265話 山崩れを渡る
サクラに戻る途中の峠越え。
なんとか頂上はクリアして、もう少しの所まで来ているのだが、がけ崩れに巻き込まれた。
死も覚悟したのだがなんとか助かり、崩れた現場で崩落斜面が落ち着くのを待っている。
一晩過ごしていると、山のどこかに潜んでいた洞窟蜘蛛に襲撃されたのだが、アキラのマヨを使ってこれを撃退。
なんなく退けた。
――がけ崩れの次の日の朝。
起きると皆で食事を取る――皆で一緒に食べられるグラノーラだ。
俺達は牛乳で食べているが、エルフたちは豆乳だ。
カップ麺と同じように、グラノーラが凄い気に入ったらしい。
途中で拾った子どもたちにも人気だ。
「ケンイチ」
「ん? なんだい、アネモネ?」
「もう大丈夫だから」
「ああ」
彼女の顔色もいいし、ちゃんと朝食も食べている。
「ちびっこは寝てたらぁ?」
セテラのからかいに、アネモネが俺を睨む。
「もう、大丈夫だから」
「解った。頼りにしているから」
――とはいえ、あまり危険なことはさせたくないのだがなぁ……。
ベルとカゲは、猫缶を食べ終わると崩れた斜面に向かった。
どうやら斜面を探索するらしい。
俺が気がついたら斜面にいたので、どうすることもできない。
お母さんの判断に任せよう。
食事が終わると村人たちの所に向かう。
空は快晴でいい天気なのだが、俺たちの行く手を阻む土砂の山。
頭を抱える状況だが、以前にベロニカ峡谷でやったように、重機を使って取り除く必要はない。
俺たちだけがクリアできればいいのだ。
「マサキ、食料と水は大丈夫か?」
「はい、まだ大丈夫です。滝で水を汲んでおいて、よかったです」
「まったくなぁ。まさかこんなことになるとは……」
彼らに貸し出しているコンテナハウスは、そのつど俺のアイテムBOXに収納している。
そうすれば、水や食料が傷むことがないからだ。
彼らの村でプレゼントした黒狼の肉や、途中で遭遇した熊の肉も、まだ新鮮なまま。
「今日一日、様子を見る。まだ、ちょっと崩れているしな」
「解りました」
話している間にも、小さな岩がコロコロと転がってきた。
数kgの岩でも人にぶつかれば大怪我、当たりどころが悪ければ死ぬこともありえる。
「「「ケンイチ様~!」」」
四方八方から子どもたちに群がられる。
「朝飯食べたか?」
「「「うん!」」」
頭をなでてやる子どもたちの表情も明るく、顔色もいい。
彼らの主食は、小麦粉を使ったトルティーヤのような薄い塩味のパンだ。
少しもらって食べてみたが、肉を挟んで食べたりしても結構美味い。
まぁ、使っているのが俺が渡した小麦粉のせいもあるかもしれないが。
村にいたときは、これすら滅多に食べられなかったのだから、食生活は大幅に改善している。
崩落現場にやってくると、アイテムBOXから取り出したドローンを飛ばす。
上昇させると、がけ崩れの全容が見えてきた。
幅は50mほどだが、崩れた頂上の高さはドローンの上昇限度と同じ高さ――つまり100mってことだ。
「はは、よく生きてたな」
「ケンイチ、見せてくれ」
「ほい」
やってきたアキラにコントローラーの画面を見せてやる。
「うわぁ、こりゃすげぇな。普通じゃ助からんだろ。こんなの」
「セテラが防御魔法で潰れないようにしてくれたし、俺も布団を敷き詰めて、頭を打ったりしないようにしたからな」
「はぁ~、ケンイチ以外じゃ無理だな。俺のコ○スターが巻き込まれてたら終了だった」
「ツィッツラはデカい防御魔法を持っていないのか?」
「ないみたいだな」
「セテラなら持っているかもしれないが……」
「あのBBAもなにを考えているのか、さっぱりと解らん」
エルフと付き合いの長いアキラでも、セテラは少々異質らしい。
「まぁ、エルフだし……というか、5000歳だし」
「だよな、はは」
「なぁに? もしかして私の悪口言ってるぅ?」
俺たちの所にエルフが姿を見せた。
「いや、セテラはデカい防御魔法は使えるのか?」
「使えるけど、通常だと魔力が少々足りないわぁ」
そういえば、川で首長竜にデカい攻撃魔法を使ったときも、いきなりぶっ倒れてたな。
「それじゃ、俺がアネモネに渡した魔石みたいなものがあれば、なんとかなると?」
「そうねぇ」
それじゃ、いざというときのために魔石を用意しておいたほうがいいな。
ドローンを降ろすと、俺にはやることがある。
まずは新しいコ○スターの購入だ。
シャングリ・ラで車を探す。
くたびれてても走ればいい。
ピカピカの新型を買っても、今回みたいなこともあるしな。
「ポチッとな」
銀色のロングボティが落ちてきた。
走行距離18万kmで300万円。
まぁ無難な所だろう。
今まで2台とも白だったが、シルバーを購入してみた。
シャングリ・ラを見ると、走行距離500kmぐらいの車体が並んでいるのだが、新車っぽいと800万円ぐらいするんだな。
元世界じゃ、こんなの買えなかった。
異世界にやってきて買えるようになったなんて、ちょっと複雑な気分。
「お~、新しいコ○スターか」
「まぁな。これがないと始まらない」
「今度は、シルバーなんだな」
「たまに違う色もいいだろ」
燃料タンクにバイオディーゼル燃料を入れて、エンジンをかけてみる。
一発始動で順調だ。
ここで不調でも返品は利かないだろうし、サイトに書いてる説明を信じるしかない。
いや、買取に入れれば少しは戻ってくるのか。
「これって対価はどのぐらいなんだ?」
「日本円で300万相当だな」
「結構するなぁ」
「本当に金貨を突っ込むと、市場から金貨が消えてしまうのでヤバい。価値のあるものならなんでもいいんだが」
「ケンイチの力も色々と制限があるんだな」
「アキラが作ったマヨ油だって、大量に市場に流したら値崩れするだろ?」
「そうだ。他国に潜入して、マヨ油モノカルチャー文化を作って、いきなりトンズラするってこともできる」
彼は生体油田なので、そのぐらいのことは本当にできるだろう。
アキラの話では、1日にドラム缶100本ぐらいは普通に作れるらしい。
銀色の車体に村人たちが集まってきた。
暇なのだろう。
「この新しい召喚獣が、お前たちを俺の領まで運んでくれる」
子どもたちが俺の周りに集まる。
「ケンイチ様、白い子は死んじゃったの?」
「そうだな。俺たちを守って、あそこに埋まってしまった」
俺は、バスが埋まっている辺りを指差した。
「可哀想……」
「皆を運んで主を守るのが仕事だから、使命をまっとうしたんだよ」
「しめいって?」
子供に説明が難しい。
「与えられた仕事ってことだな。皆も俺の領地へ向かうために、助け合うだろう?」
「うん……」
正確にはちょっと違うかもしれないが、なんとなく解ってくれればいい。
村人たちが集まってくると、当然獣人の女たちも集まってくるので、ミャレーとニャメナがすぐにやってきて警戒を始める。
いつもの言い争いだ。
なでるぐらいならいいと思うのだが、他の女のにおいが移るのが許せないらしい。
これは只人には解らない感覚だ。
――とはいえ、元世界でも移り香がどうのとか、香水のにおいが~とかあるので、それと似たようなものか。
「ナンテン」
「はいよ」
「ちょっと尻尾を見せてみろ」
「うん」
彼女が恥ずかしそうに尻尾を見せる。
「お? 毛が生えてきたぞ? これは治ってきてるんじゃね?」
「ほんとうかい?!」
「ああ」
「やった!」
歓喜のあまり、ナンテンが俺に抱きつく。
「こらぁ! なにするにゃ!」「どさくさに紛れやがってぇ」
うちの獣人たちがブーブー言っているが、治って嬉しいのだろう。
「これが全身に広がると、毛が全部抜け落ちてしまうからな」
「み、見たことがあるにゃ……」「お、俺も……」
「もし、そうなったらどうするんだ?」
俺の言葉に獣人たちが顔を見合わせている。
「皆とは一緒にいられないから、一人でどこかに行くにゃ……」
自然に治るとは考えられないから、そのまま衰弱死してしまうのか。
うちの獣人たちや、共和国の獣人たちも同じようにするらしい。
彼らにとっては、そのぐらい深刻な病気なのだ。
「治ってよかったな。いや、まだ治ってないか――もう一回消毒して魔法を使ってやろう」
俺のは、魔法とはちょっと違う感じもするが。
アイテムBOXから出した消毒液を塗って、力を使う。
「な、なーん……」
ナンテンがプルプルと震えている。
「毎日ブラシしているか?」
「し、してるよ」
「よっしゃ、こんなもんだろ。完全に治るまで診てやるからな」
「あ、ありがとう……」
「「ぐぬぬ……」」
なぜか、ミャレーとニャメナがぐぬぬしている。
病気なんだから仕方あるまい。
「他の者たちも、毛皮に異常があったらすぐに教えるんだぞ?」
「「「へい!」」」
獣人たちのことはさておき、コ○スターだ。
車体は問題ないので、次に無線機。
埋まった車体についていたのはまだ使えたが、取りに戻れない。
新しく購入するしかないので、同じものを購入する。
ラ○クルや、アキラのプ○ドにも載っているから、都合5台目か。
いや、ラ○クルも1台潰したので、6台目か。
アキラのバスも出して、無線機のテストをする。
「アキラ、聞こえるか?」
『おお、バッチグー!』
「カッコ死語だな」
『はは』
さて、次は屋根に載せるルーフキャリアだ。
これは力自慢の獣人たちに手伝ってもらわないと。
シャングリ・ラで購入した白いキャリアが、獣人たちの手で屋根に載せられた。
俺とアキラで電動工具を使って固定していく。
「そうだ、ケンイチ。コ○スターで、トレーラーみたいのを引っ張っているのを見たことがあるぞ?」
「へぇ。おもしろそうだな」
早速、検索してみる。
コ○スター用の、ヒッチメンバーというのが売っているな。
でも、これって取り付けに加工がいるんじゃ……。
どうせやることもないし、購入してみた――7万円である。
購入ボタンを押すと、コの字型の黒い金具が落ちてきた。
バスと同じ幅らしいので、かなり大きくて重い。
コの字の真ん中に丸いものが突き出ている。
ここで連結するようだ。
「ケンイチ、それは?」
「これがトレーラーをつなぐための金具らしい。説明書にはヒッチメンバーと書いてある」
「へぇ。この丸いので合体するんだな?」
「そうらしい――でもこいつは、フレームに穴を開けてボルトで固定すると書いてあるなぁ」
「やってみようぜ、どうせやることもねぇし」
アキラの言うとおりだ。
「そうだな」
これでトレーラーを連結できれば、人を運ぶ人数が増やせるし。
ここのような曲がりくねった峠道は駄目だがな。
「アキラ、これって牽引の免許はいるのか?」
「重量が750kg以上のやつは免許がいる――けど、ここじゃ関係ねぇし」
「そうか」
彼は牽引免許も持っているらしいからな。
まずは、車体を持ち上げるために、ウマ(ジャッキスタンド)を買う。
赤い三角形で脚が3本ある。
1個で3tまでいけるらしいが、4つ使えば12t――持ち上げるのは後ろだけだ。
大丈夫だろう。
さて、持ち上げるためにフロアジャッキを購入したが――いい手を思いついた。
力自慢の獣人たちに持ち上げてもらい、ウマを4つ噛ませる。
こっちのほうが早い。
車体の後部が持ち上がったら、フロアジャッキを使ってヒッチメンバーをバスのフレームに当てる。
地面にウレタンマットを敷くと、アキラが下に潜り込んだ。
「あ~なるほど、ここに穴を開けるのか」
車の下からアキラの声が聞こえてくる。
「穴の大きさは?」
「多分、16mmだと思うが」
「どのぐらいの大きさからいく?」
「6mmでいいんじゃね?」
こういうのは、小さい穴を開けてから徐々に大きなドリルを使う。
アイテムBOXから充電ドリルドライバーを出すと、6mmのドリルビットを入れて、アキラに手渡した。
「あと、10mmと16mmのドリル」
「サンキュー」
下から鉄の削れる音が響いてくる。
「アキラ、レンチのソケットは?」
「う~ん、多分24」
アイテムBOXから、充電式のインパクトレンチと24mmのソケットを用意した。
「ケンイチ、レンチ。仮止めだ」
「ほい」
下から、レンチの音が聞こえてきた。
アキラは反対側もやるらしい。
「腕が疲れたら、俺が代わるぞ?」
「大丈夫。祝福持ちだからな」
そこにミャレーたちがやってきた。
「ケンイチ、なにやってるにゃ?」
「いつも使っていた召喚獣が死んでしまったので、代わりを用意している」
「頑張ってたのににゃ」「旦那を守って死んだんだから、やつも本望だぜ?」
「そうだな」
話している間に、取り付けが完了したようだ。
「せっかくジョイントが取り付けできたし、つないでみるか」
「キャンピングトレーラーを作れるのか?」
「多分」
中古のトレーラーが250万円ぐらいで売っている。
高級車で有名なツイード製らしいが、1.5t少々あるので牽引免許なしでは運転できない。
――とはいっても、ここは異世界。
免許なんて関係ない。
心配なら、免許を持っているアキラに運転してもらえばいいわけだし。
その前に、無駄遣いしまくっているような気がするが……いや、これは先行投資だ。
他の地方から村人を集めることがまたあるかもしれないし――と、自分に言い訳をしながら購入ボタンを押した。
目の前にデカいキャンピングトレーラーが落ちてくる。
色は白で、普通の乗用車ぐらいの大きさがある。
「おお? 随分デカいやつだな。これは免許が必要なやつだろ?」
「そうみたいだな」
アキラと一緒にトレーラーの内部に入ると、茶色のニスを塗られた豪華なインテリアが俺たちを出迎えてくれる。
小さな窓に、テーブル、組み替えるとベッドになるソファー。
台所とトイレも完備。発電機もあるので電化製品も使える。
俺が作った家より豪華だ。
「あ~そうかぁ。最初に自分で家を作ったが、こういうキャンピングカーって手もあったなぁ」
「アメリカ製のデカいモーターホームを作ってみるとか?」
「でも、最初は金がマジでなくてギリギリだったからなぁ。やっぱりアレが最善だったかな?」
2人で収納などを開けてみる。
「お~っ、さすがヨーロッパ製だな」
アキラが家具を手で触ってチェックしている。
「今はEUじゃないか?」
「EUの志は認めるが、金持ちも貧乏人も一緒になってサイフも一緒なんて無理があるよな」
「はは、そうだな」
「やっぱり西洋家具の本場は違うな」
「そりゃそうだが、日本だって障子貼って和箪笥を並べたら……似合わないか」
「そもそも、そういう文化自体がなくなりつつあるし」
「あ~、和室がない家とかも多いしな」
取り扱い説明書があったので読んだのだが、重大なことが書かれていた。
「ありゃ!」
「どうした?」
「走行中は乗車できません――って書いてある」
「そうなのか? まぁ、たしかにシートベルトもないし、動いている最中にソファとかに座っていたら危険ではあるが……」
「やっぱり危ないか……」
「そうなんだろうな……」
こいつは盲点だったが、キャンピングカーなんて使ったことがないので知らなかった。
こりゃまた盛大に無駄遣いをしてしまったぞ。
「固定の宿泊施設として使えなくもないか……」
たとえば、急なお客用のお泊りの場所として。
荷物が積めるカーゴトレーラーもあるが、それなら俺のアイテムBOXがあるしなぁ。
俺はマイクロバスとキャンピングトレーラーを、アイテムBOXに収納した。
「まぁ、暇つぶしにはなったな」
アキラが両手を上に上げて、伸びをしている。
とりあえずマイクロバスは再び使えるようになったので、これでサクラまで行くことになる。
この峠を越えれば、車が壊れるような場所はないだろう。
「ケンイチ、暇だから麻雀しようぜ」
「それはいいな。そうするか。しかし面子が……」
「エルフかアマランサスさんなら、頭いいからすぐに覚えられるだろ?」
「あの2人を入れると、俺たちに勝ち目がなくなりそうな気がするが」
「大丈夫、ははは」
アキラは笑っていたのだが、麻雀を教えたエルフとアマランサスにボコボコにされた。
だいたい、ルールどころか点数計算まで一発で覚えるとか、どういう頭をしているのだろうか。
確率計算だけで勝てるものではないとはいえ、こんなに差があるのか。
プリムラも強かったしなぁ。
会社の社長とか政治家とか、麻雀強いやつが多いって聞くから、生まれたときから持っているツキってやつが違うんだろうな。
どうせ俺は凡俗ですよ。
麻雀している俺たちを、獣人たちが囲んで興味深そうに見学している。
博打が好きなのだろうが、もっと簡単なルールじゃないと覚えられないだろう。
麻雀のルールやら計算は複雑怪奇すぎるからな。
ギャラリーはアマランサスが一番多い。
美人で腕っぷしも強い、酒も強い、博打も強い――これで人気が出ないはずがない。
獣人たちは強い者に従うのだ。
麻雀をしていると暗くなってきたので、村人たちのコンテナハウスも出して飯の用意を始める。
その頃には森猫たちが戻ってきていた。
「お母さん、向こうはどうだった?」
「にゃー」
彼女の話では、崩落現場を過ぎれば道は綺麗らしい。
それではここが最後の難所ってわけか。
飯を食い終わったら、やることもないので寝るとしよう。
今日見ていた様子では、崩落はかなり落ち着いた。
明日から作業に入れるだろう。そのために英気を養わなくては。
今日はセテラと寝る。
アネモネは不機嫌そうだが、エルフには色々と手伝ってもらわないといかんからな。
落石の危険から村人たちを守るために、防御魔法を使う。
いざというときにアネモネ1人の魔法では、範囲が広くてカバーしきれないだろう。
そのためには、エルフのご機嫌を取らないとな。
別に彼女のことが嫌いで、嫌々やっているわけではない。
他種族ということで、多少の文化の違いはあるが、魅力的な女性だ。
彼女の白くて細い氷の結晶のような身体を堪能して――寝る。
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――崩落現場で待機して次の日の朝。
朝起きると皆で飯を食う。
エルフの相手をしたので、アネモネが不機嫌だが仕方ない。
「アネモネ、今日は頼むぞ? 体調は大丈夫か?」
「……うん」
「セテラにも、ちょっと手伝ってもらうことになる」
「いいよぉ~」
アネモネと正反対に、セテラはご機嫌だ。
「旦那、俺たちは?」「なにをするにゃ」
「他の獣人たちと一緒に道を作ってもらうからな」
「解ったぜ!」「うにゃ」
「俺たちは待機か」「そうだね」
アキラとツィッツラがグラノーラを食べている。
竜殺し自慢のマヨも、岩石には通用しないからな。
「ツィッツラには、予備の盾役として待機してもらう」
「いいよ」
「アマランサスも待機」
「承知いたしました」
戦闘がなければ、彼女の出番はないだろうな。
食事のあと、ドローンを飛ばして再度現場をチェック。
崩落は収まったらしいが油断はできない。
万全の態勢でいく。
コンテナハウスなどを収納すると、出発の準備をして村人たちを集める。
「マサキ、獣人たちを使って、崩落斜面に道を作る」
「はい――私たちもお手伝いを……」
「いや、力も体力もある獣人たちに任せろ。逃げるのも早いしな」
「そのとおりですぜ」「ははは」
幅50mほどだ、獣人たちの総力を上げればそんなにはかからんだろう。
シャングリ・ラで、シャベルを10本購入する。
1本800円なので、10本で8000円。
10人の獣人たちがシャベルを持って、斜面に入る。
余っている連中は崖の見張りだ。
落石があったら皆に知らせる。
幅が50mの斜面の16m地点にアネモネ、32m地点にセテラを配置する。
「落石があったら外に逃げるか、魔導師の陰に隠れろ。魔法で弾いてくれる」
「「「おおおっ!」」」
50mの斜面を10人で掘ったら、1人当たり5mだ。
獣人たちのパワーならすぐに終わる。
車を通すわけじゃないから、人が1人歩ける道幅があればいい。
連れているのが全部獣人たちだったら、こんなことをしなくても、そのまま渡って終了なんだがな。
道ができたら、早速村人たちを渡す。
間隔を空けて、1人また1人と村人たちが狭い道を足下を見て渡っていく。
一斉に渡ってしまうと、なにかあったときに、逃げるに逃げられなくなる。
俺が途中で拾った兵士たちも渡る。
子どもは獣人たちが担いで渡ったが、これが一番早い。
獣人なら子供を2人抱えても平気だ。
「上は見るな、足下だけを見て渡れ。上はちゃんと見張りが見ててくれる」
「「「はい」」」
「落石があったら、魔導師の所に集まるように」
「「「はい」」」
順調に村人たちが、半分ほど渡ったところで――。
「落石だぁ!」
見張りの獣人が叫んだ。
「慌てるな! 魔導師の所に!」
人間の頭ぐらいの岩が落ちてくるが、斜面を転がるので時間が少々ある。
「「聖なる盾!」」
村人たちがアネモネとセテラの下に避難すると、2人が同時に防御魔法を唱えた。
アネモネも盾を斜めに出しているようで、あのときにしっかりと学んだようだ。
幸い通り過ぎていったが、飛ぶようにバウンドしていった岩は、かなりのスピードが出ていた。
「ひい!」
アネモネの下にひざまずいていた村人の女が悲鳴を上げた。
あれが命中すれば、人間は弾き飛ばされて谷底まで真っ逆さまだ。
身体にも深刻なダメージを負うことになる。
岩は通り過ぎたが、落石によって併発された細かい石が崩れてきて防御魔法に当たっている。
あの石でも当たればただでは済むまい。
石の崩れも収まったので、再び渡りを再開――村人たち全員が1時間ほどで渡り終えた。
「さて、行くか。最後は俺たちだ」
「おう!」
獣人たちは先に渡って待っている。
俺が先頭で後ろがアキラ、そのあとをアネモネ、アマランサス、ツィッツラがついてくる。
セテラは渡り終えた場所で待っていた。
斜面から降りて、街道の道に足をついた。
「ふう! 無事に渡り終えたな」
「「「はい、ありがとうございます!」」」
「いや、皆に怪我がなくてよかった――マサキ」
「はい!」
「あの、シャベルは村にやるからな」
「ありがとうございます!」
彼らのコンテナハウスを出すと、シャベルを収納した。
つぎに2台のマイクロバスを出す。
やっとこれで次に進める。
峠もそろそろ終点に近いはずだ。





