倒な事になったな」

「でも、ケンイチの召喚獣で叩き潰したにゃ」

「ははは、確かに――あの鋼鉄の腕で潰されちゃ、動く骨も手も足も出ないだろ。それで分前はちゃんと貰ったのかい?」

「うにゃ? 貰ってないにゃ」

「旦那~?」

 ニャメナが横目で俺を、じと~っと見ている。


「分前を渡そうとしたが、彼女が要らないって言ったんだぞ」

「そんなのは要らないにゃ」

「あっ! そういえば、こいつは金持ちだった! くそ~っ、余裕かましやがって」

 彼女は、ミャレーが俺と組んでシャガの一味を討伐した詳細を聞いたようだ。


「にゃはは」

 ニャメナが、ミャレーの余裕顔を見て地団駄を踏んでいる。


「旦那におんぶに抱っこしてもらってただけじゃねぇか。今日だってそうだろ? タダの運だろ?」

「運も実力の内にゃ」

 ミャレーは俺の所で飯が食えるので、多少の分前は要らないって事なんだろうが。

 実際、ギルドから貰った報奨金には全く手を付けていないらしいからな。

 嫌味や挑発にも乗ってこないミャレーに、ニャメナは悔しそうだ。


「ちくしょう!」

「そう、腐るな。そのうち、ニャメナにもいい儲け話が回ってくるよ」

「俺も、いずれはあやかりたいね」

「でも、ニャメナ――今日の街では随分と男性にモテていたようでしたが……」

 プリムラが、街での出来事を教えてくれた。


「へぇ、本当か?」

「おう! 旦那聞いてくれよ! ここで風呂に入って、小奇麗に毛並みがちょっと良くなったら、男共が寄ってきやがってよ! 以前は、見向きもしなかったくせに」

 一度、毛皮にもリンスを使った事があったのだが、殊の外効き目があったようだ。


「それでも、モテれば嬉しいんじゃないのか」

「てやんでぇ! ふざけやがって!」

 不機嫌ではあるのだが、モテた事実には違いはないので、彼女もまんざらでもなさそう。


 辺りが暗くなってきて紫色に包まれる中、家の外にテーブルを出して食事の準備をする。

 今日は、皆のリクエストに応えて、シチューにした。ベルにも猫缶を開ける。

 そして食事が終わった後――昼に作った牛乳プリンを食べてみる事に。


「おほっ! 甘い! それに、この香りは……」

「プルプルにゃ~! それに、昼に食べたのより、香りがいいにゃ」

「ん~、お昼のより美味しく感じるのは、やっぱり香りのせい?」

 アネモネは昼に食べた香料なしのバージョンと、頭の中で味比べをしている模様。


「確かに、チャワンムシは料理でしたが、これはお菓子です。しかも、まるで貴族が食べる逸品のように上品な……」

「まぁ、確かに貴族には受けそうだな。牛乳と卵があれば作れるから、これを売り込むのもいいかもしれないぞ」

「ケンイチ、これは何というお菓子ですか?」

「プリンだよ」

「プリン……」

 プリムラは、茶碗に入ったプリンをじっと見つめている。しかし、プリンなら透明な器に入れて、底にカラメルも入れた方がいいだろうか?

 個人的には、カラメルが好きではないので、入れたくはないのだが……。


「いえ、先ずはチーズの製法を売り込む事にしましょう」

「しかし、子牛を1頭犠牲にして、作れなかったら大赤字だな。子牛はどのくらいの値段なんだ?」

 プリムラの話だと10万円ぐらいの値段らしい。そして成牛になると100万円ぐらいのようだ。

 一財産だが相手は生き物だ。病気になったり怪我をしたり、何があるか解らん。

 特にこの世界は獣医がいないようなので、家畜を失う事も多いだろう。


「旦那~この甘い香りは、なんなんだい?」

「にゃ~、ウチも気になるにゃ」

「これは、お菓子用の香料だよ」

「どうやって作るのかは、知らないんですか?」

 プリムラは香料の製法が気になるようだ。


「え~? 花の種から作るって聞いたが、詳しい事は解らないな」

「そうですか……」

 これも、商売のネタにしようとしたのかな? そりゃ、俺が持っている物は殆どが商売に使えるとは思うが。

 茶碗蒸しも好評だったが、このプリンも皆に好評だった。

 牛乳と卵と砂糖だけなので、この世界の材料でも作れるだろうが、砂糖がかなり高価なので、一般には普及しないとは思う。

 貴族用のお菓子だな。


 思いつきで、蒸しプリンを作ってしまったが、シャングリ・ラでデザートの本を購入して読んでみる。

 ふむふむ、ゼラチンが入っていないのは、カスタードプリンらしい。なるほど~これがカスタードプリンかぁ。

 本ではオーブンで焼いているのだが、蒸しても構わんだろ。出来上がりは同じだからな。


 ------◇◇◇------


 ――次の日。

 朝飯を食べた後、天然レンネットを検証するために、子牛を解体する。――といっても、胃袋を取り出すだけだ。


「ギルドで、家畜の解体もしてくれるのか?」

「ああ、やってくれるよ。革などの加工業者でもやってくれるけど、ギルドの方が早いぜ」

 それなら、下手に解体して使えなくするよりは、プロに任せた方が安心だろう。

 ニャメナが子牛の腹を裂き、胃袋を取り出す――殺してすぐにアイテムBOXへ入れたので、まだ体温が残っている。


「牛の胃袋は4つあるんだが、どの胃袋が使えるのかは知らないんだ」

「それでは、試してみましょう」

 ステンレス製のボウルを4つ用意して、それぞれに牛乳を入れる。

 牛の胃袋も4つに解体、それぞれの胃液を採取して、ボウルの中に入っている牛乳へ投入してみた。


「本当に固まるのかよ?」

 どうも、ニャメナは懐疑的のようだ。


「この方法でチーズが作られているのは、本当だぞ」

「あっ! 固まってきたよ!」

 牛乳をかき混ぜていたアネモネが叫んだ。


「本当に、固まるにゃ!」

「マジかよ?!」

使ったのは4つ目の胃袋だ。話には聞いていたが、本当に固まるんだな。これがレンネットのオリジナルなんだから、当たり前っていえば当たり前なんだが。


「どうやら、使えるのは4番目の胃袋みたいだな」

「凄い! 本当に、ケンイチがくれた秘薬と同じです! これを交渉材料に使えれば……」

「チーズの作り方だけで足りないようなら、あのプリンの作り方も、教えてやればいい」

「いいのですか?」

「ああ、召喚獣で暴れるのよりはいいだろう」

 シャングリ・ラから小瓶を購入して、プリムラに渡す。

 すると彼女は、子牛の4番目の胃袋に残っている分泌物を集めて、その小瓶に入れると大事そうに両手で包んでいる。

 天然のレンネットは、子牛を犠牲にしなければならないので、とても貴重だ。


 再び、子牛のかばねをアイテムBOXへ入れる。街へ行った時に、ギルドへ寄って肉にしてもらおう。


 チーズの実験は上手くいったので、今度はアネモネの魔導書の実験だ。

 ここら辺で広い所といえば――湖しかない。皆で湖まで歩き、魔法の見物をする事にした。


「魔導書があれば、どんな魔法も使えるようになるわけでもないんだろ?」

「ええ、魔法は詳しくはありませんが、個人の能力や適性のようなものも絡んできますので」

「そうか――。よっしゃ! アネモネ、ぶちかませ!」

「うん!」

 アネモネが魔導書に目を通すと、詠唱を始めた。


「虚ろな異空へと通じる深淵の縁よ、消え逝く魂から我に力を与えよ――爆裂魔法エクスプロージョン!」

 青い閃光が走ったかと思うと、それは赤い爆炎に姿を変えて大きく膨れ上がった。同時に、激しい爆風と衝撃波が俺達を襲う。

 最後に湖の水面が盛り上がり、岸に津波となって押し寄せた。


「ひゃぁぁ! こいつはすげぇ!」

「にゃにゃにゃ!」

「きゃぁぁ!」

 プリムラの長い金色の髪が、爆風に煽られる。純粋なエネルギーの解放だけなので、礫や破片が飛んでくる事はないようだ。


「おおおっ! 道具屋の爺さんが使ってたのと同じぐらいの威力だな」

 でも、爺さんは魔法の威力を増す、アルミ板を使ってたんだが……。


「はぁはぁはぁ……」

 アネモネは、1発で疲労困憊して肩で息をしている。つらそうだ。


「アネモネ、大丈夫か? また、熱を出すんじゃないのか?」

「すごく疲れたけど……多分、大丈夫」

「そうか。無理はするなよ」

「うん」

 爺さんも、爆裂魔法エクスプロージョンは1日1発が限度だと言っていたからな。

 だが、爆風の後、獣人達が湖を見て騒ぎ始めた。


「おおっ! 魚だ魚! おおお~っ!」

「にゃにゃにゃ!」

 水面で爆発を起こしたので、沢山の魚が浮いているのだ。

 獣人達が湖に走りだしたのを見て、シャングリ・ラでゴムボートを検索する。

 ちょっと大きめの4人乗りの物が、1万8千円で売っている。オールもついているし、これにするか。あまり安い物を買うと、品質が心配だ。

 購入ボタンを押すと、畳まれたゴムボートが落ちてくる――そう、空気を入れなくてはならない。

 アイテムBOXから、発電機とコンプレッサーを取り出す。コンプレッサーは、家を作る時にネイルガン用に購入した高いやつだ。

 ゴムボートに空気を入れるには、アダプタが必要なので、2000円で購入。


「ケンイチ、それは何ですか?」

 プリムラが、潰れてペラペラのゴムボートを覗きこんでいる。


「空気を入れて膨らます、船だよ」

「これが、船?」

 コンプレッサーの電源を入れて、ゴムボートへ空気を送り込むとドンドン膨らみ、それは丸い船と化した。

 1箇所が破れても沈没しないように、空気室が分かれているのだが、それでも2分程で空気の注入が完了した。

 これを手でやったら、時間が掛かる事だろう。


「おおい! この船に乗って、魚を拾え」

 ゴムボートを抱えて、湖の水で毛皮がペショーンとなっている獣人達の下へ向かう。


「旦那、それが船なのかい?」

「そうだが」

「こんな薄皮みたいなので、大丈夫なのかい?」

 ニャメナはゴムボートの耐久性が気になるようだ。


「柔らかいけど結構丈夫だぞ。爪を立てたり、剣で突き刺したりして穴を開けなければ大丈夫だ」

「本当かよ」

 ニャメナは半信半疑だが俺からゴムボートを受け取ると、それを湖に浮かべ、そ~っと乗り込んだ。


「おっ! 大丈夫だぞ! 浮かんでいる! ちゃんとオールも付いているな。クロ助乗れ!」

「偉そうに指図するんじゃないにゃ!」

 ――と言いつつ、ミャレーもゴムボートに乗り込むと、オールで湖の上を漕ぎ始めた。


「おおお! 取れ取れ! 大漁だ!」

「トラ公! そっちにいくにゃ!」

「ばか、こっちにもまだあるんだよ!」

 怒鳴り合いながらも、ゴムボートの中へ次々と魚が引き上げられている。

 そして、大方拾い尽くすと、岸まで戻ってきた。ゴムボートの中には、魚の小山ができている――30匹ぐらいかな?

 結構大物もいるようだが、殆どがマスの仲間だと思われる。前にアネモネと一緒に食べた虹マスもいるようだ。


「マスなら食えるな」

「旦那のアイテムBOXへ入れてくれ」

勿論もちろん、いいが――これだけあるなら、干物を作った方がいいかもしれない」

「おおっ! そりゃいいな。干物なら日持ちもするし、美味いしな」

「にゃー!」

 俺達が、ゴムボートの上に載せられた魚の山を前にして、今後の予定を練っていると――。

 どこからともなく黒い影がやって来て――爪で大物を引っ掛けゴムボートから弾き出すと、口に咥えて疾風のように逃げた。


 ベルなのだが――行動が本当に猫だなぁ……。

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