272話 管理者
俺たちは、やっとの思いでサクラに帰ってきた。
戻ってきたが、ハマダ領は平穏そのもの。
俺が行方不明ということは伏せられていて、知っているのはリリスとプリムラ、それと紋章官のユリウスだけ。
通常の業務として、領地の測量をしているということになっていたらしい。
沢山の難民を連れて戻ってきたことについても、前に同じことをやっているので、誰も不思議に思っていないようだ。
サクラに帰ってきた次の日から、はるばる旅をしてきた村人たちの集落を作る作業が始まった。
以前作った村から、少々奥まった場所に村を構える。
こちらは人数が多いので、すぐに大きな村になるのを想定してだ。
同時に代表者を決めて、読み書きそろばんの勉強も行う。
まずは代表者が覚えて、それを村人たちに教える。
一緒に農業の仕方も教えなくてはならない。
あまりに一般からかけ離れた農業をしていたので、それをまず教える必要がある。
千里の道も一歩からだが、彼らにあるもの、それは情熱だ。
それほど困難ではないだろう。
開墾から数年は税も免除されているから、それまでに村を軌道に乗せることが目標だ。
共和国から連れてきた子どもや、アストランティアにいる孤児のために、サクラにも孤児院を作ることにした。
そこで身寄りのない子どもたちを預かる。
初代の院長には、ダリアにいたアマナをひっぱってきて、彼女になってもらった。
すでに彼女は、ダリアで数人の子どもたちを預かっていたのだが、その子どもたちごとサクラで引き取る。
ダリアから連れてきたアマナに、共和国から連れてきた子どもたちの生い立ちを説明した。
無論、他言無用だ。
俺の話を聞いていた彼女は、泣き出してしまった。
「そ、そんな酷い地獄みたいな国があるんですか、旦那?!」
「本当に大変な国なんだ。この子どもたちを逃がすために、親たちは反乱を起こしたらしい」
アマナが子どもたちを抱き寄せた。
「よしよし、みんな酷い目にあったねぇ。ここじゃ、もうそんな心配はいらないからねぇ」
「そんな感じなので、子どもたちはロクな教育も受けていないんだよ」
「よござんす! 私に任せてくださいよ!」
「よろしく頼む。金の心配は要らないからな」
とりあえず20人ほどのキャパだが、人数が増えるようであれば増築も可能だ。
孤児院にはマロウ商会も出資しており、優れた人材がいれば商会でスカウトする。
村の立ち上げや、孤児院の建設作業の間、俺の家族との話し合いをすることにした。
議題は、子作りについてだ。
俺と一緒に行動していた者たちは、セテラの言ったことを聞いていたのだが、ここに残っていたリリス、プリムラ、そしてカナンは知らない。
俺の家の前に集まり、テーブルにつくとことのいきさつを話す。
言い出しっぺであるセテラも一緒に、お菓子をつまむ。
家の後ろでは、領主の屋敷が建築中である。
「むむむ……子作りかぇ……」「……」
難しい顔をしている、リリスとプリムラだが、カナンはそんなに深刻そうではない。
元世界なら別に問題ない年齢ではあるが、この世界で初産で高齢出産という年齢になるので、抵抗があるのかもしれない。
それはアマランサスも一緒だ。
「俺がリッチの城で見つけてきた若返りの神器があるが、あれを使うと子どもが作れなくなるらしいからなぁ」
アキラがいた帝国では、神器を使って皇帝が若返り、国を治めるという君主制になっているという。
「うむむ……」
やはり正室として跡取りのことを真っ先に考えるリリスが、一番難しい顔をしている。
「まぁ、なんとかするよ」
「なんとかとは?」
「あちこちで、ダンジョンやらを色々と攻略すれば、そういうのに役に立つ神器とかが出現したりするかもしれない」
「そう、都合よくいくかのう……」
「そうでなければ種族の壁を突破できない」
「ケンイチが、私たちと違う種族だなんて……」
プリムラがつぶやく。
俺が旅から帰ってきたときには、3日ほどべったりくっついて離れてくれなかった彼女だが、今は立ち直っている。
まだ、たまに変なときがあるが、そのぐらいのストレスが彼女を襲ったということなのだろう。
まったく彼女には心配をかけてしまった。
その彼女にも、俺が違う世界からやって来たということは話してあった。
俺自身も同じ人間だと思っていたので、まさか子どもが作れないほどの種族の壁があるとは思わなかった。
この世界では只人と獣人の間で子どもがつくれないが、それと同じぐらいの種族の隔たりがあるということだ。
元世界に戻れないのであれば、この世界に根を下ろすために、なにか手を考えなくてはならない。
話し合いのあと――カナンが、作ってきてくれた俺の正装を見せてくれた。
試着してみると、金糸の刺繍が入った赤い上着と、黒いズボン。
背中には赤いマントと、ちょっと派手だが、もっと派手だったらどうしようかと思っていた。
赤い上着も少し暗い色でそんなにギラギラしている感じではない。
他の貴族たちがもっと派手なので、このぐらいのでちょうどいいのだろう。
出かけるときは、これを着ていけば、ひと目で貴族だと解るに違いない。
「ありがとう、カナン」
「いいえ、色々としてもらっているのに、このぐらいしか恩返しができません」
「そんなことはないぞ」
「ありがとうございます」
――そんな感じで、帰ってきてから1ヶ月ほどたった、ある日。
「よぉ! ケンイチ!」
「お? アキラ、久しぶり!」
そう、俺たちが帰ってきたその日、レイランさんに追われて森の中に入ったきり、行方不明だったアキラが顔を出したのだ。
エルフのツィッツラと一緒だ。
「どうしたんだ? レイランさんは大丈夫だったのか?」
「いやぁ、追われた追われた、ははは。一ヶ月ぐらい逃げ回っていたよ」
「それで問題はないのか?」
「まぁ、話し合いはついた」
そんなことを言いつつ、ツィッツラとイチャイチャしている。
本当に大丈夫だったのだろうか。
まぁ、彼の家庭のことなので、口出しは無用だが。
それから1ヶ月ほど新しくできた村の面倒をみたり、領主の仕事をこなしていたのだが――。
王都から特急の飛脚で召集令が来た――戦である。
俺が見つけたシラー伯爵領の隠し畑に端を発する反王家派への攻撃は、拡大の一途をたどっていた。
隠し畑を持っていたシラー伯爵は、押し寄せる王家の騎士団を見た途端に降伏。
かなりの領地を没収されて、それで手打ちになったのだが、それでも引き下がらなかった貴族たちがいた。
大都市イベリスを抱える、エキナセアベア公爵領である。
支配下の貴族を従えると、徹底抗戦を構えてイベリスに籠城した。
軍を持たないハマダ領だが、戦力を出さないわけにはいかない。
獣人たちの中から志願兵を募り、シャングリ・ラから買った物資を使って100人ほどの部隊を作った。
参加したのは、俺を始めとして、アネモネとアマランサス、そしてセテラ。
エルフは戦には興味がないようだったが、俺の護衛として参加してくれた。
実質俺が治めている子爵領からは、アキラとレイランさん、そしてツィッツラ。
ツィッツラもアキラの護衛をするようで、直接戦闘には参加しない。
数自体は少ないのだが、国軍に匹敵する戦力だ。
今回は平地の移動だったので、思い切って大型バスを購入。
試しにアイテムBOXに入れてみたのだが、やっぱり入らない。
アイテムBOXに入らないものは、買えないのかと思ったがそんなことはなかったぜ。
そいつに獣人たちを全員山盛りに乗せて移動して、一足早くイベリスの城壁に到着。
そのまま、あとからやってきた王家連合軍に加わった。
城壁の出入口に各貴族と国軍が集結。
城壁の周りには貧民窟もあるので、集まれる場所は限られる。
俺はアキラと一緒に大型バスの上から辺りを見ていた。
「はぁ~本格的な戦は初めてだぜ~」
彼が帝国でやっていたのは、僻地のモンスター退治とか、皇女を守っての撤退戦とかそういう地味な戦闘が多かったらしい。
軍と軍がぶつかる、正式な戦闘というのはこれが初めてのようだ。
「スマンなアキラ、付き合ってもらって」
「いいってことよ。それにこんな戦、ケンイチのアレがあれば一発で終わるだろ?」
彼の言葉通り、戦はすぐに終結した。
アネモネの防御魔法で強化された重機で城壁を崩し、そこから国軍が流れ込んだのだ。
通常、門を巡っての戦闘がメインになるこの世界の戦からかなり逸脱した作戦だったので、公爵軍の対応が遅れた。
戦闘に入っても、敵の主力の真ん中をホイールローダーで突っ切って撹乱する俺の作戦に敵は大混乱に陥った。
見たこともない鉄の魔獣に蹂躙された敵軍が逃げるところを虱潰しにされて、次々と降伏。
最後まで徹底抗戦を辞さなかったエキナセアベア公爵は、堀に架かった橋を落とし、城に立て籠もり徹底抗戦を仕掛けてきた。
決戦の地である堀の周りに、王家派の貴族たちが群がった。
集まったのは、王都の近辺にいる諸侯だけである。
王都から遠く離れた貴族たちは、集まるだけで1ヶ月以上かかることになる。
すぐに駆けつけた俺などは、例外中の例外だ。
「ケンイチ!」
堀の縁でテーブルを出して待っていると、アルストロメリアが俺の所にやってきた。
「これはアルストロメリア様。鎧を新調なさったのですね。大変お似合いでございます」
彼女は真っ白な鎧を着ていた。
おそらく洞窟蜘蛛の甲殻で製作した鎧だろう。
マロウ商会がアキラから買った蜘蛛を使って、鎧に仕立てたに違いない。
「世辞は要らぬ!」
「お世辞ではありませんが……」
「そのようなことはどうでもいい! これでは魔法も届かぬ! そなた、なんとかせい!」
彼女が顔を赤くしている。
「ええ? 私がですか?」
「そなたならなんとかするじゃろうが!」
「ん~、騎士道らしき戦いとか、そういうのじゃなくてもいいんですかねぇ」
「ええい! 長引くと金がかかるのじゃ! 金が!」
彼女が人差し指と親指で輪っかを作った。
戦争には金がかかる。
長引けば長引くほど戦費が増大して、国庫を圧迫する。
彼女的には、つまらんことで余計な金を使いたくないのだろう。
アルストロメリアの言葉を受けて、俺が取った作戦は――。
コ○ツさんで崩れた橋の瓦礫を掬い、それを弾として敵城に打ち込む作戦。
通常なら、トレビュシェットと呼ばれる固定型大型投石機を攻城兵器として使うのだが、それをコ○ツさんで代用したのだ。
土を掘り返し重機を斜めにして固定。
ワイヤーをバケットに溶接して、発射には急遽その場ででっち上げたロック機構を使う。
ワイヤーの先は袋状になっており、そこに瓦礫や石を入れる。
ぐるぐると重機を回転させて、ワイヤーを固定しているロックを外せば、瓦礫が飛んでいくわけだ
車体の回転スピードは常に一定なので、瓦礫の重さだけ同じにすれば同じ場所に命中する。
仕組みは手で投げる投石機とまったく変わらない。
大型攻城兵器であるトレビュシェットも作動させるのに錘を使っているだけで、仕組みは同じ。
それを重機で代用しているだけだ。
「にゃははは!」「うひょー!」
バケットに乗り込んでいるミャレーとニャメナが歓喜の声をあげている。
危険だからと説明したのだが、彼女たちはバケットに乗り込んで、タイミングよくロックを外す役目を買って出てくれている。
やり始めて10回ほど失敗が続いたが、タイミングを掴むと同じ場所に飛ぶようになった。
獣人たちは頭で考えるのは弱いが、身体で覚えることに関しては強い。
改めて非常に危険だと思うのだが――彼女たちが任せろ! と言って聞かない。
他の手段もないので任せることにした。
あとで考えると――ワイヤーを外すのには、バッテリーと火薬を使う手もあったかも……。
完成したにわか作りの大型投石機によって、巨大な石が放物線を描き、次々と敵城に打ち込まれた。
「「「おおお~っ!」」」
命中する度に味方から歓声があがる。
手柄を取られた貴族たちは面白くなさそうだが、下っ端は怪我もなく勝ち戦が堪能できるので大受けだ。
数十発の石が命中し、城が半壊したあと、ついに白旗が揚がる。
打ち込んだ瓦礫が、籠城していた公爵に命中したのだ。
主が戦死したことで戦はあっけなく終結。
反王家派は王国から駆逐された。
現在、エキナセアベア公爵領は、国領扱いになっている。
戦が終わり、バスでハマダ領に戻ると、またプリムラがくっついたまま離れなくなってしまった。
彼女なりに心配してくれた結果なのだろうが、これも貴族の仕事だ。
「ううむ、これが貴族の正室の役目ではあるし、ケンイチなら戻ってくるとは思っているのだが――なんと心臓に悪いことよ」
リリスにもストレスがかかっているのが十分理解できたので、そのあとは家族サービスに努めた。
購入した大型バスはアイテムBOXに収納できないので、野ざらし状態。
ここは雨もそんなに降らないので、腐食の心配をあまりしなくてもいい。
また使うときがあるのだろう。
戦で家族に心配をかけたと、いくら家族サービスを頑張っても、リリスをはじめとした女性陣に妊娠の気配はなし。
セテラの言ったことは間違っていなかったようだ。
どうにかしなければならないのは解るが、皆目見当もつかない。
それは同じ境遇にいるアキラも一緒なのだが、彼はもう諦めている節がある。
俺は貴族になってしまったからには、跡取りの問題がある。
どうしても子どもができないとなれば、養子をとることも考えなくてはならない。
戦から半年が過ぎて、王国には平穏が戻りつつある。
イベリスの住民にはほとんど犠牲者は出なかったので、人々が普段の生活を取り戻すためにはそうは時間がかからなかった。
そうしているうちに、オダマキで建造していた船が完成したと連絡を受ける。
マロウ商会主導による、アニス川河口からの川路の探索が始まったのだが――いきなり問題にぶち当たった。
共和国の川に生息していた首長竜の仲間が、アニス川にも多数生息していたのだ。
駆除は不可能ということになり、川を使った物資の運搬計画はあっけなく頓挫した。
残念なことだが、失敗してもタダで起きないのがマロウ商会。
建造した船をそのまま帝国との海路貿易に使用することに決めたようだ。
俺としても建造した船をそのまま放置しても、宝の持ち腐れ。
マロウ商会に貸し出すことにした。
貿易がうまくいけば、追加で船を建造することも考えているという。
アニス川を運河にする計画は頓挫してしまったが、ハマダ領ではさらに別の計画が進行中だ。
領の重要産業になると思われる、魔石モーターの開発。
そのためには魔石の安定的な確保が必要になる。
現在魔石は魔物を倒すことによって得られているのだが、これはあまりに効率が悪い。
そこで魔石を効率よく生産できないかと技術開発が行われているのだが、その核心技術がリッチ戦で手に入れた古代の魔導書。
エルフのセテラとアネモネ、そしてカールドンが行った魔導書の解読の結果。
空間を拡張する魔法を発見した。
これは、ダンジョンなどにも使われている魔法らしく、色々と応用が利きそうだ。
空間拡張の魔法を得た俺が始めたのは、コンテナハウスの拡張。
「おお~っ! こりゃ、すげー!」
「マジかよ」
俺とアキラが空間拡張されたコンテナハウスに足を踏み入れて目を回す。
コンテナハウスの中が延々と、はるか奥まで繋がっているのだ。
どういう仕組みが解らんが、各コンテナハウスには窓がついていて日が差し込んでいる。
「ケンイチ、奥にも窓があるけど、どこに繋がっているんだ?」
アキラが怖いことを言い出す。
「さぁ、怖くて考えたくないが……」
「こういうのは試してみるに限る」
「おい、大丈夫か?」
「さぁ?」
――と言いつつ、アキラが窓を開ける。
本来ならそこはあってはならない空間。
「うぉ?」
窓を開けた先には、またコンテナハウスが繋がっていた。
「窓から窓に繋がっているのか?」
「これぜったいにヤバいやつだよな?」
迷ったら戻れなくなるとかそういうやつだろう。
色々と検証してみたいが、今は止めておいてそっと閉じた。
窓を閉めると、先に進む。
しばらく進むと二股の分岐になっていて、その先も続いている。
まるでコンピュータゲームのような90度のコーナーが続く迷路。
「やべぇ、これってダンジョンじゃん」
さすがのアキラも、想像を絶する空間にビビっている。
「魔物は湧いていないが、そのうち湧くってことだよな?」
「多分な……あとでセンセを連れてこよう。どういう反応するか楽しみだぜ」
この空間はそのまま使えるし、魔物が湧いたら俺のアイテムBOXに入れてゴミ箱に投入すればいい。
そう思っていたのだが、この魔法は設置式らしく、大きく動かすと効力が切れるようだ。
つまり、アイテムBOXに入れた途端に魔法の効力が切れて、ただのコンテナハウスに戻る。
空間を拡張したまま持ち運んだりはできない模様。
ちょっと残念。
それでも空間拡張魔法は使えることが解った。
最初は、この拡張空間で毒の花を栽培し、養殖したスライムに食わせて魔石を生成させる――そんな計画だったのだが、もっと効率のいい方法を思いついた。
ダンジョンを育てて、そこに冒険者を入れて魔物を狩らせる。
その魔物から出た魔石をハマダ領で買い取ればいいのだ。
通常、こういう仕事はギルドがやるのだが、領が管理しているダンジョンなので、領がやる。
魔石は集められるし、冒険者は金になるから公共事業としてうってつけ。
冒険者が集まれば、宿屋や店、娼館などもできるし、生活が安定すれば定住する者も現れるだろう。
計10箇所のコンテナハウスダンジョンを設置して、ハマダ領のダンジョン経営がスタートした。
大きく育ってしまい手がつけられなくなったダンジョンは、俺のアイテムBOXに入れて破棄すればいい。
冒険者にとっては便利な稼ぎ場ができたことになる。
ダンジョンに湧くのはスケルトンが多く、そいつを倒せばいいわけだが、深層には中ボスや大ボスもいる。
大物を倒せば一攫千金も夢ではない。
サクラにダンジョンができたら、見たことがある顔が次々とやってきた。
ダリアで知り合ったり、シャガの討伐戦で一緒だったやつらが出稼ぎにきたのだ。
無茶をして怪我などしなければいいが……。
診療所などの設置は行なっているが、なにがあってもハマダ領は責任を持たない。
ここは、そういう場所だ。
すべてが自己責任――そうなのだが……。
「男爵!」
俺は知った顔を見つけて、男を呼び止めた。
「ああ! 辺境伯様! 見つかってしまいましたか」
コンテナハウスダンジョンの近くで俺が見つけたのは、ノースポール男爵だ。
「なぜ、こんな所に?」
「いやぁ、ははは」
苦笑いする彼だが、どうやら自領の戦闘団と腕試しにやってきたらしい。
そりゃ実戦経験を積むのは大事だが……。
「領主である男爵に、なにかあったらどうする」
「しかし、戦闘訓練も欠かせないものですから」
彼の言い分も解るし一理ある。実際、うちの警備団やらも、ダンジョンで訓練をしている。
俺に彼を止める権利はない。
男爵の親貴族はアスクレピオス伯爵だし。
「やれやれ」
俺は苦笑いをするしかない。
このダンジョン経営で集められた魔石を使って、魔石モーターの生産も始まった。
街から集められた女子工員が働く工場も建てられて、扇風機や洗濯機、ドライジーネなどに搭載される予定である。
それらの試作もマロウ商会によって行われている。
景気がよくなれば市場もできる。
これまたダリアの市場で見かけた商人たちが、出稼ぎにやってきた。
俺が最初に出会ったフヨウという商人も見かけたのだが、馬車に荷物を沢山積んでいたから商売は上手くいっているようだ。
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ハマダ領の経営は順風満帆で軌道に乗ったのだが――。
まぁ、魔法では解決できない問題もある。
たとえば跡取りのこととかな。
俺が将来のことを少々悩んでいると、空からなにかがやってきた。
「おい! あれは?!」「なんだ?! 魔物か!?」
俺はマロウ商会で打ち合わせをしていたのだが、外が騒がしい。
続いて報告を受けると慌てて外に飛び出した。
「なんだありゃ?」
空に浮かぶ、白い鉄アレイ。
そう表現さぜるを得ない物体が青い空に静止していて微動だにしない。
丸い球が2つ上下に並び、繋がっている。
その未確認飛行物体は湖の近くにいるようだ。
いったいなんなのか? これは近くまで行って確認したほうがいいだろう。
俺はアイテムBOXから、ラ○クルを出した。
運転席に乗り、アクセルを踏み込むと、クラクションを鳴らしながら進む。
住民たちが皆空を見ているので、こちらに気がつかないのだ。
「ケンイチ!」
アキラの姿が見えたので車を止めた。
「アキラ、来てたのか?」
「ああ、なんだありゃ?!」
彼も空に浮かぶ白い物体を見たらしい。
「解らん。けど魔物じゃないだろ? 明らかに人工物だ」
「俺もそう思うぜ」
「ケンイチ!」「ケンイチぃ!」
アネモネとセテラもやってきたので、車に乗せる。
最近彼女たちは、魔法の研究で一緒にいることが多い。
いつも喧嘩しているように見えるのだが、仲がいいのか悪いのか不明だ。
結果は出しているので、悪くはないと思うのだが。
そのアネモネだが、最近少し姿が変わってきた。
背が伸びてきているのだ。これは成長期に入ったのであろうか。
ラ○クルが湖の畔に到着すると、白いアレイは湖の上に浮かんでいた。
どう見ても超常の物体である。
「ケンイチ、あれって反重力かなにかで浮かんでいるよな?」
「多分、どう見ても人の手で作ったものだろうし。セテラ、見覚えは?」
「ん~? あるようなないような……」
「役に立たねぇボケ老人だな――アダダダダ!」
アキラがセテラからアイアンクローを食らっている。
「これってもしかして、セテラが言ってた、この世界の管理者か?」
「そうかもねぇ」
「エルフたちも、かつてはこういう乗り物に乗っていたのか?」
「まぁ、そんな感じ」
やはり恒星間航行技術を持った超科学文明だったんだろう。
「しかし――」
なにが目的だろうか?
俺たちの排除? しかし巻き込まれたのは俺とアキラのほうだし。
好き好んでこんな世界にやってきたわけではない。
「ケンイチ、あれなぁに?」
アネモネが白い物体を指す。
「多分、人が乗っている乗り物だと思うが……」
「どうやって浮いているの? 魔法?」
「いや違うと思う」
アキラが言ったように、重力制御かなにかで飛んでいるのだろう。
俺たちもSF映画やらの知識で一応知っているが、あくまでも概念的なものだ。
元世界にもそんなテクノロジーはない。
俺たちの周りに、サクラの住民たちも集まってきてしまった。
「聖騎士様!」
慌ててアマランサスと獣人たちもやってきた。
「ケンイチ!」「旦那! 敵かい?!」
「多分、敵じゃないと思うんだが」
皆が見守っていると、白いアレイが湖のすれすれまで降下。
水面に反射して白い影が逆さまに映っている。
人だかりが静まり返ると、白い物体が砂浜までやってきて、少し上昇した。
下面の球体が開くと、その部分から人影が見える。
どうやら管理者というのは二足歩行生物らしい。
これが、セテラが言う管理者という者たちなのであろうか?





