264話 様子を見る
王都に戻る途中、険しい峠を2台のバスが走る。
数十年使われていなかったので荒れ放題で、崩れている場所もある。
それをなんとかクリアしてきたのだが、半日もすれば麓に届く――という場所で山崩れに巻き込まれた。
大量の土砂をアネモネの魔法で支え、村人たちをなんとか逃がすことに成功。
俺とアネモネ、アマランサスとエルフのセテラが、土砂に巻き込まれた。
洗濯機の中に放り込まれたかのごとくシェイクされたが、なんとか4人とも無事。
土砂に埋まったバスを這い出ると、皆の所に戻った。
「「「おおおお~っ!」」」
待っていた村人たちから歓声が上がる。
「うにゃー!」「旦那ぁぁぁぁぁ!」
ミャレーとニャメナが俺に抱きついてきたが、俺はアネモネを背負ったままだ。
獣人たちの頭をなでてやる。
「泣くな泣くな」
「うにゃぁぁぁ!」
ミャレーが俺から離れない。
「皆に心配かけてすまなかったが、まずはアネモネを降ろさせてくれ」
皆に下がらせる。
アイテムBOXからベッドを出すと背中から彼女を降ろした。
その上にアネモネを寝かせる。
こんなことができるのも、便利な収納があるからだ。
「アネモネ、ごめんよ。こんな小さな子に無理をさせてしまって」
彼女の手を握る。
「小さくないから」
「そうか、そうだな。ごめん」
この世界では大人扱いなのかもしれないが、俺の中では彼女はまだ子どもだ。
彼女には悪いが、どうしてもそういう風に見てしまう。
アネモネの頭に手を乗せると、祝福の力を使う。
「ふぁぁぁ……」
「そのまま休んでな」
「うん」
「にゃー」「みゃー」
ベルとカゲもやってきて、俺の脚にスリスリを繰り返している。
「お母さんにも心配かけたな」
「にゃ」
黒い毛皮をなでていると、アキラがやってきて俺の肩に手を載せた。
「いやぁ焦ったぜぇ。悪いがケンイチの心配より、ここから先のことを考えちまったよ」
「まぁ、そりゃ仕方ない」
「ここでケンイチに死なれたら、90人近くがにっちもさっちもいかなくって詰むからな」
彼の顔を見ても、ことの深刻さが解る。
「はは、悪い悪い」
「自分が危ない目に遭ってなくても走馬灯って回るんだな。初体験だわ、ははは」
大容量アイテムBOXも使えなくなるし、バスをこの場に置いて徒歩でサクラを目指さなくてはならなくなる。
食料も水も俺の収納の中だ。
アキラのアイテムBOXにも多少の物資は入っているが、これだけの人数を支えることはできない。
彼の収納にはバイクや車も入っているので、王都まで先行して救助を要請するという手もあるが、王家が動いてくれるとは限らない。
これらのことが一瞬で脳裏を走ったのだろう。
竜殺しと呼ばれた男が力なく笑っていると、マサキが俺の前に飛んできた。
「なにもケンイチ様は悪くありません。命を懸けて私たちを救ってくれるなんて――共和国ではなかったことです!」
他の村人たちも俺の前にやってくると膝をついて泣き始めた。
「ありがとうごぜぇます~」「ありがとうごぜぇますだぁ」
覚悟を決めてこの旅に賭けたとはいえ、よほど恐ろしかったのだろう。
「ほら、エルフ様の魔法で助かったんだ」
今度は村人たちがセテラの所に行った。
「もう、全部ケンイチのためだからぁ!」
彼女は村人に崇められるのが嫌らしい。
「それにしてもよく助かったね」
村人たちに崇められているセテラを見て、ツィッツラが笑っている。
「運がよかったのと、セテラのおかげさ」
「ああ、もう!」
セテラが村人から逃げて、俺の後ろに隠れる。
俺は皆のほうを向くと、静かに頼んだ。
「とにかく、一旦落ち着かせてくれ」
アネモネが寝ているベッドの縁に座り、アイテムBOXから出した缶コーヒーをゴクゴクと飲むと、ため息をついた。
「ふ~ぅ……ははっ」
なぜか笑いがこみ上げる。
「マサキ」
「はい」
「全員いるか?」
「います」
「アオイ――お前の仲間と、あとから加わった兵士たちは」
「全員いるよ」
彼が言うように、マツや兵士たちの姿も見える。
「そうか……」
俺は残っているコーヒーを持って、山崩れの上を見た。
高さは100mぐらいあるだろうか?
草や木が生えている山が、皮を向かれたように茶色の肌を露出させている。
「聖騎士様……」
アマランサスが心配そうな顔をしている。
「まぁ、まてまて」
俺は缶に残ったコーヒーを飲み干すと、アイテムBOXの中に入れて、代わりにドローンを取り出した。
まずは上空から偵察だ。
小さなドローンが飛び立ち、空から見た光景は――かなり大規模な土砂崩れ。
高さ100m幅50mといったところか。
偵察の終わったドローンを収納した。
「ふう……」
やたらと喉が乾くので、もう1本缶コーヒーを飲むと、隣に寝ているアネモネの様子を見る。
「アネモネもなにか飲むか?」
「……だっこ」
「はぁ?」
彼女が両手を伸ばしてきたので、抱っこしてやる。
「あ~! それ、私にもしてよぉ」
エルフが俺の後ろでブーブー文句を言っている。
「セテラ」
「なぁに?」
俺は立ち上がると、彼女の手を引っ張り、背中から抱き締めた。
身体をなで回し、耳をそっとなでる。
「あっ! 耳は……」
そのまま、崩れている山の上が見える位置までやって来た。
「崩れた上を見てくれ」
「うん……んん!」
「爆裂魔法の魔法は使えるのか?」
「使えるけど……んっ」
彼女が身体をくねらす。
「崩れている一番上に撃ち込んでくれ」
「ちょっと……このままじゃぁ撃てないからぁ!」
彼女が顔と耳を真っ赤にして、俺の手を振りほどいた。
「もう……」
セテラが魔法を使うようなので、アキラのマイクロバスを収納すると、500mほど村人をバックさせた。
アネモネのベッドも獣人たちに担いでもらい、一緒に下がらせる。
俺とエルフだけが現場に立って魔法を使う。
彼女が気合を入れると、崖の上に青い光が集まり始めた。
「むん!高位爆裂魔法!」
青い光が赤い爆炎に変わると、土砂が舞い上がり衝撃波が耳に届く。
エルフが引き起こした爆発が引き金になって、地鳴りを立てて再び山が崩れ始めた。
俺たちが立っている道路も揺れているのが解る。
地響きで、山からたくさんの鳥が飛び立つのが見えた。
魔物の有無は解らんが、鳥はいるらしい。
後ろを見ると、村人たちが頭を抱えて地面にへばりついているのが見える。
屈強な獣人たちもこれは怖いらしい。
しばらくすると地すべりはゆっくりと止まったが、まだバラバラと大中の岩が転げ落ちている。
経過を観察してから皆の所に戻った。
「アキラ、これで地盤のゆるい所や危ない場所は崩れたと思うので、崩落が落ち着くまで数日待とうと思う」
「解った」
「ふう……」
「埋まったバスは取りに行くのか?」
彼がマイクロバスが埋まっている辺りを指差す。
「いや、今の崩落で完全に埋まっただろう。掘り起こすのは危険だし、あそこにたどり着くのが大変だ」
「あんな場所から掘り起こすやつもいねぇか」
「土の中なので、湿気ですぐにボロボロになると思うが……」
「そうだな」
「ま~た、コ○スターを用意しないとなぁ」
「はは、お疲れさまです」
まぁ金はあるし、コ○スターは定番の車種なんで弾に困ることはない。
こういうことがあるからボロボロの中古で十分なんだよ。
共和国に来てからラ○クルも1台潰してしまったしな。
皆を集めて今後の方針を伝える。
「悪いが、ここに数日留まって、山の斜面が落ち着くのを待つ」
「解りました」
「落ち着いたら、徒歩で崩れている土砂を乗り越えて向こうに渡る」
「そうだな、ここで慌ててもしゃーねぇ」
アキラの言うとおりだ。
急いては事を仕損じるってな。
慎重には慎重を重ねる。
キャンプすることが決まったので、コンテナハウスを横に並べて出した――なにせスペースがない。
列車のようにはつながっておらず、距離が空いている。
こんな場所で魔物の危険は――どうだろう?
「アオイ、なにか生き物の気配は感じるか?」
「鳥はたくさんいるのが解るよ。色々な鳴き声が聞こえる」
「その他は?」
「う~ん……」
「解らないか?」
「ごめんなさい……」
「気にするな。鳥がいるってことは、空飛ぶ魔物がいるのかもしれない。告死鳥ってのは人は襲わないのか?」
こういう場所には黒い大きな鳥が生息している。
王都とソバナの間にあるベロニカ峡谷にも生息していた。
「普通は大丈夫だけど、小さな子どもや赤ん坊がさらわれることがあるよ」
ニャメナは心配ないと言うが、鳥なら夜は大丈夫だろう。
鳥目っていうぐらいだし。
「だが、警戒はしよう。夜中に交代で見張りを立てる」
こういう仕事は獣人たちの出番だ。
耳も鼻もいいし、夜目も利く。
「「「がってん!」」」
ここから移動するにも、俺のマイクロバスが埋まってしまった。
使うためには色々と準備が必要なので、すぐに動かせない。
アキラの車でピストン輸送って手もあるが、ここから多少移動しても危険性は変わらないだろう。
ちょうど日も傾き始めたので、皆が食事の準備を始めた。
まさか、こんな場所でキャンプすることになるとは……。
アネモネがダウンしているので、インスタントもので固める。
獣人たちはいつものようにカレー。
俺が保護した子どもたちもカレー。
俺とアキラとアマランサスは、冷凍のチャーハンと餃子。
エルフたちはカップ麺。
そろそろエルフたちも飽きるんじゃないだろうかと、いつもと違うカップ麺をシャングリ・ラで買ってみた。
――とはいっても、舌が肥えているエルフたちなので、ちょっと高めのカップの麺を買う。
ディスカウントストアのワゴンに入っているようなカップ麺は、口に合わないかもしれない。
辺りが薄暗くなる頃、料理ができあがった。
「うん、これも美味しいねぇ」「美味しい」
エルフたちが、いつもと違うカップ麺を食べている。
「たまに変わった種類もいいだろ?」
「こんなのが色々と種類があるのぉ?」
「あるぞ。中には口に合わないものもあるかもだが」
「ふ~ん、はいケンイチ」
セテラが俺に麺を食わせにくる。
今日は、色々と世話になってしまったから、おとなしく言うことを聞くことにしよう。
「アキラアキラ!」
ツィッツラもアキラに麺を食べさせて、ついでにキスなんてしてる。
「「「あ! チューしてる! チューだ!」」」
子どもたちの前だってのに……。
「ケンイチぃ! 私もぉチュー!」
セテラがカップ麺を持ったまま、俺に迫ってくる。
今日は断りにくい。
エルフと絡んでいると、アネモネの機嫌が悪くなる。
「むー!」
むくれている彼女だが食欲がないようだ。
デカい魔法を長時間展開したので、消耗したのだろう。
俺の力でかなり回復はしたようなのだが、食欲はイマイチらしい。
アネモネがベッドで食事ができるように、ベッドテーブルを購入――7200円だ。
ベッドをまたぐようにテーブルを置けば、そのまま食事が取れる。
「食欲がないとはいえ、なにか食べないとな……そうだ」
病気といえば桃缶だ。
桃缶を購入――2個で1000円。
ついでに桃のネクターと炭酸水を買ってみた。
皿に桃缶を開けて、ネクターは炭酸水で割る。
「アネモネ、これならどうだ?」
「うん、美味しい」
「ケンイチぃ! 私にもぉ!」
セテラが俺に抱きついて、スリスリしてくる。
ベルの真似だろうか?
「はいはい、ほれ」
残りの桃缶をセテラにやった。
「これって甘くて美味しいぃ!」
「ケンイチ、俺にもくれ」
「はいよ」
アキラにも桃缶をやったのだが、ツィッツラが欲しがったようだ。
甘やかしているなぁ……まぁ人のことは言えんか。
アマランサスがこちらをじ~っとみているので、彼女にも桃缶をやった。
アネモネのベッドの下では、ベルとカゲが猫缶を美味しそうに食べている。
ベルは元王妃様らしいのだが、猫缶でいいのだろうか?
少々心配になるが、いつも美味そうに平らげているしなぁ。
人の心で獣の身体ってのはどういう感じなのだろうか?
「うみゃー! やっぱりカレーはうみゃー」
獣人たちは、ほぼ毎日食ってるんだけど飽きないのだろうか?
子どもたちもカレーを食べているが、まだ飽きていないようだ。
食事が終わり暗くなったので、獣人たちに見張りをする者の選出をさせた。
1時間ずつ10人交代だ。
彼らにLEDランタンと、安いアナログ時計を渡す。
数字は読めないが、針の動きで解る。
焚き火のオレンジ色の光の前で、見張りをする連中に説明を始めた。
「こいつが時計だ。この長い針が1周したら交代な」
時間調整の摘みで針を回してみせた。
「なるほど、これなら解るっすねぇ」
「見張っているやつになにか起きるかもしれねぇから、2人で見張りしたほうがよくないっすか?」
「居眠りするやつもいるかもしれねぇし」
なるほど、彼らの言うとおりだな。
「それじゃ、2人1組でこの針が1周したら交代ってことにするか」
参加するやつを労うために、ツマミと酒を出した。
「「「おお~っ!」」」
「見張りが終わってから飲めよ? 順番があとのやつは先に飲んでもいいが、酔っ払って仕事をしないように」
「だ、大丈夫でさぁ」
ちょっと怪しいのだが……。
「ヘマをすると皆に迷惑がかかるからな」
「「「へいっ!」」」
見張りの連中が酒をもらえたのを見て、後悔しているやつらもいる。
「あ~っ! チケタに負けなけりゃ!」
チケタってのはじゃんけんのことだ。
「まぁ、仕事はいくらでもある。王国に入ると魔物はいなくなるが、盗賊やらが多くなるからな」
盗賊まがいをしていたマツとアオイたちが、俺の話を聞いてちょっとバツが悪そう。
警備のローテーションは決まったようなので、彼らに任せた。
人に任せるのも上に立つ人間の仕事だ。
皆が眠りにつく頃になると、焚き木が燃える明かりが所々に並んでいる。
いつもは固まって寝ているが、スペースがないので分散しているようだ。
焚き木は彼らが森の中で集めていたものがまだあるらしい。
峠を下れば森もあるので、また薪も集められるだろう。
彼らの様子を見てから、俺たちもコンテナハウスの中に入った。
アキラはいつものようにツィッツラと2人。
俺は、アネモネとセテラと一緒だ。
アマランサスと獣人たちには悪いが、今日は活躍した2人を労わないとな。
アネモネをお姫様抱っこして、コンテナハウスの中に入ると、ダブルベッドの上に乗せる。
アイテムBOXから彼女の寝間着を出して着せてあげた。
「むー」
セテラが一緒なので、アネモネの機嫌が悪い。
「助かったのは、セテラのお陰もあるんだし。今日はいいだろう」
「そうだよぉ。今日はちびっこと寝てあげるからさぁ」
エルフの長い手足が、アネモネを抱え込んだ。
「やめろぉぉ!」
アネモネは本当に嫌そうだ。
仕方ないので、2人の間に入ってベッドに寝転がった。
これが一番いい――と思ったのだが、裸になったセテラが俺の身体をなで回し、変な所に手を入れてくる。
エルフが寝るときには裸になるのが普通らしいのだが。
「むー!」
対抗して、アネモネも白いワンピースの寝間着を脱ぎ始めたので、止める。
セテラには、シャングリ・ラで麻のロングワンピースを買い、着せることにした。
「これを着てくれ」
「うん」
彼女に手渡すと、なんだか嬉しそうに着ている。
「うん、似合ってるな」
まぁ、金髪が美しく体も細い。脚なんて超長い。なにを着ても似合うはずだ。
胸はぺったんこだけどな。
再び寝転がると、セテラが俺の身体をなで回す。
今日は彼女には世話になったので、多少は許してやろう。
俺が諦めて寝転がっていると、ドアからカリカリと音がする。
起き上がり、ドアをそっと開けると、ベルがスルリと液体のように入ってきた。
「お母さんも来ちゃったか」
「にゃー」
黒い頭をなでてからベッドに戻ると、俺の上に彼女が乗ってきた。
「お母さん、重いんだけど……」
「にゃー」
いつもこう言うのだが、彼女が降りてくれたためしがない。
ベルが飽きて降りてくれるのを願うしかないのだ。
彼女がやってくると、セテラも俺にちょっかいを出すのをやめる。
ここらへんの上下関係はどうなっているんだろう。
歳だけなら、セテラが一番上のはずだがなぁ。
そんなことを考えつつ、明かりを消すと眠りについた。
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「敵だあぁ!!」
――暗い中、突然の大声で飛び起きた。
そのまま、ドアを開けてコンテナハウスの外に飛び出す。
シャツを着ていたはずなのだが、いつのまにか脱がされていたのに気づく。
セテラがやったのだろう。
村人たちの所に行くと、皆があちこちに塊になっている。
どこから敵が来るか解らないので、動けないのだ。
道の下りも上りも真っ暗でなにも見えない。
「どうした!?」
俺は、見張りをしていたらしい獣人の所に駆け寄る。
すぐ後ろにセテラも起きてきた。
「上の方でガサガサと、なにかが動いたんで!」
アイテムBOXの中からLED投光器を取り出してスイッチを入れると、暗闇に明るい光の筋が走る。
彼の言うとおり木々や草が揺れており、なにかがいるのは間違いない。
なにか白い胴体と、赤く光る目が見えたような気がする。
暗闇を照らす鋭い光の攻撃に向こうも躊躇しているようだ。
「ケンイチ、おチビちゃんはどうするのぉ?」
「彼女は疲れている。今夜は俺たちでやろう」
「解ったぁ」
セテラもそう感じていたのだろう。
俺の考えに同意してくれた。
「聖騎士様!」「旦那!」「うにゃ!」
アマランサスと獣人たちもやってきた。
得体の知れない敵と睨みあいをしていると、アキラたちも姿を見せる。
アキラも上半身裸だ。
「ケンイチ! どうした?!」
「なにか白い生き物がいる。大きさはかなりデカいような気がするが……」
「ツィッツラ、あぶり出せ」
「解った」
アキラのアイテムBOXから取り出された、コンパウンドボウがエルフに渡された。
「*%$**!」
ツィッツラの言葉とともに、白い光と化した矢が敵らしき物体に向かう。
「ギィィ!」
光が炸裂すると同時に、なにかが擦れるような声を上げて、白い物が茂みから飛び出した。
道の上に8本脚の魔物が現れた。
「「「うあぁぁぁぁ!」」」
村人たちが逃げ惑う。
「洞窟蜘蛛にゃ!」
以前、俺たちが洞窟で倒した蜘蛛と同じ魔物。
「オスか小さいメスか?」
「旦那、わかんねぇ!」
解らんが、とにかく洞窟蜘蛛で間違いない。
俺の横から黒い影と白い影が、蜘蛛に向かってジャンプをした。
「ベル! アマランサス!」
森猫と、剣の達人の先制攻撃だったが、ダメージが入っているようには見えない。
「ははは! 虫なら俺に任せろ! おりゃぁぁ! マヨパワー全力噴射!」
アキラの両手から噴射された黄色いウネウネが、白い蜘蛛の上に山盛りになった。
「ギィ!」
マヨ塗れになって驚いた蜘蛛が、ジャンプして山に入ろうとしたのだが、すぐに転げ落ちてきた。
道路の上で逆さまになってジタバタしている。
「虫ってのは、身体の隙間から呼吸しているんだ」
「それを塞がれたので呼吸ができないのか?」
「ははは! そのとおり、万物窒息!」
白い蜘蛛の身体は魔法に耐性があるらしいが、マヨの窒息には為す術もない。
「よし! 止めだ! 分離!」
彼の言葉で、黄色いマヨに塗れた蜘蛛が茶色に染まる。
「ツィッツラ、火炎だ」
「*^%^^&!」
ワイバーン戦のときに見せた、ツィッツラの火炎魔法。
火炎放射器のような山なりの火炎の束が、蜘蛛に向かって伸びる。
油まみれになった白い蜘蛛は、すぐに火だるまになった。
「ギィィィィ!」
しばらくジタバタしていた蜘蛛の脚がゆっくりと閉じていく。
「やったにゃ!」「やったぜ!」
ちょっとフラグっぽいが、もう大丈夫だろう。
一応、アオイに確認してみる。
「アオイ、他に気配は?」
「ないと思う――嫌な感じもしないよ」
「そうか」
白い蜘蛛を見る。
外側の甲殻は焼けていないようだが、身体の隙間から火炎が入り込んだのだろう。
あるいは火炎によって酸素が奪われて酸欠になったか。
「「「おおおお~っ!」」」
獣人たちの雄叫びが上がった。
さらに白い蜘蛛の所まで行くと、村人たちもおそるおそる集まってくる。
「これが蜘蛛……」「こんなデカいものが」
「以前、俺の領地にも出てな。退治したんだ」
「もっとデカかったにゃ!」「そう! こ~んなにデカいんだ」
ニャメナが身振り手振りで、メスの大きさを表そうとしているが難しい。
細かいトゲトゲが生えている白い甲殻を叩く――硬い。
「中は焼けたけど、外側は使えるだろうな」
「そうだな」
「アキラとツィッツラが仕留めたから、君らのものだぞ?」
「もらっていいのか?」
「もちろん」
彼のアイテムBOXには入らないので、とりあえず俺が収納することにした。
「売るなら王都のほうが高く売れるぞ?」
「そうか、そいつは楽しみだな」
彼も生活資金が必要だしな。
カメも止めはアキラが刺したから、半分は彼らのものだ。
「防具を作ったりしたらどうだ?」
「俺の防具かぁ……」
どうもアキラの戦い方には合わないみたいだが。
それはさておき、獣人たちを集める。
「敵は倒したが、まだいるかもしれん。引き続き警戒を怠らないように」
「「「がってん!」」」
獣人たちが盛り上がっていると、アネモネも起きてきてしまった。
「……どうしたの?」
「ああ、蜘蛛が出てな。アキラが退治してくれたところだ」
「……どうして私を起こしてくれなかったの?」
「君は、昼間の騒ぎで酷く疲労していたじゃないか」
「……」
そこにアマランサスがやってきた。
「聖騎士さまは、そなたの身を案じてくれているのじゃ。無理を申してはいかん」
「……」
彼女が黙ってうなずいた。
「ほら、見張り以外は寝た寝た! まだまだ先は長いんだぞ?」
俺たちもコンテナハウスに歩き始めたが、アネモネがフラフラしている。
彼女のところにいくと、お姫様抱っこで持ち上げた。
「無理しないほうがいい」
「うん」
彼女も解ってくれているようだ。
「アマランサス、ありがとう」
俺の傍にやってきたアマランサスに礼を言う。
「聖騎士様は、間違っておりませぬ」
ベルが俺の足下でスリスリしている。
「にゃー」
「お母さんもありがとう」
カゲがいなかったのだが、コンテナハウスのドアの所にいた。
「アネモネを守っていてくれたのか? ありがとう」
「みゃ」
「ちびっこだから、みんなから大事にされてるねぇ」
セテラがアネモネをからかっている。
「ちびっこじゃないし……」
「はいはい、おとなしく寝ような」
アネモネの頭をなでる。
「うん……」
「私にも、そういうのやってよぉ!」
「5000歳のおねぇ様が、張り合うなよ」
「5000歳言うな! 私に対する愛はないのかぁ?!」
文句を言うセテラと一緒にコンテナハウスに戻る。
皆と一緒に寝床に戻ると眠りについた。





