267話 案の定
俺たちは峠をクリアして王都に向かっている。
街道が王都につながっているので、やむを得ず王都に向かうが、気持ち的にはスルーしたい。
どんな理由があったとしても、共和国の住民を連れてきてしまったのだ、お城に報告をしないわけにはいかないだろう。
とぼけてスルーしても、住民たちの交流が始まればそういう噂が広まってしまう。
あとからバレて苦しい釈明をするぐらいなら、最初から報告したほうがいいし、どうしても報告しないといけない案件も見てしまったしな。
どうしてもお城に報告しなければならないというのは――王国の西の都市であるセジーナの手前で隠し畑を見つけてしまった。
反王家派の資金源を見てしまっては、お城をスルーできない。
お城で実権を握っているアルストロメリア様を初めとする、円卓会議やらの面々に報告をする必要がある。
そうなると当然、共和国に至った経緯――つまり転移門の説明もしなくてはいけないわけで、それを考えると少々頭が痛い。
それでもオダマキに通じている転移門のことは秘密にするつもりでいる。
共和国にとばされた転移門も、魔石のエネルギーが切れて使えないってことでいいだろう。
実際に、俺とアキラぐらいしか使える者がいないのだが、巨大な魔石に魔力を少しずつ溜めれば使えると思う。
まさか、あの転移門を使って軍隊を送り込むとか言い出すはずがあるまい。
あんな原生林地帯を占拠をしても王国にメリットがまったくないし、だいたいこの国にそんな力はない。
それに街道を塞いでいた砦から貴族の俺に向けて矢を射られた。
これは見過ごすわけにはいかない。
いや、見過ごしてもいいのだが……。
「貴族は貴族らしい行動をせぬと、民にも舐められますぞぇ? それに砦を破壊した行動に関して正当性を主張せねば、こちらが悪役の誹りを受けますわぇ」
などと、アマランサスにも言われてしまう。
やっぱりそうか~そうだよなぁ。
彼女のアドバイスに従い、今回の騒動に抗議をするため、ここら辺一帯を治めているシラー伯爵に会いにいく。
車を進めると、伯爵領で一番大きな街、セジーナが見えてきた。
多重の堀と壁に守られた城郭都市。
その中にバスを入れる。
当然、住民たちからは奇異の目を向けられることになるのだが、もうすでに慣れっこだ。
そろそろ大きな湖の近くにあるアストランティアに、鉄の魔獣を使う変な貴族がいる――そんな噂が、ここまで流れてきていてもおかしくない。
馬なしで動く鉄の魔獣を見る住民の目から、そんなことを考えてしまう。
街の住民から注目の的だが、バスに乗っている村人たちも街の風景に釘付けになっている。
「うぉ~っ! すげぇ人がいる!」「ものがたくさん!」「食べ物もある!」
後ろの座席から村人たちの声が聞こえてくるが、屋根に乗っている獣人たちや子どもたちも騒いでいる。
特に驚いているのが、物資の豊富さだ。
元世界の使い捨て文化に比べたら大したことはないのだが、共和国の惨憺たる状況に比べるとここは天国らしい。
「はわ~、いろんな食べ物のにおいがしてくる」
鼻のいいアオイがクンカクンカしている。
「ケンイチ様! あれは!」
マサキが言っているのは、脚で地面を蹴って進む自転車――ドライジーネのことだろう。
もう、こんな街まで広がっているのか。
「あれはドライジーネという乗り物だ。俺が考えたもんだが」
「あれを!? ケンイチ様が!?」
「ああ、マロウ商会ってところで売り出している」
そろそろコピーも出回っているかもしれないが。
「「「へ~っ」」」
村人たちから感心する声が漏れるが、元世界の自転車がネタなので、やたらと感心されるとちょっと複雑。
運転席の後ろにいるアマランサスに、この都市について尋ねる。
「アマランサス、セジーナの人口ってどのぐらいなんだ?」
「15万ほどだと言われてます」
「アストランティアより多いね」
アネモネがフロントガラス越しに街の様子を見ている。
「ここから王都は近いので、みな王都に行ってしまうようですわぇ」
「別に王都に行っても、なにかあるってわけでもないのになぁ」
「只人ってのは、群れたがるよねぇ」
セテラが、嫌がるアネモネにちょっかいを出してからかっている。
「そりゃ只人ってのは、エルフみたいに強くないからな。基本的に弱いから、身を寄せ合って生きるしかない」
エルフなら、森の中で1人で狩りをして1人で暮らすなんてことを100年ぐらい余裕でこなす。
基本的に違う生き物なのだ。
「にゃー」
森猫になったベルもそうだろうな。
そんな話をしていると、多重の堀に囲まれた屋敷が見えてきた。
あそこがシラー邸らしい。
石塁で補強された堀は公園のようになっており、元世界なら観光地になっていただろう。
そのぐらい見事な景色だ。
共和国から一番近い都市ということで、本格的に防御陣地を敷いた街として作られたらしい。
「はぁ~、こんな屋敷もいいなぁ」
「聖騎士様、あの土地ではこのような陣地は無理ですわぇ」
「まぁ、解ってるよ」
あそこなら崖の上の大地に城を作ったほうがいい。
天然の要塞になる。
橋の手前まで来て停止すると、無線機のマイクを取った。
「アキラ。すぐに戻ってくるから休んでいてくれ」
「オッケー!」
アキラと話していると、座席に座っている村人たちがざわついている。
「どうした?」
「あ、あの……この立派な建物が、ここの領主様のお屋敷ですか?」
後ろにいるマサキが、外を見てつぶやく。
「そうらしい」
「……」
村人たちが顔を見合わせている。
多分、王国の格差ってやつに、戸惑っているのではないだろうか。
「共和国の連中は、王侯貴族がこういう暮らしをしているのが気に入らないといって、革命を起こしたんだよな」
「そ、そうです」
「その結果、みんなが食えないほどの貧乏になって平等にはなったってことだ」
「……」
元世界でも、大国の植民地として栄えていた国が独立して、最貧国に転落なんてのも結構あるし。
「ここまで連れてきて言うのもなんだが、王国とて格差もあるし、家も食い物もない貧民と呼ばれる人々も多数いる。決して天国ではない」
「はい、それは解ります」
「共和国と王国、どちらにも欠点はあるんだが、死人の数は王国のほうが少ないとは断言できる」
「……この街の様子を見れば解ります」
「まぁ、俺も領主だが、民から搾取して私腹を肥やしたりはしないから安心しろ」
「解りました」
確実に言えるのは、全国民を100%幸せにすることなんてできないってことだな。
元世界で最古の王朝は紀元前約3000年ぐらい前らしいが、人類の歴史5000年をかけても全国民が幸せでした~そんな国は存在していない。
悲しいかな、これが現実だ。
俺は、公園のような見事な景色を眺めながら、堀にかかる橋にバスを進めた。
堀は多重になっているため、その数だけ橋もあるのだが、すべて石造り。
満員バスが乗っても落ちることはあるまいが――念のため、アキラのバスは堀の外で待っててもらうことにした。
橋を渡り終えると門の前に到着。
白い2階建ての屋敷は、黒い鉄製の柵で囲まれており、中には木が植えられて庭が整備されている。
「はぁ、随分と金を持っているようだなぁ」
「そうですわぇ」
「隠し畑で儲けた金で維持してるんでしょ? ケケケ」
セテラが嫌味そうに変な声で笑う。
こんな見事な屋敷が、昨日今日に作られたものではないだろうが、維持に膨大な金がかかるのは確か。
「と、とまれー!」
鎧を着た2人の兵士たちがバスを止めたのだが、明らかに動揺している。
得体のしれない鉄の乗り物が、人を満載にしてやって来たのだから、動揺するなというほうが可哀想だ。
俺はエンジンを停止させると、バスから降りた。
「俺は、ケンイチ・ハマダ辺境伯だ。シラー伯爵にお目通り願いたい」
「へ、辺境伯さま?!」
「し、少々お待ちください」
なにやら相談をしていた兵士たちだったが、結論が出たのか1人が屋敷に向かって走り出した。
「まぁ、アポなしだしなぁ」
そこにアマランサスも降りてきた。
「おそらくは――あれこれと理由をつけて会わないと思われますわぇ」
「多分な……」
それでもしばらく待っていると、黒い服を着た髭の男がやってきた。
スマートで背が高く、ロマンスグレーの髪はいかにも執事風。
名前は――そう、セバスチャンだろう。
それしかない。
「ハマダ辺境伯様、主はただいま留守にしておりまして」
「それなら仕方ない」
俺は屋根に乗せてきていた、砦の責任者を降ろした。
「この男が指揮する部隊が、俺たちに向けて矢で攻撃を仕掛けてきた」
どこで攻撃を受けたかは言わなかったが、責任者の顔を見て解ったのだろう。
「……砦がある地域は立入禁止区域になっておりまして、侵入者に対する攻撃は致し方ありません」
「そうか? アマランサス」
「なんでございましょう」
彼女の名前を聞いた執事がピクリと反応した。
「天下の往来である街道に、勝手に関所を作って通行を禁止したり、攻撃を仕掛けたりというのは認められているのか?」
「いいえ、認められておりませぬ。そのようなことをするのは、山賊やら盗賊といった輩ですわぇ」
「それじゃ、俺が砦を通ってもなんら問題がないってことだな」
「はい」
執事が冷や汗をかいて、プルプルと震えている。
「……へ、辺境伯様の抗議の旨は、主に伝えますので、今日のところはお引取りを……」
「まぁ、伯爵本人がいないんじゃしょうがない。この男は置いていく」
俺は、砦の責任者を引き渡した。
「……はい」
「あとで文章にて正式に抗議することにするが――俺たちは、砦の向こうで面白いものを見てしまったんだよなぁ」
「……」
執事が青ざめて、今にも倒れそうになっている。
「俺たちはこのまま王都に向かい、お城に報告に上がるから、そのつもりで」
「……承知いたしました」
執事は深々と礼をした。
俺がここで騒いでも、なんの得にもならない。
辺境伯領にもメリットがないし、一緒にいる村人たちをトラブルに巻き込むわけにもいくまい。
彼らの安全第一だ。
王家に報告してもご機嫌取りにしかならないが、今回俺がやらかしたことに対しての緩衝材として役に立つだろう。
俺は車に戻ると、その場でUターンをして橋を渡り始めた。
無線機のスピーカーが鳴る。
『ケンイチ、どうだった?』
「伯爵は留守だと、知らんぷりされたよ」
『まぁ、そんなところだな』
俺は車を王都に向かう街道に戻した。
そのままバスを進めて街を抜けると、畑の中を進む。
街から離れて畑が途切れた小さな森の中で、昼食をとることにした。
街道は交通量が多いので、脇の草を刈って場所を作る。
休憩したり食事をするにしても、なにせ抱えている人数が多いので場所を選ぶ。
「アオイ、周囲に敵は?」
「ん~、大丈夫だと思う」
一応、獣人たちにも警戒をさせる。
草を刈るのは、アネモネのゴーレム魔法の出番だ。
集めた草はアイテムBOXに入れて、堆肥などに使う。
無駄にはできない。
昼食を摂るのはいつも俺たちだけで、そういう習慣のない村人たちは総出で薪を拾い集めている。
ずっと働きづめだった彼らも、生活に余裕ができて余興や趣味などを楽しむ時間ができたりするだろうか。
人はパンのみに生きるにあらず。
昔の偉い人の言葉であるが、生活に余裕がないと文化が生まれない。
農業だけではなくて、他の才能を開花させる村人もいるかもしれない。
共和国では、たとえどんな優れた才能があろうとも農作業に放り込まれる。
国が定める平等の名のもとにおいてだ。
俺の家族と、途中で拾った子どもたちも一緒に軽く食事を摂る。
森猫たちはパトロールに出かけた。
食事をしている間も、横の街道ではひっきりなしに馬車が通り過ぎる。
王都が近いので、100万以上の民を養うための物資を運び込んでいるのだ。
皆がアイテムBOXを持っている世界なら、馬車も減らせるのだろうが、この世界では収納の能力を持っているのは稀な存在。
都市を支える物資は馬車による輸送が支えている。
このまま王都まで行けると思うが、泊まる場所はどうしようか……。
「さて、王都に到着する頃にちょうど夕方になりそうなんだよなぁ」
「ケンイチ、泊まる場所がないよ」
アネモネの言うとおりだ。
「俺は、お城の庭を借りようかと思ってたんだが、いきなり行って駄目だと言われたら、かなり困るな」
「呆れた、そんなことを考えてたのぉ?」
セテラが呆れているが、どうせ報告はしなければならない。
王族の面々が会ってくれないなら、すぐに王都を離れて泊まる場所を探す必要がある。
「とりあえず、お城には報告しないと駄目だしな。上手くいけば、報告の褒美として庭を使わせてもらえるかなぁ~と思ってな」
「聖騎士様、お城が駄目なら、妾が懇意にしていた貴族の庭でもよろしいかぇ?」
「そりゃ願ったり叶ったりだが、いきなり押しかけて大丈夫か?」
「おそらくは……」
「それに、君はすでに王族籍がなくなり、奴隷なわけだし……」
「あの者たちであれば、些細なことにはこだわらぬと思いますがぇ」
いや、些細じゃないし。
「なにせ、この人数だからな。いきなり100人ぐらい泊めてくれって、かなり難しいと思うぜ」
アキラがツィッツラと一緒に、飯の代わりにビールを飲んでいる。
「そうなんだよなぁ…………よし! 今日はここでキャンプして、明日の昼頃にお城に行くか」
「それなら断られても王都を抜けてキャンプ場所を探せるな」
王都に着くのは簡単だが、泊まる場所を探すのにリスクがありすぎる。
ちょっとのんびり過ぎるだろうか?
サクラで待っているリリスやプリムラのことを考えると、いち早く帰ったほうがいいとは思うのだが、転移門のこともあるし、見てはいけないものを見てしまったしなぁ。
これも貴族としての務めだ。
色々と考えているとアキラが話しかけてきた。
「ケンイチ、追手は大丈夫だろうか?」
「あ~そうだな。伯爵のところから追手がやってきている可能性はあるな」
「だろ?」
「でも、トリップメーターで80kmぐらい進んだので、馬なら1日では追いつけないと思うが」
「そうか……そうだな。それじゃ大丈夫か」
「多分」
予定は決まったので、マサキを探す。
「お~い! マサキ」
「はい、ケンイチ様」
「今日はここで野宿をして、明日の昼に王都に入る。このまま王都に行っても泊まる場所を探せないからな」
「申し訳ございません。人数が多くて……」
「連れてきてしまった俺に責任があるんだから心配するな」
そこにミャレーとニャメナがやってきた。
「旦那! ここで泊まるなら、狩りをしてきていいかい?!」「ウチもにゃ」
「いいぞ」
彼女たちにクロスボウと、コンパウンドボウを貸す。
「やるにゃー」「俺はやるぜ! 俺はやるぜ!」
他の獣人たちも狩りをしたいらしい。
武器を貸してやることにしたが、矢も少なくなってきたのでシャングリ・ラから補充だ。
やはり、まっすぐな矢じゃないと狙った所に飛ばない。
結構重要だ。
「ケンイチ様、小物ならそこらへんの枝で作った矢で十分ですぜ」
「いただいた矢は、大物用にとっておきやす」
「ああ、好きにしていいぞ」
彼らから見ると、シャングリ・ラから購入した矢は、とんでもない上等なものに見えるらしい。
まぁ、工業製品で寸分違わず同じものがあるんだから、この世界じゃちょっと作るのが難しいオーパーツだ。
獣人たちが狩りに行ってしまったが、ポツンと残っているのがアオイである。
彼は身体が弱いので、皆についていけない。
留守番だ。
「アオイには大切な仕事があるぞ。その素晴らしい耳で周囲の警戒だ」
「はい、解ってます」
人がいなくなったので、のんびりする。
草を刈った場所にデッキチェアを出して寝転がり、セテラとアマランサスにも出してやった。
木の枝がいい感じで日除けになっているし、まったりとしよう。
森の中でマイナスイオンがたっぷりだし、鳥のさえずりも聞こえてくる。
マイナスイオンってなんちゃって科学だっけ?
まぁいいか。
「ふぅ……」
目を閉じる。
ずっと運転していたから疲れた――いや、祝福があるので肉体的な疲れはないのだが、精神的になぁ……。
たくさんの人々の命が俺の双肩にかかっているわけで。
色々と考えていると、俺に誰かが乗ってくる。
まぁ目を閉じてても解る――アネモネだ。
「アネモネさ~ん、重いんだけど」
「えへへ」
今回の旅は彼女がいてくれて助かった。
頭をなでなでしてやる。
「ふぁぁぁ」
目を閉じたままアネモネをなでなでしていると、ふと軽くなった。
「ん?」
――と思ったら、いきなり腹の所にずしりときた。
においで解る。セテラだ。
「お姉さん、重いんですけど」
目を開けると、エルフが俺に馬乗りになっている。
マジで重い。
「んふふ」
彼女が俺の両手を持つと、自分の身体にタッチさせてくる。
「昼間からそういうことはしないぞ」
「ケチィ」
そんな悪態をつきつつ、腰を前後に動かしたりしている。
エルフに憧れがある人なら夢のようなシーンだが、彼らとしばらく付き合ったあとだと、少々ウザい。
「なぜ俺なんかに構う? エルフから見たらツマランやつだろ?」
「そんなことないけどぉ。私と話ができる時点でこの世界の住民じゃありえないしぃ」
星間航行やらしていた古代のエルフに比べたら、元世界の科学はしょぼいが、一応それなりに発達はしていたからな。
彼女が使った魔法――空気を圧縮して破裂させるとか、その原理が理解できるし。
こんどは彼女がぺたぺたと俺の身体を触り始めた。
セテラに気になることを聞いてみる。
「エルフって不老で歳は取らないけど、マナが腐るって話を聞いたんだが?」
「そ、そんなわけないでしょ?! 誰が言ったの、そんなことぉ!」
マナはマナで通じるらしい。
「ただの噂だよ。それじゃにおいがきつくなったりは?」
「するわけないでしょ!」
それもそうだ。
俺の上に乗っているエルフは5000歳。
歳でにおいがきつくなるなら、すでに異臭を放っているに違いない。
「ひどいぃ。そんなに私のことが嫌いぃ?」
「悪いごめんよ。エルフのことをなにも知らないからさ」
まぁ確かに、思いっきりセクハラだったな。
いつもの癖が出てしまったようだ。
「むー! 私も乗る!」
とか言って、アネモネも俺の上に乗ろうとしている。
「ちょっとアネモネ! 無理だから」
3人の体重がかかった時点で、デッキチェアが潰れてしまった。
折りたたみができて、開くとストッパーが利くのだが、それが壊れてしまったようだ。
「あ~あ」
「ははは、ケンイチ! モテモテだなぁ」
そういうアキラもツィッツラとイチャイチャしている。
その光景を、ちょっと離れた場所から見ている村人たちの視線に気がついた。
皆がこちらをジッと見つめている。
彼らが崇める森の精霊を、俺とアキラが侍らせているのだ。
いや、侍らせているんじゃないけどな。
村人たちから見れば、そう見えるに違いない。
「はいはい、エルフ様は降りて。村人たちが見ているから」
「え~、あいつら関係ないじゃん」
2人に降りてもらうと、壊れてしまったデッキチェアを収納した。
直せると思うから、サクラについたらやるか。
「ケンイチ、コンテナハウスを出してくれ」
「いいけど、なにをするんだよ」
「フヒヒ、なにをするに決まってるじゃん。どうせやることもないし」
「マジか」
こっちは真っ昼間からか。
彼には世話になっているし、拒否することもできない。
別に悪いことをするわけじゃないしな。
ちょっと離れた場所にコンテナハウスを出してやった。
「ケンイチ~、私たちもしよぉ?」
「なにを?」
「もう、知ってるくせにぃ」
5000歳が、しなを作っている。
「BBAしつこい」
「BBAって言うな! このちびっこめ!」
「「ぐぬぬ……」」
アネモネとセテラをなだめていると、変な叫び声が聞こえてきた。
「ギャァ! ギャァァァ!」
なにかと思ったら、獣人たちが捕まえてきた森の鳥。
首を握られた鳥がバタバタと暴れていたのだが、獣人たちがその場で首を刎ねて解体を始めてしまった。
カオスである。
獣人たちが鳥を解体しながら耳をクルクルと回して、コンテナハウスの方角で止まっている。
「さすが竜殺しの旦那。エルフ様とヤりまくるなんてなぁ」
「まったくなぁ」
へんなことで感心されている。
普通の獣人たちにもバレているので、彼らより耳がいいアオイにも当然筒抜けになっている。
彼が顔を赤くしているのだが、こればっかりはどうしようもできない。
俺は別のデッキチェアを出して昼寝。
アネモネとセテラは、リッチのところで手にいれた本の解読をしているようだ。
そっちのほうも、サクラに帰ったら本格的に作業が進むものと思われる。
そのまま夕方になる。
鳥肉がたくさん手に入ったので、全部を使って唐揚げを作ることにした。
シャングリ・ラで、直径40cmのアルミの大鍋を購入してサラダ油を張る。
満杯にする必要はない。
材料が浸るぐらいでいいのだ。
揚げ粉は市販のものを購入して、人海戦術でまぶす。
それを一気に揚げれば100人分ぐらいはすぐに用意できる。
コンテナハウスに籠もっていたアキラとツィッツラも出てきた。
2人共賢者タイムだろうか。
悟りを開いたような顔をしている。
「これは美味い!」「こんな美味しいの、初めて食べた!」
村人たちにも唐揚げは好評である。
「おお~っ! うめー!」「熱々! うめぇ!」
もちろん獣人たちにも好評である。
「美味いにゃー!」「うめー!」
ミャレーとニャメナは、赤い缶のカレー粉をかけて食べているのだが、そのにおいが獣人たちのところにも漂ってきているようだ。
皆が鼻をヒクヒクさせて、羨ましそうに見ている。
やっぱり香辛料が好きなんだろうなぁ。
「よし! 獣人たちは戦闘にも参加してくれたし、色々と働いてくれている。褒美としてこれをやろう」
俺はシャングリ・ラから、ミャレーたちが持っているものと同じカレー粉を購入した。
ガラガラと空中から現れた赤い缶に、獣人たちが歓声を上げる。
「「「おおお~っ!」」」
「ほら、1人1個ずつ取っていいぞ」
「こ、香辛料なんて本当にいいんですかい?」
「ああ、自由に使え」
「「「うぉぉぉ!」」」
皆が奪うように取っているのだが、心配しなくても人数分ある。
彼らは袋もかばんも持っていないので、人数分の巾着を買ってみた。
巾着は白い麻製で、こちらの技術でも作れるものだ。
大中小3つ揃って800円。
腰紐に固定できる。
大きいものは、長い紐で肩にかけたりできるだろう。
共和国では個人財産は認められていなかったが、これからは自分の財産を管理しなくてはならない。
そういうことも1から教えてやらないと駄目なのだ。
「ほら、これもやる。自分のものは自分で管理するように」
「やった!」「ありがとうごぜぇます!」
腹がいっぱいになったら皆で寝る。
一応、獣人たちを交代で見張りに立てているのだが、念の為だ。
明日はやっと王都だ。





