252話 旅は道連れがいっぱい
俺は共和国の村から、住人をかっさらう計画を実行に移すことにした。
彼らの荷物をアイテムBOXに入れて、コ○スターに乗るように促す。
「よし、この鉄の箱に乗り込め~」
村人たちが俺とアキラの号令で、おそるおそるマイクロバスに乗り始めた。
通路にある補助席も出して、子どもたちは大人の膝の上に乗せてもらう。
かなりぎゅうぎゅう詰め。
こんな乗り方をしたら危険なのだが、非常事態につきそうも言ってられん。
「こ、こんないい椅子に座ってもいいだべか?」「ふかふかだべ?」
身体の大きい獣人たちなどは詰めたくても詰められない。
どんな格好でもとりあえず乗ればいい。
俺が皮膚病の治療をしてやった背の高い女は、マイクロバスの屋根に乗っている。
元世界の途上国でも、バスの屋根に乗っているのを見たことがあるから、平気なのか?
危ないようなら、なにか手を考えなくてはならない。
「旦那!」
後ろから声がしたので、見れば獣人の男が立ち上がっている。
「なんだ?」
「屋根の上に乗っていいのかい?」
「まぁ、場所がないんで仕方ないし、あの女は病気持ちだし」
「俺たちも屋根に移れば、もうちょっと楽に乗れるぜ?」
「それは構わんが――いいのか?」
「ああ、俺たちなら高い所も平気だからよ」
獣人たちが屋根に乗るというので、準備をしてやる。
窓を少し開け、ロープを通して屋根の上をグルリと一周させる。
馬の手綱のようにこいつに捕まれば、多少は安全なのではなかろうか。
我ながら無茶苦茶のような気がするが、とりあえずなんでもいい。
ここから脱出することが先だ。
獣人たちと屋根に乗る準備をしているとアキラがやってきた。
「ケンイチ、こっちの獣人たちも上に乗りたいとか言い出してるけど」
「そうか、それじゃロープを準備しよう」
必要分のロープを出して、こちらと同じように車体に巻きつけた。
獣人たちが屋根に乗って準備完了だ。
俺はバスに乗り込んだ。
「よし! 皆、乗ったか!」
「「「はい」」」
皆が小さな声で返事をした。
「乗り残しはないだろうな?」
「大丈夫でさ」
アキラのマイクロバスに連絡を入れる。
「アキラ、そっちはどうだ?」
『ははは、かなりぎゅうぎゅうだが、なんとか乗れた』
「おお、なんだべ? 声が聞こえるだ」「すげー」
村人たちは驚いているのだが、ヒソヒソ声で話している。
「ほんじゃ、アキラ出発するぞ~」
『オッケー!』
「オッケーにゃ!」
「ふわぁぁぁ!」
俺の隣の補助席に乗ったアネモネが大きなあくびをした。
助手席にはセテラが乗っており、アマランサスとうちの獣人たちは、乗降口の所に座っている。
森猫たちは、俺の横の床だ。
ちょっと狭いが猫だから狭いところは大丈夫だろう。
エンジンを始動させる。
「おお、吠えだしただ!」「なんだべか?!」
ライトを点灯する。
「おお! 明かりが点いただ!」「すごい明るさだ」「魔法の光だべか?!」
「後ろにいるやつも明かりを点けたぞ!」「おお!」
村人たちがエンジンの音やヘッドライトの明るさにざわついているが、車を発進させた。
「出発!」
行く手には、暗い森の中に続く一本道。
一本道といっても直線ではない。
大木の間を縫うように道が続いているだけ。
エルフの獣道よりはマシだが、およそ整備された道ではない。
これからなにがあるのかまったく解らない。
俺はアクセルを踏むと、ガタガタと車体を揺らしながらマイクロバスを森の中に進めた。
暗い道を進みながら独り言をつぶやく。
「どうしてこうなった?」
俺は暗い森の中、道とも言えないような細い道をマイクロバスで揺られながら走る。
後ろの座席にはぎゅうぎゅうに詰まった村人たち。
その更に後ろにはアキラが運転するマイクロバスのヘッドライトの明かり。
2台で70人以上の村人を運んでいる。
彼らを助けたのは、うちの小さな大魔導師に言われたからではない。
彼らの境遇を顧みて、数年たたずに全滅するのが目に見えたから――人道的な観点から助けた。
俺だって、これがどんなにまずいことか知っている。
他国の住民を拉致して連れ去ったなんてことになれば、こりゃ国際問題間違いなしだが――。
見捨てられなかった。
決して後悔はしないはず。
ずっと、あの村の住民はどうなっただろう――と気に病むよりはましだ。
そう考えてしまう俺は、為政者には向いていないのかもしれない。
ガタガタと揺れる暗い道をひた走る。
前方を照らすヘッドライトの明かりと、メーターに灯るカラフルなライト。
俺の膝の上には、なぜかカゲがいる。
まぁ、運転の邪魔になるわけじゃないので、いいのだが。
オートマなので右足だけで運転できるし。
窓を開けて、屋根に乗っている女に声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「凄いね! 馬なしなのに、馬より速いよ!」
彼女の声を聞いているぶんには、全然余裕のようだ。
さすが獣人。
「ふあぁぁ」
俺の隣に座っているアネモネが、またあくびをした。
補助席なので、そのまま眠るのは難しいだろう。
「アネモネ、眠いだろうがちょっと我慢してくれよな」
「うん」
アネモネの隣の助手席にはセテラが座っているが、眠たそうには見えない。
「旦那、どのぐらい進むんだい?」「にゃ?」
後ろから獣人たちの声が聞こえる。
彼女たちは、入り口のドアの所にアマランサスと一緒に座っている。
元王妃をそんな場所に座らせるとかありえないのだが、他に場所はないし、彼女も進んで民の役に立とうとしている。
「3時間ほど進む」
スピードは出せてせいぜい30kmだが、3時間走れば90kmは村から離れられる。
「旦那の召喚獣でそれだけ走れば、追いつけっこねぇ」「獣人なら追いつけるけど、村の獣人たちは皆連れてきたにゃ」
いや、やつは追ってくるだろうか?
村人がいなくなれば、すぐに中央に報告に行くはずだ。
あのワインを手土産に持って。
そのときに、あれが活躍してくれることを願う。
俺のすぐ後ろに座っているマサキに声をかける。
「マサキ、しばらく辛抱してくれよな」
「いいえ、このようなものに乗せていただけるとは……いったいどのぐらい進むのですか?」
「とりあえず、今日中に50~60リーグは進む」
「いったいどのぐらいの距離なのか、私には解りません……」
どうやら、村の連中は読み書きそろばんがまったく駄目らしい。
獣人たちと同じレベル――いや、それどころかまったく教育されていないので、獣人たちより悪い。
こりゃ先が思いやられる。
「マサキには、村長になってもらわにゃならんから、読み書き計算を覚えてもらうぞ?」
「もちろん、教えていただけるのであれば、ぜひ!」
「おお、やる気あるねぇ」
俺は無線機のマイクを取った。
「アキラ、そっちはどうだ?」
『異常な~し! 早く止まって、一杯やりたいところだぜ』
「悪いが、3時間ほど走る」
『オッケー!』
「オッケーにゃ!」
無線機から聞こえてくる声に、後ろの村人たちが驚くので、魔道具だと説明する。
これもいつもの光景だ。
予定どおり3時間ほど走り、オドメーターは100kmを示している。
いいペースだ。
そろそろだと場所を探していると、いい感じで開けている所を発見。
車を止めた。
「アネモネ、眠たいところを悪いが、ゴーレムを使って草刈りをしてくれ」
「うん」
彼女はかなり眠たそうだが、頑張ってもらうしかない。
車から降りて、マイクロバスのヘッドライトが照らす中、アイテムBOXからゴーレムのコアを出す。
アネモネが自分の頬を叩いて気合を入れた。
暗闇に魔法の青い光が舞う姿は、まさにファンタジー。
ゴーレムコアに草がドンドン絡みつき、雪だるまのようにデカくなると、あっという間に綺麗なスペースが出現した。
草刈り機より静かだし、なにより早い。
「「「おおおっ! 草があっという間に!」」」
「ウチの大魔導師様にゃ」「そうだぜ!」
獣人たちが村人相手に得意げに話している。
丸めた草は色々と使いみちがあるので、アイテムBOXに収納した。
「やった! アネモネありがとう」
「私が助けてって言ったんだから、頑張る!」
そこに、アキラがやってきた。
「ケンイチ、どうする?」
「ちょっとまってくれ、コンテナハウスを2つだすから」
アイテムBOXから鉄の箱を2つ出すと、ちょっと離して並行に並べる。
「ここにコ○スターを2台くっつければ、鉄で囲った陣地になるだろ?」
「なるほど!」
アキラがバスに戻ると、コンテナハウスに直角にくっつけた。
俺も車体を転回させて昇降口が内側になるようにマイクロバスをくっつけたが、人一人が通れるぐらいの隙間を空ける。
ここが玄関になるわけだ。
外周には以前作った「入」型のバリケードを設置――鉄で囲った陣地の中にLEDランタンを複数置く。
バスから村人たちを降ろすと、皆がおそるおそる辺りを見回す。
「皆、集まってくれ。ここで野宿する」
「解りました」
リーダーのマサキが村人たちに指示を出している。
「鉄で囲まれているから、魔物の襲撃も大丈夫だろう」
「はぁ~こりゃすげぇ」「まるで砦だなぁ」「んだ」
「獣人たちもこれだけいれば、敵の接近にはすぐに気づくはず」
「任せておくれよ!」
背の高い獣人の女が返事をした。
獣人たちはずっと屋根の上にいたが、まったく問題ないようだ。
彼らはまだ裸のままだが、朝になったら服を用意してやらないと。
「お前、名前は?」
「あたいは、ナンテン!」
「え? にゃーとかみゃーじゃないのか?」
「違うよ?」
彼女の言葉が気になり他の獣人たちの名前を確かめてみると、皆が普通の名前だ。
それを聞いたうちの獣人たちも変な顔をしている。
一応、獣人たちにも名付けのルールみたいなものが存在しているらしいが、それから完全に外れてしまっているからだ。
「獣人たちの文化そのものが破壊されてしまっているのか……」
彼らが獣人たちの社会の中で上手くやっていけるのだろうか?
それとも、交わらないまま終えてしまうのだろうか?
そこに森猫たちがやってきた。
「にゃー」「みゃ」
「は、はい! ありがとうございます!」
ナンテンが、ベルにペコペコとお辞儀を始めた。
そこに村の獣人たちが集まってきて、森猫の説法を聞いているように見える。
文化はなくなりつつあるが、森猫が神の使いというのは残っているらしい。
これは最後に残った信仰なのだろう。
彼らのことは少々心配だが、とりあえずは眠らないと。
そのまま地面に眠らせるわけにはいかないので、シャングリ・ラで毛布を検索すると、2枚で2500円のものがある。
サイトでも最安値のものだが、これでもこの世界の毛布よりは数倍上等だ。
2500円×36セットで約9万の出費だが、これがしばらく彼らの布団になる。
多少の出費が重なるが、これは先行投資だ。
なにせ彼らは着の身着のままどころか、なにももっていない。
少々投資をしても、彼らが村を作って農業を順調に営んでもらえばすぐに回収できる。
「ポチッとな」
ドサドサと毛布が落ちてきた。
「「「おお! 毛布だ!」」」
「1人1枚やる」
「こ、こんな上等な毛布をもらってもいいだか?」「すげーふわふわだ!」
村人たちが毛布に頬ずりをしている。
「ああ、いいぞ」
「「「おお!」」」
話を聞けば、彼らは毛布もなく、草で編んだゴザなどを布団や毛布代わりにしていたらしい。
それでも暮らしていけるのだから、それはそれで凄いのだが……。
王国の貧乏な村でもここまで酷くない。
俺がちょっと神妙になっていると、うちの獣人たちがやってきた。
「だから旦那、俺が言っただろ? 美味いもん食って、旨い酒飲んで、ふかふかのベッドに寝られるんだ。他になにもいらねぇんだよ」
「そうだにゃ」
「お前たちが、そう言うならいいんだが」
話をするよりも眠らねば。まだまだ先は長いのだ。
そのまま地面に寝ると湿気が上がってくるので、皆で協力してブルーシートを敷く。
「領主様、これは?」
「俺のことはケンイチでいい。この青い布は俺が魔法で作ったものだ。水を通さない」
「「「おおっ!」」」
「寝る前に便所に行くものは、2~3人で固まって、そこにある明かりを持っていけよ」
俺は地面に置いてある、LEDランタンを指差した。
「解りました」「解りましただ」
村人たちが固まって、用を足しに鉄の囲いの外に行く。
初めて車に乗ったので疲れたのか、村人は複数人で固まるとすぐに毛布に包まり眠り始めた。
助け合っていかなければ生き延びることができなかったのだろう。
皮膚病を患っている獣人のナンテンはマイクロバスの屋根に飛び乗った。
屋根の上で寝るらしい。
ちょっと可哀想だが仕方ない。
村人たちを確認したあと、俺たちもコンテナハウスに入って寝ることにする。
「ケンイチ、俺たちは向こうを使ってもいいんだろ?」
「ああ」
アキラとツィッツラは別のコンテナだ。
まさか、この状態でゴニョゴニョしないとは思うが……。
怪訝に思いつつも部屋の中に入ると、ベッドに飛び込む。
頬でベッドの感触を確かめていると、俺の背中にベルが香箱座りをした。
「お母さん、重いよ」
「にゃー」
カゲも俺にすりすりをしている。
「ふぅ……なんか知らんが疲れた」
アネモネは俺に抱きついたまま、もう眠っている。
「この先、なにが待ち構えておるか解りませぬが、妾は聖騎士様についていくわぇ」
「すまんな、こんなことに巻き込んで。やっぱり俺は為政者には向いてないのかもしれん」
「そんなことはありませんわぇ」
「そうそう、多少の失敗なんてよくあることなんだからさぁ、ドーンといったらぁ?」
エルフが金髪を揺らしてそんなことを言う。
「あまり失敗はしたくないんだが……犠牲者とか出たらどうする?」
「政にはある程度の犠牲というのもつきものよぉ」
エルフからそんなことを言われるとは思っていなかったな。
セテラは只人の社会にもいたらしいので、年の功ってやつだろう。
「あまり申したくはありませんが、妾もエルフと同じ意見ですわぇ」
「にゃー」
俺の背中に乗っている森猫が俺の耳元でつぶやく。
「お母さんも同意見か――まぁ、そうだよなぁ」
政治は、理想論や綺麗事ではすまない。
民が100人いたとして、絶体絶命のピンチに55人助かり45人の犠牲が出ると解っていても、その選択をしなくてはならない。
そのときに俺に選ぶことができるのだろうか?
「旦那! 俺たちもいるから心配するなって!」「そうだにゃ」
「ありがとな」
会話はそのぐらいにして、明日からの強行軍に備えて寝ることにした。
明日の朝は少々遅めに起きることになるだろうが、やむを得ない。
追手がかかる心配はないのだから、慌てる必要もない。
俺たちが乗っているマイクロバスは、この世界のどんな乗り物よりも速いのだから。
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――村を出て次の日の朝。
コンテナハウスで、ベルに起こされる。
「おはよう……」
ドアを開けてほしいようなので、開けてやるとカゲと一緒にスルリと出ていった。
窓から見れば、すでに起きている住民たちも多い。
あの村には明かりなどは一切なかったようなので、夜明けとともに仕事をして、日が暮れると家に戻る生活をしていたに違いない。
元世界でも明治ぐらいまではそんな感じだったのだろうか。
大正生まれの婆さんが女学生の頃に電気が来たと言っていたしなぁ。
コンテナハウスの外に出ると、村人たちとマサキに挨拶をする。
マイクロバスを動かすと、彼らの荷物を収納したコンテナハウスを出した。
「毛布や青い布なども、この中にしまってくれ」
「解りました」
マサキが指示をして毛布をしまうと、肉の入ったプラボックスなどを外に出す。
彼らの食事を用意しなくてはならないが、これだけの人数分を揃えるのは難しい。
道具や材料など必要なものを渡して、彼らに自ら食事の用意をしてもらうしかない。
「う~ん? まずは鍋か」
シャングリ・ラで鍋を検索する。
元世界で普通の鍋というとアルミ鍋なのだが、この世界でアルミはまずい。
この世界だとアルミは魔法の触媒になってしまうからだ。
――そうなると鉄鍋か……。
昔話に出てくるような囲炉裏に吊る鉄鍋が2000円で売っている。
これなら棒を立てれば、かまどを作らなくても済む。
1個購入してみた。
「マサキ、お前たちに鍋をやりたいんだが、これでいいか?」
「え?! こんな立派な鍋を?!」
「ああ、なん個欲しい?」
「あ、あの、なん個でもいいのですか?」
「ああ……」
マサキが住民たちに聞き取りを行った結果、全部で25個ということになった。
シャングリ・ラで鉄鍋を24個追加購入する。
「ポチッとな」
ガラガラと大きな音を立てて鉄鍋が落ちてきた。
「凄い! 鉄の鍋だ!」
鍋に村人たちが群がる。
「鍋とか皿とかなくて、どうやって食事を作ってたんだ?」
「草で編んだものを――」
草でカゴを編み、そこに大きな葉っぱを入れることで鍋にしたり食器代わりにしていたらしい。
湿気がある葉っぱなどは、すぐに燃えたりはしないようだ。
「それでお湯沸かしたりとかスープとか作れるのか?」
「はい」
「へぇ」
それはそれで逆に凄い。
毎日が完全なるサバイバルだな。
「あとは――水か」
シャングリ・ラから2Lのペットボトルに入った水を買う。
9本入りで1200円。こいつを10箱購入した――1万2000円で180L。
そのうち川などがあれば水を補給しよう。
生水はそのままでは飲めないが、アイテムBOXに入れれば滅菌できる。
鉱毒などは除去できないので注意は必要だが。
「これは水……ですか?」
マサキが透明なペットボトルを持って、眺めている。
「ああ、浄化してある水だから、そのまま飲んでも大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
「ゴミが出たら、まとめておいてくれ」
「解りました!」
あとは――芋がいいな。
焼いて食えるし、鍋にも使える。
そう思ってシャングリ・ラを探してみたが、ジャガイモは売っておらず、あるのはさつまいもだけ。
「さつまいもでもいいか」
そのまま食っても美味いし。
訳あり品を10kg4000円、100kg買う。
購入ボタンを押すと、芋が入ったダンボールがドサドサと落ちてきた。
「マサキ、これもやる。異国の芋だ。見てくれは変わっているが、そのまま焼いて食っても美味い」
「ありがとうございます!」
その他は――1000円の包丁を20本。
200円の浅い皿が50枚、600円の深い皿が50枚。
6本入り660円のスプーンを12セット。
最低限のものを揃えるのに、結構な数が必要だ。
「あとは魔法の粉だな」
「魔法の粉……?」
俺がシャングリ・ラで購入したのは化学調味料。
「スープなどにこれを一振り入れれば美味くなる」
「本当ですか?」
「ああ」
村人たちは、ガラスの瓶に入っている白い粉を掲げて見ている。
まぁ、使ってみれば解るだろう。
揃えるものを揃えたはずだが、村人たちがぞろぞろと陣地の外に出ていく。
「どうした?」
「あの、薪を拾いに行ってきます」
「そうか、燃料がいるのか」
シャングリ・ラにも薪は売っているし、俺のアイテムBOXに入っている丸太を割ればいいのだが、時間がない。
薪が足りないようなら、サイトで購入しよう。
30分ほどで村人たちが戻ってくると、火打ち石を使い始めた。
どうやら荷物の中に入っていたようだ。
王国にはマッチみたいな火石というものがあるのだが、ここにはそれすらないらしい。
木をすり合わせて、弓引きでギコギコするよりはマシだろうが……俺は見かねて、シャングリ・ラで購入した徳用マッチをマサキに手渡した。
「マサキ、お前に魔法の火付け棒を渡す」
マッチを擦って点けてみせる。
一箇所の焚き火に火が点いたら、それを持って他の焚き火にも火を入れればいい。
使うマッチは1~2本で済む。
「す、すごい!」
「王国には、これと違うが火付けの道具があるからな」
「そ、そうなのですか……」
なにからなにまで原始人的な生活をおくってきたらしい。
皆が焚き火の上に棒を組んで、そこに鍋を吊り下げ始めた。
この方式なら、石を組んだりしてかまどを作らなくていい。
村での生活も竪穴住居みたいなものだったようだ。
「さてぇ――あとは着るものだな」
村人が着ているものはボロボロをとおり過ぎて、すでに服の体裁をなしていないものも多い。
獣人たちは裸のままだし。
子供たちには麻のシーツで簡易的な服を作ってやったので、当面はあれでいいだろう。
大人の男たちにはデニムのズボンとTシャツ、女たちは、デニムのオーバーオールとTシャツ。
獣人の男たちは、デニムの半ズボンとTシャツ、女たちは、デニムのミニスカとTシャツ。
これを人数分購入――総額で20万円ちょっと。
村一つ立ち上げるのに、このぐらいなら安いもの。
農具や道具などは、辺境伯領についてからでいいだろう。
そうなると、また住居の問題が出てくるなぁ。
とりあえず、テントなどでしのいでもらうしかあるまい。
マサキを呼んで服を渡す。
「飯を食い終わったら、これに着替えてくれ。大きさが合わないようなら、言ってくれ」
「あ、あの……本当に服をいただいても?」
「ああ、王国のどんな貧乏な村でも、もうちょっとマシな服装をしている。うちの領民になるんだ。このぐらいはしてやらないとな」
「ありがとうございます!」
「それから、獣人たちにも服を着させてやってくれ」
俺が、半ズボンとミニスカを見せた。
「王国では、獣人たちでも最低限の衣をまとうことになっているんでな」
「解りました」
飯のあとと言ったが、飯の用意をしていない連中は服に群がった。
同じものを購入しているから、優劣はないはずだ。
多少のサイズ違いは我慢してもらうしかない。
あとは――ああ、靴だ。
自作の草履のようなものを履いている者が多いし、獣人たちは裸足。
「う~ん?」
靴はなにがいいだろうか?
道は悪いし、畑仕事にも使えるとなると――長靴か?
シャングリ・ラで一番安い長靴を1足800円、人数分購入。
子どもたちには子供用の長靴にした。
安いのは耐久性に劣るのだが、とりあえずはなんとかなるだろう。
必要なものを村人たちに渡して、俺はコンテナハウスに戻って飯を食うことにした。





