246話 突撃虫
俺たちは王国に戻るために、エルフの村を出発した。
最初は川を下る予定だったのだが、多数の首長竜のような魔物がいて断念。
出発地点に戻ることにした。
そこからエルフの村とは逆方向の対岸に渡り、離れた場所にある只人の村を目指す。
その村から出ている道が、王国に戻ることができる街道につながっているらしい。
川を下れないとなると、そこしか道がない。
森の中を海まで進むという手もあるのだが、川にいたあのような魔物がうじゃうじゃいるとなると、どんな危険が待ち構えているのか解らない。
村から道が出ているということは、その周囲は森の深部よりは安全だろうという判断だ。
ダリアから森の中を通っていた街道も比較的安全だったしな。
森の中をSUV車でひたすら走り、黒狼の群れを追い払うと――俺たちの目の前には広大な湿地帯が広がっていた。
足を踏み入れるとズブズブと足を取られそうな、巨大な水たまりに丸太でできた一本道が続く。
エルフたちが適当にそこに生えている木を倒して作った道らしい。
「丸太橋を進むしかないな」
「ここは車じゃ無理だな」
アキラも車をアイテムBOXに入れた。
「ケンイチ、K100みたいのは作れないのか?」
「K100ってあれか? クソ懐かしいな」
昔のTV番組でバルーンタイヤを履いた機関車がでてきたのだ。
「あれって湖みたいな場所も走ってたじゃん」
「そうそう――ってオッサンしか解らんネタだな」
バルーンタイヤのバギーとかシャングリ・ラで検索してもない。
ホバークラフトも無理。
プロペラで進むボートも当然売ってないので、徒歩で進むしかない。
「アネモネ、無理そうならニャメナにおぶってもらえ」
「大丈夫だよ」
「そうか、気をつけてな」
「うん」
「なんでぇ私は心配してくれないのぉ?」
セテラが不満のようだが、エルフが作った道だ。
「エルフが作ったんだから、エルフなら通れるってことだろう? なんで心配する必要があるんだ?」
「そのとおりじゃの」
「ぷぅ、私に対する愛はないのか」
エルフがむくれているのだが、アキラの所に行ってヒソヒソ話をする。
「アキラ、エルフが私に愛がどうの――って言うようになったんだが、これってなにかあるのか?」
「ああ、それは親密になると出てくるエルフの慣用句だよ。相手の好意を確かめるときに使われる」
「え~?」
「ははは、随分と好かれたな」
「それじゃ、ツィッツラも言うのか?」
「多分、そのうち言うと思う」
う~ん、なにせ他種族だからな。
話を聞くと宇宙人みたいだし……。
まぁ、多少の文化の違いは受け入れねばならない。
俺たちは列になって、丸太の道を進み始めた。
大木を倒してそのまま橋にしているので、根っこと枝が支えて平均台のように宙に浮くような形になっている所もある。
水に浸かった丸太は全体が緑色に苔むし、全体が色とりどりのきのこで覆われたものもある。
歩きにくいし滑る。
下は水だが、湿地なので深さはないだろう。
落ちても怪我をすることはないだろうが、あちこちからポコポコと泡が立っている。
底に積もったヘドロが発酵してガスを放出しているのだ。
ときおり、ドブのような異臭が漂ってくる。
周りを見渡せば、透明な翅を持ったカゲロウのような虫が沢山飛ぶ。
「ツィッツラ、あの虫は危険はないのか?」
「大丈夫だよ。危ないと言ったら猛スピードで突っ込んでくる、ケーって虫がいるから。それは危ない」
「突っ込んでくるとどうなるんだ?」
「獲物を倒して、卵を産み付けるんだよ」
「子供のための狩りか!」
俺とツィッツラの会話にアキラが入ってきた。
「それって、シュツルムケイファだろ? ここにいるのか?」
「いるよ――甲高い音が聞こえたら伏せたほうがいいよ。木も簡単に貫通するから」
「アキラ、それって帝国にもいるのか?」
「ああ、いる場所にはいる。すごいぞ、鎧を着てても簡単に貫通するからな」
「マジで?」
彼の話では、マジで弾丸並の威力らしい。
鎧を着た騎士を2体まるごと貫通したこともあるという。
「旦那、なにを話しているんだい?」「にゃ?」
「凄い速度で鎧も貫通する虫がいるらしい」
「げ?! それって突撃虫じゃ?!」「マジにゃ? いるにゃ? どこにゃ?」
獣人たちが辺りをキョロキョロと見回す。
どうやら彼女たちもその虫を知っているらしい。
「近づくと音がするらしいから、獣人たちなら解るだろ?」
「た、多分解ると思うけど……」「とんでもない所に来たにゃ……」
ミャレーが尻尾を下げて深刻そうな顔をするってことは、よほどヤバいのか。
「アマランサスは知っているか?」
「知りませぬ」
「まぁ、お城の中にいれば関係ないからなぁ」
「アキラ! 聖なる盾は効く?」
「アネモネちゃん、弱い防御魔法だと貫通するぞ」
「どうしよう……」
アネモネが魔法での虫対策をしたいようだが、有効策があるならレイランさんあたりが実行しているはずだ。
「なんだか、とんでもねぇ所に――うわぁぁ!」
足を滑らせたアキラが、背中から下に落っこちた。
「アキラ!」
「ぷはっ!」
すぐにアキラが立ち上がったのだが、澄んでいた水がかき混ぜられて、コーヒー牛乳のような色に変わっている。
「大丈夫か?」
「大丈夫だが――くせぇ!」
アキラが自分の服をクンカクンカしている。
どうやら、水の底にたまっていたヘドロに塗れてしまったようだ。
「よし、アイテムBOXから――」
俺はアルミハシゴを出すと、丸太に立て掛けた。
「サンキュー」
彼が、ヘドロにハマった足を交互に引き抜き、ハシゴに足をかけた。
ズブズブとハシゴもめり込んでいくが、ある程度沈んだところで止まる。
アキラが丸太の上に戻ってきた。
「くそ~ヒデェ目にあったぜ……」
「くせぇ!」「くさいにゃ!」
鼻のいい獣人たちが逃げたいようだが、ここは一本道だ。
「アネモネ、魔法で綺麗になるか?」
彼女が魔法の準備を始めたのだが、ツィッツラが名乗り出た。
「僕がやるよ! 洗浄!」
青い光が舞うと、すぐにアキラの服が綺麗になったのだが、ずぶ濡れなのはそのまま。
乾燥の魔法は人体に使うと危険なので、使えない。
「土がある島の所まで慎重に行こう」
「ハックショイ――畜生! あ、いけね」
「やっぱりオッサンならでるよなぁ、畜生が――」
なぜか、オッサンがくしゃみをすると、語尾に畜生がつく。
「うるせぇ」
鼻をすするアキラが珍しく不機嫌そうだ。
自分だけ落っこちたので、バツが悪いらしい。
アキラのことを笑いながら丸太の上を歩いていたのだが――。
「ん?!」「にゃ!?」
獣人たちが耳をくるくると回している。
「どうした? 敵か?! 何も見えないが……」
ずっと湿地帯なので視界はクリア――敵らしき敵は見えないが、ニャメナが大声を上げた。
「伏せろ!」
慌てて、彼女の言うとおり苔むした丸太の上に伏せる。
緑色の苔はちょっと湿っていて、ふわふわ。
そんなことを考えていると、高周波音を響かせて、なにかが上をとおり過ぎた。
「アキラ! ケーだよ!」
ツィッツラも叫ぶ。
「旦那! マジでやべぇよ!」「突撃虫にゃ!」
「ええ? まじで? 早速フラグ回収かよ!」
「ケンイチ、間違いないぞ!」
その虫に遭ったことがある全員がそういうのだから間違いないのだろう。
「どうする? 動けないぞ?!」
「やつらが超高速を出すのは1回か2回だから……」
「聖騎士様! 妾を盾に」
「鎧を着てても軽く貫通するんだろ? 馬鹿なことを言うな」
アマランサスを止めていると青い光が舞い始める。
「むー!」
丸太に伏せているアネモネが聖なる盾の準備に入ると、俺の目の前で炸裂音とともに丸太が爆発した。
木っ端が宙を舞い、木の香りが鼻腔に飛び込んでくる。
虫が丸太を貫通したのだ。
その衝撃波とともに丸太も真っ二つになって俺も落下。
ヘドロの洗礼を浴びた。
「ぷへっ! くせぇ!」
ずぶ濡れの泥まみれになる。
本当にドブのようなにおい――くさいが懐かしい。
ガキのころは下水もなく、生活排水は地下浸透であちこちにドブがあった。
そこに落ちたりしたら大変なことになるのだが……。
懐古に浸っている場合ではない。
丸太はくの字になったが、皆はかろうじて落ちていない。
一番近くにいた俺だけがあおりをくらったようだ。
「ケンイチ、早く上がってこい! 多分、もう大丈夫だ」
虫が2回超高速を出したので、もう大丈夫という判断だろう。
「今のうちに移動しようよ!」
ツィッツラもアキラの意見に同意している。
「それって燃料ぎれとかなのか?」
「ああ、やつらケツから超高圧のガスを噴出して超高速を出すんだ」
「生物ロケットかよ……」
くの字になった丸太が水面に浸っているので、そこから這い上がり皆で急いでその地点を去る。
足場のいいところまでやって来ると、アネモネに魔法を頼んだ。
「むー! 洗浄!」
アネモネの魔法で、においは取れたがずぶ濡れだ。
「ハックショイ、畜生!」
「ほら、ケンイチだって畜生って言うじゃん」
「あ、いけね」
ついつい癖でな。
慌てて次の丸太橋を渡り先端まで行ったが、その先がなく5mほど離れている。
「さて、丸太を出すかゴムボートを出すか」
「朽木が多くて、ひっかかりそうだぞ?」
「う~ん、そうだな」
水面といっても湖や池のような綺麗な場所ではない。
凸凹しており、朽木なども沈んでいる。
俺はアイテムBOXから丸太を出すことにした。
活躍することが多い丸太だが、毎回縦に出すことができなくて苦労する。
丸太をアイテムBOXから出すと、絶対に横に出てくるのだ。
「ん? 待てよ……この距離ならアルミハシゴを出したほうがいいか」
アイテムBOXからハシゴを取り出した。
「ニャメナ、こいつを持ち上げて水面に渡してくれ」
「解ったぜ、旦那」
軽量なアルミとはいえ、持ち上げると結構重い。
彼女はそんなハシゴを軽々と持ち上げて、縦にすると水面に倒した。
水しぶきが舞い、白いハシゴの道ができる。
「どれ、強度的には大丈夫かな?」
このハシゴなら、丸太橋よりは渡りやすいはずだ。
俺のアイテムBOXに入っている丸太は細いので、2本出さねばならない。
ハシゴに足をかけて踏みしめてみる――大丈夫のようだ。
「1人ずつ渡ってくれ」
まず最初に俺が渡る。
大丈夫なのを見て、後続も次々と渡りはじめた。
「アネモネ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
丸太だと心配だが、ハシゴなら平気だろう。
獣人たちは中間までジャンプして2歩でクリアだ。
アキラが渡ったあと、ツィッツラが渡る。
「この白いのって金属なの? 銀?」
見たこともない金属を見て、エルフが気になるようだ。
「その金属は魔法の触媒に使えるからな」
「えっ?! 本当?」
アキラの言葉にツィッツラが反応した。
「あとで試させてやるよ」
「やったぁ!」
少年のようなエルフが渡り切ると、アキラに抱きつく。
「こら、まだ濡れてるんだぞ?」
「平気だよ」
最後にセテラが渡ったので、ハシゴをアイテムBOXに収納した。
「じ――」
セテラが俺のほうをじっと見ている。
「なんだ? どうかしたか?」
「アイテムBOXの中にいろんなものが入っているんだねぇ」
「まぁな」
彼女ならアルミの存在は知っているだろうし、触媒になるのも知っているに違いない。
この世界ではアルミの錬成ができなかったので、手に入らなかっただろうが。
「エルフが故郷から持ってきた優れた知識やらテクノロジーで、世界を支配しようと考えなかったのか?」
「そういうのが嫌で逃げてきた連中ばっかりだったしぃ」
「全員が全員、そうってわけでもないんだろ?」
「そういうことをすると、管理者からなにされるか解らないしぃ」
「その管理者って本当にいるのか?」
「私たちがぁ、やってきたときはいたよぉ?」
エルフが5000年生きてて、そのエルフと同じぐらいのテクノロジーを持つ管理者なら、5000年生きててもおかしくはないが……。
「まぁ、実際に俺とアキラも連れてこられたしな」
「なにが目的かさっぱりと解らんが」
変なチートを授けて面白がっていると考えるのが妥当なのだが……。
「俺たちもそれなりに楽しんでいるからいいんだが……アキラは、苦労したみたいだけどな」
「まぁな。俺のは完全に外れスキルだろ――なんだよ、マヨネーズって。最初はアイテムBOXもなかったし」
ここで、いるかどうかも解らん存在に愚痴を言っても仕方ない。
森の中が暗くなってきたので、俺たちは先を急いだ。
「ケンイチ、あそこに島がある」
アネモネが指差した先に、小高くなっている島があり、小さな木が生えていた。
その周りにはフェアリーリングがあり、小さなきのこが踊るように並んでいる。
草はあまり生えておらず、ほとんどが苔で島全体が緑色。
「うにゃ!」「やった!」
獣人たちが俺の頭を飛び越して一回転。
こんな滑りやすい丸太の上で流石の運動能力だ。
「一番乗りにゃ」「いぇ~!」
獣人たちの所まで行くと、アキラと一緒に服を脱ぐ。
ここには男の裸を恥ずかしがるような女はいないから平気だ。
アイテムBOXから出したバスタオルを腰に巻くと、ズボンも脱ぐ。
服やズボンなどを脱げば、乾燥の魔法が使える。
すぐにアネモネが仕事をしてくれた。
「むー! 乾燥!」
「アキラのは僕がしてあげるよ。乾燥!」
アネモネとエルフの魔法で、服とズボンから白い煙があがりすぐにサラサラになる。
「ふー! 一息ついたぜ」
アキラの腰から取ったバスタオルをツィッツラが首に巻いてはしゃいでいる。
エルフの感覚からすると、アキラのものは自分のものなのだ。
「ケンイチ、あのバスタオルもらっていいか?」
「ああ、いいぞ」
「ケンイチぃ、私もその布がほしいんだけどぉ……」
セテラは人間の街にもいたことがあるらしいので、一応人のものと自分のものは区別をつけているようだ。
ツィッツラも只人と一緒に住むなら、理解してほしいところだが……。
まぁ、アキラがなんとかするだろう。
セテラにもタオルをやると頬ずりをしている。
ちょうどいい場所があったので、今日はここにキャンプを張ることにした。
すでに暗くなりつつあり、ここからは動けない。
この場所は危険かもしれないが、一本橋の上やら水の上よりはいいだろう。
「アキラ、さっきの突撃虫は夜にも飛ぶのか?」
「ああ、明かりはマズい。明かりに目掛けて突っ込んでくるからな」
「LEDの明かりなら平気だろう。あれには虫が集まってこないからな」
「虫って紫外線に集まるんだっけ?」
「確かそうだと思った」
彼の話では、体温と動物の吐く息を辿って、目標を見つけるらしい。
動物の吐く息――つまり二酸化炭素だ。
「鎧を貫通するなら、コンテナハウスもだめだろうな」
「多分」
恐ろしい。
「火を使えないから、アネモネの魔法で温めてもらうか」
「俺の魔導コンロも大丈夫だぞ」
「じゃあ、お湯を沸かしてくれ」
魔法と魔導コンロからは、二酸化炭素は出ないが、人の息に寄ってくる可能性がある。
そうとはいえ、飯を食わないわけにもいかないし……。
「オッケー」
「オッケーにゃ!」
「旦那! カレーにしてくれよ! カレー!」
獣人たちはカレーでいいというので、アネモネに魔法でパウチを温めてもらう。
これですぐに食える。
エルフたちはインスタントラーメンを食べたいようだ。
どうも、あれが気にいったらしい。
獣人たちはカレー、エルフたちはラーメン。
好みがハッキリと分かれている。
俺たちもラーメンを食べることにして、鍋で袋麺を作ることにした。
エルフも結構食べるからな。
只人グループは、ラーメンと冷凍チャーハンにした。
この手の冷凍チャーハンは、中々侮れない。
下手に自分で料理するより美味いのだ。
「美味いにゃー!」「うめー!」
獣人たちはカレーを頬張り――ちょっと離れた場所では、アキラとツィッツラが、ラーメンを交互に食べさせあっている。
あれがエルフ式らしい。
それを見たセテラが、俺にも彼女のラーメンを差し出してくる。
「はい」
「ええ?」
セテラのくせに、すごい悲しそうな顔をするので仕方なく食べる。
食べたら、俺のラーメンを食べさせてやらないと駄目ってことだ。
「ほら」
俺が箸でラーメンを取ってやると、それをエルフが食べている。
毎回これをやるのか?
「むー! ケンイチ! 私も、あーん!」
アネモネが箸でラーメンを差し出してくる。
「ええ? あーん」
アネモネから食べさせてもらうのだが、考えてみれば人間でもこういうことをしないでもない。
アネモネとアマランサスにも食べさせてやって、なんとか収まった。
そういえば、森猫たちはどうしたのだろう。
彼女たちなら心配は要らないとは思うが……そんなことを考えていると、暗闇からベルが現れた。
「にゃー!」「みゃ」
「食いねぇ食いねぇ、飯食いねぇ」
彼女たちにネコ缶を開けてやる。
彼女の黒い背中をナデナデしながら、質問してみた。
「お母さん、なにかいたかい?」
「にゃー」
「え? スライムか……」
スライムとは面倒だが……。
「でも、スライムなら私のスライム避けでなんとかなるよ?」
「アネモネの言うとおりだな。スライム避けを使いながら進もう」
それに足場が悪すぎる。
なにかスパイクのようなものはないだろうか?
シャングリ・ラで検索してみると、いいものを見つけた。
靴に取り付けることができる鋼鉄製のスパイクだ。
鎖とゴムを使い靴を亀甲縛りのように包み、スパイクを装着する。
1対で2000円ぐらいだ。よかったら人数分買うか。
「こりゃいい。ポチッとな」
ガシャっと銀色のスパイクが落ちてきた。
「お? なんだそれ?」
購入したものが気になったのか、アキラが俺の所にやってきた。
爪楊枝を咥えながら歩いてくるその姿はまさにオッサン。
「あと付けのスパイクだよ。靴に取り付けることができる」
「おっ!? こりゃいいじゃん! こんないいものを持っているなら、最初から出してくれよ! あんなくせぇ所に落ちる必要なかったじゃん!」
「ははは、俺も今気がついた」
キラキラした銀色が気になったのか、獣人たちもやってきた。
「旦那、なんだいそれは? 武器かい?」「鉄の爪にゃ?」
「違う、足に付ける滑り止めだよ」
俺の靴に付けてみせるが、たしかに武器としても使えるかもしれないが。
「へ~」
感心している獣人たちにも聞いてみる。
「お前たちも使うかい?」
「そんなの要らないよ」「そうだにゃ」
そういえば、足場の悪い場所でも彼女たちはスイスイと進んでいた。
「エルフたちは?」
「要らないよぉ」
それじゃ、使うのは只人グループだけってことか。
小さな島だがコンテナハウスを3つ出す。
ちょっと斜めになってしまっているが、ご愛嬌。
苔の上はふわふわなので、あそこで寝ても素敵そうなのだが、意外と湿っぽい。
それに小さな虫も沢山いるので、たかられてしまうだろう。
ベルによればスライムもいるらしいので、周囲にスライム避けを設置した。
これで準備万端。
今日はアマランサスの相手をしてあげないと。
「それじゃ私もぉ」
エルフが俺に抱きついてきた。
「ええ?」
――というわけで3人で夜更けまで遊ぶ。
セテラがアマランサスにちょっかいを出すのを止めさせるのに苦労した。
エルフはどっちでもいいらしいのだが、アマランサスはそうではない。
男から見ている分には、絶世の美女同士の絡みは絵面的に最高のシチュエーションなのだが、アマランサスが嫌がっている。
奴隷紋で強制することもできるが、彼女が可哀想だ。
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――小さな島にたどり着いた次の日の朝。
アネモネにパンを焼いてもらい、インスタントスープで食事を取った。
甘いものが食べたい者には、缶詰を出してやる。
「あ、甘くてうめぇ!」
缶詰の甘さにエルフが目を丸くしている。
「ほら、俺のもやる」
「あ~ん」
なんて、アキラとツィッツラがまたやっている。
それを見るとセテラもやりたがるので勘弁してほしいのだが。
食事も終わり、今日は靴にスパイクを装着して丸太の道を進む。
この区間だけで10kmほどあるようなのだが、よく作ったもんだなと感心する。
エルフには無限ともいえる時間があるので、長年かけて作ったものだろう。
そういえば大木が根っこから倒れているのだが、どうやって倒しているのか。
ツィッツラに聞いてみる。
「木に登って縄を上に結ぶだろ? 重量が軽くなる魔法を使ってから引き倒すんだ」
「重量が軽くなる魔法――只人には使えない魔法か?」
「さぁね。もしかして使えるやつもいるんじゃない?」
「アキラ、レイランさんは?」
「いいや、魔法というか超能力の類じゃね?」
サイコキネシスとかテレパシーとか……使うと髪が逆立っちゃうやつか。
「使えれば便利だよなぁ」
「そうだな」
でも、エルフには使える者がいるので、そういう魔法があるのは事実らしい。
食事が済んだあと、俺達は再び丸太の一本道を進むことになった。





