271話 帰郷
共和国から遠路はるばる遠回りをして、アストランティアの手前まで戻ってきた。
俺の領地も、もうすぐだ。
ゆっくりと走っても今日中には到着できる。
俺たちがキャンプしたのは、かつて重機を使って用水路を掘った湖の近く。
森の中は危険なので、手前でキャンプを張った。
――なにごともなく、次の日。
朝飯を食べ終わると、マサキの所にいく。
「マサキ、今日中には到着できる」
「はい! ありがとうございます!」
「まだまだ感謝するのは早いぞ? 森を開墾して村を作らないと駄目だからな」
「村人全員で、がんばらせていただきます!」
「まぁ、森を切り開くのは俺とアネモネが手伝うから、すぐに終わると思うが」
「す、すぐにですか……?」
俺の言葉に信じられない様子だが、無理もない。
以前に開墾した村の住民も似たような感じだったし。
すべて人力で伐採して、根っこを取って地面を耕して――なんてやっていたら、いつになるか解らんし。
村人たちのコンテナハウスを収納して、バスの準備をしていると、ベルが散歩から戻ってきた。
朝イチで、カゲと一緒に俺からネコ缶をねだると、すぐに散歩にでかけてしまったのだ。
「お母さん、今日中には到着するよ」
「にゃー」
飯を食べ終わった獣人たちも伸びをしている。
「にゃー! やっと家に帰れるにゃ」「せっかく旦那から家をもらったのに、誰かに取られてねぇだろうな」
「リリスがいるんだ、領の政は普段と同じだよ」
「だったらいいけどさぁ」
「私は、このままケンイチと旅をしててもいいんだけど……」
「妾もじゃ」
アネモネとアマランサスがそんなことを言う。
「家族だけならそれもいいけど、守らないとだめな人がたくさんいるのは大変だよ」
「むふ~!」
「私もぉ、ケンイチと一緒なら、いいなぁ」
セテラが俺の身体に腕を絡めてきた。
「エルフと一緒だと、俺があっという間に爺さんになって終了だろうが」
「もう生きるの飽きたしぃ、ケンイチが死んじゃうときに私もいっしょに逝こうかなぁ」
「ただの人間の俺に、エルフがなんでこだわるのかが解らん」
「ええ~いいじゃん~」
「別にいいけどさ」
俺とエルフの間にアネモネが割り込んだ。
「離れろ~」
「なんだよ、ちびっ子~」
「ふん、もうすぐおっきくなるし」
むくれるアネモネの頭をなでる。
「まぁな。成長期に入ると、本当に1年に一回りぐらいずつ伸びるしな」
俺も第二次性徴期には1年で15cm以上伸びたしな。
本当に子どもから、あっという間に大人になるよなぁ。
アネモネもスラリと背が伸びて、スレンダーの美女になると思う。
彼女が思春期に入ったら、どうなるんだろうなぁ。
俺のことなんてどうでもよくなって、同世代の男の子と仲良くなったりするかもしれないし。
それはそれで、ちょっと寂しいが。
「ケンイチ、こっちはオッケーだぞ」
「アキラ――悪いけどな。アストランティアのレイランさんの所に行きたいだろうが、皆を先にサクラまで乗せていってくれ」
「大丈夫大丈夫、さすがに最後まで面倒みるぜ」
アキラが自分のバスに戻ると、村人たちに囲まれた。
「竜殺し様、道中ありがとうございました」
「はは、いいってことよ」
「竜殺し様~、また魔物を倒したときのお話を聞かせて~」
彼が子どもたちにも囲まれている。
どうやら、バスに乗っているときに、帝国での彼の活躍を話してやっていたようだ。
コ○スターには室内放送用にマイクも装備されているので、それを使ったのだろう。
準備ができたので、村人たちがバスに乗り込んだ。
屋根にあるキャリアにも獣人たちと、子どもたちが乗っていく。
途中で拾った共和国の兵士たちも元気だ。
「旦那の領地ってどんな所なんだい?」
上からナンテンの声がする。
彼女の皮膚病はすっかりよくなったようだ。
毛が生えてきて、元の状態に戻りつつある。
「大きな湖のほとりだぞ。魚もたくさんいる」
「そんな大きな湖に魔物とかいないのかい?」
「皆で退治したから大丈夫だ。森の中も、あまり魔物はいないぞ」
「へぇ~」
大きな魔物は、近所に住み着いていた洞窟蜘蛛によって、食われてしまったからな。
棚からぼたもちってやつだ。
「ウチらも戦ったにゃ!」「バカでかい、ウニョウニョした化け物だったぞ」
ミャレーとニャメナが屋根に乗っている獣人たちに説明をしているが、タコとかイカとか見たことがない者たちに、言葉だけでの説明は難しい。
「よ~し、出発だ。ミャレーとニャメナも乗ってくれ」
「にゃ」「よっしゃ!」
森猫たちも乗り込んだ。
エンジンをかけると、後ろのバスにも確認を取る。
「アキラ、大丈夫か?」
『問題な~し!』
「ほんじゃ、出発」
晴天の下、2台のバスはゆっくりと走り始めた。
この街道は、なん回か走っているので道の荒れ具合も把握している。
マイクロバスはすぐに森の中に入った。
この森は短く、すぐに抜けられる。
バスで走るなら10分ほどだろう。
横を見れば、俺がコ○ツさんで掘った用水路が流れている。
なにごともなく進み、もう少しで森が切れる場所まで来ると前から馬車がやってきた。
いつもの光景なので、そのまま通過しようとしたのだが、向こうが手を振っているように見える。
スピードを落とすと、馬車の運転席から女性が降りて走ってくるのが見えた。
「あ!」
フロントガラス越しに見ていたアネモネが気がついた。
俺も女性の正体に気がつくと、慌ててバスから飛び降りる。
「ケンイチ!」
走ってきた女性が俺に飛び込んできた。
勢いよく突っ込んできたので、思わず後ろに倒れそうになる。
「プリムラ!」
「ケンイチ! ケンイチィィィ!」
馬車に乗ってきたのはプリムラだった。
おそらくは王都に向かうマロウ商会の馬車なのだろう。
一昨日、王都のマロウ商会から伝書鳥を飛ばしたのだが、その手紙を見て、ここまでやってきたに違いない。
「ごめんよプリムラ。心配をかけて」
「うわぁぁぁぁぁ!」
必死になだめるのだが、プリムラが泣き止まなくて困っていると、アキラがやって来た。
急に止まったので、なにごとかと思って様子を見に来たのだろう。
「おっと、プリムラさんか」
「アストランティアから、ここまでやって来たらしい」
「王都から、伝書鳩を飛ばしたからな」
鳩じゃないけど。
「うあぁぁぁん!」
「プリムラ、プリムラ。もうすぐサクラに帰れるから、そこでゆっくりと話そう」
どんなになだめても彼女が俺から離れてくれない。
こりゃ困ったぞ。
「ケンイチ~」
ドアからセテラが首を出している。
「どうした?」
「私が運転しようかぁ?」
「できるのか?」
「うん、見てて覚えたしぃ。アグイルを進む船に比べたら簡単だしぃ」
そりゃ彼女は宇宙を飛ぶ宇宙船がある世界からやってきた宇宙人だ。
船の操縦からすれば車の運転なんてなぁ。
「アキラ、ちょっと待っててくれ。セテラに運転を教える」
「運転ができるやつが増えれば、俺たちも楽ができるな。俺もツィッツラに教えてみようかな?」
「知識はないかもしれないが、知能はべらぼうに高いはずだから、いけるかもな」
「だがまぁ、人が乗ってないときに教えることにするわ」
「そっちのほうがいいか」
アキラのほうはそれでいいが、こっちはプリムラが離れてくれない。
心配かけた手前、無理に引き離せないし。
セテラに任せてみるか。
プリムラが乗ってきた馬車に話を聞くと、やはりマロウ商会の馬車らしい。
乗っていた男には銀貨を1枚渡し、そのまま王都に向かってもらうことにした。
プリムラを抱いたまま手を振って馬車を見送る。
「さて――」
俺はプリムラを抱いたままバスに向かう。
「お嬢!」
ニャメナの問いかけにも、彼女は俺にひっついたまま離れない。
「ケンイチ、ウチらは上に行くにゃ」
「そうか悪いな」
「旦那、いいってことよ」
ミャレーとニャメナ、そしてアオイが屋根のキャリアに移った。
「もう、プリムラ! ケンイチに迷惑かけてる!」
アネモネの言葉にも、プリムラは俺から離れない。
「まぁまぁ、彼女も俺のことを心配してくれたんだし」
「むー!」
怒るアネモネより、セテラの運転だ。
エルフはすでに運転席に座っていた。
「この丸いので、操舵をするんでしょ?」
「そう。足元の右が速度調節、左が制動」
「そして、このレバーで運転状態の切り替え」
「そうだ。駐車するときは一番上、その次が後退、次に入れると動力の伝達が切れる」
「前に進むときはここねぇ?」
セテラがATセレクターのDを指した。
あとは大まかな操作を教えると、彼女が手を叩いた。
「これだけ?」
「そう」
「重力の心配とか軌道計算をしなくてもいいのね?」
「地上でそんなもの必要ないのに決まっているだろう」
「はは、こういう冗談も通じるから、ケンイチがいいのよねぇ」
「むー!」
エルフと仲良さそうに話していると、アネモネがむくれている。
その間にもプリムラは俺にくっついたまま。
とりあえずエンジンをかけて、前進と後退を繰り返す。
問題ないようだ。
説明したことも一発で覚えている。
確かに、こんな記憶力で5000年も生きていたら、脳みそがオーバーフローするだろう。
昔のことを忘れるってのは、自己防衛のために必要なことなのかもしれない。
無線機で後ろのバスに連絡を入れる。
「アキラ、待たせた。いけるようなので出発する」
『オッケー!』
『アキラ*&^****』
『はは、人のいない所でな」
多分、ツィッツラも車の運転をしてみたいと言っているのかもしれない。
車は普通に走り始めた。
問題もなく、あぶなかっしいところもない。
速度も俺が走っている速度を覚えていたのだろう。
それに合わせて走ってくれているようだ。
本当にエルフはすごい。
改めて思う。
こんなにすごい力があれば、この世界を統べることも可能だろうとは思うのだが、一度は自分たちの世界を破滅に導いた彼らだ。
二の舞いになるまいと、自重しているように思える。
車は進み数時間でアストランティアが見えてきた。
上からミャレーたちの声が聞こえるが、俺達の目的地はあそこではない。
俺はエルフの運転を見ながらバスの床に座っているが、その間にもプリムラは俺に抱きついたまま。
「セテラ、次の道を右に入ってくれ」
「解った」
俺が森をぶち抜いて作ったサクラへの一本道。
土の道で凸凹しているため、慎重に走ってもらう。
ギャップを乗り越えると、バスの車体が大きく揺れる。
「「「おおお~っ!」」」
屋根の上から声が聞こえる。
「大丈夫か?!」
「にゃー!」
獣人たちは耳がいいので、俺の声も聞こえるようだ。
10分ほどで森を抜けると、懐かしい風景が広がっていた。
俺が作ったキットの家を見ると、ここが故郷だと実感できる。
サクラを出てリッチを倒してからだと、半月ぐらいぶりの我が家だ。
車が止まると、俺は真っ先に車から降りた。
当然、プリムラが抱きついたまま。
俺のあとを追って、森猫たちも飛び出す。
「うぉぉ! やったぁ! 帰ってきたぞぉ!」
思わず雄叫びを上げる。
「「「おおお~っ!」」」
屋根の上に乗っている獣人たちも、俺に合わせて雄叫びを上げた。
「おお?! あれが湖?!」「向こう岸が見えないぞ?」「海ってやつじゃないのか?!」
サクラの前に広がる湖の大きさに、戸惑う獣人たちの声が聞こえてくる。
そこにメイドたちが慌てて走ってきた。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
まっさきに走ってきたのは、メイド長のマイレンだ。
「しばらく留守にしてしまったな。出迎えご苦労」
「いいえ、領主様の大切なお仕事を支えるのが、我らメイドの務め」
遅れて他のメイドたちが並んだ。
「「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」」
「はい、ただいま」
そこに獣人娘3人組と犬人のワルターがやってきた。
「あれ? ケンイチ様、おかえりなさい」「おかえり~」「おかえりなさいませぇ」
「ケンイチ様、留守の間、大きな問題はありませんでした」
「ワルターご苦労」
「して、あの者たちは?」
彼が車に乗っている獣人たちを指した。
「途中で拾ってきた新しい村の住人たちだ。猫人たちは犬人と一緒に住んでいたので偏見がない。仲良くしてやってくれ」
「承知いたしました」
バスに乗っている連中にも降りるように伝えた。
ワイワイと、バスから降りて第二の故郷になる土の感触を確かめている。
「ケンイチ! よく戻ったな!」
メイドと一緒に慌てて走ってきたのは、白いブラウスに枯れ草色のズボンを穿いたリリスだ。
彼女の顔も半月ぶりだが、俺の顔を見て狼狽しているようには見えない。
彼女は王族で、主人になにかあったとしても、覚悟ができているせいかもしれない。
「君にも多大な心配をかけた」
「そのとおり! じゃが、なぜプリムラがひっついておる!」
「帰ってくる途中で会って、このまま離れてくれない」
「そなた! 抜け駆けしおったな!」
「……」
リリスの言葉にも、プリムラは俺の胸に顔をくっつけたまま。
「もう、ずっとこんな調子なんだよ。王都から帰るって連絡はもらったのか?」
「うむ、マロウ商会の鳥を使った連絡でな。あれは便利じゃのう」
「そうだな」
「それで?! いったいどこに飛ばされたのじゃ!」
「まぁ、待て待て――マサキ!」
村人の代表をリリスに紹介する。
「はい、ケンイチ様」
「彼女が、俺の正室――リリスだ」
「これは、初めてお目にかかります」
「リリスじゃ! よしなに」
「俺にくっついているのが、側室のプリムラ。ここの流通を賄っている大商会の娘だ」
「よろしくお願いいたします。プリムラ様」
「……」
マサキの言葉にも、彼女はくっついたまま。
「しばらく自由時間だ。正室と色々話さなくてはいかんし」
「解りました。森に行っても?」
いきなり見知らぬ土地に来てしまったし、手持ち無沙汰。
なにもすることがないから森に行って薪拾いをするらしい。
「ああ、ここらへんの森は安全だし大丈夫だ」
「それでは失礼します」
村人たちが森に向かう。
うちの獣人たちは、自分たちの家を確認しているようだ。
「リリス様」
「おお、アキラ殿もご苦労じゃったの!」
アキラの横には手を繋いだツィッツラがいる。
「いやはや、世界の果てに飛ばされてやっと帰ってきましたよ、ははは」
「一体、どこに飛ばされたのじゃ?」
「リリス、それは今から話すゆえ」
「母上」
アマランサスとアネモネもやってきたので、テーブルと椅子を出すことにした。
「ケンイチ、今日はもういいだろう? 俺はちょいとセンセの所に行ってくるからよ」
「ツィッツラを連れてか? 本当に大丈夫なんだろうな?」
「へーきへーき、ははは」
本当かよ。
絶対だな! 百万遍そうだな! って言いそうになったが堪える。
アキラは、自分のアイテムBOXからプ○ドを出すと、若いエルフを乗せてアストランティアに向かった。
マジか――いや、彼のことよりこっちだ。
椅子に座ろうとしたのだが、プリムラが離してくれない。
やむを得ず、長椅子を出して隣に座らせた。
「ほら」
膝を叩くと、彼女が俺の膝枕に頭を乗せてきたので、金髪をなでてやる。
どうやら、これで落ち着いてくれたらしい。
「むー!」
不機嫌そうなアネモネが、エルフの長い手足に絡め取られた。
「私が抱っこしてあげるぅ」
「ぎゃー! 止めろぉ!」
アネモネは本当に嫌そうだ。
「うーむ、プリムラに言いたいことが山程あるが、今日はケンイチの話のほうが先じゃ」
「ゴメンなリリス。心配をかけた」
「主の留守を守るのも正室の務め」
今回の事情を詳しく知っているのは、リリスとプリムラだけのようだ。
アストランティアにいるカナンには知らせていないらしい。
彼女は自分の仕事を抱えているしな。
いらぬ心配をかけて仕事に影響するとマズい。
テーブルにつくと、リリスに今まで起こったことを話す。
「共和国?! そのリッチの城は共和国につながっておったのかぇ?」
「ああ、あそこにあった転移門は、山脈を越えての移動などに使われていたんじゃないかな?」
「ううむ……あの者たちは?」
リリスが、村人たちを指差した。
お城でアルストロメリアに話したと同じ話をする。
「なんと――王室が容認したならよいが……」
「大丈夫、峠は完全に使えない状態になっているから、向こうから来ることもできないだろう」
「峠の様子はそんなに酷いのかぇ?」
「あちこち崩壊とがけ崩れで通れる状態じゃないよ。巨大なアイテムBOXを持っている俺だから帰ってこられた」
「そうじゃろうのう……」
彼女にも、シラー伯爵領のことを伝えた。
「なに? 隠し畑?」
「うむ、広大な隠し畑じゃ」
アマランサスの言葉にリリスの顔が曇る。
「して、その報告は?」
「もちろんしてきた」
「円卓会議の年寄りどもはなんと?」
「アルストロメリア様が先頭に立って、すぐに騎士団を伯爵領に向かわせることになったらしい」
「なんと、そんなことになったのかぇ……ケンイチの帰り道にとんでもないものを見つけてしまったのう」
「いや、まったくだよ。でも、アマランサスがいてくれたから気がついた。俺だけだったら、そのまま通り過ぎてしまっただろう」
砦で攻撃は受けたので、伯爵に抗議するぐらいで終わりだったな。
棚からぼたもち状態だ。
「そうだろうのう……」
「伯爵は反王家派みたいだから面倒なことになるかも」
「やつとつながっている、エキナセアベア公爵にも波及するかもしれん」
「あ~下手すると内戦?」
「解らぬが、覚悟をしておいたほうがいいかものう……」
「うわぁ……」
戦争なんて勘弁してくれよ。
――と言いたいところだが、貴族になってしまったからには、それも避けられん。
一応、王家派ということにしておかないと、一緒に制裁を食らってしまうし。
そうなると領民にも迷惑がかかる。
「それにしても、あの滝の上に遺跡とはのう……」
「あれは利用価値があるかもしれないし、道を整備すれば別荘や城としても使える」
「ここから遠すぎるじゃろ」
「まぁ、俺の召喚獣がいれば問題ない」
そこに紋章官のユリウスがやってきた。
「これはケンイチ様、おかえりなさいませ」
「彼には話しているんだろ?」
「うむ」
「色々と心配をかけた」
「いいえ、ケンイチ様なら、必ず戻ってくると信じておりました」
「けど今回のことは、物語にして報告とかできないことばかりだ」
「やむを得まい。場所が場所だ」
リリスが腕を組んで難しい顔をしている。
俺から共和国の話を聞いたユリウスが驚く。
「噂にしか聞かない共和国の真実の姿ということになりましょう」
「そうだな。まったく酷いところだった」
しかし、共和国の国民はそういう国を選んでしまったのだ。
王国も帝国もまったく関わるつもりはゼロみたいだしな。
関わりたくないというのが本音だろう。
俺が郷長という男に持たせた毒入りワインで、多少のダメージを与えられるかもしれないが、致命傷になるとは考えにくい。
考え込んでいると、料理人のサンバクがやってきた。
――そうだ、サクラには彼がいるから料理を作らなくてもいいんだ。
なんだか、ホッとしてしまった。
「ケンイチ様!」
「サンバク、しばらく留守にしてスマン」
「早速、夕食から準備に取り掛からせていただきます」
「お城に寄ったらアルストロメリア様に――俺がサンバクを引き抜いたから、王宮料理の味が落ちたと、嫌味を言われてしまったよ」
「それは、申し訳ございません」
「あ、そうだ!」
俺はアイテムBOXに入れていたものを思い出した。
ちょっと場所を空けてもらうと、広場に獲物を出して皆に見せる。
「「「おおお~っ」」」「「「きゃぁ!」」」
興味深そうに周りから見ていたサクラの住人からどよめきが起こり、そしてメイドたちから悲鳴が上がった。
「おおぅ!」
リリスも声を上げた。
「ケンイチ様、コレは?!」
俺が出したのはひっくり返った状態のカメ。
サンバクも見たことがないのだろうか?
固いボディをペタペタと叩いている。
「これはカメだよ。肉がすごい美味いらしい。これで料理を作ってもらえないだろうか?」
「お任せください!」
「それから、皮も甲羅もものすごく硬くて素材として使えるようだから、取っておいてくれ。あとでドワーフたちに加工してもらおう」
「かしこまりました!」
サンバクは手の空いている獣人たちを集めると、川までカメを運ばせた。
そこで解体をするらしい。
初めて解体をする獲物なのだが、大丈夫だろうか?
「あ~、自分で料理をしなくてもいいのは楽ちんだなぁ……」
「「ぷー、私はぁ、ケンイチの料理がいいのにぃ」」
セテラと、彼女に抱かれたアネモネが不満げだが、やっぱり美味い料理が作ってもらえるってのは楽だ。
「随分と魔物も倒したようじゃの?」
「リリスにも、あとで話してあげるよ」
久々にのんびりしていると、車の音が聞こえてきた。
アキラのプ○ドだ。
車が止まると、アキラとツィッツラが降りてくる。
アキラは車をアイテムBOXに収納すると、そのままどこかに行ってしまった。
「なにがあったのじゃ?」
「さぁ?」
1時間ほどすると馬がやってきて、そこから降りたのは黒いドレスと爆乳のレイランさん。
彼女の姿を見て、アキラの行動を察した。
「ケンイチ様、アキラを見かけませんでしたか?!」
「さっきチラリと見たんだが、どこかに行ってしまって……」
「そうですか」
普段と変わらぬように見える彼女だが、ただならぬオーラが漂っている。
「あの~、レイランさん。相手が男でも駄目ですか?」
「……」
俺の言葉を聞いた彼女が鬼のような形相になる――怖い。
「失言です。失礼いたしました」
思わず敬語。
そのままレイランさんは、ドスドスと馬を引いて集落のほうに向かった。
アキラの行方の聞き込みをするのかもしれない。
「いったい、どうしたのじゃ?!」
「アキラがエルフを連れてきたからだろうな」
「ああ、先程のエルフか? ケンイチの言葉から察すると男のようだが」
「そう、男だね」
「なるほどのう……」
リリスがなにやらニヤニヤしている。
「ケンイチ様!」
この声はカールドンだ。
「しばらく留守にして悪かったな」
「いいえ、滅相もございません」
「だが、旅の途中で古代の魔導書らしきものを見つけてきたぞ?」
「な、なんと!」
「エルフが古代語を読めるようなので、アネモネと一緒に解読してもらう」
「承知いたしました!」
彼の顔を見ると、目の下にクマができている。
「なんだか顔色が悪いようだが」
「これはお恥ずかしい……少々徹夜が続いておりまして」
「身体は大事にしてくれよ。これから面白いことが山程待っているからな」
「はい! もう、いくらでも研究のネタがありまして、寝ている暇もありません」
「いや、寝てくれ。君に倒れられたら大変だ」
「はは~っ!」
――なんて礼をしているのだが、また徹夜しちゃうんだろうな。
まぁ仕事が楽しくて仕方ないってことは、たまにある。
学者や芸術家ってのは気分で効率が違うから、気持ちよく仕事をしてもらうのが肝要だ。
無理をしない程度には頑張ってもらおう。
料理ができるのを待っていると、テーブルに豪華な料理が並んだ。
アキラが言ったように、カメの肉は確かに美味かった。
非常に歯ごたえがあり、肉が詰まっている。
食べたことがない味だ。
本当は盛大なパーティでもしたいところなのだが、俺が行方不明だったのは秘密にしているので、それもできない。
それはいいのだが、食事のときにもプリムラは離れてくれず、食事もしてくれない。
俺から少し食べさせてやると、少し食べてくれた。
村人たちも食事をして、村の広場でそのままキャンプ。
明日からの開墾作業が待っている。
リリスの許可を取り、プリムラと一緒に寝る。
心の広い正室に感謝だ。
長い間、ご愛読していただいた、アラフォー男の異世界通販生活ですが
今回を含めて、あと5回で完結となります。
ありがとうございました。





