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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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258話 追撃


 俺は共和国の村から村人を引き連れて王国に帰る途中だ。

 マイクロバスで道ともいえない道を進み、峠に通じる街道付近までやってきた。

 峠の入り口には大きな砦があり、道を塞いでいる。

 ここを突破する必要があるわけだが、バカ正直に真正面から挑む必要はない。

 途中から森をショートカットして川を渡り、砦を迂回する作戦に出た。

 敵の警備らしきものもないので楽勝かと思いきや――川にはカメが生息していた。


 カメといっても、元世界の可愛いものではなく、巨大なワニガメのような魔物だ。

 アキラの話では、甲羅はとても硬くドラゴンの鱗をしのぐ強度だというが、巨大なカメの魔物といえどもひっくり返せばタダのカメ。

 アキラのマヨによる万物窒息攻撃で、なんなく撃破した。


 最初は面食らうが、攻略の仕方が解れば恐れることはない。

 カメを退治した俺達は、川を渡ることにした。


「にゃー」

 俺の足下にベルがやってきてスリスリしている。

 あまり活躍できないことを気にしているようだ。


「はは、大丈夫だよ。お母さん」

 しゃがんで彼女の腰のあたりをトントンしてやると、気持ちよさそう。

 いきなりゴロリと横になってしまった。


「ほら、そんな所に寝転がると、葉っぱだらけになっちゃうから」

 そんなことをしている場合ではないのだが、ベルが動かない。

 しょうがなく、お腹をナデナデしてやると、獣人の女たちが周りを囲んでいた。

 ジリジリと寄ってきているのだが、ミャレーとニャメナが牽制している。


「ほら、お母さん! 川を渡るよ!」

 俺に急かされて彼女が身体を起こした。

 黒い毛皮が葉っぱだらけなので払ってやる。


「アオイ、敵は?」

 俺が途中で拾った三毛の男。

 最初女かと思ったのだが、男だ。

 元世界のオスの三毛猫が珍しいように、この世界で三毛の男も珍しいらしい。

 体力や力はからっきしだが、嗅覚と聴覚はずば抜けている。

 

「今のところは――相変わらず、向こうにはなにかいるみたいだけど」

 他の獣人の男と同じように、俺が渡した半ズボンを穿いているのだが、個人的にはミニスカを穿いてほしい……。


「こっちで倒したカメと同じやつがまだいるのかもな」

 カメをひっくり返すのに使った重機を収納して、川を渡る準備をする。

 ダンプはすでに川に浸けているので、あとはアルミはしごを車体に渡せばいい。

 途中の川を渡るときにやったダンプアスレチック作戦と同じだ。

 獣人たちに協力してもらい、ダンプの車体にアルミはしごを設置していく。

 こういう作業には獣人たちの力が欠かせない。

 連れているのが全部獣人なら、この作業自体がいらなくなるわけだが。


 先に獣人たちを渡らせて、対岸の警戒にあたらせる。

 今のところ異常はないらしい。


「マサキ、村人たちを渡らせてくれ」

「解りました」

 ダンプアスレチックは2回目なので、村人たちも戸惑っている様子もないし、余裕も感じられる。

 子どもたちも笑ってふざけたりしているが、油断は禁物だ。


「こら、まだ魔物がいるんだから、遊んでいる場合じゃないぞ?」

「「「はぁ~い」」」

 子どもたちに注意を促し、粛々と渡らせた。

 なにごともなく皆が渡り終えたので、アルミはしごを回収してダンプを収納する。


「「「おおおっ!」」」

 鉄の塊が出たり消えたりするのに、村人たちはいまだに慣れないようだ。


「皆、疲れているだろうし、腹も減っているかもしれないが、ここでは休めないぞ」

「ここはヤバいにゃ」「旦那の言うとおりだぜ」

「アキラ、大丈夫か?」

「まっかっせっなっさい!」

「「「おお~っ!」」」

 獣人たちも雄叫びを上げた。


 車を出せば魔物の追撃なんて軽く振り払えるんだが、ラ○クルはともかくマイクロバスで森の中は走行できない。

 村人たちを集合させて、出発させようとしていると――右手から警戒にあたっていた獣人が走ってきた。


「来た! またあのカメだぜ!」

 続いて左手からも来たようだ。

 またコンテナハウスを並べて陣地を作って、その中に村人たちを入れた。


「アネモネ、左手からのカメを頼む!」

「うん!」

 アイテムBOXから出したゴーレム用のコアを出す。


「アマランサス、アネモネの護衛を!」

「心得ました!」

 小さな大魔導師と、金髪の聖騎士が配置につく。

 アマランサスは否定しているが、彼女の力は聖騎士に準じるもので間違いない。

 

「こっちは、ホイールローダー召喚!」

 空中からオレンジ色の重機が落ちてきた。

 

「ケンイチ、私たちはぁ?」

「エルフたちは、村人たちの護衛を頼む」

「解ったぁ」

「僕は、アキラと一緒に行くよ!」

 ツィッツラがそう言うのだが、獣人たちと一緒に丸太を持つのだろうか?


「よし、丸太も召喚!」

 ゴロゴロと出てきた丸太に毛皮が群がる。


「丸太は持ったか!」

「「「おおおっ!」」」

 すっかりアキラは、獣人たちの戦闘指揮官だ。

 実際に帝国では、部隊を指揮することもあったらしいので、まさに適任ともいえる。


 巨大カメに対する作戦は今までと同じように、俺の重機とアネモネの魔法でひっくり返す。

 獣人たちが持った丸太を魔物の口に突っ込み、アキラのマヨで窒息させる。

 とりあえず地上にいる魔物なら、アキラの黄色いウネウネは無敵。

 なにもない場所なら、火攻めにも使えるのだから、強力な戦略兵器と言っても過言ではない。


 瞬時に2頭の巨大なカメを無力化して、窒息させた。


「「「ウラーウラーウラァァ!」」」

 獣人たちが盛り上がりまくる。

 やはり、強いリーダーに率いられて強敵に勝つ――というのは、彼らの本能を刺激するのだろう。


 仕留めたカメをアイテムBOXに入れると、アオイに周囲の気配を探らせる。


「アオイ、どうだ?」

「うん、気持ち悪い感じはなくなったと思う」

 敵はいないようだ。

 人数も増えたし、川があるんだ。

 水の補給をしていくか。

 上が開いたドラム缶を追加で10個購入して、獣人たちに水で満たしてもらう。

 これだけあれば、なんとかなるだろう。

 

「それじゃ――出発に備えて、ちょっと周りを確認するか……」

 アイテムBOXからドローンを出して、森の上に飛ばすと周囲を確認する。


「砦の方角があっちだから……」

 一緒に出した方位磁石でも確認して、進路を決めた。


「よし! 出発!」

「「「はい!」」」

「獣人たちは、群れを囲むように広がって周囲を警戒」

「「「おう!」」」

「アオイは俺の傍に」

「うん」

 彼は足も遅く、体力もない。

 つまり只人より多少はマシぐらい。

 普通の獣人たちと一緒に行動はできない。

 彼もそれを気にしているようなのだが、ここは適材適所。

 アオイには優れた聴覚と嗅覚があるのだから、それを活かせばいい。


 走るのが遅いなら自転車に乗せたりすればいいかもな。

 ミャレーとニャメナも自転車には乗れたから、訓練すれば乗れるようになるかもしれない。


 森の木漏れ日の中を30分ほど進む。

 どこからか様々な鳥の声が聞こえるのだが、楽しんでいる余裕はない。

 日がくれる前に、この森を脱出しなければならない。

 夜の森は、魔物や夜行性の獣が活性化する――非常に危険だ。

 これだけの人数を守るとなると、かなり困難になる。

 黒狼なら、マイクロバスや車、コンテナなどを総動員すれば、鉄の防壁に手出しはできないだろうが、それで防げないような大型の魔物が現れた場合、即詰みだ。


 先を急いでいると、アオイの耳がクルクル動いている。


「どうした?」

「たくさんの人の声が聞こえる気がする……あっちのほう……」

「なに?!」

 彼の話では左手かららしい。

 アオイの言うとおり、そちらの方角から周囲を警戒していた獣人が走ってきた。


「ケンイチ様! 向こうからたくさんの人の声と、においがしてきやしたぜ!」

 これは敵に間違いないだろう。


「なんだ? 追手か?」

「ああ、もしかして――俺たちが盛り上がり騒ぎすぎたんで、バレたかな? フヒヒ、サーセン!」

 アキラが頭をかいているが、十分な働きをしてくれた彼を責めるわけにはいくまい。


 俺はアイテムBOXから、ラ○クルを出した。


「セテラとマサキ、村人を率いてあっちの方角へ」

 エルフに方位磁石を渡す。


「ケンイチ様! おいらたちは?!」

 途中で拾ったマツという獣人だ。

 

「獣人たちは、村人たちの警護だ。追手は俺たちがやる」

「解りやした!」

「にゃー」

 ベルとカゲが俺のところにやってきた。


「お母さんは、村人たちと一緒にいてやってくれ」

「にゃ」「みゃー」

「アオイ、お前はこっちだ!」

 彼の手を引っ張り、ラ○クルの後ろに乗せた。

 助手席にはアネモネ、後部座席にはアマランサス、三列目シートには武器を持ったミャレーとニャメナ。

 アキラは、自分のアイテムBOXからプ○ドを出して、ツィッツラと乗り込むようだ。


「た、対人戦闘か……」

 正直、アネモネには殺しをさせたくない。

 こういう世界で暮らしている限り、避けられないのかもしれないが、せめてもう少し大人になってから……。

 俺は甘いのだろうか?

 俺を縛っている元世界の常識ってやつにさいなまれつつ、エンジンを始動して、アクセルを踏み込んだ。


「うわぁぁぁ!」

 後ろからアオイの声が聞こえる。


「すごい速さだ!」

「ケンイチの召喚獣の速さはこんなもんじゃないにゃ」「お前みたいな弱っちいのは嫌いなんだけど、旦那のお気に入りじゃしょうがねぇ」

 ルームミラーで後ろをチラ見する。

 獣人たちは上下関係がはっきりしている。

 アオイは、2人の下ということになったらしい。

 彼が優れた嗅覚と聴覚で活躍してくれれば、2人も同等の存在と認めることだろう。

 手元のスイッチで、彼がいる座席の窓を開ける。

 

「アオイ解るか?」

「このまままっすぐ!」

 木の間を縫うように走ると、銀色のなにかが見えてきた。

 車を停止させて、アイテムBOXから出した双眼鏡を覗く。

 プレートアーマーを着た兵士の一団。

 馬に乗っているのが数人と、あとはあまり上等とは言えない防具を身にまとい、槍を持った兵士たち。

 人数は30人ほど――獣人たちは見えない。

 彼らは強大な戦闘力を持っているのに、なぜか騎士団などには配備されていない。

 戦術などの細かな指示が伝わらないせいもあるのだろうが、使いどころはいくらでもあるのに、軽んじられている。

 

 共和国の連中には恨みはないが――ここで皆殺しにしないと、王国に逃げた一団がいるのがバレてしまう。

 まずは馬に乗ったやつを確実に仕留めないと。

 さすがに乗用車でロードキルするのはつらい。

 俺は車から降りると、ホイールローダーをアイテムBOXから出した。

 こいつを使って正面からぶち当たり蹴散らす。


 ホイールローダーに乗り込むと、アキラの車がやってきた。


「ケンイチ、どうする?」

「敵は30人ほどだ。俺が真ん中に突っ込むから、バラバラになった敵を各個撃破で仕留めてくれ」

「はいよ~」

「アオイ、アキラの鉄の箱に乗ってくれ」

「うん!」

 重機の運転席にアネモネが乗ってくる。


「私は?」

「敵の所にコアを出すから、土のゴーレムを作って足止めだ」

 これなら直接彼女が手を下すわけではないから……。

 

「解った!」

「アマランサスと獣人たちは、逃げた敵の掃討を」

「解ったにゃ」「任せてくれよ旦那」

「心得た」

 剣を出した元王妃に尋ねる。


「アマランサス、大丈夫か?」

「聖騎士様、問題ありませんわぇ」

「そうか」

 俺は重機のエンジンをかけて深呼吸をした。


「吶喊~!」

 ギアを前進に入れて、アクセルを踏み込む。

 巨大なタイヤが森の土を掴み、木々を間を縫って走るとすぐに敵の部隊が見えてきた。

 ホイールローダーの運転席は高い場所にあるので、状況は把握しやすい。

 突然、森の中から現れた鉄の魔物に、兵士たちは固まった。

 敵の真ん中にいる馬に乗った奴らを鋼鉄のバケットで薙ぎ払う。

 馬に鉄の爪が食い込み、そのまま押し倒されると、巨大な黒いタイヤに巻き込まれてバラバラに――。

 馬が可哀想だが仕方ない。

 俺を恨んでくれていい。

 

「「「うわぁぁぁ!!」」」「「「ぎゃぁぁぁ!」」」

 重機を作った人たちも、こんなことに使うつもりで作ったんじゃないだろうけどなぁ。


「アネモネ!」

「うん! むー!」

 運転席からアイテムBOXを開き、土の上にコアを出した。


 青い光が舞うと、森の土が集まってスライムのように動きだす。

 黒い波のようにウネウネと、兵士たちの足下を飲み込んだ。

 魔法に捕らわれなかった兵士が四方に散り始めるが、そこを矢が襲い始めた。

 アキラの車に乗ったツィッツラと、そこから降りた獣人たちが発射したものだ。

 1人、また1人と倒れていく。

 魔物ならともかく、相手が人となるとなんとも言えない気分になる。

 こんなことに慣れてしまっている自分が恐ろしくはなるが――80人以上、俺の家族を入れたら90人近くの命を守らないといけない。

 1人の兵士が剣を抜いてアマランサスのほうへ向かうが、一合した瞬間に真っ二つになった。


 残っている兵士たちに最後の止めを刺すため勢いをつけねばならない。

 そのために一度重機をバックさせた。

 アネモネが作り出した土の沼にはまり残っているのは、馬から落ちた指揮官クラスの男が1人と兵士が5人ほど。

 このまま、一気に決着をつけようとしたのだが――。

 残った兵士がなんとか足を引き抜くと、指揮官を刺殺して剣を放り投げた。

 ちょっと立派なプレートアーマーを着た髭の男の断末魔の叫びが森に響く。


 突然のできごとに俺は重機を止めて、運転席から身を乗り出した。


「なんのつもりだ!」

「あんたら峠を越えるつもりなんだろ?!」「助けてくれ!」「俺たちも連れていってくれ!」

 兵士たちを見れば、一段と装備が粗末。

 ボロボロの革の鎧らしきものを着込み、下はなにも穿いていない。

 フリチンなのだろうか?

 この男たちは、昔の日本でいう足軽のような者たちなのだろう。


「そんなことを言って、俺たちを油断させるつもりじゃないんだろうな?」

「違う!」「こんな国もうごめんだ!」「このまま餓死するぐらいなら、山に登って死んだほうがマシだ!」

「……アネモネ、魔法を解いてくれ」

 彼女の頭をなでる。

 

「うん」

 足下を捕まえていた魔法が解かれると、男たちは鎧を脱ぎ素っ裸になって、地面に手をついた。

 なにも持っていないアピールだろうが、兵士たちは痩せて骨と皮状態。

 村人たちと一緒で栄養状態がよくなかったことが、うかがい知れる。

 

「頼む!」

「……う~ん……なにか妙なことをしたら、すぐに首が飛ぶと思ってくれ」

「わ、解りました!」「やった! こんな国とはおさらばだ」

 兵士たちは喜んでいるのだが、鎧も服もボロボロ。

 足もつっかけサンダルのようなものを履いてるだけ。

 シャングリ・ラから一番安いシャツとズボンを購入して放り投げた。

 足下は、村人たちと同じ安い長靴をやる。


「そいつに着替えろ」

「こ、こんないいものをもらえるんで?」

 兵士たちが新品のシャツを掲げて、見たこともないといった顔をしている。


「ああ」

 彼らが喜んで着替えをしていると、剣を納めたアマランサスがやって来た。


「聖騎士様、こやつらを連れていくのかぇ?」

「砦に帰すわけにはいかないから、連れていかないとなると殺さねばならんし……見れば下級兵士だ」

「許してくだせぇ!」「なんでもしますから!」

 兵士たちの必死の訴えに、アマランサスがため息をついた。


「妾は反対はせぬわぇ」

「アマランサス……」

「なんでしょうかぇ」

「人を斬って平気なのか?」

「これが初めてではありませぬわぇ」

 まぁ彼女と初めて会ったときも、死合をさせられて殺されそうになったしなぁ。

 ――とはいえ、あまり突っ込んで聞く話ではないな。

 兵士たちを着替えさせている間、俺は死体の回収を行う。

 アイテムBOXに入れてゴミ箱に投入してしまえば、死体もなにもかも残らない。

 ここにやって来た部隊がどこに行ったのかすら解らなくなる。

 当然、王国の貴族がこんな場所にいて、共和国の村人を拉致して逃げたなんて誰にも知られないわけだ。

 馬の死体も入れる。

 馬は食料にもなるし、馬肉は好きなのだが……これを食べるのは忍びない。

 村人たちが食べるようなら、食料として分け与えよう。

 デカいカメもあるし、戦利品がドンドン増えるな。


「し、死体が……」

 兵士たちが、消える死体に恐れおののく。


「証拠を消すために、俺のアイテムBOXに死体を入れているだけだ」

「アイテムBOX……」

「知っているだろ? アイテムBOXは」

「は、はい――軍の偉い人が、物資を運ぶのに雇っているのを見たことがあります……」

 マサキがそんなことを言っていたが、本当なのか。

 しかも、軍の物資じゃなくて主に私物を運んでいるらしいし。


 俺は、死体の回収から戻ってくると――増えてしまった乗客を乗せるため、アイテムBOXからハ○エースを出した。

 こいつは4WDでLSDも入っているから森の中でも平気なはずだ。

 入れ替わりにホイールローダーを収納する。


「「「おおおっ! こ、これは?! て、鉄の魔獣?!」」」

「こいつらは、俺の魔法で作り出した鉄の召喚獣だ」

「だ、大魔導師様!」

 兵士たちが、地面に手をついてペコペコし始めた。

 色々と説明するより、とりあえずこの場を離れなければならない。


 アキラたち以外をハ○エースに乗せると、放置したままのラ○クルの傍に行き、アイテムBOXに収納。

 先行している村人たちを追いかける。


「おおっ!」「森の中をこんな速度で」「すげぇ魔法だ!」

 車に乗った兵士たちが、外に流れる景色に感動している。

 

「こんなのは共和国にはないにゃー!」「旦那の魔法はこんなもんじゃないぜ?」

「あの、そちらの女の子も大魔導師様なんですよ」

 アオイが助手席に乗っているアネモネを指差した。


「えへん!」

「え?! あんな子どもが!?」

「子どもじゃないし!」

 兵士たちの言葉を聞いたアネモネがむくれる。


「うちの大魔導師様を怒らせないでくれよ」

「も、申し訳ございません!」

 村人たちの追跡は、獣人たちの鼻を使ってやってくれている。

 においをたどれば、すぐに追いつける。

 5分もすると村人たちが見えてきた。


「おおい!」

「ケンイチ様! ご無事でしたか!」

「まぁな。魔導師でもいれば、危なかったが……」

「こんな僻地に使える魔導師なんてやって来るはずがねぇし」「そうだな」

 兵士たちの話では、魔導師は少ないらしい。

 すぐに徴用されるので、魔法を使えても黙っている者が多いという。


「エルフ様!」「エルフ様が2人も!」

 エルフの存在に気づいた兵士たちが、セテラとツィッツラに頭を下げている。

 当の金髪の耳長たちは、そんなことには興味がないので迷惑そうに手を振った。

 どこかに行けという合図だろう。


「ケンイチ様、その者たちは?」

 マサキが、初めて見る男たちに警戒をしている。


「俺たちを探しに来ていた兵士だが、こちらに寝返った」

「はい、なんでもしやすから、連れていってくれぇ」「お願いします!」「もう、こんな国は嫌だ!」

 兵士たちの必死の訴えに、自分たちと同じ境遇だと解ったのだろう。

 反対する村人たちはいなかった。


「ありがてぇ!」

 男たちが抱き合って喜んでいるのだが、問題もある。

 

「しかしケンイチ、コ○スターに乗せられるか?」

「屋根になら、あと5人ぐらいはなんとかなるだろう」

 我ながら無茶苦茶だと思うが、他に手がない。


 森の中を歩きながら、兵士たちから話を聞く。


「兵士たちは、俺たちを追ってきたのか?」

「はい。森の中から雄叫びが聞こえると――」

「フヒヒ、サーセン!」

 アキラが、またあたまをかいている。


「いつも、越境する者がいないか監視しているのか?」

「普通なら、川を越えられる者がいないと解っているので……」

 あの砦は、敵の侵入よりも自国民を逃さないようにするためのものらしい。

 

「だが、雄叫びが聞こえてきたので、川を渡った連中がいると――俺たちを追ってきたのか……」

「はい……あの、川にはカメがいたと思うのですが……」

 やはり川には恐ろしい魔物がいるので、警備が薄くなっていたらしい。

 

「それなら俺たちが退治した。全部で4匹仕留めたぞ?」

「ええ?! あのカメを4匹も! 剣も槍も通さないのに!」

 アイテムBOXからカメを出して見せてやる。


「「「ひぇぇぇ!」」」

「ほ、本当に……」

 兵士たちが恐れおののく。

 

「ちなみに――止めを刺したのは、そこにいるアキラだ」

「ふはは、まっかっせっなっさい!」

「アキラは帝国でドラゴンを倒した竜殺しなんだよ!」

 ツィッツラの言葉に、兵士たちが不思議な顔をしている。

 彼の言葉が解らないのだ。


「アキラは帝国でドラゴンを倒した有名人なんだ」

「え?! ドラゴン?!」「ドラゴン?!」

 兵士たちがざわついている。


「噂を聞いたことは?」

「い、いいえ……」

「まぁ、革命を起こして国を統一した国祖の将軍様より強い男がいると困るだろうしなぁ、はは」

「ほ、本当にドラゴンを?」

「ああ、帝国でも王国でも有名人だぞ」

 男たちが歩きながら顔を見合わせている。

 やはり情報はシャットアウトされていたようだ。


「やっぱり、嘘ばっかりだった……」「そうだな……」

 昔の大本営発表のように、中央から流れてくるのは景気のいい話ばかりなのだが、地方では貧困に喘いでいる――というのが実情か。

 新参の何人かは都市部からあの砦に派遣されてきた兵士らしい。


 こいつらから、共和国の軍や都市の様子も聞けそうだな。



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