56話 ちょっとしたお宝探し
ベッドの上で寝転がり、指輪を眺めていたら、お宝の隠し場所らしき暗号を発見した。
これは、宝探しに行くしかないだろう。
――次の日。
朝食の後、プリムラはニャメナに背負われて、予定通りに街へ行く事になった。
「ニャメナ、残念だな。宝探しに行けないで」
「まぁ――俺は、お嬢に雇われている身だからねぇ。お宝を見つけたら見せてくれよな」
「もちろん」
プリムラとニャメナを見送った後、俺とミャレー、そしてアネモネの3人で足場を登って崖の上を目指す。
足場の横には、俺が薔薇輝石を掘り出した大穴が開いている。
「ケンイチ、もうあの穴からは石は出ないの?」
「まだ、あるようだが、これ以上掘るとなると大変だからな。金と労力を掛けて掘っても実りが少ない」
簡単に発破でも掛けられればいいんだが……爆薬か?
そういえば、シャガの討伐をしたときに爺さんが爆裂魔法を使っていたな。
魔法で発破ってのは無理なのだろうか?
色々と試してみたい事はある。
「ウチは計算は苦手にゃ~」
まぁ、計算の苦手な獣人に損益分岐点などは解らないだろう。
そんな彼女は背中に弓を背負っている。速射が出来る小型の弓だ。俺が貸している大型のコンパウンドボウでは威力がありすぎて、鳥を突き抜けてしまう。
丁度、矢が鳥に突き刺さるぐらいの威力なら、矢も回収出来て次に使えるわけだ。
この矢も彼女達の手作りだ。それなりに手間暇と熟練の技が込められているので、使い捨てというわけにはいかないらしい。
損益分岐点などを計算出来ない彼女達でも、無駄が多くなればトータルで損をすると感覚では解っている。
崖の上に広がる草むらを抜けて、森の中へ脚を踏み入れる。
下の森と同じように木々の間は暗く、腐葉土が積重なる地面には下草は生えていないのだが、巨木は見当たらない。
皆、背の低い木ばかりだ。
俺達が仕留めた洞窟蜘蛛がいた空間の上方には穴が開いていた。
もしかして、落とし穴のように腐葉土で隠された穴が潜んでいるかもしれない。棒で突きながら注意して歩く。
「ケンイチは用心深いにゃ」
「そんな事を言ってもな、穴があったら大変だろ。この高さから落ちたら死ぬぞ。お前等、ここに狩りをしにやって来て注意してないのかよ」
「平気だにゃ」
そりゃ、獣人の身体能力なら平気なのかもしれないが……。しばらく、暗い森の中を進むと、再び崖の方へ出る。
ミャレーはいつも来ているので、彼女の案内に従って歩くのだが……獣人は歩くのも速い。
しかし、ここでオフロードバイクを出すわけにもいかないしな。いや、出してもいいんだが……穴が怖いし。
ぶつぶつと独り言を言いながら、崖の縁までやって来た。
ここは、崖が岬のように突き出ており、アストランティアに一番近くて、街を見渡せる場所といえば、ここだろうと思われる。
実際、ここからアストランティアの街が一望出来る。
「よし、ここだろう! ここら辺で、何かを探してくれ」
「何かって何にゃ?」
「解らん。指輪を眼に入れろって書いてあるんだからな、石の像か何かじゃないか?」
「うん、解った!」
俺達は、何かを探し始めたのだが――人間の背丈程の深い草に覆われて全く先が見えない。
「アネモネ、崖の端っこには気をつけてな。それから蛇な」
こんな崖の上なのに、どこからやって来たのか蛇とネズミがいるのだ。
蜘蛛がいた洞窟のような場所から、割れ目が崖の上まで続いていたりするのかも。
だが、俺とアネモネの会話を聞いていたミャレーが飛び上がった。
「蛇にゃ?! どこにゃ?! どこどこにゃ?!」
「まてまて、落ち着け。蛇に気をつけろ――て話だよ」
「ふにゅ~」
ダリアの森にいた時から知っていたのだが、獣人達は蛇が苦手らしい。彼女だけではなく、男達も蛇が苦手だった。
それから、しばらく草を掻き分け掻き分け、何か探しが続く。
「お~い、あったか?」
「無いよ」
「無いにゃ~」
「くそ、草を刈ってみるか……そうすりゃ一目瞭然だろ。お~い! 草を刈る魔道具を使うから、近くに寄るなよ」
「うん!」
「解ったにゃ!」
アイテムBOXから草刈機を出して、エンジンを始動する。念の為に繰り出し式のナイロンカッターにした。
紐をぶん回しして草を刈るわけだ。ここら辺の草は柔らかいので、これでも十分に役に立つ。
バリバリと、けたたましい音を立てながら、一面の草を刈っていく。
この刈り倒した草は肥料に使えるので、アネモネとミャレーに束に纏めさせる。
そして1時間程、草を刈りながらついに見つけた――高さ50㎝の石の像だ。トーテムポールっぽい。
だが、人がモチーフではないな――多分、フクロウのような猛禽類がモデルだと思われる。
「これかにゃ?」
「多分な」
「何が出てくるのかな? わくわく」
「指輪をこいつの目に入れればいいのか。多分、指輪に小さい魔石が入っていて、鍵として反応するのかもしれない」
とりあえず像の目に開いている穴に、指輪を嵌める……すると、像が台座から後ろに動き始めた。
ほう、まるでRPGのお使いイベントだな。
「おおっ! なんか、ハイテクだな。これを使って自動ドアとか作れそう」
「はいてく? 自動どあ? って何?」
「え~と、手を使わずに開く扉だよ」
「あ~、そういうの聞いた事があるにゃ~。魔導師の家とかであるとか、にゃんとか」
やっぱり、あるのか。考える事は皆、一緒だな。
像がズレて開いた黒い穴の中を、アイテムBOXからLEDライトを取り出して照らす。棒で突いたりもしてみた。
罠があったりしたら、大変だからな。
「大丈夫っぽいな」
「ケンイチは心配性だにゃ」
ミャレーの話を聞き流しつつ、黒い穴に恐る恐る手を入れる。中にあるのは――箱?
縦に入っていた、箱らしき物を引っ張りだしたが、出てきたのはやっぱり茶色に塗られた箱だった。
結構重い……。
「この茶色はなんだ?」
ミャレーが臭いを嗅いでいる。
「多分、樹液を乾燥させた物にゃ」
「松脂みたいな物か……」
「にゃ」
多分、土の中に埋めている箱を湿気から守るために、塗られた物と思われる。
アイテムBOXからナイフを取り出して、樹脂をガリガリと剥がしていく。
「だが、結構重いぞ。石じゃなかったら、金貨かもな」
「にゃにゃ!」
喜ぶミャレーと違い、アネモネは興味深そうに箱を見つめている。金貨より他の何かが入っているのを期待している顔だ。
ナイフを蓋の隙間に入れてこじると、蓋が開く。
「さて、何が入っているかな」
「わくわく」「にゃ~!」
「おりゃぁぁ!」
勢い良く蓋をあけると、中に入っていたのは本――と袋に入った何か。袋を持つとずっしりと重いので、こいつは金貨かもしれない。
だが、本は……。
「こりゃ、魔導書か?」
「本当に?」
ページを開くと――色々と文章が書いてあって、最後に呪文が書いてある。
「虚ろな異空へと通じる深淵の縁よ――こりゃ、爆裂魔法だ」
シャガのアジトを襲った時に、砦の門を吹き飛ばした爺さんが、同じ呪文を唱えていた。
魔導書をアネモネに渡すと、彼女は真剣に、その内容に目を通している。
「虚ろな異空へと通じる――」
「わ~! 待て待て! ここじゃなくて、もっと安全な所で魔法は試そうな?」
「解った」
ふう……あぶねぇ。魔法の詠唱に入ってしまうと、トランス状態になるので止められないからな。
本当にぶん殴って止めるしかなくなる。
こんな所でぶっ放して、崖が崩れたりでもしたらヤバい。
一緒に出てきた袋には、金貨と銀貨が入っていた。金貨が10枚、銀貨が12枚だ。これは半日の稼ぎとしては破格だろう。
そして、いつもの通り、ミャレーは分前は要らないと言う。
「本当に要らないのか?」
「要らないにゃ~。もっと面白い仕掛けがある宝箱だったら、良かったのにゃ~」
「面白い仕掛けってどんなのだよ」
「お宝を取ったら、ゴーレムが起動するとか、そういうやつにゃ」
「そっちの方がヤバいだろ!」
だが、像があった場所から、突然青い光が広がる。
「なんだ?」
俺達が一箇所に集まり、辺りを見回していると、土がボコボコと盛り上がり始めた。
土から出てくる白い棒のような物が、徐々に姿を現してくる。
土まみれで、形がよく解らないが――骨? そう、骨が立ち上がり俺達の方へ、よたよたと向かってきたのだ。
「スケルトンってやつか?!」
「動く骨にゃ! これも魔法で動いてるにゃ」
こんな骨だけで、関節も筋肉も怪しいのに、どうやって動いているのか謎なのだが、とにかく動いているし、手には錆びついた剣も握られている。
「む~!」
「待て待て! ここで憤怒の炎とかを使うと、刈った草に引火するぞ!」
「弓も骨には効かないにゃ!」
動きがトロいんだから、逃げりゃいいか? ――そう考えていると、スケルトンが剣を振り下ろしてきた。
「あぶねぇ!」
意外と速い! ミャレーとバイクのスピードなら逃げきれると思うが。
カタカタと不気味に迫り来る骨――いや、こんなのを放置して森の中でウロウロされたら、色々と拙いだろ。
狩りとか薬草採取に支障が出る。そうとなれば、戦うしかねぇ!
「ユ○ボ召喚!」
目の前に現れた鋼鉄の相棒に座ると、エンジンを始動。
スケルトンが手に持っている錆びついた剣でバケットを叩いているのだが、俺はそれに構わずレバーを操作して鋼鉄の爪を振り上げた。
「ユ○ボアタック!」
振り下ろされ地面まで食い込んだバケットが、スケルトンの1体をバラバラに粉砕し、白い破片に変える。
スケルトンは壊し方が半端だと復活してくる印象があるのだが、ここまでバラバラにすれば、その心配もあるまい。
「よっしゃ! 残りも成仏しやがれ!」
続けざまに残りの2体も粉砕し、ユ○ボのカタピラで踏み潰し粉々に――戦いは呆気なく終了した。
「ふう……」
「ケンイチの召喚獣は強すぎるにゃ。普通は動く骨を相手にすると、もっと苦戦するにゃ」
「そうだな――炎は効くのか? 電撃はダメだろ。中途半端に壊すと復活する」
「その通りにゃ。ケンイチは詳しいにゃ」
相手には、恐怖心もないから脅しも通用しないしな。今日は3体だったが、こんなのがゾロゾロと数十体集まってきたら厄介だな。
「けど、爆裂魔法でバラバラに吹き飛ばせば、いいんじゃね」
「こんな近くで爆裂魔法を使ったら、ウチ等まで巻き込まれるにゃ」
そうか……そりゃそうだな。強力な魔法を使うときは、それなりに距離をおかないとダメって事か。
一段落したのだが――ミャレーが石の像を強引に蹴倒した。すると、像の底に穴が空いている。
「何をするんだ?」
「これが動いて、動く骨が襲ってきたって事は、中に魔石が入っているにゃ」
そう言われれば、そうだな。
穴に手を突っ込んだミャレーが、黒いツルツルで拳大の石を中から取り出して、俺に渡してきた。
「おお、本当に魔石だ」
天にかざしてから、ミャレーに返そうとしたのだが、要らないと言う。それじゃ、アイテムBOXへしまっておこう。
おっ、そうだ。この像ももしかして、価値があるかもしれない。アイテムBOXへ突っ込んで、道具屋の婆さんに鑑定してもらおう。
フクロウらしき像をアイテムBOXへ入れる前に、両目に嵌っていた指輪を回収する。
「あぶねぇ、忘れるところだった」
一応、クロトン夫妻の借金の形って事になっているからな。アイテムBOXへいれておかないと。
金貨の収入も大きかったが、当たりは爆裂魔法の魔導書だ。こいつも金貨数十枚の価値があるに違いない。
それに、魔導書の中には金を積んでも買えない物もあるらしいし。
だが、道具屋の婆さんの話だと、魔導書は登録をしなければならないと言っていたな。
まぁ、アネモネが魔法を覚えた後に、アイテムBOXへ入れておけば、バレないだろう……多分。
ミャレーじゃないが、探しものが簡単に見つかってしまったので、まだ昼前だ。
昼飯を食ってから、爆裂魔法の魔法でも試してみるか――それとも、プリムラ達も魔法を見たいかもしれないから、全員が揃ってからにするか。
無事にお宝をゲットして、家に戻ろうとしたのだが――俺は、あることに気がついた。
「ああ! 最初から像をユ○ボでぶち壊すか、地面掘り返せば良かったんじゃね? そうすりゃ、罠も起動しなかったろ」
「まぁ、そうかにゃ。普通はそんな事しにゃいけど」
くわぁ~何故か、ご丁寧にお使いイベントの指示に従ってしまうという――とはいえ、ここに鍵を入れてみろって書いてあれば、壊す前に入れちゃうよな。
しかし、なんのための仕掛けだったのか、あんな物を作れるって事は魔導師だから、何かの遊びのつもりで作ったのか?
ミャレーの話では、こういう仕掛けは結構見かけるらしいが、意図は不明のようである。
元世界でも、宝の地図や暗号をばら撒いて、宝探しをさせた金持ちとかもいるからな。
やっぱり、何かの遊びなのか?





