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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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235/275

235話 出た先は


 俺たちは遺跡の探索を行い、その最下層にたどり着いた。

 そこにいたのはリッチと呼ばれる高位のアンデッド。

 皆の協力でそいつを倒し、魔石や宝箱をゲット。

 その中に――なんと帝国の皇帝が使っているといわれる「若返りの神器」らしきアイテムがあった。

 神器を見たことがあるらしいアキラに確認してもらったが、間違いないようだ……。

 こりゃ、大発見! ――と思いきや。

 突然、光に飲み込まれて――次の瞬間、俺たちは闇の中にいた。

 真の闇だ。まったく何も見えない。

 自分の目の前に、手を持ってきてもそれすら見えない。


 まさか、本当に地獄への門だったとか……?


「なんじゃこりゃ!」

「にゃー!」「うおっ!」

 この声は、ミャレーとニャメナだな。

 獣人の2人はいるようだ。


「いしのなかにいる」

 この声はアネモネなのだが……困ったもんだ。


「アネモネ、アキラのマネは止めなさい」

「ふひひ、サーセン!」

 コレもアキラではない、アネモネだ。

 もう、すぐに真似するんだから。


「こらっ! もう」

「アネモネ、アキラみたいになったら、ケンイチに嫌われるにゃ」「女であの性格だったら、クソやべぇよな」

 獣人たちも俺と同意見のようだ。

 オッサンならあれでもしょうがないが、子どもが真似するのはよろしくない。


「じゃ、止める」

「まったく、お前ら余裕あんな」

 俺は暗闇の中で頭をかいた。


「にゃはは」

「獣人たちでも、なにも見えないか?」

「少しでも明かりがないとにゃー」「俺も駄目だ」

「ん~まいったな」

「これにゃ、前になったのと同じやつにゃ」「旦那、これって転移の門で飛ばされたんじゃ……」

 暗闇から声だけが聞こえる。

 本当になにも見えない。


「多分な――お前たち、なにがあるか解らないから動くなよ。今明かりを出すから」

 アイテムBOXのウインドウを開くと白く光って見えるが、その光は他の人には見えない。

 これってやっぱり、俺の脳みその中でそう見えているだけなのか?


 アイテムBOXからLEDランタンを出して、地面に置いた。

 下は石造りで硬い。もう1つ明かりを出して周囲を照らす。

 壁がみえるが、石造りで人工物らしい。

 いったいどこに飛ばされたのやら。


「ふう、明るいにゃー」「旦那、飛ばされたのは4人かい?」

 俺とアネモネ、そして獣人たち。

 森猫たちもいない。


「そうらしいが、周囲に気配は?」

「何もないぜ?」

 獣人たちが、クンカクンカして耳をクルクルと回している。

 においは――かび臭く、空気も淀んでいる。

 多分、数百年とか長い間、空気が入れ替えられていないのだろう。


 下にも埃が積み重なっているので、しばらく誰も訪れたことがない場所のようだ。

 埃を手でどけると、魔法陣らしきものがあるが――力を込めても吸われる感じがしない。

 魔法陣が死んでいるらしい。

 所々欠けているので、破損しているのだろう。


「まいったなこりゃ、一方通行か。一体どこに飛ばされたのやら……」

「――ということは、どういうことなんだい?」

「トラ公はアホだにゃ、あそこに戻れなくなったにゃ」

「うるせーって、マジかい旦那!」

 ニャメナも、この状況に気がついたようだが――。


「ああ……」

「はぁ――しゃーねぇなー」「そうだにゃー」

 獣人たちは別に慌てている節もない。

 アネモネも、その場でしゃがんで魔法陣を指でなぞったりしている。


「お前たち、平気なのか?」

「だってなぁ……俺たちだけでこんなことになったら、そりゃやべぇけどさぁ」

「ケンイチがいればなにも困らないにゃ」

「アイテムBOXからご飯も沢山出てくるしね」

「アネ嬢の言うとおりだぜ」「そうだにゃー!」

 そりゃ、今アイテムBOXに入っているものを使えば、この暗闇で死ぬまで生活することも可能。

 もちろん、そんなことをするわけないけどな。


 とりあえずの心配はなさそうだが、あの魔法陣はどうやって起動したのか。

 リッチはすでにゴミ箱に入っていたし、腹が減ってないってことは、俺の魔力が使われたわけでもないだろう。


「う~ん、近くにデカい魔石でもあったのかな?」

「転移の魔法陣が動いたこと?」

 俺のつぶやきに、アネモネがこちらを見た。


「ああ」

「誰の魔力も使われていなかったはずだから、多分魔石だと思う」

「やっぱりそうか……」

 リッチが使っていたデカい魔石がどこかにあったのに違いない。


 さて、それはいいとして――置いてきてしまった連中はどうしただろうか?

 途中の触手はアキラが焼いてしまったので問題ない。

 湖も船が置いてあるから渡れる。

 サクラへ帰るにしても、アキラの車があるから大丈夫だろう。

 彼のアイテムBOXにも食料ぐらいは多少はあるだろうしな。


「う~ん……」

「どうしたんだい旦那」

「いや、置いてきてしまった連中のことだ」

「あの顔ぶれなら大丈夫だろ?」「そうだにゃー!」

「竜殺しのアキラもいるし!」

「そうだよなぁ。ハッキリいって、俺よりかなり強いし実戦経験も豊富だ。アキラのアイテムBOXもあるしな」

「うん」

 とりあえず、安心したら腹が減ったな。

 聖騎士の力を使ったわけじゃないが、ハラペコだ。

 食えるときに食っておこう。

 幸い、ここにはなにもいないようだ――多分な。

 うず高く積もっている埃を見ても、誰もここにいないのは明白。

 もし、なにかが接近しても、獣人たちが気がつくだろう。


 リクエストを取るのだが――答えは。


「カレーにゃ!」「カレー」

 どんだけ好きなんだ。


「そうだな、俺は肉まんとおにぎりを……そうだ」

 シャングリ・ラを検索してみると、見つけた。

 そいつを購入してみると、ビニル袋に包まれたものが落ちてきた。


「肉まん?」

「肉まんってやつにゃ」

「こいつはちょっと違うんだよなぁ。アネモネ、魔法で温めてみてくれ」

「うん!」

 彼女が魔法で加熱すると、獣人たちがその正体にすぐに気がついた。

 彼女たちの敏感な鼻が反応したのだろう。


「カレーにゃ?!」「カレーのにおいだ!」

 俺が買ったものの正体は、カレーまん。

 元世界にいたときも、肉まんばかり食っていて、こいつはしばらく食ったことがなかった。

 あと、ピザまんとかもあったなぁ。

 ついでに購入して、食べ比べをしてみる。

 メーカーは有名な中○屋なので、食い慣れた味ってやつだ。


「おお~っ! 肉まんはカレーにもなるにゃ?!」「うめー!」

 えらい勢いで食べているので、すぐになくなりそうだ。

 喉につかえるので、中華スープも用意した。


「こっちはチーズ? これも美味しいね」

「色々と種類があるけど、最後は普通のに戻っちゃうんだけどなぁ」

 もちろん、あんまんもあるのだが、個人的には好きではない。

 俺とアネモネは、おにぎりも食べているが、獣人たちはカレーまんをバクバクと頬ばっている。


「頑張ってくれたから、いくらでも食っていいぞ? 普通のカレーもだすか?」

「ほんとかにゃ?」「腹減ったから腹いっぱい食うぜ!」

 肉まんを食べ終わると、アネモネが俺の膝の上に乗ってきた。


「えへへ」

「なんで嬉しそうなんだ」

「しばらく、ケンイチを独り占めできるし……」

「独り占めって――獣人たちもいるだろ? それに、この暗闇から脱出しないと駄目なんだぞ?」

「大丈夫大丈夫! なんとかなるにゃ!」「ああ、旦那といれば、怖いものなんかねぇ」

「その割には、トラ公は魔物に尻尾を逆立ててたにゃ」「うるせぇ! クロ助だってそうだろうが!?」

 なんだもう、緊張しているのは俺だけなのか?

 他の3人は、まったくそんな感じはしない。


「あ~、ニャメナ――ちょっと、ここにきなさい」

 アネモネを膝の上から降ろすとニャメナを呼んだ。


「え? なんだよ旦那……」

「いいから」

 ニャメナの手を引っ張ると膝の上にうつ伏せに乗せて、背中をなでる。


「にゃぁぁ!」

「なんだ可愛い声を出して」

「だって……」

「ベルがいないから、俺はニャメナをなでて、心の平穏を保つことにするんだよ」

 彼女の背中から尻尾にかけての毛皮を指でなでる。

 素晴らしい手触りは、俺の心を癒やしてくれるわけだ。


「ふっ、ふっ~」

 ニャメナはプルプルと震えて、俺になでられるのを我慢しているように見える。


「嫌なら止めるが……」

「そ、そんなことないし……」

「ケンイチ! ウチもなでるにゃー!」

 ミャレーが抱きついてきたので交代する。


「おう! なでるぞ!」

 ミャレーは俺の膝の上に腹を出して乗ってきた。

 ふさふさの短い毛の手触りが最高だ。


「お腹触らせていいのか?」

「ケンイチならいいにゃー」

 無防備な腹を晒すっていうのは信頼の証なのだ。


「うりうり」

「うにゃ~」

 ミャレーも目をうっとりさせて、完全に俺に身を任せている。


「お腹はふわふわだなぁ」

「これで、しばらくケンイチを独り占めにゃ~、あとはトラ公がいなきゃ完璧だったのににゃ~」

「そうはいくかよ!」

「獣人の男たちもなぁ――そんなに毛艶のいい女が好きなら自分たちでもブラシ掛けをしてやればいいのに」

「やつら、そんなことは絶対にしないにゃ」「そうだよ、旦那」

 どうも男がそういうことをするのは恥になるらしいが、隠れてやっている奴らもいるのではないだろうか?

 獣人たちには彼らの文化があるので、とやかくは言えないが……。


 俺の家族の女たちも、只人グループと獣人グループに完全に分かれている。

 お互いに不干渉というか、まったく興味がない。

 只人のライバルは只人で、獣人のライバルは獣人という具合。

 獣人たちも、相手が獣人の女だとものすごく警戒する。


「さて、心の平穏はなった。少し探索するか」

 女たちにLEDライトを持たせて、周囲を調べさせる。

 明かりはアネモネの魔法があるが、なにがあるか解らんので小魔法といえども無駄遣いはできない。

 リッチ戦でも、アネモネの大魔法を温存し続けたことが勝利に繋がったと考えている。


 ライトが照らし出す構造物は通路になっていて両側に壁がある――石造りだ。

 方向感覚がわからんので、方位磁石を出した。

 通路は東西に延びているようなので、とりあえず東へ向かうが――5分ほどで行き止まりになった。

 完全に壁なので、この先になにかあるようには思えない。

 多分、岩盤なのではあるまいか。

 次は、来た道を戻り反対側に行く――方位磁石で西方向だ。

 

 歩き始めると、すぐに獣人たちが反応した。


「ケンイチ、なにか居るにゃ!」「白いのがいる! このにおいは……骨じゃねぇか?!」

「スケルトンか――ここもダンジョン化しているのか?」

 そんなことを考えていると、骨がこちらを向くと襲ってきた。


「うにゃ?!」

「速い!」

 スケルトンなら、カタカタと動いてきて動きは遅い。

 アイテムBOXに入れれば楽勝とか油断していたのだが、この相手は速かった。

 普通のスケルトンとは違い、立派なアーマーを着込んだこのスケルトンは動きが段違いだ。

 ゲームでいうところの上位種ってことになるのか?


 一瞬で間合いを詰められそうになり、アイテムBOXに収納できる間合いに入る前に切られるか相打ち。

 相打ちでは、こちらに分が悪い。

 俺になにかあれば、他の3人がこの暗闇の中で詰んでしまう。

 それだけは避けねばならない。


「くそ! コンテナハウス!」

 俺は一旦間合いを取るためにコンテナハウスを出した。

 いっそこのスケルトンが下敷きになってくれればと思ったのだが、敵は落下してきたコンテナハウスを避けた。

 動きがいい。

 空振りしたコンテナハウスが、大きな音を出して通路にこだまする。


「旦那!」「ケンイチ、大丈夫にゃ!?」

「ケンイチ!」

「アネモネ! 火炎や爆裂は使うなよ。魔法矢で牽制をしてくれ」

 閉所空間で炎や爆発はマズい。

 酸素がなくなる可能性もある。


「うん! 光弾よ! 我が敵を討て(マジックミサイル)!」

 アネモネが魔法の詠唱に入ると、俺はアイテムBOXからロープを出して、獣人たちに投げた。


「2人で引っ張って、やつの脚を引っ掛けられないか?」

 カゲがいれば、魔物をひっくり返すのも簡単なのに。


「うにゃ!」「解ったぜ」

「コンテナハウス、収納!」

 コンテナハウスがなくなると、白く輝く魔法矢が次々と発射されて魔物に向かう。

 魔法で片がつけば簡単なのだが、アネモネが打ち出した矢を、スケルトンは剣を振って弾き飛ばした。


「げっ! そんなのありか?」

 白い魔法矢を次々と弾いていたスケルトンの足元に、獣人たちが引っ張る縄が迫る。

 剣を振りながら縄も避けようとしたのだろうが、片足が引っかかってバランスを崩した。


「チャーンス!」

 俺はアイテムBOXから、ユ○ボを召喚した。

 この狭い場所じゃ、コ○ツさんは大きすぎる。

 俺は運転席に乗るとエンジンを始動させた。

 鉄の魔獣に乗ってしまえばこっちのもんだ。

 相手が剣を持っていようが、鋼鉄のバケットに敵うはずがない。


「ユ○ボ大回転! それは、漆黒に染まる幽世の遺恨を切り裂く光の刃! 相手は死ぬ!」

 スケルトンは、グルグル回る鋼鉄のアームに剣で立ち向かおうとしているが、無駄なあがきだ。

 あっけなく弾き飛ばされて、床に転がったところにバケットが振り降ろされた。


「アディオス! 白き戦士(ゲレロブランコ)よ!」

 ユ○ボの直撃で骨がバラバラと散らばったが、床にへばったまま、まだ動いている。

 俺は重機から降りると、動いている部分をアイテムBOXに収納した。


「やったにゃ!」「やったぜ旦那!」

「ふう――やっぱり戦力は少々落ちるな」

「まぁ、人数が少ないんだから、しょうがないよ旦那」「そうだにゃ」

「戦いは数だよ兄貴! ってアキラがいつもいってた」

 半分ギャグなんだろうが、アキラは帝国で実戦をかなり積んできたから実感だろう。

 スケルトンが落とした剣を拾う。


「結構いい剣だな」

「見せてにゃ!」

 ミャレーに渡す。

 雑魚のスケルトンが持っていた剣はボロボロのなまくらばっかりだったが、こいつは普通に鋼鉄の剣だ。

 ユ○ボのバケットを切りつけたりしたのに、あまり損傷がない。


「中々の強敵だったな。もしかしてダンジョン化しているのか? あんなのがゴロゴロいるとなるとヤバいな……」

 心配になるが、先に進まざるを得ない。


「ケンイチ! なにかあるよ」

 アネモネが指差した所には小さな箱。

 あとで確認しよう――アイテムBOXに入れると、皆で先に進む。


 何回か折れ曲がった道を進むと、スケルトンが待っていた。

 10体ほどだが、さっき戦ったような強敵ではない。

 普通のスケルトンだ。

 雑魚なら俺の敵ではない。

 動きの鈍いスケルトンに近づいて、アイテムBOXに収納すればいいのだから。

 他の3人に牽制してもらいつつ、アイテムBOXに入れる。


「収納!」

 あっけなく片がついた。


 その先には、5体のスケルトン。

 次は2体のスケルトン。


「徐々に魔物が弱くなってるにゃ」「普通と逆だぜ?」

「あの強いスケルトンが、ダンジョン化しているここの親玉だったんだろう。俺たちは転移でいきなり出てきてしまったから」

「普通は入口から入って弱い敵から戦っていくのに、いきなり裏口から親玉の所に出ちゃったんだね?」

 アネモネの言うとおりだろうな。


「つまり敵が弱くなってきたから出口が近い――ということだな」

「なーる、さすが旦那だぜ」「解ってなかったのはトラ公だけだにゃ」

「うるせぇ!」

 数分進むと行き止まりだったが、壁で閉ざされているとかではなく、通路が崩落して土砂で埋もれている。


「ははぁ、土砂崩れのせいで、この通路がふさがってしまったのか」

「それじゃ、これをどかせば外に出られる?」

「多分な」

「ケンイチ、ゴーレムのコアを出して」

 この土砂をゴーレム化して、土砂を通路から押し出す作戦だろう。

 アイテムBOXからコアを出して、土砂の所に置いた。


「むー!」

 真っ暗なので、魔法の青白い光がよく見える。

 キラキラと光り、辺りを照らしだす。

 繰り広げられる幻想的な光景は、切羽詰った状況だというのに、それを忘れさせてくれる。

 まぁ、彼女たちを見ていると切羽詰っているのは、俺だけのような気がするのだが……。


 青い光に包まれたゴーレムのコアが土砂の中に入っていくと、目の前の山が生き物のように動き始めた。

 さて、通路に詰まっているものが多いと押し出すのは無理だと思うのだが……。

 彼女は、コアを先に送って動きを探っているらしい。

 土砂の先に空間があれば、そこに押し出すつもりだろう。

 魔法は100mぐらいならコントロールできるようなので、そこまでに空間があるか外に出れれば土砂を押し出せる。

 駄目なら、重機を出して土砂をアイテムBOXに入れればいい。

 コアのこの使いかたが解っていれば、峡谷の土砂崩れも簡単に片付けられたのにな。


 アネモネの魔法が終わるのをジッと皆で待つ。

 かなり時間がかかっているのだが、彼女の魔力は持つのだろうか?


「アネモネ、無理をしなくてもいいぞ?」

 魔法中はトランス状態なので、俺の声が聞こえているか微妙だ。

 待っていると、土砂崩れの上のほうが崩れて、わずかながら光が入ってきた。

 こっちは真っ暗なので、わずかでも光があれば光って見える。

 1人ぐらいは通れるぐらいの穴だ。


「光にゃ!」「おおっ! やったぜ!」

 アネモネの魔法が切れて、その場にしゃがみこんだ。


「大丈夫か?」

「はぁはぁ……うん、大丈夫」

「先に行って、偵察を頼む」

 俺は獣人たちに仕事を頼んだ。


「オッケーにゃ!」「任せろ!」

 俺はアネモネの状態を見て、シャングリ・ラを検索――介護用のおんぶ紐を購入した。


「これに脚を通して」

「これって、赤ちゃん背負うやつじゃない?」

 どうやら、この世界でも赤ちゃん紐はあるらしい。

 それよりもっと高度なものだけどな。


「まぁな。アネモネを背負っても、両手が使えないとマズい」

 どうも、赤ちゃんみたいな格好になるのが恥ずかしいらしいが、そんなことを言っている場合ではない。

 彼女はフラフラで、まともに歩ける状態ではないのだ。


 待っていると、すぐに獣人たちが戻ってきた。


「ケンイチ! 大丈夫にゃ! 先に繋がっているにゃ!」「旦那! 狭いのはここだけで、奥はもうちょっと広いぜ!」

「解った! ありがとうな!」

 恥ずかしがる彼女を、少々強引におんぶ紐に押し込めて背中に背負う。


「アネモネ、大丈夫か?」

「うん……」

 背中で彼女がモジモジしているのが解るが、ここを脱出するのが先決だ。

 両手両足を使って瓦礫を上る。

 そういえば、昔こんな感じでビルを登るゲームがあったような……。

 上まで到着すると、今度は横になって這い、狭い所をクリアする。


 そこをクリアすると中腰で進むことができ、100mほどで石造りの床に出た。

 すでに通路内はかなり明るくなっており、出口が近いことをうかがわせる。


「先を見てくるにゃ!」

「気をつけろよ」

「大丈夫だよ、旦那!」

 獣人たちがすごいスピードで石の通路を走っていく。

 俺はアネモネを背負っているので、ゆっくりと進んでいると、すぐに先に行った2人が戻ってきた。


「ケンイチ! 外だにゃ!」「森の中だぜ!」

「森の中?!」

 彼女たちと一緒に通路から出る。

 まぶしい日の光で目がくらみ、思わず掌でひさしを作る。


 目の前に広がるのは、鬱蒼とした森。

 未開のジャングルだ。

 後ろを振り返ると、遺跡の入り口を思わせる建築物。

 すぐ近くに、頂きに白いものが積もる山脈が見えるので、どうやら山の麓らしい。


「え~っ? いったいどこに出たんだ?」

「ネリネ山脈の麓じゃね?」

 ニャメナが言うネリネ山脈は王国にある連なる峰だ。

 俺たちが住んでいたカダン王国は東西2本の山脈に囲まれており、その東側がネリネ山脈ということになる。


「いや、もう1つの西の山脈の可能性だってあるぞ?」

「それじゃコスモ山脈にゃ? それだと共和国の近くになるにゃ」

 共和国――正式名称はマグロイア共和国。

 チル将軍という英雄が国をまとめて革命を起こし、王政をひっくり返して共和国を作った。

 ご多分に漏れず、そういった革命で国がまともになることはなく、王政の頃に比べても酷い有様になっているらしいのだが……。


 国境は山脈の頂点で分かれておらず、西の山脈であるコスモ山脈の西側も一応王国領となっているのだが、共和国側も領有権を主張している。

 双方領有権を主張している割には入植は行われておらず、それどころか調査もされていない前人未到の土地。


「いやまてまて――山脈の麓ってだけで、ほかはまったく解らん。ひょっとしたら帝国かもしれんし……」

「帝国なら、共和国よりマシだにゃ」

 アキラの話を聞いても、ソバナで帝国側に行ったときも、王国とそんなに変わらない印象だったし。


「はぁ……共和国側でないのを願うしかないな。とりあえず、ここを拠点にして調べていくしかないか……」

「うにゃー!」「任せてくれよ旦那!」

「えいえいおー!」

「お前ら元気だな」

 俺の不安と裏腹に、皆は元気いっぱいだ。


「さっきも言ったけど、ケンイチといれば食いっぱぐれることはないにゃ!」

「そうそう、部屋を出せば温かいベッドや毛布もあるしよ」

「私は、ケンイチを独り占め~!」

 アネモネが俺に抱きついてきた。


 いや、まいったなぁ。

 王国側ならなんとか帰れるだろうし帝国ならソバナを目指せばいいが――共和国側だったらどうやって帰ろう……。


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