55話 お宝のヒント?
「おりゃぁぁ!」
鋼鉄製の杭が岩を叩く音が辺りに響く。ガラガラと岩の破片が落下して、土埃ならぬ岩埃を上げる。
相棒のコ○ツさんを、いつもの鋼鉄製のバケットから、油圧ブレーカという杭を打ち込むアタッチメントに交換して、崖の薔薇輝石を掘削している真っ最中。
以前の電動ハンマを使用した作業のように微妙な加減が出来ないので、ただひたすらに強引に崩すといった感じだ。
それでも、パワーが段違いなので、結構大きな結晶を採取する事も出来る。まさしく文明の利器。
ただ、問題もある。こいつの燃料タンクは400L。そして、丸一日稼働させれば、燃料タンクが空になってしまう。
俺の魔道具で植物油を処理してバイオディーゼル燃料を作ったとしても、1時間に6Lしか作れない。
100L作るのに、17時間以上掛かる計算だ。つまり4日魔道具を稼働させて燃料を400L作り、1日で使い切る。
現在、バイオディーゼル燃料に掛かるコストはリッター300円程。400Lの燃料代は12万円だ。
そのぐらいなら、ちょっと大きめの結晶を掘り出せば、元が取れる。
最初は、1本1.5Lで400円の普通のスーパーで売っているようなプラ容器入りの植物油を買っていたのだが、400Lとなると270本近く必要。
さすがに、これじゃイカンという事で、シャングリ・ラを探すと、1斗缶(18L)入のキャノーラ油を見つけた。
それでも400Lとなると、22缶以上が必要だ。とにかく大量に購入しているわけだが個数制限とか売り切れとかは、ないのだろうか?
ある日突然、販売出来ません――とかいわれると詰むな……。
そもそも、重機を使わなきゃいいじゃんって話もあるんだが。
これを1ヶ月間続けて、4000万円近い薔薇輝石を掘り出した。
勿論、黒字である。コ○ツさんの代金も油圧ブレーカの代金も余裕で回収した。
まぁ、コ○ツさんの代金は以前掘り出した水晶で回収しているし、まだアイテムBOXに入ったままの洞窟蜘蛛も金になるだろうから、購入は正解だったな。
バイオレンス目的で使うなら、戦に投入して城壁を破壊したりも出来るだろうが――そういう使い方は勘弁願いたい。
だが、今回の重機運用を踏まえて、機械を動かさない時にも常にバイオディーゼル燃料の生成をして、アイテムBOXへストックしておくべき――という結論に達した。
そうすれば、不意に急な運用に駆られても、困ることはなくなると思われる。
「旦那~、そんなに石を掘ってどうするんだい? どこかに売りにいっている風でもないし……」
俺が重機を降りて一休みしていると、ニャメナが話しかけてきた。懸命に石を採掘している俺を見て、彼女は疑問に思っているようだ。
一緒にプリムラもいるのだが、彼女は何も言わずに黙っている。
根っからの商売人である彼女は、商売が出来なくなって少々元気がない。
可哀想なので何とかしてやりたいのだが――俺のオッサン脳には、いい方法が思い浮かばないのだ。
「これは秘密なんだけど……」
「うん」
「俺の魔法を使ったり、召喚獣を呼び出すのに、石が必要なんだよ」
重機を買ったりするのに金が必要だが、その後にも燃料代が掛かるからな。
「石が? 石を使うのかい?」
「そうだな、石に限らず――価値がある物を対価にして魔法を使っているわけだ」
「よくわからないけど――価値がある物なら、金貨じゃだめなのかい?」
「無論、金貨でもいいんだ。けど、金貨を使うと無くなってしまうんだよ。そうするとどうなるか……」
「……難しい事は解らねぇ……」
腕を組んで頭を捻るニャメナに代わって、プリムラが答えた。
「街の金貨をかき集めて魔法に使ってしまったら、そのまま消えてしまう。そうすると街から金貨が消えてしまいます」
「さすが商人だな。その通りだよ、プリムラ」
「つまり、皆が買い物したり、ギルドの報奨金の受け取りが出来なくなるって事か?」
「まぁ、大量に集めれば、そういう事になる。だが俺が金脈を探しだして、金を掘ってそれを使うなら問題ない」
「しかし、金や銀の鉱山は殆どが国の管轄になっています。無断で採掘を行なったとすれば、罪に問われる可能性が大きいです」
「そうだろうな。国の経済の根本に関わる問題だからな」
だが、この世界で使われない金属等なら問題はない――マンガンとかニッケルとかコバルトとかな。
――とはいえ、そんなに無理をして採掘をする必要もないのだが。
他にも方法は色々ある。例えば、商売で金貨を集めて、その金でアンティーク家具や芸術作品を買って、シャングリ・ラに買い取りさせる――とかな。
掘削作業は終了して、夕飯になった。
「あちあち! 熱くて、こいつはうめぇぇ!」
「熱いにゃ~」
「見てみて、こんなにチーズが伸びるんだよ」
「はふっはふっ。この赤い火のようなソースが……」
日が落ちて、焚き火のオレンジ色の光の中、皆で夕食をとる。
今日のメニューはピザである。プリムラが、チーズの製法をマスターしたのだ。皆で外のテーブルを囲み、ピザに舌鼓を打つ。
ピザの生地とピザソースはシャングリ・ラで購入したもの。冷凍のピザ生地が10枚セット1500円とかで売っているのだ。
そして上に載っている具材は――チーズ、鳥肉、野菜、こちらで揃えた物。
そいつを自作の釜で焼いたものだ。釜はコンクリートブロックと、耐火レンガを使って製作した。
釜の加熱には、アネモネの憤怒の炎を使った。全く魔法ってのは便利だな。
これでピザぐらいは焼けるし、使わない時はアイテムBOXに収納できる。他の料理にも使えるかもしれない。
パンを焼くには少々小さいかな? それに、一からパンを作ろうとすると、手間暇が掛かるからなぁ。
人数分を用意する事を考えると買ったほうが早いのだが、ちょっと挑戦してみたい気持ちはあるのだ。
アネモネにパンの作り方も教えてあげないとダメだしな。
「このレンネットという秘薬さえあればチーズが作れますね」
「この薬は錬金術で合成した物だが、草食動物の子供の胃袋に含まれていると聞いた事があるぞ」
「……えっ!? 本当ですか?」
ピザを食べるプリムラが固まり、驚きの声を上げる。ピザソース塗れの手で抱きつこうとするのを制す。
「草食動物でも子供の頃は母親の乳を飲むだろう? その時に必要らしい。さすがに本物の胃袋で試した事はないけどな」
「ああ、やっぱりケンイチは賢者様です」
プリムラがキラキラとした視線を俺に向けてくるのだが……。
「違うよ! 神様」
アネモネは、俺をどうしても神様にしたいようだ。こんなオッサンの神様がいるかよ。
「賢者でも神様でもないんだがなぁ……」
「けど、旦那。神様の使いの森猫を侍らせているって事は、やっぱり……。あんなデカイ鉄の召喚獣も使えるしさぁ」
「そうにゃ」
「違うっての。ああ、そういう事を人前で言わないようにな。邪教徒だと迫害を受けるかもしれん」
慌てて、アネモネが口を手で塞ぐ。
そういえば、気になる事があったので、獣人達に尋ねてみる事に。
うっかりしていたのだが、猫って玉ねぎを食べさせちゃだめなんじゃなかったっけ? 肉まんには、それが入っていたはずなのだ。
もしかしたら獣人達にも何か問題があるのかな? ――と思ったのだが、今のところは問題はなく、2人共身体の不調等は訴えてはいない。
おそらく、森猫のベルには食べさせちゃ拙いものと思われる。
俺は、シャングリ・ラで買った玉ねぎを一つ取り出した。
「こいつに似た野菜って、見たことがないか?」
ミャレーとニャメナ、そしてアネモネと3人で、匂いをクンカクンカしている。
「こんなに大きいのは見たことがないが、こりゃ玉根じゃね?」
「そうだにゃ。ウチもそう思うにゃ」
「お前等、食べて大丈夫なのか?」
「え? あまり市場に並ばない野菜だけど、食っても大丈夫だけど……」
「うにゃ」
どうも、似たような野菜はあるらしい。まぁ、ノビルやエシャロット、らっきょうもそうだな。そんな感じの野菜なのかな?
「そうか、こいつは森猫には毒になるから、猫人族もそうなのかな? と思ってな」
「ウチ等、猫じゃないにゃ」
「そうだよ、旦那」
「そうだよな、ごめんごめん」
まぁ、考えてみればそうか。猫っぽいから、そう見えるのだが、人なんだよな。
少々悪い事を聞いてしまったが、もし毒になったりすると困るからな。
食事の後、ランタンを点けてベッドに寝転がる。
すでに窓の外は真っ暗、ニャメナは自分の小屋に戻り、部屋の隅にはベルが丸くなっている。
そして、俺の腹の上にはアネモネがうつ伏せになって本を読んでいるのだが――重い。
小柄な彼女だが、ベルより重いかな。恐らく35kg~40kgの間ぐらいはあるのだろうか?
「お腹いっぱいになったか?」
「うん!」
何が楽しいのか――頭を撫でてやると俺の腹の上でゴロゴロしているのだが。
「ちょっと、ミャレー、膝枕してくれ~」
「はいにゃ~!」
ミャレーが俺の頭の所に正座すると、彼女の太腿の間が枕になる。ピッタリ嵌るように収まりがいい。
彼女の太ももは、ふわふわの柔らかい毛で覆われており温かく――最高の枕だ。
俺は、アイテムBOXから指輪を取り出して見ていた。クロトン夫妻から貰った物だが、すっかり忘れていたな。
「それ、マリーのお父さんとお母さんから貰った指輪?」
「そうだよ、アイテムBOXに入れっぱなしで忘れてた」
「金で、できているにゃ? あいつらに貸した金の足しになりそうかにゃ?」
「それは無理かもしれないなぁ」
「そんな事ばっかりしてたら、いつか破産するにゃ」
この台詞は色んな人から言われるな。だが俺は、マリーと奥さんに貸したんだ。クロトンの奴には期待してねぇ。
まぁ、最初から金が返ってくるとは思っていないが。
目の前にある指輪は少々ゴツいデザインで、丸くて平らな石が嵌められている。だが、それを見た俺は、あるアニメのシーンを思い出していた。
2つの指輪を向かい合わせると、境目に文字が入っているというストーリーだった。
それを思い出して、指輪の石同士を合わせて、クルクルと回してみる――すると、本当になにやら文字らしき物が入っているではないか。
「ああ、『2人の愛を共にここに刻む』――とか、そういう臭い台詞が入っているんだろう」
文字が解読出来るように、指輪を回してみる。
「ん~、本当に文字が入ってるな。なになに……アストランティアを臨みし眼に、これを収めよ」
アストランティアを臨むって事は、上から見るって事だろ? そんな場所ってのは、崖の上からしかないだろう。
「なんか解ったにゃ?」
「もしかして、何かお宝の隠し場所かもしれないぞ?」
「本当にゃ?」「本当?」
俺の腹の上で寝転がっていたアネモネも顔を上げた。
「ああ、崖の上からアストランティアを見渡せる場所に、この指輪を使う何かがあるみたいだ」
「にゃー! 早速、探しにいくにゃ!」「私も行く!」
「そうだな明日、探索に行ってみるか」
3人で宝探しの話で盛り上がっていると、プリムラが会話に加わってきた。
「プリムラも行くか?」
「いいえ、私は街へ行きたいのですが……」
「何か買い物か?」
「はい……それで、夕方になったら、迎えに来てほしいのですが」
「ああ、いいよ。お宝探しも、そんなには時間は掛からないだろうし……多分な」
「一人で行くのか?」
「いいえ、ニャメナを連れていきます」
「彼女もお宝探しに行きたいところだろうが、プリムラに雇われている身だしな、ははは」
ふむ、プリムラは何を買うつもりなんだろうな。迎えに来てほしい――という事は、俺のアイテムBOXへ入れるような大きい物を買うつもりなんだろう。
何かな? 高く売れるような、いい家具でも見つけたか? まぁ、彼女は目利きだ、そこらへんは任せよう。
明日の予定が決定したところで、アネモネの勉強をみてやった後、就寝した。





