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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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228話 溺れる


 サクラの近くに広がる広大な台地を測量中。

 とりあえず川だけを測量しているが、本当に広大で数百kmに広がっている。

 これを全部測量するとなると、どれだけ日数がかかるか解らない。

 この仕事が無事に終わったら、少しずつ人を雇って測量させるのもありかもしれないが――。

 この世界の方式で測量をさせたら、一体何年かかるやら……。


 川を遡った俺たちは湖を見つけた。

 その中の島に見える遺跡らしきもの。

 これはもう素敵な冒険の予感しかない――と思ったのだが、遺跡にはヒポグリフらしき魔物が住み着いていた。

 こいつに毒を飲ませて倒そうと試みたのだが、失敗に終わった。


 1度失敗したからといって、ここで諦めるわけにもいかない。

 しばし悩んでいた俺は、ある元世界の知識を思い出し、シャングリ・ラを検索した。


「これだ!」

 俺は目当てのものを見つけた。

 ヒポグリフは獣というよりは鳥の要素のほうが大きいのではないだろうか?

 それなら、獣に効く毒よりも鳥に効く毒のほうが効果が高いはず。

 俺は痛み止めなどに使われる薬を大量に購入した。

 バサバサと薬のパッケージが落ちてくる。


「ちょっと手伝ってくれ」

「にゃー?」「なにをするんだい旦那」

「この箱を開けて、中の茶色の薬を出してこの器に入れてくれ」

 本当はオレンジ色なのだが、それに相当する単語がないので説明がしづらい。

 近いのは炎色なのだが、こいつの色はそれとはちょっと違うような気がするし。


「ケンイチ? これって鎮痛剤か?」

 アキラがオレンジ色の錠剤をつまみ上げた。


「ああ、こいつが鳥種に禁忌だって聞いたことがあった。やつが鳥なら効くかもしれん」

「なるほどなぁ。獣じゃないのか……確かにな……」

「――と思っただけだぞ。これが上手くいくかわからん」

「ふうむ……聖騎士様は、薬学にも詳しいのだのう……」

 アマランサスが俺の後ろで作業を見ていたのだが、手伝いはじめた。


「一つ欠点がある。こいつは苦いんだよな」

「ああ、ケンイチ、透明なセロハンみたいなやつがあったろ? 苦い薬を飲むときに使う……」

「あ~え~と、なんだっけ」

「あ~え~と……」

「あれだよあれ!」

「そう、あれ」

「2人とも、なに言ってるにゃ?」

 ミャレーが首を傾げている。


「オッサンになるとな、単語が中々出なくなるんだよ」

 オッサンが2人で腕組みをして、ウンウンと唸っていると思い出した。


「お、お……」

「オブラートか!」

「そうそう! それだ! ははは! まったく、オッサンはしゃーないな。ケンイチ、ビール」

「おいおい」

 アキラは祝福の力でアルコールを分解できるので、出してやる。


「ははは、サンキュー!」

「ニャメナも少し飲むか」

「ええ? いいのかい、旦那?」

「少しならいいだろう。戦闘もないだろうし」

「妾はいらぬぞぇ?」

「う~ん、う~ん、それじゃ俺もいらねぇ……夕方の楽しみにとっておく」

 ニャメナは飲みたそうだが、有事に備えるという気持ちのほうが大きいのだろう。


「ははは、すまんな俺だけ」

 アキラがビールを飲みながら笑っている。

 ビールの話をしながら錠剤を千粒ほど出し終えた。


「旦那、これが毒なのかい?」

 ニャメナが、錠剤を爪の先で摘んでいる。


「いや、俺たちには毒じゃないが、鳥には毒になるんだ」

「へ~」

 もちろん、鎮痛剤だって大量に飲んだら、人間にだって毒だけどな。

 それはいいが、こいつをどうやってヒポグリフに飲ませるかだな。


 俺は、さっき話に出たオブラートを購入してみた――200枚で500円だな。

 透明なペラペラを1枚取り出すと、口に入れてみる。


「これって濡れると溶けるんじゃないのか?」

 肉の中に混ぜ込んで溶けてしまうと使えないが、俺のつぶやきにアキラが反応した。


「いや、溶けないと思ったけどな……」

 アキラはそう言うが、俺の口の中では溶けている。

 オブラートで包んだ飴なども口の中で溶けるしな……。

 試しにアイテムBOXから水を出すと、オブラートを浸す――が溶けない。

 どうやら体温で溶けるようで、水に溶けているのではないらしい。

 初めて知った。


「へ~そうなのか。それじゃオブラートは使えるな」

 錠剤を10錠ずつぐらいにわけてオブラートで包んでいく。

 獣人たちの手じゃ、やりにくいらしい。爪も生えているしな。

 ヒモを結んだりとかは器用にこなしているのだが……。

 アネモネにも手伝ってもらう。


「ケンイチ、なんでこんなことするにゃ」

「この薬がすごく苦いんだよ。魔物に食わせる前に吐き出されちゃ毒が効かないだろ?」

「そんなに苦いのかい?」

「あ……」

 俺が止める前に、ニャメナが一粒摘むと口に中に放り込んだ。


「ぐぇぇ! ぺっ! ぺっ!」

 好奇心からだろうが、彼女はすぐに薬を吐き出した。


「いくら毒じゃないからと言って、信じられんことをするなぁ」

「ががぎぎ……あぎぎ、にがぁぁぁぁ!」

 尻尾から背中まで毛を逆立てた彼女が、のたうち回っている。

 のたうち回るほど苦くはないと思うのだが、獣人たちにはそう感じるのかもしれない。


「だから言っただろう」

「まったく、トラ公はアホだにゃ」

「ほら、水だ。口をゆすげ」

 ニャメナが俺の手からペットボトルを取ると、うがいをして水をなんかいも吐き出している。


「鎮痛剤って苦いのが多いよな」

「鎮痛剤の大本になった、ヤナギの木がすでに苦いしな」

「良薬口に苦しって言うけどなぁ」

「イブ○ロフ○ンとかも苦いし……」

 そんなことより準備はできた。

 再びシャングリ・ラから肉を買って、オブラートに包んだ薬を埋め込んでいく。

 今度は肉を20kgほど買い込んでみたが、魔物を毒殺なんて、あまり褒められた偉業とは言えないと思うが。


「普通に戦って討伐するなら、物語になると思うが――毒殺ってのはどうなんだ?」

「真正面からぶつかるだけが闘いではありません。敵の弱点を突く――聖騎士様の知略を誇ることができましょう」

 アマランサスがそういうのだから、そういうものなのだろう。

 そもそも、貴族の偉業をまとめた物語ってのが、面白おかしく誇張されたものだしな。

 俺の場合は誇張していないのだが、それを読んだ者は、いつもの誇張されたものと認識しているのかもしれない。

 成り上がり者が目立ちたくて、派手に書いていると――。

 巷にいる吟遊詩人も誇張しているらしいしな。

 そういう文化なのだから仕方ないが、普段から誇張されたものを使ったりして、それで報告書になるんだろうか?

 戦などになったら、昔の大本営発表みたいな感じになりそうだがなぁ。


「アネモネはどうだ? 毒より、真正面から闘いたいかい?」

「ケンイチと一緒に闘いたいけど、ケンイチが怪我とかしたら嫌だし……」

「それなら安全なほうがいいと?」

「うん」

 俺だってそうだ、家族を危険な目にあわせたくない。

 肉をいじりながらアキラが叫ぶ。


「ケンイチ、勝てばいいんだよ!」

「勝てば官軍か?」

「そうそう、どんな汚い手を使っても勝てば英雄ってやつよ」

「昨日話していた、毒入りワインとかか?」

「ははは、そゆこと」

「妾は共和国の無敗の将軍とやらに飲ませてやりたいのう……」

「帝国皇帝じゃなくてか?」

「そちらは、まだ話し合いができる余地があるわぇ」

 同じ女同士として、通じるものがあるということなのだろうか?


「そりゃ、甘い上物ワインとかいって、毒入りワインを共和国に流通させ弱体化を狙うって手もあるとは思うが――人としてやっていいことなのか?」

「殺られる前に殺れ――この世界の鉄則だぜ? ケンイチ」

「う~ん……」

 俺たちが危ない話をしている横で、獣人たちが肉を食いたそうだ。


「ケンイチ! この肉美味そうだにゃ!」「口直しに食っていいか?」

「生は駄目だぞ?」

「食わねぇよ!」

 皆で食べるように1kgほど取り置く。

 昼は焼き肉にしよう――とか思っていたら、ベルとカゲに肉を取られた。


「おい、ベル!」

 肉を咥えた彼女たちは、あっという間に消えてしまった。

 まぁ、彼女たちはいつも生肉食っているから平気なのだろうか?

 野生の豚じゃないし、そんなに危ない病気とかはないと思うのだが。


 生肉の中に薬を仕込み終えたので、俺が1人で車に乗って湖の畔に設置しに行く。

 昨日置いた板がそのままになっているので、そこに置けばいいだろう。

 畔の砂地に到着したので、車から降りると板の上に仕込んだ肉を出す。

 見渡せば鏡のような水面をした美しい湖。

 深度はどのぐらいあるのだろうか?

 人工のものなのか、それともカルデラのようなものなのか。

 この世界に観光みたいなものはないが、元世界なら間違いなくよい観光地になっただろう。


 ウロウロしていると、ヒポグリフに襲われる心配があるので、早々に撤退。

 皆の所に戻ってきた。


「ケンイチ、また待つの?」

 アネモネが、三脚に載せた望遠鏡を覗いている。


「そうだな。待つのも作戦のうちだし」

「戦わずに魔物を排除できるなら、それに越したことはないぜ? 無理やり『なんとかせよ!』とか言われるより100倍マシだ」

 アキラの話では、帝国の皇帝はあまり悠長な性格ではないらしく、力押しが多いという。


「もうなぁ、他の将軍たちからも皇帝の説得をやらされたりして大変だったぜ」

 かの皇帝はアキラの話なら聞くのだそう。


「随分と愛されていたみたいじゃないか」

「冗談ヨシ子さん。俺にはセンセがいるからな」

 話を聞いていると、アキラも皇帝に好意があったのではないだろうか?

 それでしばらく彼女に付き合っていたと――。

 そのあと皇帝が今の地位が盤石になったから逃げ出した……。


 アキラと話をしていたら、アネモネが叫んだ。


「ケンイチ! 来たよ!」

「どうだ? 食べてるか?」

「うん、食べてる食べてる!」

 オブラートは機能しているってことか。

 どのぐらいの量が入れば効くのかも解らんしなぁ。

 1発で効かなかったら、再度不凍液攻撃もしてみるか。


「あれで効かなかったら、俺の油を湖に撒いて火をつけようぜ」

 アキラが物騒なことを言い出す。


「ストップ・ザ・環境破壊だろ」

「ははは、遺跡も油で満たして火を点ければ、攻略が簡単だぞ?」

「それは最後の手段にしてくれ。これだけの美しい所を燃やすのはもったいないだろ?」

 それにアイテムや貴重な資料があるかもしれないしな。


「聖騎士様は、ここをなにかに利用するつもりなのかぇ?」

「ここを別荘にしたりできるかも――」

「確かに景色は素晴らしいわぇ」

「ここに街を作れればなぁ……」

 この大地の上は腐葉土が少なく、畑には向かない。

 サクラから100km以上離れているし、ちょっと現実的じゃないかな?

 難しいが、なんとかできないかと考えてしまうほどに、この景色は美しい。


 美しい景色を眺めつつ、結果がでるまでしばらく待つことにした。


「まぁ、旦那が待つっていうなら待つぜ。あんなのと喧嘩したんじゃ、命がいくつあっても足りねぇし」

「そうだにゃー」

「珍しく意見が一致しているじゃないか」

「そういうときもあるにゃ」

 昼は焼き肉を食い、夕飯はシチューのリクエストをもらったので作った。

 そして夜は、ちょっと離れた場所で獣人たちとハッスル(死語)。

 毛皮をなでなでしつつ、次の日になった。


 朝飯のグラノーラを食いながら、望遠鏡を覗く。

 今日も天気はよい。湖は波一つなく、鏡のように澄む。


「うん? 巣の中で突っ伏しているような」

 魔物はまだ寝ているのか?

 それとも毒が身体に回って調子が悪いのか。


「見せて!」

 アネモネに見せてやると、台の上に乗って彼女が覗き込む。


「今日は頭を上げてないね」

「もしかして、毒が効いたのかもしれない」

「ほんじゃ、飯を食ったら早速やるか?」

 俺もアキラの話に同調した。


「そうだな、ちょっと挑発してみよう」

「やるにゃー!」「まってました! 急いで食うぜ!」

「別に急がんでもいいよ」


 飯を食い終わったので、望遠鏡などをアイテムBOXに収納すると、皆で車に乗り込んだ。

 運転席側にベルがやってきたので、窓を開ける。


「にゃー」

「安全を確認したら行くって? 解ったよ」

 ベルとカゲは森の中で、俺たちの様子を見ているようだ。

 やはり天敵というのが解っているのだろう。


 エンジンをかけて出発する。


「にゃー! 行くにゃ!」「おお~っ!」

 なん回か車で走っているので、草むらには道ができている。

 そこをトレースするように走る。

 そのまま砂地にやってきて、しばらく走り回ってみたが敵は動かない。

 車を停めるとアイテムBOXから双眼鏡を取り出した。


「動いている気配はないな……」

 巣で固まったままだ。


「ケンイチ、見せて!」

 アネモネに双眼鏡を渡すと、1人で車から降りてドローンの用意をする。


「アネモネ、見張っててくれ」

「うん」

 1号機はヒポグリフに撃墜されてしまったので、2号機を買う。

 前と同じものは売っておらず、新型に変わっていたので、それを購入。

 ちょっと信頼性に欠ける某国製だが、次から次へと新型に変わるそのバイタリティは羨ましい。


「ポチッとな」

 ダンボールの箱が落ちてきたので、クワッドローターのドローンを組み立てる。

 プロペラなどがセットされていないのだが、組み立ては簡単だ。

 コントローラーも前とほぼ同じだが、カメラの画素数が上がっているらしい。

 カメラユニットは日本のソ○ー製らしく、4Kで録画できると書いてある。

 マジかよ――なんでもかんでも、どんどん画質が上がるなぁ。

 640×480とかでザラザラの動画でも喜んで観ていたオッサンなので、画質はあまり気にしないんだが、素直にすごいと思う。

 感心している間に組み立てが完了したので、ドローンを発進させた。


「おおっ! ケンイチ新しいのか?」

 アキラが、コントローラーについている液晶画面を覗き込んでいる。


「そうだ。前に落とされたやつも回収しておかないと……」

「沈んだんじゃね?」

「プラが多いから、浮かぶと思うんだがなぁ」

 話している間に、青い空の下を飛び、ドローンが遺跡に近づいていく。


「ケンイチ! 魔物が起きたよ!」

「マジか!」

 慌てて高度を落とすと、水面近くを飛行させる。

 一定高度を保ちながら飛行――なんてことも簡単にできるので、難しい操作はいらない。

 多分、あの身体じゃ泳ぎは下手だと思うので、水面近くまで降下させたのだが――巨大な水柱が上がった。


「うにゃー!」「旦那! 魔物が湖に落っこちたぜ!」

「なんか墜落したような感じだったが……」

 アキラの言うとおり、俺の目にもそんな感じに見えたので双眼鏡を覗き込む。

 翼を水に漬けて、魔物がジタバタしているのが見えた。


「あれじゃもう飛べないだろう。近づいて止めを刺すか」

「放っておけば、死ぬんじゃね?」

「まぁ、それが確実だとは思うが、これ以上待つのもな」

「それもそうか」

 皆の意見も聞いてみるが、止めを刺して中の島に上陸することで一致した。

 そうと決まれば、ベルたちを呼ぶ。


「おお~い! ベル! 行くぞ~!」

 俺の声が聞こえたのか、黒い疾風が草の間を走ってきた。


「にゃー」「みゃ」

「魔物は湖に落ちたんだ。止めを刺して、向こうに上陸する」

 俺はベルに中の島を指差した。


「にゃ」

 当然、一緒に行くらしい。

 俺は畔に船を出した。

 サクラの湖で使っている船外機つきの船だが、普段は収納してある。

 住民たちが使う船には、カールドンが作った船があるしな。

 船は半分水に浸かっているのだが、ここには桟橋はない。

 車を移動させて船に横付けして桟橋代わりにする。

 車のボディを伝って船に乗ればいい。


 真っ先に森猫が2回車の上をジャンプして船に乗り込んだ。

 次にアネモネを抱き上げて、車の上に載せてやる。

 アマランサスは、華麗にジャンプして船に乗り込み、俺とアキラも船に乗った。

 車をアイテムBOXに収納すると、獣人たちに船を押してもらう。


「行くにゃー!」「行くぞー!」

「大丈夫か?」

「大丈夫にゃ!」「おりゃ~!」

 獣人2人に押されて船が水に浮かぶと、押した彼女たちも飛び乗ってきた。

 さすがに身が軽い。

 皆が揃って船に乗ったので、アキラに操船を頼む。


「ほんじゃアキラ、頼む」

「おっしゃ任せろ」

 アキラが船外機を始動させると、船をバックさせて岸から離れた。

 十分に離れたところで船をターンさせて、水に浸かった魔物の所に向かう。

 肉眼でも見える距離だ。


「アキラ、最初は魔物の周囲を、ぐるりと円を描く感じで」

「オッケー!」

「オッケーにゃ!」

 魔物の巨大な翼は開いた状態で水に浸かっており、バタバタと動かしてはいるが――これではもう飛び立てまい。

 鳥ってのは地面などを蹴った反動で飛び上がる。

 水に浸かってはそれもできないだろうし、水鳥のように水面を滑走するようにも見えない。


「よし、頭のほうにゆっくりと接近」

「了解!」

 船が微速で魔物の頭に接近した。

 巨大な鷲の頭が半分水没している。


「さて、どうやって止めを刺すかな――弩弓で頭蓋を貫けると思うか?」

「やってみるにゃ!」

 鳥ってのは軽量化するために、骨は硬くはないと思うが。

 獣人たちに、アイテムBOXから出したクロスボウを渡した。

 弦を引くと、彼女たちは矢を番え狙いを定める。


「いっくにゃー!」「よっしゃ、せーの!」

 呼吸をピッタリ合わせると、2本の矢がクロスボウから発射され、見事に鷲の頭を貫通。

 羽毛に覆われた魔物は頭を水没させて、そのまま動かなくなった。


「やったな!」

「頭を狙えば防御力は低いみたいだな」

 アキラの言うとおり、上空からの一撃離脱に特化した魔物なのだろう。

 普段なら恐ろしい相手だが、水に落ちてしまってはただの射的の的にしかならん。

 ゆっくりと魔物に近づくと、水中に馬のような下半身も沈んでいる。

 普通の馬は泳げるのだが、こんな翼が生えた身体では泳ぐこともできないだろう。

 合体したら最強生物になるどころか、弱点が強化されてしまったらしい。

 生物ってのは進化の果てに最適化されて、その形が決まっている。

 それを強引に合成しても、ろくなことにならないってわけだ。


「収納!」

 巨大な魔物がアイテムBOXに収納された。


「やったにゃ!」「なんだかんだで仕留めちまうんだから、旦那はすげぇ!」

「でも、ちょっと物足りないね」

「まぁ、安全第一だよ、アネモネちゃん」

「アキラの言うとおりだな」

「ああ、これでまた聖騎士様の偉業に新たなる頁が……」

 アマランサスが両手を合わせて感激している。


「毒殺したのに、艱難辛苦の闘いの果てに凶悪な魔物を倒した物語として語り継がれるのか?」

「過程はどうあれ魔物の遺骸があるのですから、そこに向けての物語を作ればいいのですわぇ」

 これなら拾った魔物のかばねでも物語が作られそうな勢いだな。


 なにはともあれ俺たちの行く手を阻む魔物は退治した。

 上陸する前に、叩き落とされてしまった先代のドローンの亡骸を探しつつ、湖を探索する。

 水はとても澄んでいて底まで見える――水深は数十メートルってところだろう。

 マスは沢山いるようだが、他の魔物はいない。

 またクラーケンでもいたらどうしようかと身構えていたが、魔物はいないようだ。

 こんな場所に湖なんて水源はどうなっているのか、まったくの不明。

 川になって流れているってことは、滾々と水が湧いているはずなのだが、ここは他の土地より高い位置にある。

 普通では、水が湧くなんてありえないはずだと思うのだが……。


「あったぜ旦那!」

 ニャメナがドローンを見つけてくれたので回収したが、バキバキに壊れてしまっていて、こいつはもう使用不可能だ。

 ゴミ箱に投棄して、新しいものを使うことにしよう。

 結構役に立ってくれたな。いままでありがとうな。


 ドローンと魔物を回収したのち、俺たちは中の島に上陸することにした。


「ケンイチ、あそこがいいんじゃない?」

 アネモネが指差す方向に石でできた桟橋のような場所が見える。

 こいつはおあつらえ向きだ。

 そこに船を留めて、俺たちは島に上陸した。

 石造りの遺跡らしきものを見上げると、草に覆われていて、沢山の白い鳥が巣を作っていた。


「ケンイチ、船を収納しなくてもいいのか?」

「ここに盗むやつはいないだろう。いつでも逃げられるように、ここで留めておこう。俺になにかあったら、こいつで逃げてくれ。アキラの召喚獣くるまもあるから逃げられるはずだ」

「私は、ケンイチと一緒にいるから!」

「当然妾もじゃ!」

「ウチもにゃー!」「俺だってそうだぜ」

「皆の気持ちはありがたいが、どんな不測の事態が起こるかわからんしな」


 皆に確認をしてみたが、困難な冒険に臨む意思は固い。

 それならまずは――建物の中に入る前に周囲の把握だな。


 ここからならドローンで遺跡の全体を見渡せる。


 

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