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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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43話 プリムラが加わった


 ギルドで牙熊を換金して家に帰ろうとしたら、いきなり腕を掴まれた。

 誰かと思ったら少々やつれ顔のマロウ商会の娘――プリムラさんだった。


「プリムラさん!? 何故ここに?」

 顔はやつれて、美しかった金髪はボサボサ――寝不足なのか目の下にはクマが出来ている。

 プリムラさんがいきなり俺に抱きついてきた。


「酷いじゃありませんか! いきなりいなくなるなんて! そんな酷い方だと思いませんでした!」

「いや、俺が貴族に捕まれば、かくまっていたマロウ商会にも迷惑が掛かるから」

「迷惑かどうかなんて私達マロウ商会が決める事で、ケンイチさんが決める事ではありません!」

「そりゃそうだが……他の商会からのやっかみもあるだろう。俺が逃げて、そんな人だったなんて知らなかったんです――で、丸く収まるのに」

「ケンイチさんから教えていただいたドライジーネでマロウ商会は、家名まで頂きました。森の木々から柄を作った斧を持って森へ木を切りに行けと言うのですか?」

 あ~、日本語で言う――恩を仇で返すって意味だろうな。


「まぁまぁ落ち着いて――」

 とりあえず立ち話も何なので近くのレストランへ入る。この世界に洒落た喫茶店などはない。

 食堂、レストランのほとんどが、宿屋と一体になっている形式なのだ。

 酒を飲むのも飯を食うのも食堂で、その二階に泊まり部屋があり、女給やウエイトレスが小遣い稼ぎに客を取ったりするのが普通だ。

 俺が最初に泊まった宿屋にいたアザレアもそんな暮らしをしている一人だ。

 そして店のランクが上がるのにつれて、料金も高くなる。当然、女のランクも上がる。

 賑やかな大通りに面した好立地に建つこの店は中の上辺り。まさかプリムラさんを連れて場末の飲み屋に入るわけにもいくまい。


 中へ入ると、高級材木を使った流石に良い内装をしている。

 席につくと、飲み物とお菓子を頼む。すぐに注文した物がやって来た――お茶と小麦に砂糖を入れて焼いた、クッキーに近い物。

 砂糖が貴重品なので、こんなお菓子でも結構な値段がする。

 シャングリ・ラで買った元世界のお菓子など売ったらとんでもない事になるな。


 それに手を付けず、延々とマロウ商会がどれだけ俺の世話になったかを訥々(とつとつ)と話すプリムラさん。

 個人的にそんなにお世話したっけな? むしろ俺がマロウ商会にお世話になりっぱなしだった気がするんだが。

 だが俺の納品した品物が貴族に大評判で、上流階級の人々のマロウ商会への覚えも非常に良くなったと言う。

 それで取引量がさらに増えるという、倍々ゲームになったようだ。


「そればかりではありません、私の命も助けていただきました!」

「それは確かにそうだが……」

 ああ、それなのに別れも告げすに、いきなりいなくなるなんて――と、彼女は眠れぬ日々を過ごしたと言う。


「街の噂じゃ、ノースポール男爵への輿入れが決まっていたと聞いたが」

「そういうお話は確かにいただきましたが、お断りさせていただきました」

 え~? 男爵のメンツが丸潰れなんだけど――大丈夫かな? まぁ、あの人は嫌がらせ等をする人ではないと思うが。

 多分、がっくりと肩を落としているのに違いない。


「凄い良い縁談だと思ったんだが、騎士――いや男爵様も人格者じゃないか」

「そうなんですけど……父に言われて何回かお会いしたんですが、お腰の剣を凄い自慢なさって、ブツブツと刃に語り掛ける姿が、なんだか怖くて……」

 ダメじゃん! ちょっと男爵様ぁ――少々、朴念仁風ではあったが、根っからの変わり者だったみたいだな。

 有能なのに出世出来ないのは、そこら辺に問題があったのか?


「街の人達も、水臭いと怒ってました」

「まぁ、別れも言わずに、いなくなったのは悪いと思ってる。だが――皆に迷惑が掛かるからな」

「それも先程、言いましたけど――!」

 プリムラさんが激昂して、席から立ち上がろうとするのをいさめる。


「解った! 俺が悪かったよ。解ったから、ダリアに帰って皆に伝えてくれ」

「帰りません」

「え?」

「帰りません! もう、父には別れを告げてきました」

 俺の方をキッと見つめて、そう言う彼女の目からは確固とした意思を感じる。


「ええ?! お父さんは、どうするのよ?」

「父は、ケンイチさんを連れて帰るまで待つと言ってくれました」

「えええ?!」

 正直、俺は戻るつもりはないんだが……かわいそうなマロウさん。


「俺は戻るつもりはないんだが……」

「それなら、私も戻りません」

「ええええ?!」

 しかし、よくこの街にいるのが解ったな。


「アストランティアにいると解ったのは?」

「商業ギルドと冒険者ギルドへ手を回して、他の街で登録がないか調べました。先日、情報が更新された時、ケンイチさんの名前を見つけたので、すぐにやって来ました」

「それで、この街へやって来て探し回っていたのか」

 都市間には馬車の定期便が出ているのだが、急ぐために馬車をチャーターしたと言う。さすがに金持ちだ。


「冒険者ギルドで、アイテムBOX持ちの方は滅多にいませんので、すぐに解りました」

 いやいや、ギルドのコンプライアンスはどうなってるのよ? 情報が駄々漏れじゃねぇか。

 

「それじゃ貴族がギルドの情報を使う事もあるって話か……」

「いいえ、冒険者ギルドと貴族は仲が悪いので、多分大丈夫だと思います」

 それに引き換え、商業ギルドは大店商人や貴族からのバックアップを受けているので、情報が筒抜けになる可能性が高いと言う。

 アストランティアじゃ商業ギルドへ登録していなかったが、それが正解だったな。

 でも、それじゃ商売出来ねぇじゃん。アネモネを代理に立ててやるという手もあるが……。


「う~ん、話は解った……だが、もう直ぐ門が閉まる。街を出て俺の家へ行こう」

「行きません」

「え?」

「今日、ここで私を女にしてくれるまで、行きません!」

「ええ? ちょっとちょっと、プリムラさん」

「さん付けも、止めて下さい」

 彼女はそう言うと、膝に乗せた両拳をギュッと握りしめている。


「ああ、解った解った……」

 梃子でも動かないプリムラさんに、根負けした俺は覚悟を決めざるを得なかった。

 そして給仕を呼ぶために手を挙げた。


「はい、何か?」

「ここに泊まりたい、部屋は空いているか?」

「少々お待ちください」

 すぐに給仕が宿屋の台帳を持ってやって来た。そこに2人で名前を書く。

 代金は前払いで小銀貨4枚(2万円)。俺が初めて泊まったアザレアの宿屋は1泊3000円ぐらいだったから雲泥の差だ。

 給仕に案内されて2階へ上がり、部屋へ案内される。

 ガラス窓から入る夕日に照らされてオレンジ色の板目が美しい、ゆったりとした部屋に上等な絨毯。

 その絨毯の上には飾りが付いた大きめのベッドが1つ。

 部屋にある調度品も良い物を使っているのが一目で解り――。

 ベッドに天蓋等は付いていないものの、掃除も隅々までいき届いており、さすがに高い宿屋だと思わせる。


「いい部屋だな」

「はい……」

 彼女は返事をすると、すぐに服を脱ぎ始めた。


「ちょっと、いきなりかい?」

「ここでやらなければ、また逃げるつもりなのでしょう?」

 白いブラウスを脱ぐと現れる、白くて丸い胸――スカートの中からは、細く美しいしなやかそうな脚。


「いや、そんな事はない……けどな」

 服を脱いであられもない姿になった彼女は、恥ずかしそうに両腕で胸と股間を隠している。


「ほ、本当は湯浴みをしたいのですが……」

 いくら高い部屋でも、元世界のようなシャワーも風呂も無い。水浴びをしたければ、宿屋の裏手で井戸から水を汲むしかないのだ。

 そこら辺は、宿屋の値段の高低に違いはない。

 窓から入るオレンジ色の光に照らされているプリムラさんの身体は、本当に美しい。


「プリムラさ――プリムラは、そのままでも綺麗だから」

「で、でも……しばらく湯浴みをしていなかったので……あの」

「大丈夫――でも、髪の毛は荒れているな。枝毛が沢山――俺の家へ行ったら髪を洗い、あの薬品を使って手入れをしよう」

「はい……」

 俺たちは、夕日の中で抱き合った。


 しかし、いいのかなぁ……マジで。


 ------◇◇◇------


 ――次の朝。

 宿屋で目を覚ます、当然ベッドの隣にはプリムラがいる。


「はぁ……調子に乗りすぎた」

 うぶなプリムラが可愛すぎて、手当たり次第に色々とやってしまったのだ。

 だって、嫌だって言わないし。

 この手の知識は全く無かったようで、俺のなすがまま。

 どうも、ごちそうさまでした。


 あああああ!


 ここで頭を抱えても仕方ない。覚悟を決めよう。俺も男だ。

 これで、女2人、子供1人、森猫1匹の命が俺の双肩に掛かってくるわけだ。

 しかし、腹が減った――そういえば、晩飯を食わずにやりっぱなしだからな。

 途中で何か食べようと言っても離れないし……。

 無論、事後に避妊もした。そこら辺も十分に話し合い、落ち着くまで子供は作らないという事になった。


「ふう……」

 軽くため息をついて、プリムラを起こす。

 朝飯を食って家に帰らないと、アネモネが心配する。まぁ、ミャレーがいるから大丈夫だとは思うが……。


「うう……」

 ぐったりとしているプリムラを連れて、下の食堂に降りて朝食を食べる。

 白いテーブルクロスの上に出てきたメニューは芋と肉とキノコのスープらしい。

 だが出汁も取らないこの世界のスープにしては妙に美味く、五臓六腑に染みわたる。

 多分このキノコから旨味が出てるんだな。


「おおい」

 手を挙げて給仕を呼ぶと、料理の事を聞いてみた。


「このキノコは、なんて言う名前なのかな?」

「これはノビキノコで御座います」

「ああ、これがそうか……」

 そういえば、冒険者ギルドで貰った冊子の中に、その名前があったような。

 木の周りにフェアリーリングを作って、背の高いキノコが生えると書いてあった。

 特徴があるので間違えにくいとも書いてあったな。こんなに旨味がでるなら、鍋に入れても美味いだろう。

 今度、森で探してみよう。


「プリムラ、大丈夫か?」

 彼女は余り食欲がなさそうだ。


「はい……」

「もう、初めてなんだから、そこそこにしておけばいいのに」

「だって離すと、ケンイチがまた何処かへ行ってしまうのではと……」

「いくらなんでも、今更そんな事はしませんよ」

 朝食を食べ終わり宿屋から出ると、プリムラが泊まっていたという所へ荷物を取りに向かう。

 だが彼女の歩き方が少々変だが――まぁ察しは付く。

 

 だが出会った時の様子からは打って変わって彼女の足取りは軽い。

 美しく上品そうな外見からは想像出来ないが――プリムラは父親のマロウさん譲りの度胸と行動力もある。俺にとって怖い存在になるかもしれない……。

 心の中で冷や汗をかいている俺とは裏腹に彼女の表情は明るい。

 彼女が泊まっていたと言う、宿屋に到着した――暁亭と書いてある。


「お早うございます」

「おお、嬢ちゃんかい。昨日は帰らずに――って、そいつが探していた男かい?」

 プリムラを出迎えたのは、この宿屋の女主人だ。

 深緑色の上下のワンピースに白いエプロンをして、頭には頭巾を被っている。


「はい、無事に見つかりました」

「嬢ちゃん程のいい女が必死に探しているから、もっといい男かと思ったがねぇ」

 はいはい、どうせ普通のオッサンですよ。十人並みですよ。


「そんな事はありません。ケンイチは私の大切な人です」

「ああ、悪かったよ」

 プリムラが2階から取ってきた革で出来た衣装ケースを受け取る。

 宿屋に別れを告げて通りに出ると、人目の付かない所で彼女の荷物をアイテムBOXへ入れ、水と鎮痛剤を出す。

 思いのほか痛そうなんでな。

 定番のバ○ァリンのパチもんのバ○サリンだがな。成分は同じアスピリンだから効き目は同じだ。


「プリムラ、この薬を飲め。痛み止めだ」

「はい」

 薬を飲んでも、すぐに効き目があるわけでもないが、歩いているうちに効いてくるだろう。

 街の通りを彼女と手を繋いで歩く。


「俺が書いた手紙は届いたか?」

「はい、フヨウという商人が届けてくれました。彼の話では北に向かったという事でしたので、貴方がアストランティアにいる可能性が高いのは解っていたのですが」

 ありゃ、そういえば――あの商人に口止めするのを忘れていたような……。


「あれに書いていた、新しいドライジーネは?」

「今、父が職人に頼んで試作中です」

 チェーンは製作するのが難しいからな。

 昔ヨーロッパで流行った、前輪がデカい自転車なら似たような物が作れるだろう。要は三輪車のお化けみたいな物だが。

 ここでオフロードバイクを出せれば早いのだが、あまり目立つのは得策ではないだろう。


 青空の下、門を抜け街道を歩くと森の中へ入る。


「アストランティアの街に住んでいるのではないのですね」

「色々と魔道具を使いたいから、ひと目の付かない場所の方がいいんだ」

 森の中へ進むと、人目のない事を確認して、オフロードバイクを出す。


「こ、これは?」

「魔法で動くドライジーネだ。漕がなくても進む」

「シャガのアジトから私達を乗せてきた、馬なしで動く荷車みたいな物でしょうか?」

「その通りだ。俺の言う事を聞いてくれる召喚獣だ。こういう物を街の中で使えないだろ?」

「直ぐに商人や貴族が押し寄せてくると思います」

 シャングリ・ラから大人用のヘルメットを1個購入して、彼女に被せる。


「これは、兜ですか?」

「そう、コケると危ないからな」

 バイクに跨がりエンジンを掛けると、彼女に後ろに乗るようにうながす。

 恐る恐るバイクのシートに跨がる彼女に、俺の腰を掴むように言う。


「こうでしょうか?」

 スロットルを煽ると、乾いたエンジン音と共に森の中をバイクで走りだした。

 木漏れ日の中、立ち並ぶ木々の間を縫うように走り抜ける。


「わわわわ……」

 プリムラは、バイクのスピードに戸惑っているようだが、そんなにはスピードは出していない。

 何回か街への行き来をしているので道も定まってきて、区間タイムが上昇している。

 別に急ぐ必要もないので安全第一。しばらくすると森を抜けて家の近くに到着した。

 家の前では、アネモネとミャレーが待っていた。


「ただいま~」

「ケンイチ~!」

「にゃ? 誰を連れてきたにゃ?」

 プリムラがヘルメットを被っているので、解らなかったようだが、すぐに匂いで彼女だと解ったようだ。


「マロウの娘もきたにゃ?」

「ケンイチ! 私は置いてきぼりだったのに、彼女は連れてきてぇ! 貴方の中では、私はその程度の女だったのですか?! ケンイチがお付き合いしている女の中でも、私が一番だという自惚れがあったのに……」

「いやいや、プリムラ落ち着け――ドゥドゥ」

 バイクから降りて激昂する彼女をなだめる。


「私は馬じゃありません!」

「待て待て、ミャレーは連れてきたんじゃない。こいつは自分の鼻を使って俺たちを追ってきたんだよ」

「にゃふ~、狙った獲物は逃がさないにゃ」

 ミャレーは腰に手を当てて、自慢の鼻を天に向けて得意満面だ。


「それじゃ、アネモネは?」

「彼女は子供だ。放り出すわけにいかないだろ?」

「……解りました。今日のところは、許してあげます」

「今日だけなのか?」

 キッ! プリムラの厳しい視線が、俺を睨む。


「その人も住むの? 家が狭くなる……」

 アネモネの言葉に――彼女とプリムラの間に、火花が散っているような……。


「おいおい、一緒に暮らすんだから、仲良くやってくれ」

「これ以上増やさないでね」

 アネモネが俺に向かって言うのだが――。


「……大丈夫だ」

「なんで、即答じゃないんですか? まだ、どこかに女がいるのですか?」

「いや、いないから心配するな。本当だって」

 プリムラが詰め寄ってくるのを両手で制する――まぁ、シャガの所から救い出した女達と一緒に暮らしていた頃に比べれば、大した事はない。

 ベッドが部屋一杯に並ぶ事になるが、朝起きたらアイテムBOXへ収納すれば、部屋が丸ごと使えるからな。


「いくら人がいいと言っても。手当たり次第に人を助けていたら破綻しますよ」

「それは、解っている。君の言うとおりだ」

「にゃ~ん」

 俺とプリムラが揉めていると、森の中から森猫がやって来た。


「おお、ベル。仲間が1人増えたんだ、よろしくな」

 だがベルは、プリムラの方を見ると尻尾を振りながら、そっぽを向いてしまった。

 ちょっとイライラしているサインだ。


「わ、私は森猫以下ですか……?」

「プリムラ落ち着けって、彼女も付いてきたんだよ」

 まぁ嘘だ。荷台に乗っけてきてしまったのだが――何とか誤魔化し、彼女をなだめるのに苦労した。


 住人が増えたので、家も少し拡張できればいいのだが……もう一棟作って連結するとかな。

 でも、大きくなるとアイテムBOXに入らなくなるし。2階建てにするとなると難易度が高そうだし……。

 アイテムBOXへ入る事を前提に10m×10m×10mに収まる建物をプロにお願いするという手もあるが。


 まぁ、家具類や荷物は全て、アイテムBOXに入っているから、今のままでも十分な広さはあると思うのだが。

 個人のプライベートルームが欲しいなら、小型の小屋を追加で作る手もある。


 それなら、アイテムBOXへ入れられるからな。


 ------◇◇◇------


 ――その日の夕方。

 早速、貰ってきた牙熊の肉を食ってみる事にした。

 先ずは薄く切って、シンプルに焼いてみる事に――焚き火に鉄板を乗せて鉄板焼きだ。

 ジュウジュウと肉の焼ける匂いが食欲をそそるのだが……。

 ただ熊肉には食中毒を起こす旋毛虫という寄生虫がいるので、十分に焼かなくてはならない。

 とりあえずシャングリ・ラで買った市販のタレで食う。


「む――肉が――か、固い」

 固いのは仕方ないとして、臭いが――やはり熊だ。前に地元で食った味と同じ味がする。


「ふにゃ~熊の肉は苦手なのにゃ」

「獣人にも好き嫌いがあったのか」

「あるに決まってるにゃ」

 アネモネもプリムラも、ちょっと熊肉は苦手そうだ。

 それじゃ対策を練ってみる。固い肉はぶっ叩けばいい。

 シャングリ・ラで肉叩きを買い、まな板の上で肉をぶっ叩く。


 そして臭み対策だ。

 ウチの秘伝のタレを作る。まぁ秘伝って程でもないんだが……。

 先ずは醤油――そこに一味唐辛子と胡椒を入れて、ミカンの皮を入れる。

 ミカンの皮は、陳皮という漢方薬名でシャングリ・ラで売っている。まぁ、ミカンじゃなくても柚子でもいいんだが。

 ミャレーは醤油が苦手らしいので、塩と胡椒とガーリック、そして陳皮を入れた特製塩を作って、それを振りかけた。


 そして、これに付けて食ってみると――。


「やはり大分マシになるな」

 口に入れると、みかんの皮の香りが口内から鼻に抜けて、熊肉の臭いが和らぐ。


「にゃ! これなら香辛料が利いてて、それなりに食えるにゃ」

「うん」

「プリムラ、苦手なら違う肉を出すが?」

「だ、大丈夫ですわ」

「なにせ、この熊肉が山のようにあるんだからな」

「……」

 彼女は複雑そうな顔をしているが――焼き肉だけなら何とか食えそうだが、これは煮込んだらイマイチな感じ。

 元世界でも熊の煮物は食ったことがない。ウサギは味噌鍋が定番だったのだが……。


 それとも何か美味い食い方があるかもしれないから、研究してみる手はあるな。

 シャングリ・ラには、料理の本も揃っているし。

 例えば臭い羊の肉でもマトンカレーがあるから、カレーはどうかな?


 色々試してみなくては。


 

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