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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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256/275

256話 狩りの時間だ!


 共和国の村から住民を拉致して遁走中。

 目指すは、王国に続いているという峠を越える山岳道。

 ほとんど道じゃないような道を進んでいるが、方向的には合っているはず。

 多数の村人たちを乗せて頑張って走っているT社のコ○スター(マイクロバス)も、まさか異世界を走るとは思っていなかっただろう。


 次々と襲ってくる障害物をクリアして道を走っていると、脱村した住民たちに襲われた。

 獣人3人と子どもが10人。

 アキラの提案で、コ○スターの屋根に乗るルーフキャリアを設置した。

 そういうものがあるのか――と、シャングリ・ラを検索してみると、売っていたので早速購入。

 力自慢の獣人たちがいれば、キャリアの設置もらくらく。

 ついでに後ろに取り付けるハシゴもあったので取り付けた。

 これで乗り降りもスムーズに、多少は安全に屋根に乗れるようになる……かな?

 アキラの車にも取り付けたが、上に乗っている獣人たちの反応は上々だ。


 保護した獣人の中に、なんと男の三毛というレアキャラがいて、すかさずポ○モンゲットだぜ。

 やっぱりレアキャラは欲しくなるよなぁ。

 家族には少々反対されたのだが、強引に仲間にしてしまった。

 サクラに帰ったら、リリスやプリムラをなんとか説得しなくてはならない。

 まぁ彼は男なので問題ないとは思うのだが。


 困ったのが、新たに保護した連中の処遇。

 最初の村人たちに面倒を見てもらおうと思ったのだが、彼らもいっぱいいっぱいなので、難しいらしい。

 しかも仕事の戦力として乏しい子どもばかり。

 こりゃ、こちらで面倒みるしかなくなった。

 まぁ、獣人3人と子ども10人ぐらいなら、なんとかなるだろう。


 新しく保護した連中をマイクロバスの屋根に乗せて、森の中をひた走る。

 多少の改造を施してみたとはいえ、これ以上は保護できないぞ?

 どうしよう……心を鬼にして、お断りするか……。

 シャングリ・ラとアイテムBOXというチートがあっても、物理的に不可能なことはある。

 可哀想な人々を助けてほしいと懇願するアネモネにもそれは解るだろう。


 道を走り続けて変化が現れ始めた。

 道が徐々に広くなってきているのだ。

 これは交通量がそれなりにあることを示している。

 それと同時に、脇道に何本か遭遇した。

 脇道の先には開拓村があると思われるが、寄り道はしていられない。

 これ以上は助けてあげられないしな。


 空にグラデーションがかかり始めて、トリップメーターを見れば600km弱。

 あの村から、どのぐらいの距離があるものか解らないが――ひとつ仮説を立てた。

 あの遺跡にあった転移門は、山脈を越えるために作られたものではあるまいか。

 もしそうだとすれば、最短距離で山脈の麓に出たはずだ。

 サクラから王都まで約500km弱。

 西に水平移動したとすれば、そろそろ目的地の街道が見えてきてもおかしくない。

 道が広くなったことと合わせても、目指す街道は近いと思われる。


 車を止めると、コンテナハウスと一緒に並べて、再び四角形の陣地を作る。

 村人たちは料理を始めたので、俺たちも飯の準備をした。

 寸胴に水を入れてアイテムBOXに入っていた肉を使ってスープを作る。

 なんの肉か忘れてしまったものもあるが、食えれば無問題。

 とりあえず、だしの素を入れればなんでも美味くなるの法則である。


 俺たちが料理をしている間、新入りの獣人たちは狩りに行くようだ。

 俺はシャングリ・ラから、新しいコンパウンド式のクロスボウを購入した。

 

「ほら、狩りをするならこれを貸してやる」

 俺はリーダーの灰色のトラ柄にクロスボウを手渡した。


「うおっ! アイテムBOX?!」

「そうだ、見たことがあるか?」

「軍隊のお偉さんの側近で1人だけ……」

「そいつはどんな仕事だったんだ?」

「お偉さんの荷物運びでさぁ」

「ははは……なんだそりゃ」

 完璧にアイテムBOXを私物と化しているな。

 俺が手渡したクロスボウを灰トラが見ているのだが、彼の身体と村から連れてきた獣人たちを見比べる。

 やはり食糧事情がよろしくないせいか、王国の獣人たちより細い印象だ。

 

「こ、こりゃすげぇ! こんな立派な弩弓は見たことがねぇ」

「弩弓は知っているんだな?」

「へい、あっしは軍隊にいやしたので」

「軍隊にいたのに、なぜ開拓に?」

「それが……」

 お偉方の物資の横流しを指摘したらしい。


「つまり不正を指摘したら追放されたと」

「そのとおりで……なにが平等な国だ! 全部嘘っぱちじゃねぇか!」

 そう吐き捨てた彼は仲間の獣人とともに、クロスボウを持って森に向かった。

 そのあとを子どもたちがついていくが、近くで薪拾いをするようだ。


「矢はなるべく回収して使ってくれよ」

「がってん!」

 残ったのは、男の三毛であるアオイ。


「アオイは狩りは駄目か?」

「うん、力もないし、走ってもすぐに疲れてしまうし……」

 普通の獣人の男と比べてかなり細い。

 俺が女と間違ったぐらいだしな。

 

「それじゃ、他の獣人たちとは一緒に行動できないな」

「うん……」

 やはり普通の男のように暮らせないのにコンプレックスがあるようだ。


「鼻や耳は利くんだろ?」

「それには自信があるよ!」

「それじゃ、そういうので活躍してくれればいい」

「うん……」

「例えば、突撃虫が近くにいたら解るだろ?」

「それは解るよ! 独特の羽音だし!」

 さすが獣人だ。


「こんなに助けちゃってどうするのぉ」

 セテラが呆れているが、仕方ないだろう。

 

「とりあえず、なんとかなる」

 現時点でギリギリ乗れているしな。

 もう1台コ○スターを買うって手もあるが、運転手が問題だな。

 エルフなら知能がかなり高いし、セテラなら記憶はなくしているが元文明人。

 教えたら運転できるのではないだろうか?

 取らぬ狸の皮算用ってやつだが、エルフにとって只人のトラブルなどどうでもいいこと。

 行き倒れを助けたいので、車を運転してくれと言ってもいい顔はしないだろう。

 もし頼むとすれば、それ相応の対価を求められると思って間違いない。


「アオイ、村であったできごとを教えてくれ」

「うん、いいよ……」

 アオイから彼らの境遇などを聞く。

 やはり餓死者が出るなどの相当悲惨な状態だったらしい。

 子どもたちを逃すために、最後の力で反乱を起こしたようだ。


 暗い気持ちになっていると灰トラが帰ってきた。

 手には鳥が握られているが、羽根などが毟られてすでに処理をされているようだ。

 子どもたちも戻ってきて、手には薪を抱えている。


「ははは、この弩弓はすげぇぜ!」

「狩りや戦闘のときには、そいつを貸してやるからな」

「いったい、あんたはなに者なんでぇ?」

「俺のことはケンイチでいい。山脈の向こうにある王国の貴族だ」

「貴族?! なんでそんな人がこんな場所に?!」

「まぁ、色々とあってな」

「そうだにゃ~色々とあったにゃ~」「まったくだぜ……」

 ミャレーたちは、あまり活躍できなかったのを思い出したのか、しょんぼりしている。

 俺から見れば十分にやってくれているんだけどな。

 そもそも、こんな事態に巻き込んだのは俺の責任だし。


 彼らが火を起こすので、マッチを与えてやる。

 それから食器やスプーンなどだ。


「こんないいものをいただけるので?」

「「「わ~い!」」」

 俺が作ってやった麻のワンピースを着た子どもたちがはしゃいている。


「向こうの村人たちにも与えているし、俺の領民になるんだから遠慮はするな」

「領民……」

 灰トラが心配そうな顔をしているが、ミャレーとニャメナがやってきた。


「心配する必要はないにゃ」「そうだぞ? 旦那の所は、獣人にも別け隔てなく接してくれるからな」

 多分、彼が心配しているのは、そこらへんではないと思うのだが。

 共和国は只人と獣人たちを分けていなかったようだし。


「わかりやした」

 彼はそう言うと、焚き火で鳥を焼き始めた。

 そうそう、彼らの荷物を入れるためのプラボックスも必要だな。


「荷物はこの箱の中に入れてくれれば、全部俺のアイテムBOXに収納してやる」

 アイテムBOXのデモンストレーションをしてやった。


「「「わぁぁ!」」」

 収納されて箱が消えたのを見て、子どもたちから歓声があがった。

 料理に必要な塩や、胡椒なども与えてやる。


「塩と香辛料?!」

 こちらでは普通では手に入らないのだろう。


「自由に使っていいぞ? 肉料理にはあるとないとでは段違いだし。向こうの連中にも与えているから遠慮はするな」

「ありがとうごぜぇます」

 獣人がペコリと頭を下げた。


「そういえば、お前の名前は?」

「あっしは、マツです」

 やっぱり王国の獣人たちのような名前ではないようだ。

 

 料理は焼いた肉にスープ、そしてパン。

 エルフたちは肉が駄目なので、カップ麺とパンを食べている。

 

 俺たちは、アイテムBOXに入っていた謎肉を――彼らは自分たちで獲っていた鳥を焼いて食べている。

 目を丸くして黙々と食事をする子どもたち。

 食べるのに忙しくて、話している余裕もないようだ。


 鳥肉を食べているマツの所に、ミャレーとニャメナが向かう。

 なにをするつもりかと見ていると、手にカレー粉の赤い缶を持っている。


「ケンイチの仲間になったなら、ウチらも仲間だにゃ」「新入り、よろしくな」

「へ、へぇ……よろしくお願いしやす……」

「近づきになるから、これを分けてあげるにゃ」「俺らが旦那からもらった宝ものな」

 そう言って、ミャレーがマツの鳥肉に黄色い粉をかけた。


「クンカクンカ――これは香辛料?!」

「そうにゃ、これをかけると、なんでも香辛料料理になる魔法の粉にゃ」「そうそう」

 マツが鳥肉を口にかぶりついた。


「うめぇ! なんだこりゃ!」

「カレーにゃ」「うめぇだろ? 旦那のために頑張れば、もっと美味いものも食えるぜ?」

「うぉぉ! 俺はやるぜ! 俺はやるぜ!」

 どうやら2人は、新人に先輩面をしたいだけらしい。

 まぁ問題ないだろう。


 獣人たちには獣人たちのしきたりがあるので、彼女たちに任せる。

 俺たちが食べている謎肉は多分黒狼だと思う。

 あれこれ溜まりすぎてなにがなんだかよくわからん。

 クラーケンもまだまだあるんだが、彼らは食うだろうか?

 味は悪くないと思うんだが。


 そういえば、このクラーケンがないとイカクンを作っている水産加工場が止まっているだろうなぁ。

 リリスやプリムラも心配しているに違いない。

 早く戻りたいところだが……。


 飯が終わったので皆で後片付け。

 焚き火の灰でこすって、水で流す。

 そのまま放置しておけば自然に乾くが、俺たちには、アネモネの洗浄クリーン乾燥ドライの魔法がある。

 

 食器などを綺麗にしてアイテムBOXに収納していると、アオイが耳を立てた。


「どうした?」

「向こうから、なにか来る」

「なんだ? ケンイチ、敵か?」

 アキラがビール缶を片手に辺りを見回している。

 

 アオイが右斜めの暗い森を差した。

 真っ暗で本当になにも見えない。

 

「うにゃ?」「俺には聞こえねぇ」

 ミャレーやニャメナにも感じないらしい。

 

「お母さんは?」

「にゃー」

 感じないらしいが、用心に越したことはない。


「警戒だ! 獣人たちは、クロスボウを持って上に上がれ、右手前方! 村人たちは鉄の陣地の中央に!」

「ねぇ、私はぁ?」

「エルフたちは待機。最後の切り札で」

「解ったぁ」「解った」

 ツィッツラもアキラのアイテムBOXから出した弓をもらって準備に入った。

 

 俺の所にいる10人の子どもは、コンテナハウスの中に入れる。

 子どもたちにじっとしているように伝えると、俺も久々にコ○ツ戦闘バージョンを陣地の外に出した。

 今までは川や湿地帯で活躍の場がなかったからな。


「「「おおお~っ! なんだ?! 鉄の魔獣!? あれもケンイチ様の魔法か!?」」」

 地面を揺らして出てきた黄色い鉄の魔獣に、屋根の上に乗っている獣人たちが驚く。


「静かにしろ!」

「「「……」」」

 静まり返る中、アオイに再度確認すると、彼が耳をクルクル回す。


「アオイ、まだ近づいているか?」

「うん」

 離れてはおらず、確実に接近中らしい。

 敵もハンターらしく、風下から近づいてきているという。

 しばらくすると他の獣人たちも騒ぎ始めた。


「なにかくるぞ!」「マジだ!」

「シャー!」「シャー!」

 ベルとカゲも唸り出す。


「来るぞ! 構えろ!」

 俺も重機の運転席に座ってエンジンを始動させると、鋼鉄の巨体が震えて、黒い排気ガスを噴き出す。


「私も乗る!」

 アネモネが運転席に乗ってくると精神統一を始めた。

 アマランサスも自分のアイテムBOXから剣を取り出すと構える。

 皆の戦闘態勢が整うと――黒い森の中、ベキベキと枝が折れる音とともに巨大な黒いなにかが現れた。


「アネモネ、光よ(ライト)の魔法を」

「むー! 光よ!(ライト)

 空中に浮かんだ光の玉が、敵の正体を照らし出す。


「牙熊だ!」

 獣人たちから声が上がった。

 強い光に警戒したのか、魔物は赤い目を輝かせて二本足で立ち上がり威嚇を始める。

 デカい! バンザイした手は俺の操縦している重機ぐらいの高さがある。

 

「一斉射撃!!」

 獣人たちから、一斉にクロスボウと、コンパウンドボウが発射された。

 白くきらめく矢が次々と黒い身体に突き刺さる。


「グワァァァ!」

 地面に手をついた牙熊がこちらに突進してきた。


「む! 聖なる盾(プロテクション)!」

 黒い巨体が壁にぶつかる。

 魔物の猪突はアネモネが出した透明な盾に阻まれた。


「グワァ!!」

 牙熊がその場でまた立ち上がったので、アネモネの魔法を切ってもらう。

 魔物の立ち位置を見て、閃いたことがあったのだ。


「コ○ツさん召喚!」

 ノーマルバージョンの黄色い重機が落ちてきて、魔物の頭上に落下した。

 ちょうど敵の立ち位置が、アイテムBOXから出てくるポイントになっていたのだ。


「グワァァァ!!」

 鉄の塊の下敷きになるという突然のできごとに黒い毛皮が半狂乱になった。

 下半身が挟まれて、上半身だけでジタバタと脱出を試みている。

 チャンスである――追撃を行う。


「一斉射撃!」

 これだけの時間があれば、クロスボウも弓も装填が完了している。

 白い矢が次々と魔物の上半身に打ち込まれた。

 俺も重機を前に出すと、装備されている黒い巨剣を振り上げる。


「コ○ツ一刀両断! それは黒き魂を涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)へ帰す、闇の一撃!」

 振り下ろされた黒い刃が衝撃とともに地面ごと魔物の上半身を両断した。

 黒いものが飛び散り、地面にも溜まりが広がっていく。

 さすがにスイカのように真っ二つになれば、巨大な熊だって死ぬ。

 ピクリとも動かない。


「「「うぉぉぉぉ!」」」「「あぉぉぉん!」」

 遠吠えをしているのは犬人のようだ。

 俺はコ○ツさんから降りると、黒い毛皮の収納を試みる。

 魔物が死んでいれば、アイテムBOXの中に入るはずだ。


「収納」

 魔物のかばねは、アイテムBOXに収納され、目の前から消えた。


「「「うぉぉぉっ!」」」

 獣人たちが盛り上がっているが、もう一回魔物を出した。


「マサキ!」

「はい!」

「お前らにやるから、解体して食料にしてくれ。これだけあれば、しばらく食えるだろう」

「いただけるんですか?」

「ああ、言っておくが、あまり美味くないぞ?」

「肉が食えるなら、贅沢は言いません! ありがとうございます!」

 まぁ、臭みがあるが、胡椒などがあれば食えないことはないだろう。

 それよりは腹を満たすのが先決のはずだ。


 すでに辺りは暗いのだが、LEDランタンを辺りに配置して、魔物の解体を行う。

 そのために必要な剣鉈を追加、包丁だけじゃちょっとキツイだろう。

 砥石も20挺ずつ与えたが、包丁はもっとあったほうがいいと思う。

 まぁ、それはあとで考えよう。

 限られた物資の中でやりくりしてもらって、儲けが出るようになったら揃えてもいい。

 なんでもかんでも渡してしまうのも、少々考えものだ。


 まずは、アネモネの魔法で冷やしてもらうつもりだったのだが、金髪を揺らしてエルフがやってきた。


「ああ、私がやったげるよ――冷却(リフリジレイション)

 セテラが魔法を使うと、青い光が黒い毛皮に染み込んでいく。


「ありがとうな」

「おチビちゃんばかりにやらせちゃ可哀想じゃない」

「むう」

 仕事を取られたアネモネはちょっと不機嫌だが、エルフが手伝ってくれるのはありがたい。


「ははは、俺の出る幕がまったくねぇな」

 アキラはツィッツラとビールを飲み直している。

 祝福を使って、アルコールを分解して戦闘に備えてくれていたらしい。


「アキラ、サンキュウ」

「たいしたことなくてよかったよ。ここでドラゴンでも出たら、終了だな」

「妙なフラグを立てるのは止めてくれ」

「フヒヒ、サーセン!」

 解体に参加していない村人が、セテラの下に集まってきた。


「エルフ様、ありがとうごぜぇます!」「ありがとうごぜぇます!」

 村人たちもセテラに感謝している。

 数十人の大人に群がられた魔物はあっという間にバラバラになって、俺が渡したプラボックスの中に詰められていく。

 それがコンテナハウスにしまい込まれて、そのままアイテムBOXに収納すれば腐ることはない。


「矢は回収して使ってくれよ」

「解りやした!」

「うひょう、肉が冷てぇ!」

 セテラがかけた魔法で、魔物の肉は冷え冷えだ。

 冷蔵庫に入っていたひき肉でハンバーグを作ったりすると、結構手が冷たい。

 そういえば、獣人たちの手でハンバーグは無理だなぁ。

 毛だらけになるし……。


「それで腐るのを防いでいるんだから、我慢しろ」

「すぐに冷やさないと、肉がくさくなってくえなくなるんだよな」

 アキラもそういうのを経験したらしい。


「くさくても、食べねばならないことも多々ありましたので……」

 マサキが言うとおり、食い物がなければ多少においがついていても、食わざるをえない。

 不味いだけで死ぬわけじゃないからな。

 そこにアネモネがやってきた。


「私も経験があるよ」

「アネモネちゃんもあるのか?」

「うん」

 アキラの問に彼女は小さくうなずいた。


「鳥を捕まえたんだけど、次の日に食べようとしたらガチガチになってて――でもお腹が空いていたから食べた」

「アネモネちゃんの親からさばき方を教えてもらったりはしなかったのかい?」

「教えてもらってなかった……」

 鳥のさばき方を教えてもらうために、旅の商人に捕まえた鳥を渡して教えてもらったのだ。

 その旅の商人というのが、マロウ商会のマロウだったらしい。


「ええ? それじゃ、アネモネちゃんは故郷でマロウさんに会ってたのか?」

「うん、ケンイチと一緒にダリアに着いて思い出した」

 マロウと出会ったときにプリムラが一緒だったら、シャガに捕まったときにすぐに解っただろうけどな。


「俺もそれを聞いて驚いたよ。そりゃ、マロウは商売で自らあちこちに出かけているから、出会っててもおかしくない」

「アネモネちゃん、鳥を捕まえられるんだ。でも、そのときは魔法は使えなかったんだろ?」

「うん。枝をたくさん払って山にすると、その中に小鳥が入り込むの」

「そこを、棒でぶったたくらしい」

 俺は以前、アネモネが考え出した狩りの仕方を聞いている。

 

「ええ? それで獲れるのか?」

「うん!」

「はぇ~すげぇな。たくましすぎる」

「腹が減って切羽詰まれば、なんとかしちゃうもんだよ」

 そこに子どもたちが集まってきた。


「それで鳥が獲れるの?」

「うん、獲れるよ。でも、くくり罠を作ったほうが簡単かも」

「「「教えて! 教えて!」」」

「アオイ、村の獣人たちは罠の作り方とか知らないのか?」

「知らない……教えてくれる人がいなかったし」

「そりゃ、そうだ」

 アネモネの罠は、俺がシャングリ・ラで買った本や、獣人たちから教わったものだ。

 獣人たちは親や部族の大人から狩りの仕方や罠の作り方を教わるのだが、そういう文化も破壊されてしまっているので、ここにいる者たちは狩りが上手くない。

 持って生まれた体力とスタミナ、そして反射神経だけで狩りを行なっているわけだ。


「時間があったら、うちの獣人たちから罠の作り方を習えばいい」

「ははは、任せろ」「任せるにゃー。でも、ウチは厳しいにゃ」

 罠なら子どもでも獲物を捕まえられるが、時間がかかるだろうから今の旅の間は使えないだろうけどな。


 解体したものをどんどんプラボックスに放り込む。

 箱が足りないので追加で購入。

 この箱はこのまま彼らの新しい村で使ってもらってもいいだろう。

 アルミなどは危険だが、プラスチックはなんの問題もない。

 金に困って売るようなら、俺が買い戻せばいいわけだし。

 まぁ、大丈夫だとは思うが……なにせ、一からあれこれと教えないと駄目だからなぁ。

 いままでより、ハードルが高いぞ?


 暗い中で解体作業は続き、コンテナハウスの中は熊肉で一杯になった。


「これでしばらく、肉には困らないだろう?」

「ありがとうごぜぇます! ケンイチ様!」

「俺の領に帰るまでには栄養をつけてもらって、すぐにも働いてもらわないと困るからな」

「「「はい」」」


 熊の解体が終わったので、皆で寝ることにした。

 村人たちは鉄で囲まれた陣地の中にブルーシートを敷いて。

 新しく仲間になった獣人たちと10人の子どもたちは、追加で出したコンテナハウスの中で寝てもらう。

 アキラとツィッツラはいつものように別のコンテナハウスに向かう。


「アオイ、お前はこっちだぞ?」

「お、俺も仲間と一緒に寝ます」

「寝るのはいいが、ちょっとおいで」

「は、はい」

 俺たちのコンテナハウスの中にアオイを招き入れて、ベッドに乗せるとブラシかけをしてやる。

 アネモネにはいつものようにベルたちのブラシかけをしてもらう。


「な、なーん!」

 背中にブラシをかけられているアオイが変な声をあげた。

 逃げようとしているのだが、気持ちいいので逃げられないようだ。


「せっかく綺麗な毛皮をしているんだから、毎日ブラシかけしてやるからな」

「なーん」

 ブラシにはワサワサと毛の塊が絡みつき、すぐに野球のボールぐらいの大きさになった。


「ふ、ふぅぅぅ」「むぅぅ」

 なにやら、俺たちを見ていたミャレーとニャメナの様子がおかしい。


「どうした?」

「ふぎゃぁぁぁ!」「なぁぁぁーん!」

 2人が俺に抱きついてきて、身体をスリスリし始めた。


「なんだヤキモチか」

 ヤキモチと言っても通じないだろうが。


「ほら、アオイ。前は自分でブラシをかけろ。毎日ちゃんとするんだぞ?」

「なん……」

 彼はブラシを持って、仲間がいるコンテナハウスに戻った。

 さすがに一緒に寝るわけにはいかないだろう。


 ------◇◇◇------


 ――新しい仲間が増えた次の日。

 また旅の一日が始まる。

 そろそろ街道に出てもいい頃だが……。


 朝飯を食い終わり出発の準備が完了すると、俺はドローンを飛ばしてみた。

 限界の高さまで上昇させて、道の先を見てみる。

 はるか先に、なにか城壁のようなものが見える気がする。


 ――ということは、あそこが目的地っていうことになるのかもな。



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