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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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255/275

255話 三毛


 俺たちはマイクロバス2台で、71人の村人たちを連れて未来に向けて脱出中だ。

 ろくに道がない森の中を、走る走る走りまくる。

 超高速で突っ込んでくる虫に襲われたりしたが、今のところは他の魔物とエンカウントしたりはしていない。

 転移した直後に遭遇したコカトリスなどには可能な限り遭いたくない。

 ――といっても、こればかりは神のみぞ知る。

 ここには神様じゃなくて、管理人とかいうのがいるだけらしいが。


 それなりに順調に進んでいたのだが、俺たちの歩みが止まった。

 目の前に川が現れたのだ。

 残念なことに橋が架かっていない。

 橋桁の土台などは見当たらないので、簡単な橋が架かっていたのだが流されてしまったか――それとも、普段は水なし川だが水位が上がっているのか。

 橋があったかどうかはこの際どうでもよく、多数の人間を効率良く向こう岸に送る算段をしなくてはならない。

 

 アキラと2人で流れを見ていると、村人たちも集まってきた。


「ケンイチ様」

「マサキ、ちょっと待て。今、渡る方法を考える」

 うちの家族もやって来て、川の流れを眺めている。

 森猫たちも車から降りて辺りを探索しているようだ。


「旦那、いつもの船で渡るのが手っ取り早いんじゃね?」「そうだにゃ」

「そうだなぁ……やっぱり、それがいいか」

 そうは言ってみたものの人数が多いしな。

 川の流れは少々速いが、深さは人間の腰ぐらいに見える。

 試してみたいことが頭に浮かんだ。


「よし、ダンプで渡ってみるか」

「ダンプなら腰が高いから多少の水没は平気か?」

 俺の提案にアキラが反応した。

 

「町が水没しているのに、ダンプが走っているのを見たことがあるし」

「タイヤが水没するあたりまでは平気かもな……」

 大型免許を持っているらしいアキラでも、水の中を走ったことはないらしい。

 アイテムBOXから、いつぞや買った黄色い救命胴衣を取り出して着た。


「おし! 皆、ちょっと離れてくれ」

 ざわざわと皆がスペースを空けてくれたので、ダンプを召喚する。

 ボロボロサビサビのダンプだが、こいつも結構役に立ってくれているな。

 魔物の盾になってくれたりとか。


 俺の呼びかけに応えて、巨大な鋼鉄の塊が落ちてきて地面を揺るがす。

 

「「「おおお~っ!」」」「新しい鉄の魔獣じゃ!」「すげー!」

 目の前に現れたダンプに村人たちが興奮している。


「ケンイチ、これってどのぐらい走ってるんだ?」

「メーター読みだと70万kmか」

「さすが、ダンプは丈夫だな」

「まぁな。元々ヘビーデューティ用に作られているわけだし」

 セテラがダンプの周りをぐるぐると歩いている。


「へぇ~、これは別の乗り物ねぇ」

「まぁ、そうだ」

「ケンイチ! 私も乗る!」

「ダメダメ、危ないから。どうなるか解らんし」

「ぷう」

 アネモネが拗ねているが、これはちょっと危ない。

 そのまま流されるかもしれないし。


 以前に購入したオレンジ色の救命胴衣を着込んで気合を入れる。

 タイヤの上にあるステップに足をかけてダンプに乗り込んだ。

 運転席が高い場所にあるから乗り込むのは結構大変。

 たまにしか使ってないから、燃料はいつぞやに入れたままで満タンだ。

 多少は減っているが、ここで使うぐらいじゃそんなには減らないだろう。


 キーをひねってエンジンをかけると、鋼鉄の車体がブルブルと身震いを始める。


「「「おおお~っ!」」」

 村人たちから歓声が上がった。

 彼らの声援に送られて、俺はギアをローに入れるとザブザブと川の中に進入する。

 ドアを開けて、下を見る――やはりタイヤが丸ごと沈むぐらいの水かさがある。

 これなら楽勝かな――と思ったのだが、ちょうど真ん中辺りでハンドルを取られたと思ったら、車体がちょっと斜めになったまま、動かなくなってしまった。

 ローに入れてもバックに入れてもタイヤが空回りしている。

 川底が柔らかいので、スタックしてしまったようだ。

 運転席からは、すぐ目の前に岸があるのだが。


「かぁ~やっぱり駄目か」

 勢いよく突っ込めばよかったのか、いやなにがあるか解らんのに、それは無謀か。

 運転席で考え込んでいると、ドンドンと荷台から音がする。

 窓を開けて上を見ると、車体の上に獣人たちが飛び乗っていた。

 まぁ、彼らの身体能力ならこのぐらいジャンプするのは余裕だろう。

 

「旦那! このままこいつを橋にして、渡っちまえばいいんじゃね?」「にゃー!」

 運転席をニャメナが覗き込んでいた。

 

「そうだな……」

 川幅はおよそ10m――ダンプの全長は7mとすれば、前後で1.5mしかない。

 実際、運転席の目の前には対岸がある。

 俺はドアの窓枠に足をかけて、ダンプの上に出た。

 後ろのほうでは、心配そうな顔をして村人たちが成り行きを見ている。

 俺は荷台に移ると、アイテムBOXから5mのアルミハシゴを出した。


「このハシゴを、かけてやってくれ」

「ホイきた!」

 近くにいた虎柄の猫人が、ハシゴを軽々と持ち上げて岸に降ろしてくれた。

 さすがパワーがある。


「アキラ、動かないように河原に埋めてくれ」

「オッケー!」

「オッケーにゃ!」

 ハシゴの様子を確認していると、獣人たちが騒がしい。

 

「このハシゴ、すげぇ軽いぜ!」「銀みてぇだけど……」

「そいつは旦那が魔法で作った金属で作られているんだ」「そうにゃ」

「「「おおお~」」」

 ニャメナが得意気にアルミハシゴの説明をしている。

 そのうちに、アルミハシゴをもう1本シャングリ・ラから買う。

 落ちてきたハシゴをダンプのフロント部分にもかけてもらう。


「う~ん? 荷台から運転席の屋根に上るハシゴも必要だな」

 ここにも短いアルミハシゴを買って立てかけた。

 子どももいるし、段差のある所には3段のステップ台を設置。

 コケると危ないので、マットも敷いてみるか。

 

 これで地面から一直線に道がつながった。

 まるでアスレチックみたいだが、落ちたら川に流されてしまうから遊びではない。

 要所には力持ちの獣人たちを配置して、サポートしてもらう。

 彼らなら片手で只人を持ち上げられる。

 

 ダンプのリアの部分からハシゴを降りてみる。

 大丈夫そうだ。

 ハシゴを確認していると、黒い疾風が上に駆け上がりジャンプした。


「にゃー」「みゃ」

 森猫たちだ――さすが野生動物。

 反対側に降りると、すぐに対岸のパトロールを始めた。

 今度は俺たちの番だ。

 

「マサキ、1人ずつハシゴを登って、この山を越えてくれ」

「は、はい……」

「ハシゴを登ったことはあるか?」

「大丈夫です」

 木の枝やつるなどで、ハシゴを作ることはあるらしい。

 草葺の屋根とかがあったから、確かにハシゴがないと作れないよな。

 

「子どもは――どうする? ハシゴを登れない子は、後で獣人たちに背負ってもらうか」

「それがいいと思います」

「解った、そうしよう」

「それでは大人から行きます」

「慌てる必要はないからな。ゆっくり登ってくれ」

「はい!」

 まずは、大人から1人ずつハシゴを登っていく。

 獣人たちのサポートがあるから、手を引っ張ったりしてもらい、次々とクリアしていく。

 子どもも元気な男の子は挑戦してみるようだ。


「大丈夫か?」

「平気だよ!」

 俺が作ってやった麻シーツのワンピースを着た男の子が、ハシゴを登っていくと獣人たちに手を掴まれて宙に浮く。

 下からみると丸見えなのだが、女の子はどうしよう。

 やっぱり獣人たちに担いでもらったほうがいいだろうな。

 女性陣もハシゴを登るのは抵抗があるようだが、登ってもらうしかないな。

 獣人なら大人も担げるとは思うが……。


 マサキに頼んで、女たちが登る間は、男たちに見ないようにしてもらうしかない。

 最後に、担ぎ紐で子どもたちが獣人たちに担がれてダンプ山もクリア。

 問題なく全部の村人たちが向こうに渡り終わった。

 次はエルフたちだが、ポンポンとジャンプするようにあっという間に渡る。

 彼らは獣人たちと同じぐらいの身体能力を持っているので当然だ。

 

「聖騎士様、いきますわぇ」

「おう」

 アマランサスも同じように、ジャンプして軽々とクリア。


「アネモネ、大丈夫か?」

「平気!」

 彼女も俺について、あちこち歩きまわっているので随分とたくましくなった。

 

 あとは俺とアキラだけだ。


「アキラ、先に行ってくれ。俺は、コ○スターを収納してから行く」

「はいよ~」

 マイクロバスを収納し終わると、アルミハシゴを登る。

 登り終わるとすぐに収納するを繰り返して、対岸にたどりついた。

 最後にダンプに残っていた獣人たちが飛び降りて、全員無事に渡川完了。


「さて……」

 俺はアイテムBOXからゴムのスーツを出して、足だけ通した。

 スライムや触手のときに使ったものだ。

 水に濡れてもアネモネの魔法で乾かせばいいのだが、すぐに出発したいし、わざわざ濡れる必要もない。

 太ももあたりまで水に浸かると、俺は叫んだ。


「収納」

 水に浸って斜めになっていたダンプがアイテムBOXに吸い込まれた。

 中では時間が止まっているので錆びることもないだろう。

 サクラに戻ったら乾かしてやらないと。

 結構役に立ってくれるしな。

 

 ゴムスーツを脱ぎながら、俺はあることに気がついた。


「ここで水が補給できるな」

 これだけの人数がいれば、水の消費も多い。

 今は最低限の水をシャングリ・ラで買って、村人たちに与えている。

 ここで水を汲んでもアイテムBOXに入れれば、滅菌ができる。


 水が沢山入るといえばドラム缶か……。

 以前、ドラム缶風呂に使っていたものもあるが、ここは新規に購入しよう。

 そのまま村人たちに瓶代わりに使ってもらえばいい。

 新品ではなく再生品らしいが、使えればなんでもいい。

 1つ1万円ぐらいだ。5つ購入。

 ドラム缶5つがガランと落ちてくると、そこにマサキがやってきた。


「ケンイチ様、なにか……」

「この鉄の筒の中に水を持っていこう。皆で水を入れてくれ」

「解りました!」

 シャングリ・ラでプラ製のバケツを10個ほど購入して村人たちに渡す。

 これらが全部彼らの村での財産となるわけだ。

 もちろん農具なども渡さないとだめだし結構費用がかかるが、村が発展してくれればすぐに回収できる。

 村人たちがバケツでドラム缶に水を入れ始めた。

 200Lのドラム缶が5つなので、全部で1000Lなのだが、200Lは俺たちが使わせてもらう。

 これでしばらく持つのではないのだろうか。


 いれ終わったドラム缶をアイテムBOXに収納。

 村人たちのコンテナハウスを出し、その中にドラム缶を入れて再び収納。


「マサキ、今の水は自由に使っていいからな」

「ありがとうございます」

 アイテムBOXで滅菌されるとか言ってもちんぷんかんぷんだろう。

 この世界の人間は生水を飲まず、ワインや沸かした水を飲むのがデフォルトなので、水あたりの心配はないはず。


「マサキ、水石というのは使っていたか?」

「いいえ……」

「王国では、水の浄化に使ったりするんだが、それもないか」

 まぁ、アイテムBOXの滅菌効果でなんとかなるだろう。

 水の確保も完了したので、対岸に再びマイクロバスを2台出す。


「こんな川の渡り方をするなんて……」「まったく普通じゃ考えられねぇだ」

「ウチのケンイチは特別なのにゃ」「王国にだって、こんな魔法を使えるやつはいねぇ」

 実際はアイテムBOXなので、容量がデカいやつがいれば馬車ぐらいは出せるかもしれない。


「よ~し! 皆、また乗ってくれ~!」

 ぞろぞろと、それぞれのマイクロバスに村人たちが乗り込んでいく。

 俺のコ○スターの上には、Tシャツ姿のナンテンが座っている。


「ナンテン、大丈夫なのか?」

「平気だよ、旦那」

「お~い! ベル~!」

 俺の声を聞きつけたのか、森から森猫たちが飛んできた。

 俺もバスに乗り込むと運転席に座る。


「マサキ、大丈夫そうか?」

「はい」

 俺はマイクを取った。


「アキラ、そっちはどうだ?」

『問題なし』

「それじゃ出発するぞ?」

『オッケー』

「オッケーにゃ!」

 皆を乗せたマイクロバスは再び走り始めた。


 ガタガタと揺れるバスの中で、一緒に村人たちも揺れている。

 ぎゅうぎゅう詰めながらも、人々の顔には笑顔が溢れて余裕が出てきたように思える。

 川から2時間ほど進み、そろそろ昼飯の時間だと考えていると、両側の森の中から毛皮が出てきた。

 あまりに毛皮がボサボサなので、魔物かと思ったのだが裸の獣人らしい。

 数は3人――黒と灰トラは男の獣人だが、左側にいる三毛は細いし女だろう。

 1人は手製の弓らしき武器をもっており、残りも剣を持っておらず棍棒を装備している。

 俺は急ブレーキを踏んだ。


「「「うわぁ!」」」

 車内に村人たちの叫び声が響く。

 

『ケンイチどうした!?』

 スピーカーから聞こえてきたアキラの声に無線機のマイクを取る。


「前方に盗賊みたいな連中だが、脱村した村人かもしれん」

『了解!』

「聖騎士様、処すかぇ?」

 アマランサスがやる気になっているが、とりあえず止める。

 

「まてまて、やむを得ずこんなことをしている連中かもしれん」

「処す?」

 アネモネが、アマランサスの言葉に首を傾げているので、意味を教えてやる。


「それじゃ、私の魔法で処す?」

「ちょっと、まってくれ」

「これで轢いたら?」

 エルフが物騒なことを言い出した。


「待てっちゅ~の! 話を聞いてからだ」

 俺は窓を開けて首を出すと、相手に話しかけた。


「お前ら盗賊か?! 盗賊なら容赦はしないぞ?!」

「食料があるなら置いていけ! そうすりゃ命は取らねぇ」

 俺はシャングリ・ラから木刀を買った。2000円ぐらいのやつだ。

 そいつをアマランサスに渡す。


「アマランサス、殺さないように」

「心得ましたわぇ」

 アマランサスがドアを開けて外に出ると、敵の弓が彼女に向いた。

 どうやら、弓を持っている男がリーダー格のようだが、その弓はプルプルと震えている。

 正体不明のなにかに乗っている謎の一団。

 最初は魔物かなにかかと思ったが、人が乗っていたので、切羽詰まっていた彼らは攻撃を仕掛けたのだろう。

 

 弓に臆することもなく、アマランサスがすたすたと獣人たちの前に出ると――足を少し開き、切っ先を地面スレスレに落として、直立不動の姿勢。

 そのまま彼女が敵と睨み合っていると、マイクロバスの屋根に乗っていた獣人たちも次々と地面に降りてアマランサスの周りに集まってきた。

 その様子をベルがフロントガラスに手をついて心配そうに見ている。

 しばらく震えていた敵のリーダーらしき男だったが、本能的にアマランサスに敵わないと悟ったのだろう。

 

 弓を放り投げて両手を地面についた。

 地面にカラカラと転がる弓は、木の枝に縄を張っただけの原始的なもので、大した威力はなさそう。

 獣人なら、そこらへんの石を拾って投げたほうがよほど威力があると思われる。


「頼む! 子どもたちは助けてやってくれ!」

 頭を地面に擦りつけて懇願する獣人に敵意は感じられない。

 やっぱりなにか事情があるようだ。

 俺はバスから降りると、話を聞くことにして男の前に立った。

 

「俺が、この集団の責任者だ。お前ら盗賊じゃないのか?」

「へ、へい。村が崩壊して、子どもたちだけでも逃してくれと頼まれて、村から逃げたんで……」

 獣人たちなら獲物が獲れるので、子どもたちが飢えないで済むという親たちの判断だろう。

 苦渋の決断だったに違いない。

 

「そこの郷長は?」

「逃げたあとなので解らねぇが、多分村人たちが刺し違えたんだろうと」

「反乱か……」

 どうせ死ぬなら一太刀浴びせてから――と考えてもおかしくない。

 

「へい」

 子どもを呼んでもらう。

 森の中から出てきたのは、男女大小合わせて10人の子ども。

 ボロボロのシャツを着て下はむき出し、素っ裸の子供も多数いる。

 髪はボサボサで汚れまくり、足も裸足で泥だらけ。

 獣人たちは平気だろうが、裸足で怪我をしたりすれば、破傷風などが心配だ。

 

 確かに獣人たちでも、これだけの人数を食わせるのは大変だろう。

 武器などがあればいいが、彼らがもっているのは手作りの原始的な弓と棍棒。

 この国の獣人たちは文化を破壊されて、獣人のコロニーから得られる生きるための情報を教えられていない。


「おねげぇします! 子どもたちだけでも!」

 俺は両手をついている獣人の所にしゃがみ込んで、右手に連なる山脈を指差した。


「山脈が見えるだろ?」

「へい……」

 俺が突然関係ない話をしたので、男が少々困惑している。

 

「俺たちは、あの山を越えて隣の王国を目指している」

「この国を出るんっすか?」

「そうだ、お前たちも来るか?」

「行きます! 連れていってくだせぇ! こんな国は、もうまっぴらだ!」

 このまま放置はできないだろう。

 子どもたちもたくさんいるしな。

 ここに残したら、どれだけ生き残れるか解らない。


「だが、少々問題がある。乗り物の中は一杯で、もう屋根しか残っていない」

「連れて行ってくれるなら、どこでもいいですぜ!」

 獣人たちは大丈夫みたいだが、子どもはなぁ。

 中に乗せてやりたいが……。


「あの……俺も行ってもいいんですか?」

 もう1人の男と、三毛の女がやってきた。

 素っ裸なのだが、三毛の毛皮を着ているせいか、裸には見えないのは他の獣人たちと一緒。


「ああ、ここに置いていくわけにもいかんだろ?」

「あの……俺、力も弱いし、なにもできないし……」

「なにかできることはあると思うから、そういうのを見つければいいぞ?」

 俺はシャングリ・ラからブラシを買うと、彼らに与えた。


「ほら、ブラシをやる。毎日毛づくろいをするように」

「本当にもらってもいいんで?」

 3人の獣人が、集まってブラシを見ている。

 

「ああ、王国では、自分のものは自分で管理するようになるから、そういうのには慣れてくれよな」

「話には聞いてます」

 三毛はなんだか元気がないな。

 獣人ってのは、もっと活気に溢れているもんだが。

 もしかして腹が減っているのかもしれない。


「お~い! ここで飯にしよう!」

 俺は後ろの車に声をかけた。


「おう!」

 アキラもバスから降りて俺の所にやってきた。

 そのあとに続いて、ぞろぞろと村人たちも降りてくる。

 村人たちは昼を食わないので、薪拾いや狩りに出かけるようだ。


「そいつらも連れていくのか?」

「しょうがねぇ。置き去りにするわけにもいかないだろ?」

「そうだなぁ――でも、これ以上増えたらどうする?」

「そ、それはそのときに考える……」

 マジでいきあたりばったりだ。

 我ながら呆れる。


「にゃー」「みゃ」

 森猫たちが俺のところにやってきた。


「お母さん、彼らも連れていくからな」

「にゃ」

「森猫様が!」「へへ~っ!」

 新入りの獣人たちが地面に這いつくばった。

 これもいつもの光景だが、彼らにも服を着せないと。

 他の村人と同じものを購入してやった。


「あの~旦那……これって女もの……」

 三毛がミニスカを手に持ったまま、もじもじしている。


「ん? なにか問題があるのか?」

 そこにうちの獣人たちとアネモネがやってきた。


「旦那、そいつは男だぜ?」

「え?! 三毛の男?!」

「はい、そうです……」

「えええ~っ!? 初めて見た! お前らよく解るな」

「そりゃ、においが男だし」

 そういうものなのか。

 それじゃ騙されるわけがないよなぁ。


「お前の名前は?」

「アオイ……」

「アオイか――よし! お前は、俺の所に来ないか?」

「ええ~っ! ちょっと旦那!」「うにゃ?!」

 うちの獣人たちは反対のようだが。


「だって珍しいだろ? やっぱりレアキャラは確保しないと」

「ケンイチ、その毛皮は珍しいの?」

「アネモネ――三毛ってのは普通、女しかいないんだよ」

「そうなんだ!」

「ネトゲだとレアは普通でSSRとかだな」

 アキラも初めて見たらしく、アネモネと一緒にアオイの毛皮を眺めている。

 皆から見られている彼は恥ずかしそうだが。

 

「エスエスアール? ネトゲをやらないから解らんし」

「それにしても――ケンイチもこちら側に来たか……うんうん」

 アキラが俺の肩に手を乗せて、なにやらうなずいている。


「そんなんじゃねぇし」

 そこに難しい顔をしたアマランサスがやってきた。


「聖騎士様のなさることに反対はいたしませんがぇ――増やすなと言われてませんでしたかぇ?」

「彼はそういうのじゃないぞ? 珍しいから手元に置きたいだけだし。だいたい男だぞ?」

「あ~ね~、多分旦那なら大丈夫だとは思うけどさ……」「只人は男に言い寄る変なやつが多いからにゃ。アキラとかにゃ」

「フヒヒ、サーセン!」

 アキラがゲラゲラと笑っているが、彼はエルフ専なので少々違うような気がするが。


「で、でも……」

「俺の仲間になれば、こういうのも食べられるぞ?」

 俺はアイテムBOXから、チュ○ルを取り出すと、封を切ってアオイにやった。


「それをなめてみろ」

「はぁ……ペロペロペロペロペロペロ」

「落ちたな」「にゃ」

 ニャメナとミャレーが諦めたような顔をしている。


 ちょっと強引だが、アオイを仲間に加えた。

 一緒にいた獣人たちも、アオイが虚弱体質なので俺に面倒をみてもらいたいようだ。

 彼にもTシャツと、サスペンダータイプの半ズボンをやった。


 それから、子どもたちは汚れているので綺麗にしなくては。


「むー! 洗浄クリーン!」

 アネモネの魔法で綺麗にしてやると、麻のシーツでワンピースを作ってやり、全員に着させる。

 男も女も一緒だが仕方ない。

 靴は子ども用の長靴を履かせた。

 

 全員腹ペコらしいので、とりあえず簡単に飯を食わせてやるが、飢餓状態ではないらしい。

 獣人たちが獲物を獲って食わせていたおかげだ。

 シャングリ・ラから購入したパンを食わせてやった。

 初めて食べる甘くて柔らかいパンに、一言も言わずに、もくもくと口を動かす。


 うちの家族にも飯を食わせるが、俺にはちょっと仕事がある。

 バスの屋根に子どもたちが乗れるようにしなくてはならない。


「アキラ、悪いがちょっと手伝ってくれ」

「いいぜ」

 2人でマイクロバスの屋根に登り、そこに張ってあるロープに輪っかを作る。

 ロープワークはアキラが得意なので、やり方を教えてもらう。

 電車のつり革のような輪っかができたら、シャングリ・ラから購入した安全帯を繋ぐ。

 これで屋根に乗った子どもたちが落ちる心配もないだろう。

 本当は、子どもたちを中に乗せてやりたいが――育った村も違うし、いきなり代わってくれと言われても困惑するだろう。

 今回助けた獣人と子どもたちがどこの所属になるかは、あとで考えなくてはならない。

 獣人たちはフリーにして、子どもたちは孤児院みたいな施設を作る手もある。


 なにはともあれ、辺境伯領に帰ってからの話だな。

 


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