237話 他の国に住む森の住民
リッチを倒したあと、転移門でどこかに飛ばされた。
どうやら一方通行らしく元の場所に戻れない。
目の前に広がっているのは、鬱蒼とした森。
とりあえず人家を探して、ここがどこかなのか確かめる必要がある。
地理が解れば車もあるし船もある。
なんとかなるに違いない。
人はそれを希望的観測と言うが……。
深い森の中を車を真西に進め、大きな丘を越える。
そこにいたのはコカトリスと思われる大きな魔物。
アネモネの魔法でこれを撃破して、魔物の巣らしき場所で一泊することになった。
大きな戦闘をしたので一旦落ち着いたほうがいい。
キャンプを張るためにコンテナハウスを出す。
戦闘で逃げ回っていたためか、獣人たちがしょんぼりしている。
まだ耳を伏せてビクビクしているので、彼女たちを抱き寄せてナデナデしてやる。
「はは、気にするな。突然デカくて見たことがない魔物が現れたんで、びっくりしたんだろ?」
「……そう、にゃ……」「面目ねぇ……」
元世界で観た、びっくりして走り回る猫の動画を思い出してちょっと笑ってしまう。
獣人たちも落ち着いたようなので、コカトリスの白い死体をアイテムBOXに収納した。
見たこともない魔物がどんどん溜まるなぁ……。
こいつは鳥なので食えそうであるが、解体するなら水のある場所にしたほうがいい。
ここで解体したら、キャンプができなくなってしまうし、血の匂いによって他の魔物を呼び寄せる可能性もある。
その前に、こいつが番だと困るのだが……今のところのその様子はない。
大きな羽毛に覆われているので、素材としてなにかに利用できるかも。
サクラに帰って皆に見せるのが楽しみだ。
「ケンイチ! こっちに来るにゃ!」「旦那!」
獣人たちが呼ぶので、石で組まれた円陣の中に行ってみる。
コカトリスはここを巣として利用していたようだが、正確な円を描いているので、なにかの遺跡のようにも見える。
石組を登って、獣人たちと一緒に中を覗く。
たくさんの羽根や小枝の中に丸くて大きなものがあった。
長さ50cmぐらいある白い卵。
「でけぇ!」
「大きいにゃ!」「食えるのかな?」
「まぁ食えるんじゃない? 卵の中ってのは、身体の内臓ができる前の状態だから、これで毒ってことはないだろうし」
もしかして孵りかけかもしれないが……。
「へぇ~」
「お前ら、俺が蜘蛛の卵を食ったときは、ギャーギャー言ってたのに」
「だって旦那! あれは蜘蛛じゃないかよ。こいつは鳥だし」「そうだにゃ」
虫は駄目だけど、鳥はOK――ってことらしい。
手で卵を触る――殻は凸凹だがつるつるしており、すごく硬そう。
「ケンイチ! 私も見たい!」
アネモネの手を掴んで引っ張り上げてやる。
「ほら」
「すごい! 大きな卵!」
「こいつもアイテムBOXに入れるか……サクラの連中に食わせてやろう」
「ここでは食べられない?」
「これだけの量があっても、処理に困ってしまう。コカトリスの解体もそうだが、人手が必要だ」
「あれは人数がいないと無理だぜ」「それも水がある場所がいいにゃ」
獣人たちも俺と一緒の意見のようだ。
巣の中はくさいので、卵をアイテムBOXに入れたら撤退する。
この卵は有精卵で生きているかもしれないが、アイテムBOXに入れた瞬間に死んでしまっただろう。
「卵があったってことは、雌なんだろうな」
「多分、そうにゃ」
「でも旦那。雄が現れるってことは?」
ニャメナが耳をクルクルと回している。
「雄が近くにいたら、戦闘になって雌の鳴き声を聞いた途端にここに駆けつけると思うが……」
「ウチもケンイチの言うとおりだと思うにゃ」
「周りに怪しい気配や、鳴き声は?」
「ないぜ!」「あれだけデカいものが近づいてくれば、すぐに解るにゃ」
落ち着いたので、ちょっと遅めの昼飯を食う。
今は――多分、1時頃だな。
インスタントもので済ませる。
肉を焼いたりして、いいにおいをさせると魔物を引き寄せてしまうかもしれん。
俺がこの世界の森で初めてキャンプしたとき、焼き肉をやって黒狼を呼び寄せてしまった。
自分で言うのもなんだが、平和脳ってのは恐ろしい。
「こんな森の深くでも普通に飯が食えるにゃんて、ケンイチがいるからできるにゃ」「まったくその通りだな」
俺は飯を食いながら、あることを思い出した。
「おっ、そうだ! スケルトンをやっつけたときに箱があったよな」
アイテムBOXから、その箱を取り出す。
100均のタッパーぐらいの黒くて小さな箱だ。
「なにが入っているにゃ?」「いいものが出てくるんじゃねぇの?」
「わくわく」
こんな小さな箱に罠があるってことはないだろう。
鍵はかかっていないようなので、蓋を開けてみた。
中は赤い布が張られており、その中に白いコインが一枚。
「にゃんだ銀貨かにゃ?」「なんだよ」
獣人2人がコインを覗き込んで、ガッカリした表情をする。
「ちょっと待て――ふ~ん」
俺は、コインに力を送ってみると、丸い板が淡く光始めた。
「これは白金貨だな」
「にゃにゃ! すごいにゃ!」「それじゃ、ああいうスケルトンがたくさん出るダンジョンがあれば、大金持ちだな」
「けど、あのスケルトンはかなり強かったぞ? 普通に戦ったら、結構苦戦すると思うがなぁ」
「それでも白金貨になるとなりゃ、命知らずがわんさかやってくるぜ?」
「命がけの博打は――感心しないなぁ……」
アネモネにも白金貨を見せてやる。
「むー!」
彼女もコインに魔力を注ぎ込むと、淡く光りだす。
「ミャレーとニャメナに、褒美でやろうか?」
「冗談じゃねぇよ、旦那。俺たち逃げ回っていただけじゃねぇか」「そうだにゃ」
「いや、その前の仕事の分だよ。ダンジョンで先行してくれたり、リッチ戦で一緒に戦ってくれただろう?」
「俺ら見てただけじゃん」「にゃ」
なんだかんだと言って、もらってくれない。
一応、アイテムBOX内にある彼女たちの共通フォルダの中に入れておく。
「だいたいにゃ。前からもらっている金もまったく使ってないにゃ」「散々飲み食いさせてもらっているし、これ以上はなにもいらねぇ」
「にゃはは、ウチは獣人で一番金持ちだにゃ」
「金があるなら、家を建てるって手もあるぞ?」
「家なら、ケンイチからもらった鉄の家で十分にゃ」
「そうだよなぁ。あれがあれば普通の家なんて、玩具みたいなもんだ。魔物に襲われてもびくともしねぇし」
獣人たちに物欲はあまりないらしい。
実際、彼らの稼ぎは家賃とメシ代、飲み代に変わってしまう。
男なら、女を買って散財する。
それが獣人たちだ。
「ベルたちも連れてきたかったね」
「探す場所がたくさんあるから、喜ぶだろうな」
ベルと言えば、リッチの話では亡国の王妃だとか言っていたな。
「ケンイチどうしたの?」
アネモネが俺の顔を覗き込んでくる。
「いや、リッチのやつが、お母さんをどこかの国の王妃だと言ってただろ?」
「うん」
「元人間なら、言葉が解ってもおかしくないなぁ――と思ってな」
「やっぱり、あの森猫はちょっと違うと思ったにゃ」「だいたい普通の森猫は、あんなデカくないしな」
でも、元王妃かぁ――そう考えると、ちょっと失礼なことを色々としちゃったな。
まさか元人間だとは思わないし。
「あの骨が嘘ついたかもしれないにゃ」
「いや、ベルもやつと知り合いだったみたいだから、それはないだろうな」
「リッチは何年ぐらい生きてたのかな?」
「わからん、やつは500年前にあそこにやってきたと言ってたし、その前からリッチをやっていたとすれば、1000年ぐらいはたっているのかもしれないなぁ」
さすが、ノーライフキングなんて言われるぐらいの魔物だな。
「エルフ並にゃ」
「そう、長生きしているエルフなら、あのリッチや、なくなった王国のことも知っているかもしれないな」
そうだとはいえ――エルフでも1000年生きている長寿ってのは中々いないのでは……。
飯を食い終わったら、獣人たちは周囲のパトロールに向かうらしい。
戦闘でいいところを見せられなかったので、他で挽回するつもりだろう。
彼女たちには十分に働いてもらっているので、気にしなくてもいいのだが。
コンテナハウスの中のベッドに寝転がり、アネモネと一緒に本を読む。
彼女は俺と2人っきりで楽しそうだ。
「むふふ~ケンイチと2人っきり~」
彼女が俺の上に乗ってくる。
「本当に2人きりになってしまったらどうするんだ?」
「やったぁ――ケンイチ独り占めぇ」
アネモネが俺に抱きついてきて、シャツをクンカクンカしている。
まったく堪えてない。
まぁ、暗くて殺伐としているよりは全然いいけどな。
夕方になったので飯を食い、ちょっと離れた場所にコンテナハウスをもう1つ出し、そこで獣人たちと寝る。
明日は、アネモネと2人きりで寝る約束をして、今日は獣人たちとの戯れだ。
たっぷりと可愛がってやった。
------◇◇◇------
――獣人たちの毛皮に埋もれて寝ていると、夜中に起こされた。
「旦那! 囲まれたぞ?!」「にゃ!」
「え?! 魔物か?!」
獣人たちの言葉に慌てて飛び起きる。
さすがに寝ぼけている場合ではない。
ここは前人未到の森の深層なのだ。
なにがいてもおかしくない。
「獣の気配じゃねぇな……」
「それじゃ人か?」
人なら、ここがどこだか解るはずだ。
ファーストコンタクトを成功させなくては。
獣人たちが窓から外を眺めている。
空には月が出ているので、彼女たちの目なら十分に見えるだろう。
「……これは、もしかしてエルフじゃねぇか?」「ウチもそう思うにゃ……」
エルフ?
俺はアイテムBOXからナイトビジョンを取り出して窓から外を覗く。
単色の緑色の景色の中に白い人影が見える。
彼女たちが言うように耳が長いようだ。
「前にもこんなことがあったなぁ。またエルフの縄張りに入ってしまったのか」
デジャヴュってやつだ。
「仕方ないにゃ、こんな場所誰の土地かも解らないにゃ」「そうだよ旦那」
さて――一見排他的ではあるエルフ。
サクラにいるセテラを見ている感じでは、敵意がないと解れば受け入れてくれるはずだが……。
「外に出てみるか……」
「旦那、大丈夫かい?」
「解らんが、うちにいるエルフの感じからすれば、大丈夫だろ?」
「まぁねぇ……」「なんか街で言われているエルフと随分違ったにゃ」
排他的と言われているのだが、仲間だと認められるとすごい馴れ馴れしい。
すごい近距離までずいずいと入り込んできて、人間との距離感の違いを感じる。
個人所有の概念がなくて、すべてが共有財産という彼らの文化からくるものだ。
俺はLEDライトを持つと、ドアを開けて外に出た。
光を掲げて両手を上げて叫ぶ。
「俺はケンイチ! 怪しいものじゃない! エルフなら言葉が解るだろ?」
俺はエルフからもらった翻訳の指輪をはめている。
呼びかけは彼らに聞こえているはずだが、なにかが飛んできて足元の土に刺さる。
「うお!」
矢だが――ここは慌てたら駄目だ。
敵じゃないことを示さなくては。
「敵じゃない! すでに他のエルフと交流があるものだ!」
「本当か!?」
暗闇から返答が来た。
「言葉を翻訳する指輪をエルフからもらっている。親密な関係でなければ、もらえるものじゃないだろ?」
「お前が殺して奪ったかもしれん!」
これは男の声だな。
「そんなことはない。お前らが好きなチェチェもあるぞ」
「……」
彼らは、なんだかんだと言って、外の刺激に飢えている。
彼らの村で料理をしている俺たちのものを興味深そうに食べていた。
俺はシャングリ・ラから業務用のチョコを購入――透明な袋に入った白黒で四角いチョコがたくさん詰まっているやつだ。
1kg入って1700円とお得。
手元にこういうのがあると、ついつい手が伸びてしまって危険な食いものだ。
そいつを声がする暗闇に向けて放り投げたのだが、しばらくすると返答があった。
「……これは、なんだ?!」
「チェチェを使ったお菓子だ。甘くて美味いぞ!」
「……」
1人のエルフが暗闇の中から出てきた。
金髪の短い髪で、緑色のチャイナドレスみたいな服を着ている。
背中には弓を背負い、腰のベルトには剣を差す。
へそが出ているのだが――多分若い男だろうなぁ。
ツリ目で大きな金色の瞳がLEDの光に反射してキラキラしている。
まるで少女漫画に出てくるようなキャラだが――声が男だ。アキラが好きそう……。
「どうやって食う」
エルフが透明な袋を差し出す。
「こうやって食うんだ」
俺は袋を開けると、透明な包み紙を取って口に放り込んだ。
「……」
「ほら、なんともないだろ?」
「それじゃ、こっちを食ってみろ!」
男が袋の中からもう1つチョコを取り出した。
毒でも入っているのではないかと警戒しているらしい。
同じように包み紙を取って、口に放り込む。
「大丈夫だろ?」
「……」
俺が美味しそうに食べているので、彼も興味を持ったのだろう。
慣れない手つきでチョコの包装を剥くと、においを嗅いでいる。
「……いいにおいだが、硬いな」
「美味いぞ」
「……カリ」
おそるおそる少しかじってみたようだが、その仕草が少々女の子っぽくって可愛い。
「……んぐ……あ、甘い」
「甘いだろ?」
「美味いぞ! これがチェチェなのか?!」
「精製して砂糖を入れたものだから、原型は失っているがな……」
「はぐはぐ!」
気に入ったのか、エルフは他のチョコの包装も剥くと口に放り込んだ。
「んほんひひは?」
「なにを言っているかわからんぞ?」
「どこから来た?」
「ダリアの近く」
本当はアストランティアなのだが、ダリアのほうが大きくて有名だ。
「ダリア? どこだ?」
「王国だ、カダン王国のダリア……」
「なんだと!? どうやってこんな場所まで?!」
エルフの言い分からすると、ここは王国ではないのか?
「う~ん、言って信じてもらえるのか解らんが――ダンジョンの中にあった転移門で飛ばされた」
「転移門?!」
サクラのエルフにも秘密にしていることだが、他に言い訳が見つからない。
ここは正直に話してしまったほうがいいだろう。
嘘をついて、あとでボロが出ると困る。
「知らないか? 遠く離れた場所に、あっという間に飛ばされるんだ」
「年寄りなら知っていると思うが……」
「お前は若いのか?」
「ああ」
やっぱり若いエルフなのか――といっても100歳とかなんだろうけど、ちょっと仕草が子どもっぽい。
「待っていろ」
エルフが、チョコの袋を持って暗闇に消えた。
色々と聞きたいことはあるのだが、ここでがっついても仕方ない。
彼らと信頼関係を築くことが先決。
慎重にいかなくては……。
「旦那、大丈夫かい?」「にゃ」
獣人たちが、窓から顔を出している。
「ああ、任せておけ」
アネモネが寝ているコンテナハウスをチラ見するが、明かりは点いていないので、まだ寝ているのだろう。
しばらく待っていると、暗闇から口の周りにチョコをつけたエルフの男たちがやってきた。
7人ぐらいか。
「お前の名前は?」
真ん中にいるのはリーダーらしき男で、髪が長い。
耳が長いマジイケメンだ。
やっぱりエルフを見るとファンタジーって感じがするね。
皆が装備をつけた同じようなチャイナドレスっぽい服を着ている。
「ケンイチだ。一応、商人をやっている」
まぁ、貴族っていうよりはマシだろう。
「こんなところでか?」
「そっちの男にも言ったが――」
再度同じ説明をエルフにすると、円陣を組んでなにやら相談を始めた。
「その黒い箱は?」
エルフはコンテナハウスを指差した。
「これは移動するときの俺たちの家だ。普段はアイテムBOXの中に入っている」
「アイテムBOX?」
「お~い、ミャレーとニャメナ、ちょっと部屋から出てくれ」
「はいよ」
2人がコンテナハウスから出てきた。
「獣人がいるのか? 奴隷か?」
「違う、俺の家族だよ。そっちには小さい子が寝ている」
俺の言葉にエルフがコンテナハウスまで走っていって中を覗く。
「本当に子どもが寝ている!」
「う~む……」
唸るエルフたちに、アイテムBOXを見せてやることにした。
「召喚!」
アイテムBOXから、椅子などを出して見せた。
「おおっ!」「本当にアイテムBOXだ」「久々に見たな」
「しかも、そんな沢山のものが入るアイテムBOXとは……」
「これに荷物を入れて商人をしている。なにか欲しいものはないか? お近づきの印に提供するぞ?」
俺はアイテムBOXから砂糖と塩を出した。
この手の取引では定番で、どちらもこの世界では簡単には手に入らない。
前のエルフも欲しがっていたしな。
王国では専売になっていたのだが、帝国や共和国でもそうなのだろうか?
「おおっ!」「砂糖と塩?!」「本当だ!」
「1つ聞きたい、ここはどこなのだろう?」
「特に地名はないが、只人たちは共和国とか呼んで国を作っている。その僻地だ」
あちゃ~! やっぱり共和国かよ……。
俺は心の中で頭を抱えた。
「ミャレー、ニャメナ、共和国だってよ」
エルフの言葉は獣人たちには解らないので、通訳してやる。
「うにゃ~」「マジで……」
2人とも耳を閉じ尻尾を垂らして、テンションだだ下がりである。
「それよりも!」
エルフが大声を出した。
「な、なんだ? なにか気に障ったか?」
「ここは、コカトリスの巣になっていたはずだが?」
「ああ、それなら俺たちが退治した」
「なんだと!? 我々エルフでも対応に苦していたのに、只人で商人のお前が!?」
「それじゃ証拠を見せてやるよ」
俺はアイテムBOXから、コカトリスの死体を出してやった。
白い羽毛に覆われた魔物の屍が落ちてくる。
「おわっ!」「ほ、本当にコカトリスだ!」「すげぇ! 首を一刀両断?!」
「ぐぬぬ……」
なにやらリーダーが悔しそうな顔をして俺を睨んでいる。
「欲しいならやるが……」
「只人からエルフが恵んでもらうだと?!」
もしかしたら、リーダーらしきエルフのプライドを傷つけてしまったのだろうか?
「いやいや、あくまでお近づきの印ってことで、贈り物と考えてもらえば。利用価値は高そうじゃないか」
「ウエェラ、この羽根は使えるよ? もらおうぜ?」「そうだ」
「うう……」
他のエルフが男の下に集ってきて説得しようとしているのだが、リーダーが腕を組んで苦々しい顔をしている。
簡単には只人の力を認めたくないということだろうか。
「俺も、人手がなくて解体できないから困っていたところだ。肉だけ欲しいのだが……」
「それでは解体の手間賃として、部材を貰えるということでいいのか?」
「ああ、そう思ってもらって結構だ」
エルフたちはまた円陣を組んであーだこーだし始めた。
待っていると結論が出たようだ。
「俺たちの村に来てもらっていいか?」
「それは敵意がないと解ってもらえたということか?」
「まぁな。それに、こんな魔物を倒すやつと戦って、我々がただで済むとも思えん」
「そんなことはないだろう。エルフなら皆すごい魔法が使えるんだろう?」
「そ、それはそうだが……」
リーダーらしきエルフの横から別のエルフが顔を出した。
こちらも髪が長いが、ちょっとタレ目のエルフだ。
「昼頃、デカい爆発があったろ? あれもお前がやったのか?」
「いや、爆裂魔法の魔法は、そっちで寝ている小さい子が使った」
「なんだと?! 子どもが?」
リーダーが俺の言葉に驚いた。
「うちの大魔導師様だぞ? 子どもって言わないでくれよ、本人が怒るからな」
「うう……」
「ケンイチ、他の魔物も見せてやったらどうかにゃ?」「そうだぜ旦那。こいつら驚くぜ」
獣人たちにはエルフが何を言っているのか解っていないが、それらしい雰囲気を察したのだろう。
「そうだな」
俺はヒポグリフを出してやった。
「なんじゃこりゃ?」「鳥なのか馬なのか?!」「こんな魔物は初めて見るぜ!」
どうやらヒポグリフってのは普通にいる魔物ではないらしい。
ゲートキーパーとして、あのリッチが作ったものなのだろうか?
「ほんじゃ、つぎ」
次にアイテムBOXから出てきたのは、黒い3つの頭を持つ巨大な犬。
「げっ!」「……」「うわ……」
エルフたちが言葉を失っている。
「俺たちが魔物を倒したってことを信じてもらえるだろうか?」
「……解った。失礼なことを言ったのを詫びる。お前たちは一流の戦士と魔導師だ」
どうやら解ってもらえたようで、なにより。
「さっきも言ったが、このコカトリスは進呈するぞ? 友好の証だと思ってくれ」
「……解った。これだけのものを仕留める猛者が下手な小細工はすまい」
「その魔法の明かりはもらえないのか?」
エルフの1人が、俺のLEDライトを指差す。
「こいつは特殊な魔法で動く魔道具だから俺にしか使えん」
「お前も魔導師なのか?」
「まぁな――治癒魔法とかも使えるぞ」
「本当か?」
エルフの男がナイフを取り出し、自分の腕を切ると血が流れる。
俺の能力を試すためだと思うが随分と思い切ったことをするな。
まぁ、彼らも治癒魔法は使えると思うので、俺が嘘をついたとしても大丈夫だという判断だろう。
俺はエルフの腕を左手で握り、傷口に右手を当てる。
「ふぁぁっ!」
エルフが変な声を出して手を引っ込めたのだが、すでに血は止まっている。
うっすらと傷は残っているが、すぐに塞がるだろう。
「おお、本当だ!」「しかも早い!」
エルフが早いって言うぐらいだから、早いんだろうな。
「うう……」
「どうした?」「顔が赤いぞ?」「耳まで赤くなってら、はは」
治療を受けたエルフが仲間にからかわれているが、俺の力の副作用によるものだろう。
ああ――もしかしてアキラのやつは、この力をエルフに使って遊んでいるのか?
俺たちの能力が本当で、敵性種族ではないと理解してもらえたようだ。
彼らの案内でコカトリスを持ってエルフの村に行くことになった。
ここでキャンプをするよりは安全だろう。
まったく未知の土地で、味方になってくれる種族がいるのは心強い。
出した魔物を収納すると、アネモネが寝ているコンテナハウスに向かう。
可哀想だが、暗い中寝ている大魔導師様を起こす。
「ケンイチ……どうしたの?」
目を覚ました彼女が俺に抱きついてきた。
「この近くにいたエルフたちと接触した。彼らの村に行くことになったんだ」
「エルフ?」
彼女が目をこすっている。
「彼らの村に着くまで、召喚獣の中で寝てていいぞ」
「大丈夫……」
彼女はそう言うのだが、なんかうつらうつらしている。
とりあえず車を出して彼らの村に向かおう。
それにしても、ここは共和国か。
どうやって帰ろう……。
俺はため息をついた。





