26話 突入!突入!突入!
暗くなるのを待って突入する事になったので、それまで待機する事になった。
改めて装備の確認をする。
何か良い物がシャングリ・ラにないか――これなんか、どうだ? 忍者が使っていたクナイに似ている投げナイフだ。
刃渡り10㎝ぐらいで持ち手にはパラコードが巻いてある。後端はリング状になっており見た目はモロにクナイだ。
「こんな物もあるが――投げナイフだ」
俺が目の前に投げナイフを2本出すと冒険者達が飛びついた。
「おおっ! これも良いじゃねぇか。 旦那、色々と良い物を持ってるな」
それぞれ2本ずつを10人程に配った。1本3500円なので合計7万円だな。
「これぐらいなら後で返さなくてもいいぞ」
「マジか。旦那、中々太っ腹だな」
シャングリ・ラじゃ3500円だが市場で買えば銀貨1枚(5万円)とか普通にするからな。
俺用には、エアガン用のレーザーサイトを買ってみた。戦場は暗闇だろうからクロスボウに装着すれば役に立つかもしれない。
近距離なら、こいつの赤い光に合わせれば百発百中だろうが、スイッチの入れ方や扱い方が面倒なので冒険者達には向かないだろう。
敵の根城へ行くのが昼間なら、ドローンで偵察も出来ると思うのだが真っ暗じゃ無理だな。
それに、いきなりイジって飛ばせるかも解らないし。
シャングリ・ラを覗いて色々と悩んでいると爺さんが戦闘用の交換した矢じりを見ている。
「ほう、これは見たことがない金属じゃの」
爺さんが何か魔法を使おうとしたようだが――突然、眩い光が瞬き始めた。
「こりゃ! イカン!」
光が弾けて辺り一面に輝く破片となって散らばる。
「爺さん、何をしたんだ?!」
「いや、ちょいと簡単な魔法をな……金属や石には魔法の触媒に使える物があるのじゃよ」
「それじゃ――見たことが無い金属があったので、それを試してみようとしたのか?」
「その通りじゃ」
爺さんが持っていたのは、皆に渡して交換した矢じりだ。多分、ステンレスだと思うが……先端は鋼のチップが付いている。
シャングリ・ラでステンレス製のカップを買って爺さんに渡してみた。
「爺さん、これはどうだ?」
「どれどれ……」
爺さんが魔法を試すが目の前に小さな光の玉が浮かぶだけ。
「これではないようじゃな」
う~ん? それじゃなんだ? 矢じりを改めてみると先端は鋼だがシャフトの部分はアルミかもしれないな。
シャングリ・ラから、肉厚10㎜で10㎝ぐらいのアルミ板を購入して爺さんに渡してみた。
そいつを手に持って爺さんが魔法を発動すると目もくらむような眩い光が辺りを照らす。
「おお! これじゃ! これを、わしにくれ! これがあれば討伐の褒賞なんぞ要らんわい」
「本当かよ」
「本当だ。どうじゃ?」
「それで良ければいいぞ。長年、道具屋やっている爺さんが見たことが無いってことは珍しい金属なんだろ?」
「ああ、こんな金属は見たことが無い!」
爺さんは年甲斐も無く大はしゃぎしているようなので良いだろう。
「若い頃に、こんな物が手に入っておれば、わしももっと活躍出来たのにの」
そんなに凄いのか? それじゃ、この世界でアルミ製品を売るのは、ちょっと拙いな。材質等に気をつけないと……。
後、使えそうな物は……。 おお! これなんか、どうだ?
俺がシャングリ・ラから購入したのは爆竹だ。これは威嚇や混乱に使えるだろう。
火を点けるためのターボライターも購入する。爆竹は300円、ターボライターは1個1000円だ。
「よし! 俺の魔法も、ちょっと見せてやる」
そう言って爆竹に火を点けると、人のいない所へ放り投げた。けたたましい連発音が轟き、飛び散る紙の破片が舞う。
「ふぎゃ~っ!」
ミャレーが毛を逆立てて逃げはじめ、他の冒険者達も尻もちをついている。
「ははは! これに殺傷能力は無いが威嚇に使えるだろう」
辺りに白い煙と火薬の臭いが立ち込める。
「畜生! びっくりしたぜ」
「確かに威力はなさそうじゃが十分に使えるな」
魔導師の爺さんのお墨付きも出たが、顔面近くで破裂すれば十分な威力があるし、耳を塞ぎ行動不能にさせる力も十分にある。
ガキの頃、手に持って破裂させた事があったが内出血で大変な事になった。
武器といえば草刈機やチェーンソーも立派な武器になるが――人間相手にあれを使うのはなぁ。
相手が外道なら、それでもいいのか? でも、やはり抵抗はある。
そうそう、トラックの燃料を入れないとな。車体右側にある黒塗りの燃料タンクの蓋を開けると、アイテムBOXから白灯油を改造した燃料を20L程入れた。
燃料タンクには容量70Lと書いてあるが、この討伐が終わって街へ帰れるぐらいは保つだろう。
確かリッター8~9kmぐらいは走れるからな。タンクに30L入っているとすれば、240km~270km走れる計算になる。余裕だ。
まぁ無事に帰れればの話だが。
これだけ装備があれば何とかなるだろう。俺達は決戦のためにキャンプ地で夕方を待つことにした。
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――そして夕方。
空が赤く染まる頃、俺達は行動を開始した。
トラックに皆を乗せて敵の本拠地を目指す。オドメーターで5km程の地点で森になった。
森には古城までの道が付いており、これだけ場所が判明しているのに国が何も手が打てないってのはイマイチ解らん。
すでに森の中は暗いのだが、ヘッドライトは点けずに走行しているので、ノロノロ運転だ。
その俺達の前を、ミャレーがトランシーバーを持って斥候として先行している。
「ミャレー、敵はいないか?」
『いないにゃ!』
ガタガタ道をハンドル片手にトランシーバーを使ってミャレーと交信をする。
彼女も、トランシーバーの使い方に慣れてきたようだ。
所々に水たまりもあるが、4WDのトラックなら心配要らない。左右に大きく揺さぶられながらクリアする。
幸い泥濘にはなっていないようだ。
徐々に辺りも暗くなり、この世界には外に灯り等は一切無い。
灯りといえば空に光っている月と星ぐらいのものだ。元世界と同じように月は1つだが、見慣れた星座が夜空に一個も無いのが少々寂しい。
森に入ってから4km程の地点で一旦停止、エンジンを止めた。
運転席を降りて荷台へ行くと、皆と一緒にミャレーとの通信を聞く。残りの距離は1kmぐらいなはずなので、ミャレーとの交信もギリギリ可能のようだ。
「ミャレー、どんな感じだ?」
『石の城壁に囲まれて、大きい木の扉が付いているにゃ』
「敵はいそうか?」
『城壁の上に櫓が伸びてて、見張りがいるにゃ』
「中に人はいるか?」
『声を聞くと、沢山いるにゃ』
数が数えられない獣人に具体的な数字は無理だが、かなりの人数がいるらしい。
こりゃ、かなり無謀な作戦になるなぁ。解りきっていた事だが、かなりのハードモードだ。
それから、1時間程じっと待つ――辺りは完全に真っ暗だ。
「さて、そろそろ行きますか?」
「うむ、頃合いだな」
騎士爵様の合図を持って行動を開始する。この中では若いながら、彼が一番身分も高くて実戦経験も豊富だ。
これだけの人材が1代限りの騎士爵なのだからこの国の先行きも危うい。
恐らくは王侯貴族の愚息共が、主要な地位を占めてしまっているのだろう。
「旦那、これやっとけ」
獣人から1枚の葉っぱを渡される。
「旦那は戦闘の経験が無いみたいだから、やった事ないだろ? こうやって噛むんだよ」
そう言うと、ニャケロが葉っぱを噛み始めた。
「こうか?」
葉っぱを咀嚼すると口の中に青臭い臭いと苦味が広がる。
「なんだ、苦!」
すると次第に口が痺れてきて呂律が回らなくなる。
「なんらこれ、らいりょうむなのか?」
「ハハ、大丈夫大丈夫、すぐに効いてくるぜ」
なんだか狐につままれたようだが身体に異変が起き始めた。
目の中がパチパチと弾け光の粒子に満たされる。
すると急激に視界が広がり暗いのにもかかわらずに色が鮮明に見えるような気がする。
「ハハハ、なんだこれ! ハハハ、これってヤバい薬じゃないのか?」
「大丈夫だって。やり過ぎると廃人になるらしいが余程馬鹿じゃないと、そこまで行かねぇ」
「ハハハ! やっぱり、ヤバい奴だろ」
なんだか解らんがやたらに楽しい。これから死地へ向かうというのに笑いが止まらん。
「よっしゃ行くか!」
「「おう!」」
トラックの運転席に乗り込み、エンジンを掛けると、トランシーバーでミャレーと通信する。
「ミャレー、行くぞ!」
『解ったにゃ! 見張りを仕留めるにゃ!』
「行くぞォォ!」
ヘッドライトをオンにすると、アクセルを踏み込む。残りの距離は1kmも無い。1分~2分もあれば到着する。
森の中の細道を、トラックで疾走する。後ろの荷台の事など全く考えていられなくなってしまった。
とにかく楽しくて仕方ないのだ。
およそ、1分半後、石で出来た古い砦と大きな木の扉が見えてきた。高さは3m程はあるだろう。
俺達のトラックを見つけて、見張りを片付けたミャレーが荷台へ飛び乗ってきた。
「爺さん! 頼むぜ!」
俺は窓から首を出して爺さんに声援を贈った。
「任せてもらおう。『虚ろな異空へと通じる深淵の縁よ、消え逝く魂から我に力を与えよ』」
彼の呪文の紡ぎに合わせて扉の前に青い光が集まっていく。
「爆裂魔法!」
青い光が赤い爆炎に姿を変えると、巨大な扉が粉々に吹き飛び辺り一面に破片が散乱し舞落ちる。
同心円状に衝撃波が走り森の草木を揺らすと、爆心地に近い大木が枝がこすれ合う音を立てて地面へ倒れこんだ。
だが勢い余ったのか石の城壁まで吹き飛んだようだ。
「すげぇぇぇ! 爺さん、すげぇな!」
「ははは、お前さんから貰った金属のお陰だが、ちょっと制御が難しいようじゃな」
だが目の前の障害物だった大きな扉は消し飛んだ。
「爺さん! その凄いのは、もっと撃てるのか?」
「いや今日は、これで打ち止めじゃな」
さすがに、大魔法は何発も撃てないようだ。そりゃ、そうだな。
「行くぜえぇぇぇ!」
俺は、アクセルを踏み込むと、まだ残っている爆炎の中へ飛び込んいく。
ガタガタと破片を乗り越え、煙を通り抜けると広場に出た。
広場の何箇所かに、かがり火が焚かれており薄っすらだが周りを見渡す事が出来――ここにくる前に噛んだ葉っぱのせいなのか視界もクリアに見える。
目の前には高台があり、さらに高床式になっている木造の建物。右手には木造の宿舎と思われる大きな建物が2棟。
ブレーキを踏んでハンドルを左に切ると後輪が滑る。
大きくドリフトしながら焚かれたかがり火を跳ね飛ばし、正面の建物に腹を見せるようにトラックは停止した。
俺は運転席から降りると急いで荷台へ飛び乗り、アイテムBOXからクロスボウを取り出した。
騒ぎを聞きつけた正面の建物から悪党達が10人程現れる。
俺達の目論みは的を射ていた。酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしていた敵の男達は、上半身裸のズボンだけの状態で剣を持ちだしていたのだ。
ポリカーボネート製の盾を立てたトラックの荷台から、クロスボウが次々と発射され賊共を串刺しにしていく。
弓矢の攻撃を受けて思い浮かぶシーンと言えば、胸などに矢が突き刺さる場面だが――。
このクロスボウから発射された矢は軽々と敵の胴体を貫通して、その後ろの木の壁に次々と突き立った。
だが、クロスボウの威力は凄いが装填は遅い。次の矢を装填しているうちに、新たな敵が現れた。
「よっしゃー!」
ニャケロを始めとした獣人達が、荷台の側板を踏み台にして次々と敵に切り込んでいく。
獣人が大きく振りかぶったカットラス刀を振り下ろすと、敵の1人が頭の上で剣を水平にして受けたが――。
獣人の強大パワーに負けて、そのまま頭蓋へ刃が食い込んだ。
そいつを蹴り倒し、刃を水平になぎ払うと勢い余って更に敵の首が2つ飛ぶ。
「ははは! こんなペラペラな刀なんで心配だったが、こいつはとんでもなく切れ味が良いぜ!」
獣人4人で次々と悪党共を血祭りに上げていくのだが凄すぎる。獣人達の戦闘力だけで十分なんじゃないのか?
しかも彼等は夜目も利く。この薄暗い中でも、はっきりと敵が見えているだろう。
続いて獣人達の横に騎士爵様が飛び降りた。
「ふふふ、今宵のウルフファングは血に飢えている」
斬りかかってきた敵の剣を下から摺り上げるように受け流すと、くるりと1回転して敵の脇を下から斬り上げた。
「さすが――見事な切れ味だ」
血に塗れた剣をじっと眺めているのだが目が据わっている――怖いわ。
いつも紳士的な騎士爵様だが怒らせると怖い人なのだろう。今後は気をつけねばなるまい。
出発の前、ちょっと危険なフラグを立てていた、マッチョな男も無事だ。
とりあえず、ポリカーボネートの盾を立て、トラックの荷台にいれば死ぬことは無い。
いよいよダメなら、トラックに飛び乗ってアクセル全開で逃げりゃ良い。
正面からの敵の相手をしていると、右手にあった大きな宿舎からも敵が湧いて出てきた。
俺は、アイテムBOXから爆竹を取り出すと、ターボライターで火を点け新たな敵の正面へ投げつけた。
激しい爆裂音が辺り一面に鳴り響き、立ち込める白い煙が爆発の閃光に照らしだされ――。
敵は突然の出来事に狼狽えて後ずさりを始めた。
「ユ○ボ召喚!」
広場にパワーショベルが出現すると相棒に颯爽と乗り込み、クロスボウを足元へ置くとエンジンを始動させた。
ディーゼルエンジンの音に酔いつつ、スロットルを全開――ヘッドライトのスイッチを入れると、眩い光が悪党どもの姿を浮かび上がらせた。
鋼鉄の重機は、カタピラの音を軋ませながら前進しつつ、アームを伸ばす。
「ははは! ユ○ボ大回転!」
――そして俺の掛け声に合わせてグルグルと重機は高速回転を始めた。
鋼鉄のバケットに弾き飛ばされて転がる悪党達。かなりの重量物が凄いスピードで衝突するのだ、タダで済むはずが無い。
アームを伸ばせば4mぐらい先まで伸びるが、そこでグルリと回れば円周約25m。1周1秒で回るとすると――外周の速度は時速90㎞にもなる。
だから工事現場で稼働しているパワーショベルには注意書きがしてあるはずだ――作業半径立入禁止と。
飛ばされて転がる悪党達共に、アームを3mの高さまで振り上げつつ近づくと一気にそれを振り下ろす。
地面に軽々と穴を掘りコンクリを打ち砕くそのパワーを、生身の人間が受けられるわけがない。
鉄の爪が悪党の身体を切り裂き、ひしゃげ、勢い余って下に転がっている男の胴体を真っ二つにした。
そしてバケットで煽り臓物を吹き飛ばしてぶちまけ、再び鎌首をもたげると生き残っている男達へ近づいていく。
眩い光を発し――ギッコンギッコン、アームを上下させ排土板で死体をかき分けながら迫り来る鋼鉄の異形に、野盗達はパニックになった。
「「「ば、ば、ば――化物だぁぁぁぁ!」」」
いくら百戦錬磨の悪党共だろうと、恐怖に駆られては二束三文の価値しかない。トラックの荷台から背中に次々と矢を射られて死んでいく。
「ははは! ヒヒヒヒ!」
俺は完全に狂っていた。無敵感に溢れていた。今なら矢の雨の中へ飛び込んでも死ぬことはないだろうと本気で思う。
正に無敵状態。だが本当に無敵なはずは無い。
目の前で人が死にまくっている、俺が殺しているのだ。だが、なんの抵抗もなく罪悪感も微塵もない。 そこには心の底から湧き上がる陶酔感だけ。
戦いの前に噛んだ葉っぱのせいなのだろう。ひたすらに高揚しかない心の隅に、ちょこんと座っている冷静な俺がそう思う。
残りの野盗が逃げ込んだ木造の宿舎を、振り上げたバケットで破壊する。
バリバリと盛大に板が引き裂かれる音を出して壁とドアが木っ端微塵になった。
「「「きゃぁぁぁぁ!」」」
中から黄色い叫び声が響く――女か?
「女がいるなら端に隠れてろ!」
宿舎を破壊した場所から獣人達がなだれ込み、生き残っている悪党共に止めをさして血祭りに上げていく。
「ぎゃぁぁ!」「ひぃぃ!」「助けてくれぇ」
逃げ惑う悪党に思う――何を今更である。この期に及んで助けてくれぇ――とか、悪人の矜持は無いのか?
もう1つの宿舎も破壊して残党を掃討した。
「てめぇ等! こいつを見やがれ!!」
突然の大声が広場にコダマした。
正面の建物に備え付けられたデッキの上に髭面で長髪の男が立っていた。頬には大きなキズがある。
冒険者ギルドに貼ってあった手配書の男――恐らくはあいつが、ここの親玉――シャガだ。
その男の前には剣を突きつけられたプリムラさんが立っていた。
「大方、この娘を助け出すために組織された討伐隊だろうが、昨日の今日で、そんな化物を操れる凄い魔導師がやって来るとは思わなかったぜ」
「プリムラさん!」
「ケンイチさん!」
「この悪党め! プリムラさんを離せ!」
とりあえず主人公らしいセリフを吐いてみる。
「離せ――と言われて離す悪党がどこにいる! お前等こそ武器を置かねぇと、この娘の命はねぇぜ!」
こちらも実に悪党らしい悪党である。妙に納得してしまったのだが納得している場合ではない。
どうも薬のせいか変な事ばかり考えてしまう。悲壮感が全くないのだ。
まるでTVドラマを外から観ているみたいに他人事のように感じてしまう。
しかし彼女を助けなければ――と言う事だけは解る。
突然、シャガがプリムラさんのブラウスに手を掛けると、力任せに大きく引き裂いた。
彼女の白く丸い豊かな胸が冒険者たちの面前に晒しだされる。
「きゃぁぁぁぁ!」
「プリムラさん! 何をするんだーっ! 許さん!」
「ははは! くそったれ! こんな事になるなら貴族の言う事なんぞぶっちして、こいつを存分に可愛がってやれば良かったぜ」
そう言うと、シャガは彼女の頬を舌で舐め始めた。
おいおい、今なんか凄い事を言ったような……。
「ううう……」
プリムラさんから嗚咽が漏れる。
「ミャレー聞こえるか?」
俺の声に彼女の耳がこちらを向く。少し離れていても獣人の聴力なら聞き取れるはずだ。
俺は、クロスボウからレーザーサイトを取り外すと、電源を入れてシャガの身体に照射した。
「敵の親玉の身体に赤い光が見えるか?」
彼女の耳がピコピコと動く。
「あの光で敵の目玉を潰すから、お前が弓で仕留めろ」
彼女の耳が再びピコピコと反応した。
「いいか~? せ~の!」
俺はレーザーサイトの赤い光を、シャガの目玉に合わせた。
「あがぁ! なんだァ?! くそったれ!」
シャガが、プリムラさんから手を離すと目を押さえてしゃがみ込んだ。
「今だ!」
ミャレーが目にも止まらぬスピードで矢を番えると――放たれた一閃がシャガの掌ごと目玉を貫通して頭蓋の後ろから矢じりが飛び出した。
無論、即死である。
その横にいたシャガの部下達にも一斉にクロスボウから矢が放たれて、ハリネズミの如く串刺しになった。
暗闇の中、辺りに訪れた沈黙――恐らくは、これで野盗は全滅したものと思われる。
「「「やったぜぇぇぇ!」」」
数分の沈黙の後、獣人達が吠える。
「ひょおおお! まじで、やっちまうとは!」
「うぉぉ! これで、大金せしめたぜぇぇ!」
倒れたかがり火が燃え、オレンジ色に染まる広場に冒険者達の声がコダマした。





