226話 湖?
サクラの隣にある台地の上を測量中。
台地の外周も把握したいが、どのぐらい広いのか見当もつかない。
とりあえず、サクラに流れ込んでいる川の測量をすることにした。
この川の近くには例の転移門もあり、それも発見することができた。
サクラから約50kmほど離れているが、道が整備されれば1時間ほどで転移門までやってこられる。
車をアイテムBOXにいれて転移門でオダマキまで飛べば、約1000kmが一瞬。
海辺のオダマキが隣町だ。
こんなの元世界にだってなかった。
魔法の世界恐るべし。
川から転移門までの簡単な道を整備して、夕飯の準備をしていると車の音。
やって来たのはアキラだった。
こんな所までやってきたらしい。
「ケンイチ!」
アキラが車の窓から顔を出して手を振っている。
「アキラ、こんな所までやってきたのか」
車を停めると、彼が降りてきた。
「酷いじゃねぇか。面白そうなことに俺をおいていくなんて」
「測量だぞ? 全然面白くねぇよ。超地味な作業だが、例の転移門は見つけた」
俺は、転移門に続く道を指差した。
「マジか。やっぱりここにあったんだな?!」
「そうだ」
「ちょっと見てきていいか?」
「いいぞ。その間、俺たちは飯の用意をしておく」
「やったラッキー! ちょうど腹が減ってたんだよ」
彼は、サクラで晩飯を食おうと思っていたに違いない。
俺がいないサクラじゃ、飯を食わせてくれとは言いづらいだろうしな。
アキラが車に乗るとヘッドライトを点灯させ、作ったばかりの道を転移門に向けて走り出した。
車ならあっという間に行って帰ってこれるだろう。
「忙しないのう……」
アキラの行動にアマランサスが呆れている。
「まぁ、アキラはああいうやつだし」
それはいいとしてなにを食うか――。
いつもカレーとか言っていた獣人たちは、自分たちが獲った魚でカレー風味焼き魚を食べるらしい。
この川には驚いたことにマスがいる。
湖にいるマスと同じ種類だ。あの高さ10mほどある滝を登ってくるのだろうか?
いや、俺の地元の渓流でも、高さ2~3mの滝があるとそこから先には魚がいないとか言われていた。
それじゃ10mの滝はやっぱり無理か。
俺はシャングリ・ラの冷凍食品コーナーを眺めて、チャーハンと餃子にすることにした。
う~ん、そうだな――4人だから6人前作るか。
余ったらアイテムBOXに入れればいいし。
「ぽちっとな」
ドサドサと食品のパッケージが落ちてきたので、アイテムBOXから調理器具を出して、地面で調理を行う。
こいつが、キャンプの醍醐味ってやつだ。
チャーハンは大きな鍋に入れて、アネモネの魔法で加熱してもらう。
「いつもすまないねぇ」
「それは言わない約束だにゃー!」
「なんで、ミャレーが答えるんだよ」
「にゃはは!」
餃子は魔法で解凍してもらったあとに、フライパンで焼き目をつけるか――あとはスープだな。
中華なのでインスタントの中華スープをアイテムBOXから出した。
コンロを加熱して温めてもらった餃子を、油を引いたフライパンに投入。
蓋をして、しばし待つ。
「いいにおい! おいしそう!」
アネモネがクンカクンカして、餃子の焼ける香ばしいにおいを吸い込んでいる。
チリチリと焼けるフライパンを眺めていると――ベルたちが戻ってきて、俺に身体を交互にスリスリし始めた。
「腹が減ったんだな?」
辺りはかなり暗くなったので、アイテムBOXからランプを出す。
アイテムBOXから猫缶を出して、ベルたちに食べさせていると、明るく輝くヘッドライトが戻ってきた。
「アキラ、もうすぐ飯ができるぞ」
「やったぜ! 本当に転移門はここにあったんだな」
アキラが車から降りて、自分のアイテムBOXに収納した。
「ここから飛べば、海までひとっ飛びだ」
「刺し身が食いたくなったら、ここに来ればオッケーってことか」
「オッケーにゃ!」
アキラは、獣人たちが食べている魚に気がついたようだ。
「魚? もしかして、ここで獲ったのか?」
「ああ、この川には魚がいるらしい」
「まさか、あの滝は上れねぇだろう?」
「俺もそう思う」
俺たちの話に、アネモネが食いついた。
「魚って滝を上れるの?」
「2mぐらいの高さなら、飛び跳ねて登っていくぞ。アネモネちゃん」
アキラの説明に彼女が聞き入っている。
「へぇ~」
「ウチの田舎にもそういう滝があったぞ」
「魚留めの滝ってやつだな。その上にいる魚は放流したもんだ」
「魚釣り用にか?」
「そうだな」
「俺は渓流釣りをしないからなぁ」
アキラが、俺の車の傷に気がついたようだ。
ここには人も魔物もいないので、出しっぱなしなのだ。
「ケンイチ、ちょっと見ないうちに、車が歴戦になったじゃねぇか」
「ああ、穴に落ちてしまってな。途中で大穴がなかったか?」
「あそこに落ちたのか、ははは」
話しているうちに料理ができた。
「ほい、アキラとアマランサスに、ビール」
「うひょ!」「ありがとうございますわぇ」
「旦那~!」
泣きそうな顔でニャメナがやってきた。
「そんな顔をするなっての。ちゃんとやるよ、ホイ!」
「やったぁ!」
「おお、餃子うめぇ」
アキラが餃子をぱくついている。
ビールには餃子のほうが合うらしい。
「チャーハンもいいできだな」
「美味しいよ!」
「美味じゃのう。最近、サンバクが具を包んだ料理を出すようになったのう」
アマランサスもビールを飲みながら餃子を食べている。
「俺が出した餃子とかシュウマイに影響を受けていると思う。穀物の皮で包む料理ってのは種類が多いからな」
「なるほどのう」
アキラがビールを一息ついて話し始めた。
「ケンイチ、センセにあの魔法陣を見せてやってもいいか?」
「レイランさんならいいぞ。魔法の専門家だしな。なにか解るかもしれない」
「よっしゃ! センセ、飛んでくるぜ!」
「そうだのう――悔しいが、帝国の魔法は王国より進んでおるようじゃし」
アマランサスも賛成のようだ。
「転移魔法とやらが復活すれば、この世界がひっくり返るぜ?」
アキラはそう言うが――。
「復活できればいいが……」
正直、空間拡張とかテレポーテーションとか、どうやっているか見当もつかん。
飯を食い終わったのだが、寝るまで暇だ。
只人だけで麻雀をする。
アマランサスは初めてだが、頭がいいので覚えるのが早い。
4回ほど楽しんだあと、寝ることにした。
コンテナハウスから、ちょっと離れた場所にアキラのテント。
その反対側に獣人たちのテントを出した。
今日の俺は、獣人たちのテントの中だ。
コンテナハウスには、アネモネとアマランサス、そして森猫たちが寝ている。
俺は、ふかふかの毛皮に包まって寝ることにした。
------◇◇◇------
――転移門を見つけて、アキラと合流した次の日。
皆で集まって朝飯を食う。
いつもグラノーラなのだが、今日は普通にパンと牛乳、そしてスープ。
早起きした獣人たちが、食える山菜を見つけてきてくれたので、そいつでサラダを作った。
元世界のミヤマイラクサに似ている。
葉っぱに棘があって刺さると痛いのだが、茎が食える。
ぶつ切りにしてお浸しにしたあと、ドレッシングで和えるとシャキシャキして美味しい。
「ケンイチ、このあとは?」
アキラが今後の予定を聞いてくる。
「このまま測量を続けて水源まで行く。こんな台地の上の川の水源がどうなっているか、興味がある」
「そうだな。元世界で有名なギアナ高地は、あそこに降った雨だけで川や滝ができているって話だったが……」
「でもあそこは、降水量がかなり凄いんだろ?」
「たしか、そんな話だったな」
あそこのテーブル・マウンテンは高さ数百から数千mだ。
世界から隔絶された独自の生態系やらが発達しているらしいが、ここの台地はせいぜい10m、規模が違う。
地上とほとんど変わらない。
こんな場所に、川が流れているなんて不自然だろう。
その大元を確かめる必要がある。
「聖騎士様、それは聖騎士様の故郷の話かえ?」
「まぁな、ここより凄いテーブルみたいな山があって……」
「見てみたい!」
アネモネがそう言うのだが、う~ん――そうだ。
俺がシャングリ・ラでギアナ高地の検索をすると――写真集が出ている。
これなら文字が読めなくても大丈夫だろうが、アネモネは日本語読めるんだけどね。
「ポチッとな」
本が落ちてきたので、アネモネに見せた。
「ほら、こういう山なんだ」
「すごーい!」
「ほう! こんなに巨大で平らな山があるのかぇ?」
「ここは世界から隔絶されて、独自の生物などがいるんだ」
「ケンイチ、そんな本まで出せるのか?」
「まぁな」
「ギ ア ナ 高 地」
アネモネが、タイトルの文字を読んでみせる。
「ええ? アネモネちゃん、その言葉が解るのかい?」
彼女が日本語を読めたので、アキラも驚いているようだ。
「うん! ケンイチに教えてもらった」
「すげー!」
「はは、マジで凄いよな」
ほとんど彼女の独学なんだけどな。
「ケンイチ、下の文字はなんて書いてあるの?」
「ん? LOST WORLDだな、失われた世界って意味だ」
「この文字も習いたい!」
「ええ? これは、俺もあまり知らないんだけどなぁ」
単語だけなら辞書を購入すればいいが、文法やらはすっかり忘れた。
「そうなんだ」
「アキラ、英語は?」
「はは、だめだ。外国だろうが身振り手振りでなんとかなるし」
それはそれで凄いと思うが。
「妾も読めるようになるのじゃ、師匠!」
アマランサスが、アネモネを崇めている。
「まっかっせっなっさっい」
「ほらぁ、アキラの変な言葉をアネモネが真似するんだよ」
「フヒヒ、サーセン! でも、王妃様が、アネモネちゃんに弟子入りしたってことか?」
「そうらしい」
「普通はそんなこと、中々できないぜ?」
王族が平民に頭を下げて弟子入りするなんてなぁ。
俺もそう思う。
「凄い山だにゃー!」「すげぇ崖だぜ!」
獣人たちも後ろから、アネモネの持っている本を眺めている。
「ケンイチ、これってどのぐらいの高さがあるにゃ?」
「ええと1/4リーグから1リーグぐらい」
「そんなに高い崖にゃ?!」「こんなの絶対に登れっこねぇ!」
「自力じゃむりだろうな。ドラゴンとかワイバーンを調教して、空を飛んでなら……」
「そんなの聞いたことがないにゃ!」
アキラに帝国の話を聞く。
「帝国にドラゴンライダーとか、そういうのはいなかったのか?」
「ないな。俺がドラゴン倒したってのも前代未聞だったってぐらいだし、テイムなんて無理だろう」
アマランサスに聞いても、メリッサがテイムしたレッサードラゴンが最上位らしい。
「そうか」
話が脱線したな――目的地の話に戻す。
「あんな転移門なんて代物があるぐらいだ。川の水源には、水が湧き出す魔法陣とかがあるかもしれない」
俺の言葉にアキラが顔をしかめる。
「ええ? そんなの帝国でも聞いたことがないぜ?」
「ゲームだとクリエイトウォーターとかあるじゃん。そういう魔法は?」
「ないない、センセに聞いてみたことがあるが、ないって話だったな」
「水が湧き出る魔法があれば、農地も広がるのになぁ」
「あったとしても、膨大な魔力がいるんじゃね?」
確かに、転移の魔法陣はかなりの魔力を消費するようだった。
「ほら――アキラのマヨパワーみたいに、対価なしで水がジャーっと……」
「まぁ、そう考えると、マヨの代わりに水が出るやつがいてもおかしくはねぇが――そりゃ、マヨ以上にチート能力だな」
「俺もそう思う」
マヨがなくても生活に困らないが――水は人間が生活するのに絶対に必要なものだし。
飯を食い終わったので、道具を片付けて出発する。
「アキラどうする? 車を1台にするか?」
森猫たちは車に乗らずに、森の中をパトロールしながらついてきているので、座席は余っている。
「いや、のんびりしたいから俺は1人で行くわ」
まぁ、俺たちが測量している間は、彼は暇だろう。
あちこち散歩したりするのかもしれない。
------◇◇◇------
――そのまま、なにごともなく測量は進み、1週間がたった。
あの転移門から150kmは進んだことになる。
最低でも、この台地は200km以上の大きさがあるってことだ。
ドローンを飛ばしてもまだ先に続いている。
朝起きて、皆で飯を食う。
「ふぁぁぁぁ」
アキラがパンを喰みながら、大きなあくびをしている。
「やっぱりつまらない冒険だったろ?」
本当になにもなくて、測量しているだけだったからな。
ここには魔物がいないのも解っているし。
「まぁ、こんなもんさ。それにアストランティアにいても、大してやることもねぇし」
「こんなに遊び回ってばかりいたら、レイランさんに愛想つかされないか?」
「ははは、いつものことだし。センセだって魔法の研究始めたら、何日も部屋から出てこねぇとかざらだし」
「アネモネはどうだ?」
「私は、ケンイチといれば楽しい」
「妾もじゃぇ」
「ウチもそうにゃ!」「でも、多少は刺激があったほうがいいよなぁ」
ニャメナは少し飽き気味のようだな。
「にゃー」「みゃー」
ベルとカゲの森猫組は、新しい土地のパトロールができて、退屈はしていないらしい。
たまに鳥などを獲って狩りをしているようだし。
飯のあと、出発する前にドローンを飛ばす。
見える範囲にはなにもないようで、この台地の果てもない。
つまり、まだまだ続くってことだが、川が流れているってことは、俺たちの行く先が微妙ではあるが、高くなっているということなのだろう。
歩いていても傾斜を感じることはないのだが、川はそれなりのスピードで流れており――そのまま進むと、サクラの滝になるわけだ。
「ふわぁー、マジでなにもないな」
アキラが、ドローンのコントローラーについているモニタを覗き込む。
「だが、そろそろ、果てが見えてきてもいいと思うんだがなぁ」
「この上だけでも、一つの領土として十分な広さがあるな」
「ここに城を築けば、天然要塞として十分に機能すると思うが……」
「そうだな、ここなら城壁や堀は要らねぇし、どこから来るかしらねぇが水もあるし」
「台地の上で、畑もできそうだがなぁ」
アマランサスに聞いても、この台地の開発が議題に上がったことはないという。
「その前に、ここがこんな土地だと誰も知りませんでしたわぇ」
元々、アストランティア周辺も森だったらしいので、そっちを切り開くのが最優先になってた感じかな?
こんな台地の上を開発するとなると、金もかかるしな。
午前中は川を伝い測量を続けて、昼になった。
昼飯を食う前にドローンを再度飛ばす。
だが背の低い森森、そして森――だが。
「ん?」
「ケンイチどうした?」
「森の切れ目から、なにかキラキラ光っているような……」
ドローンを限界高度まで上げても解らない。
「それじゃ、飯を食ったら俺がひとっ走りして、見てくるぜ」
「おお、そうだな。それじゃ頼んだ」
「あいよ~」
昼は冷凍食品の肉まんを食う。
アネモネのリクエストだ。
彼女の魔法で温めれば、すぐに食べられる。
「うみゃー!」「あちあち!」
獣人たちが大喜びで、肉まんを頬張る。
「これは素朴だが、美味いのう……」
「美味しい!」
肉まんには玉ねぎが入っているが、獣人たちが食べても大丈夫なのは、先刻承知。
獣人たちは問題ないが、元世界と同じように森猫には食べさせられない。
俺たち――ここでいう只人と獣人たちは、ほとんど変わらないのだが、身体的な構造の違いが、やはりある。
かかる病気も違うし、毒の効き目も違うようだ。
たとえば人間は、唾液にデンプンを溶かす消化酵素が含まれているが、獣人たちにはそれがないように思える。
口の中で糖ができないので虫歯もない。
こんな生理的な違いが多々ある。
「ケンイチ、辛子はあるか?」
「ああ、あるぞ」
シャングリ・ラで、チューブ入りの辛子を買う。
「ポチッとな」
落ちてきた黄色のチューブをアキラにやる。
「おお、これこれ」
彼は肉まんに辛子をつけて食うのが好きらしい。
確かに辛子がついているのもあるな。
俺はつけたことがないが。
「アキラ、それはなんにゃ? 土か、ピーかにゃ?」
「ピーじゃねぇよ! 香辛料だ、香辛料!」
アキラから香辛料と聞かされて、香辛料好きな獣人たちが辛子に飛びついた。
「辛いにゃー!」「おお! こいつは効くぜ! 肉につけて食ったら美味いかも」
「ああ、確かにマスタードソースってあるからなぁ」
アキラのつぶやきに、俺は膝を打った。
なるほど、肉まんに辛子ってのは、肉にマスタードソースみたいなもんか。
昼飯を食い終わり、アキラが一足先に川の流れる先に向かうことになった。
「アネモネとアマランサスも、アキラについていってもいいぞ」
「私は、ケンイチと一緒にいる~」
「妾もじゃ」
それを聞いたアキラが車に乗り込んだ。
「それじゃ、ひとっ走りしてくるわ」
「おお、頼む」
出発する彼を見送り――俺たちは、そのまま測量を続けていたのだが、アキラが1時間ほどで戻ってきた。
「ケンイチ!」
戻ってきた彼が、車を降りるなり叫んだ。
「なんだ?! なにかあったか?」
「湖だよ! 湖!」
「ええ? こんな台地の上に湖? マジで?」
彼の話では、この川の水源は湖らしい。
どうやら、そこで行き止まりのようだ。
「ああ、マジマジ!」
興奮する2人の間で交わされる内容は、おおよそオッサン同士の会話ではない。
すっかりガキ同士の会話だ。
結構大きな湖で、真ん中に城らしきものもあったらしい。
「アキラ、ホントにゃ?!」
ミャレーが耳と尻尾を立てている。
口には出さないが、彼女もちょっと飽きてきていたのだろう。
「本当だぞ」
「ケンイチ、ウチらも見てきていいかにゃ?!」「おいおいクロ助。仕事はどうするんだよ」
「その三角形を、ところどころに置いていってくれればいいぞ」
「やったにゃ!」「ったくしょうがねぇな」
測量は、三角コーンが置いてあれば大丈夫だしな。
獣人たちは喜び勇んで、その湖とやらに行ってしまったが、俺には仕事がある。
それに明日になれば、測量しててもそこにたどり着くことになるのだから、慌てる必要もない。
湖とやらを見に行った、獣人たちも1時間ほどで戻ってきた。
彼女たちの脚の速さは車と変わらない。
「ケンイチ! 本当に湖があったにゃ!」「旦那、本当に城みたいなものもあったぜ!?」
「そうか」
「今日中に、湖まで行くにゃ?」
「いや、湖のちょっと手前で泊まろう」
「どうした? なにかあるのか?」
アキラが俺の顔を覗き込む。
「いや、こんな場所にある湖だ。普通じゃないだろ? 湖に魔物がいたりとか――そういう可能性もある」
「あの、クラーケンみたいなやつか?」
「クラーケンはないと思うが、夜に湖の畔は危険かと思う。一応、念の為だ」
そこにベルが帰ってきた。
「お母さん、この先に湖があるってさ」
「にゃー」
「え? 行ってきた?」
「にゃー」
「え? 本当かい?」
「ケンイチ、どうした?」
「ベルが湖の畔で、魔物に襲われたらしい」
「マジかよ!」
「やっぱり、うかつに近づくのは危険だな」
ベルに魔物の種類を聞く。
「大きな空を飛ぶ魔物らしい……」
「ドラゴンか、ワイバーンか?」
「にゃ」
アキラの言葉をベルが否定した。
「大きな鳥だと言っているぞ」
「鳥? ロック鳥とか?」
アキラが俺にも聞き覚えのある単語をつぶやく。
「ああ、そういう感じかもな……」
「ロックってなにに出てきたんだっけ?」
「たしか――千一夜物語……じゃなかったか」
「シンドバッドとか、そういうのか?」
「多分」
俺もうろ覚えだが――鳥なら鳥目なので夜は大丈夫だと思うし、木々の間に入れば襲ってこれないだろう。
ただしそれは、魔物が鳥だけならの話。
敵がそれだけとは限らないし、湖に迂闊に近寄るのは危険だ。
「よっしゃ! 面白くなってきやがったぜ!」
「とか言ってるくせに、いつもビビって腰を抜かして、小便漏らすにゃ」
胸の前で拳を合わせるニャメナをミャレーがからかう。
「うるせぇ! クロ助!」
「聖騎士様、当然調査はするのかぇ」
「まぁな。俺としては危険は御免だが、ここまで来て調べないわけにはいかんだろう」
「やったぁ! 冒険らしくなってきた!」
アネモネが、フンス! と、ガッツポーズをしながら鼻をならしている。
「また聖騎士様の偉業に新たなる1頁が追加されてしまうのかのう。まったく困ったものですわぇ、ふふふ」
まったく困ったものなのは俺のほうなのだが――確かに危険だとはいえ、こんな場所にある湖の正体を確かめたい。
しかも中の島に城?
もうドキドキわくわくの素敵な冒険の予感しかしない。
「アキラは?」
「フヒヒ、ここまできたら、やるっきゃナイトだろ」
「なんだそれ懐かしいな。オッサンにしか解らんネタだろ」
「はは」
俺たちは、件の湖から3km手前でキャンプを張り、明日の朝一で湖に向かうことにした。





