225話 測量開始
俺は崖の上の測量に出発した。
自分の領地を調べる――これも領主の仕事だ。
そういう仕事でさえ、人に任せてしまう領主もいるようだが、部下の言うことを100%信用できるのだろうか?
行ってもいない場所を行ったといって報告することもあるだろう。
せめて一度は、自分の目で確かめたほうがいいと思うのだが。
大会社の社長が、現場を一度も見ないとかありえるだろうか? ――いや、あるかもしれないな。
たとえそうだとしても、俺は見ておきたいので現場に出かけるわけだ。
パーティを組んで足場を登り始めた俺たちを、石工たちが不思議そうな顔で見ている。
「領主様、どうしたんですかい?」
「この台地の上を測量するんだよ。領主の仕事さ」
「ええ? ここをですかい?」
「ああ、今まで誰もしたことがなかったんだろう?」
「そりゃそうですが……なにもない所を調べてもなぁ……」「そうだなぁ」
石工たちが顔を見合わせている。
なにもないと――誰かが調べたのだろうか?
いや、誰も調べたことがないのに、なにもないと決めつけて誰もなにもしないのだ。
「まぁ、領主の仕事なんでな」
「領主様ってのは大変でございますねぇ……」
ここで切り出されている石は、サクラに建築されている住宅の基礎などに使われている。
建築中の俺の屋敷にも使われているが、一体いつになったら完成するのか、まったく不明だ。
とりあえず俺の住む所より、住民の住宅のほうが先だからな。
俺たちの生活は、いつもの家とコンテナハウスがあれば困っていないし。
いや、困ってないと思っているのは、俺だけなのかもしれないが……。
さり気なく聞いたりしても、女性陣が不満を漏らしたことはない。
なにせ、ゼロから領地を開拓しているのだ。
多少の苦労はするし、贅沢もできないぞ――と最初に言ってあるし。
歩いていつも寝ている離を通り過ぎると、浅い森に到達した。
台地の上にも木は生えているのだが、腐葉土が少ないために大木になれずに低木のままの森がずっと広がっている。
いったい、どこまで広がっているか不明。
あの転移門があった場所も森の中だったが、ずっとこのような景色が続いているのだろう。
森の中は暗いので、あまり草が生えておらず車で走行できる。
ちょっと木の間隔が狭い場所などもありそうだが、回り道をしたりすればクリアできるだろう。
どうしても進めない場所は木を切ってもいい。
車で走りやすそうだが、ドワーフの住んでいる洞窟のように穴が空いている場所もあるかもしれないから注意しなければ。
俺は、アイテムBOXから方位磁石を出して、方角を確認した。
とりあえず、目指すのは滝壺に流れ込んでいる川。
「方角は――北のはず」
俺たちは車に乗り込むと北に向かい、川を目指すことにした。
アイテムBOXから車を出して皆で乗り込む。
その川はこの台地の上を流れており、崖に到着するとサクラの象徴となっている滝に姿を変える。
川の水源も気になるが、流れの近くにオダマキに繋がる転移門がある。
転移門から飛ばしたドローンに川が映っていたからな。
まずは川を測量しながら、あの転移門を探す。
それが第一目標だ。
俺のパーティーは、アネモネとアマランサス、そして獣人の2人と森猫たち。
少数精鋭だ。
一緒に来たがっていたリリスには可哀想だが、未開の土地の探索なんてのは危険だしなぁ。
この上には魔物はいないのは解っているが、それでもなにがあるか解らんのが冒険ってやつだ。
魔物はいないが、空を飛べる敵なら襲ってくる可能性があるし。
川に到着したので、早速測量を始める。
森猫たちは、周囲をパトロールしながらついてきているようだ。
彼らなら、数十kmぐらいは行動範囲に入ってしまう。
今回の測量も湖の外周と同じように、方位磁石とレーザー距離計を使った簡易的なものだ。
以前は獣人たちに板を付けた棒を持って走ってもらい、そこまでの方位と距離を測定していたが、今回使っているのは、オレンジ色のカラーコーン。
軽いので重ねて沢山持っても、獣人たちなら5~10個持っても平気。
それを適当な場所に置いてもらい、レーザー距離計を覗く。
本当は、この台地の外周の測量もしたいのだが、何日かかるか解らんし今回は川だけにするつもり。
距離を測ると図面に書き込み、車に乗ると移動を繰り返す。
水際は木が生えておらず走りやすいが、ドワーフのいた洞窟のように、台地の上まで穴が貫通している場所もある。
車に乗っていても、台地の上から洞窟の中まで落っこちたら、ただでは済まないだろう。
気をつけねば……。
川を見ていると気になる。
普通の川はどんどん浸食によって流れが変化していくのだが、ここの川はどうなのだろうか?
アイテムBOXからシャベルを取り出し――川の底を調べると、固い岩盤の上に作られた水路に近いことが解る。
これは人工的に作られたものだろうか?
ここにあった転移門は明らかに人によって作られたのは間違いないだろう。
――ということは、ここには人がいたということになる。
それを作った連中が、岩盤を削って水路を整備したのだろうか?
これらを作った奴らの正体を考えつつ距離計を覗くと、レンズの向こうでミャレーが手を振っている。
対するニャメナは半裸になって尻尾をフリフリ腰をクネクネ、色っぽいポーズを決めている。
「あ……」
彼女の後ろからカゲが近づいてきているのだが、まったく気がついていない。
揺れる尻尾にじゃれつかれて、ニャメナが飛び上がった――油断大敵である。
彼女の恥ずかしい恰好を見ながら、地図に数値を書き込む。
「聖騎士様、それはなにを覗いておられるのかぇ?」
「獣人たちまでの距離を測っているんだよ」
アマランサスに距離計を渡して覗かせる。
「む? 遠くが近くに見える――この変な模様は?」
「それは俺が使っている数字だ」
「これが?」
「私にも見せて!」
アネモネが距離計を受け取ると覗き込む。
「距離は――400メートル! アマランサスに解りやすく言うと1/4リーグだよ」
「アネモネは、それが解るのかぇ?」
「うん! ケンイチから習ったし」
俺が教えたというか、アネモネが元世界の本を読んで覚えてしまったのだが。
「なんと! 聖騎士様! 妾にもその言葉を教えてたもれ!」
「ええ? なんで?」
「聖騎士様が使っている言葉なら、妾も覚えねば」
「そんなことはないと思うがなぁ――そうだ、アネモネがアマランサスに教えてあげればいい」
「うん、いいよ」
「それでは師匠。お願いいたしますぞぇ?」
「師匠ってなぁ」
「言語の師匠なのですから、師匠ですわぇ」
「まっかっせっなっさっい!」
あ、これはアキラの真似だ。
もう、すぐに真似るんだから。シモネッタまで真似たらどうしよう。
計測が終わったので、車に乗り込んで獣人たちがいた場所に行く。
そこには印として三角コーンが置いてあるので回収する。
「聖騎士様、それは?」
「これはタダの印さ。軽くて持ち運び便利」
たまにドローンを飛ばして周囲を調べる。
あの転移門があった場所は、ニャメナによるとアキメネスの近くだというから少なくとも50~60kmは先になるだろう。
1日20kmほど測量をしても、3日はかかる。
薄い森の中を走り、測量を続け昼になった。
一旦作業を中止して昼飯にする。
「旦那、これで唐揚げを作ってくれよ!」
ニャメナが、処理をして肉になった鳥を持ってきた。
測量の間、暇なので狩りをしていたらしい。
まぁ、立っているだけだし、ダンスも飽きるだろう。
魔物はいないが鳥は沢山いるようで、獲物には困らないようだ。
ここには天敵があまりいないからな。
「おお、いいぞ」
アイテムBOXからテーブルとコンロなどの道具を取り出すと、大鍋に油を注ぐ。
この油は、アキラのマヨから作ったもので、品質的には無問題。
彼の指から出るマヨネーズも問題ないのだから、それから分離した油が大丈夫なのも道理ってやつだ。
どうせ最終的には処理をしてバイオディーゼル燃料にしてしまうのだから、揚げ物に使ったほうがリサイクルになる。
元世界じゃ、天ぷら屋から出た廃油などを加工して、バイオディーゼル燃料にしていたようだし。
じゅうじゅうと唐揚げの揚がる音が響き、香ばしいにおいが辺りに漂う。
「おら、揚がったのから、どんどん食え!」
余ったらアイテムBOXに入れればいいのだから、作りすぎて困ることはない。
「やったにゃ!」「ヒャッホウ、食い放題だぜ!」
「ケンイチの作る料理が一番好き!」
「ウチもにゃ!」
サクラにいると俺とテーブルが分けられているのだが、旅に出れば皆が一緒に飯が食える。
「せっかく作ってくれているのに、サンバクの前で言うんじゃないぞ?」
「ほほほ、王宮料理人も形無しじゃな」
俺は米が食いたいので、冷凍食品のおにぎりを取り出した。
米の飯を咀嚼しながら、俺はあることを思いつく――そうだ、湖の畔で米を作るのも面白いかもしれない。
まぁ、俺が食うだけなら、シャングリ・ラで買ったほうが早いのだが……。
「にゃー」「みゃ」
ベルとカゲにも焼いた鶏肉と猫缶をあげた。
おにぎりを食いながら、のどかな風景の中で緑を堪能する。
森の中にはマイナスイオンが~とかいう話もあったのだが、ほんまかいな?
俺が元世界で住んでいた場所は、山の中の限界集落。
それならマイナスイオンで溢れていたはずだが、老人の病人だらけだったような気がするし、健康な者が多かった印象もない。
飯も食い終わったので、再び測量を始める。
こんな長閑な場所で、トラブルがあるのかね?
――そんな呑気なことを考えていると、車で移動中にトラブルが起こった。
川沿いを走っていたのだが、際に木が立っていたので大きく迂回。
そのときに、ハンドルを取られた。
「うお!」
「にゃー!」
いきなり車が大きく揺れて、車体後部が沈み込む。
慌ててデフロックしたが、脱出不可能。
徐々に地面が俺の目線に近づいてくる。
「ケンイチ!」
後ろからアネモネが叫ぶ。
「アマランサス! 窓から外に出られないか?」
俺が手元のスイッチで全席の窓を開けると、ベルたちが素早く脱出。
すでに車体は地面の下に落ち込んでいるのでドアは開かない。
車体は尻から落ち込んでいるので、地面に一番近いのは運転席の窓だ。
「任せてたもれ!」
椅子を後ろにスライドさせると、アマランサスが俺の膝の上を仰向けに通って、窓から懸垂のように這い出た。
「さすが! 次はアネモネだ」
彼女の手を掴むと、窓の外に送り出す。
外にいるアマランサスが彼女の手を握ると一本釣り。
最後は俺だ。
アマランサスは、男の俺も軽々と地面の上へと引っ張り上げてくれた。
女性に助けられるなんて少々恰好が悪いが、そんなことを言っている場合ではない。
ズリズリと穴の中に落ちていく車をアイテムBOXに入れる。
「収納!」
そして、穴の開いていない場所に再び出した。
土だらけ、傷だらけになったラ○クルがバウンドして落ちてくる。
「うわちゃー! まぁ、しゃーない。使えば傷がつく道理」
こんな場所で冒険に使って無傷で済むと考えるほうが甘い。
いや、こういう車は、こういう場所で使うために作られたものだ。
こんな姿になるのは、本望だと言えるのではあるまいか。
そう考えると、この傷だらけの車体が、歴戦の老戦士のように見えてくるから不思議だ。
「ケンイチ! どうしたにゃ」「旦那!」
俺たちの異変に気がついた獣人たちが、離れた場所から駆けつけてくれた。
800mほど離れていても、彼女たちの足なら40秒ほどだ。
「召喚獣が、穴に落ちてしまってな」
「そいつは鉄で重たいからねぇ」「下まで落ちなくてよかったにゃ」
こんな大穴が開いてしまって、水が溜まらないだろうか?
それとも、ドワーフたちが住んでいる洞窟みたいに外に通じていたら、水の流れが変わってしまうな。
「にゃー」
ベルがやってきて、俺の足にスリスリをしている。
「まぁ、こんなこともあるさ」
昔の戦車で、塹壕に落ちないように鋼鉄製の尻尾をつけたものがあったが、そういう風にすれば車体が全部落ちるのは防げるかもな。
大規模に陥没したら、その対策をしてもマズいだろうが……まぁ、ビビっていても仕方ない。
領主の務めとして前に進むしかない。
「アネモネ、怖いならミャレーたちと一緒に行ってもいいぞ?」
彼女たちに背負ってもらえば、車よりも穴に落ちる確率が低いはず。
「なんで私にだけ聞くの? アマランサスだっているのに」
「アマランサスが、こんなのでビビるとも思えんし」
「ほほほ、そうじゃの」
「私だって、大丈夫だし!」
「本当か?」
「本当!」
アネモネが大丈夫だと言うので、そのまま傷だらけの車に乗り込むと出発した。
その後は問題もなく、穴に落ちることもなかった。
暗くなったのでキャンプを張り、いつものコンテナハウスを出す。
皆に薪を集めてもらい、地面で焚き火をする。
薪が湿っていても、アネモネの魔法で乾燥させてもらえば、すぐにカラカラになるし問題はない。
暗くなった中、森の中にオレンジ色の光が灯る。
昼間はコンロを使ったが、夕飯の料理は焚き火でやってみた。
適当な岩や石がないので、アイテムBOXの中にあったコンクリブロックを使ってかまどを作る。
おお、これぞスローライフって感じでいいね。
貴族にもなったのに、スローライフもクソもないような気がするが、別に偉ぶるつもりもないし、生活を変えるつもりもない。
夕飯のメニューはカレー。
またかよとは思うが、皆がそれでいいと言うのでは、俺も反対するつもりもない。
昼に作った唐揚げが沢山あるので、唐揚げカレーになった。
ベルたちにも衣を剥がした唐揚げと猫缶をやる。
「うみゃー! うみゃーで!」「ははは! 旦那のカレーは最高だぜ!」
ニャメナとアマランサスはビールを飲んでいる。
唐揚げにビールは合うと思うが、カレーはどうなのか。
「ケンイチ、これって何日ぐらいかかるにゃ?」
ミャレーが言っているのは測量のことだ。
「さぁな。川の測量だけだから、1ヶ月はかからんと思うが……」
正直、この台地がどのぐらいの大きさがあるのか解らんし。
近くから見れば崖しか見えないし、全体像を見たくて遠く離れたら崖は見えなくなる。
惑星は丸いので、水平線に隠れてしまうのだ。
近くにあるのに調べた者も測った者もいない――それがこの台地だ。
階段などを作って、砦に利用したりする手もあると思うのだが、アストランティアがあるユーパトリウム子爵領を調べても、そんな記録はどこにもない。
おそらく隣のツンベルギア子爵領でも同じだろう。
「それじゃ、1ヶ月は旦那の料理をたらふく食えるってわけか」
「そうだにゃ! にゃはは! ケンイチの愛人の特権にゃ!」
本当は彼女たちに、仕事の報酬などを渡さなければならないのだが、こういう料理を食べさせることによって相殺させてもらっている。
彼女たちがそれでいいと言うので、そうさせてもらっているわけだ。
どのみち食事の用意はしなければならないので、それでOKなら俺もありがたいしな。
アネモネがカレーの皿を持って、俺の膝の上に乗ってくる。
「むふー」
「アネモネ、なぜ当然のように聖騎士様の膝に座るのじゃ?」
「私の場所ー!」
「妾も座りたいのじゃが?」
「やー」
「喧嘩しないで、順番に座りなよ」
飯を食い終わったので、コンテナハウスに皆で入ると明かりを点けた。
大きなダブルベッドを2つ並べる。
初日なので、皆で一緒に寝ることにしたのだ。
ベッドの上で裸になっているニャメナにブラシをかけてやる。
うつ伏せになっている背中にブラシが這うと、尻尾が俺の腕に巻き付いてくる。
「なーん↑」
「トラ公、その声は止めるにゃぁぁ!」
彼女の声に反応して、ミャレーの尻尾が太くなっている。
「にゃー」
ベルがベッドに乗ってくると、俺の背中にスリスリ。
「アネモネ、ベルとカゲにブラシをかけてやってくれ」
「うん、いいよ」
アイテムBOXから、ブラシを2つ取り出す。
獣人たちと、森猫のブラシは個別になっている。
においが混じると嫌だと思うので分けてみた。
彼らは、特ににおいに敏感だし。
「ケンイチ! 駄目だにゃ! トラ公にそういう触り方したら……」
「ん~んにゃぁ……」
ニャメナの尻がプルプルと震えだす。
「ぎゃあぁぁぁ! トラ公がまた小便漏らしたにゃ!」
ミャレーが大騒ぎするので、アネモネの魔法で綺麗にしてもらう。
「うにゃぁぁ」
今度はミャレーのブラシかけだ。
「天国にゃぁぁぁ、こんな気持ちいいの絶対に他の女には渡さないにゃぁ」
ブラシを掛け終わったあと、ミャレーをひっくり返して彼女の腹に顔を埋める。
「ほわぇぇ、柔けぇぇぇ。フワフワじゃん」
「私もやるー!」
森猫たちのブラシを掛け終わったアネモネもやってきて、ミャレーの腹に顔を埋めた。
「にゃはははは! ケンイチ、アネモネ、くすぐったいにゃはははは!」
ミャレーは、ニャメナのように、ビクンビクンとはならないようだ。
「今日は、このまま一緒に寝るか」
「うん」
俺の背中に、ニャメナがやってきて毛皮を擦り付ける。
「旦那は、俺のほうでもいいぜぇ」
「そうか」
彼女をひっくり返して、腹に顔を埋めた。
「クンカクンカ、香ばしいいい匂い」
「ああ、旦那……」
「ケンイチ、またトラ公が小便漏らすにゃ」
「大丈夫だ」
このまま、本番に雪崩込みたいところだが、アネモネがいるのにそんなことはできない。
アマランサスのほうをチラ見する。
「アマランサス、そんなにむくれるな。明日は君の日にするから」
「承知しましたわぇ……」
その夜は獣人たちの毛皮に包まって寝た。
------◇◇◇------
――測量を始めた次の日の朝。
キャンプでの定番の朝飯である、グラノーラを皆で食う。
こいつも人気の食事なのだが、飽きられている節はない。
まぁ簡単なので、俺も楽でいいのだが。
リリスがいると追加でゆで卵やらを作らないと全然足りないのだが、このメンバーなら大丈夫だ。
足りない人には、シャングリ・ラで買った菓子パンをやる。
「甘くて美味いにゃー!」
ベルたちにも猫缶をあげた。
「お母さん、周囲はどうだ?」
「にゃー」
「やはり、なにもないか……人工的な建造物などは?」
「にゃー」
なにもないらしい。
飯を食い終わったので皆で出発。
測量しながらそのまま進み、2日目の昼。
昼飯を食っている俺の所にベルがやってきた。
「にゃー」
「なに? 見つけた?」
「にゃ」
オダマキと繋がっている魔法陣の場所を見つけたらしい。
「よし! 飯を食ったら案内してくれ」
「にゃー」
飯を食い終わると、測量作業は一旦中断。
皆で車に乗り込むと――ベルに案内してもらい、魔法陣がある建物に案内してもらう。
「なるほどなぁ。サクラから約30リーグ(50km)か。ニャメナの見立て通りだな」
「やったぜ!」「多分、まぐれだにゃ」
「そんなことはないだろ。山の形が一緒だと、ちゃんとした証拠も示していたしな」
「どうでぇ、クロ助」「ぐぬぬにゃ」
意外と近く、5分ほどで到着。
距離は、俺たちがいた場所から2kmぐらいか。
少々斜めに走ってきたようなので、川に一番近い場所なら、1kmぐらいしか離れていないのではないだろうか。
「おお~まさしくこれだ!」
1階が開いた、石造りのとんがり帽子のような建物。
「うにゃー!」「おおっ! やったぜ!」
中に入ると魔法陣が描かれている。
「ここにあったのかぁ」
辺りをグルグルと見回す。
周囲は開けていて、大きな木などは生えていない。
なにかそういう魔法でもかかっているのだろうか?
たとえば、土の栄養を丸ごと抜き取る魔法などがあれば、ぺんぺん草も生えなくなるだろう。
豊穣の杖で栄養が得られるなら、その逆の魔法があってもおかしくはない。
サクラから50kmの場所。
測量しながら進んだので2日半かかってしまったが、道を整備すれば1時間で到着できるだろう。
到着して魔法陣を使えば、1000km近い道のりをひとっ飛び。
こりゃ、かなり便利になる。
オダマキが隣町だ。
アイテムBOXから出したドローンを飛ばして、川の方角を確かめる。
今日は、このまま川までの道の整備をしよう。
アネモネに協力してもらい、腐葉土のゴーレムを出してもらう。
表面を覆っている薄い腐葉土を魔法で集めてしまうと、下は固い岩盤。
腐葉土の厚みは数十センチしかない。
これじゃ、大木は育たないわけだ。
根も浅いので、アネモネのゴーレムが押しただけで、すぐに倒れてしまう。
「コ○ツさん召喚!」
倒した木はコ○ツさんでぶつ切りにして、アイテムBOXに収納した。
夕方になるまでに、川から遺跡までの道が完成した。
川辺には解りやすいように、看板を立てておく。
こんな場所までやってくるやつもいないだろう。
それに崖の上に上るためには、俺が作った足場を上る必要がある。
怪しいやつがいればすぐに解るし、ここまでの移動は徒歩しかない。
馬を崖の上に上げられるとは思えんしな。
「ふう、こんなもんか……」
俺が額の汗を拭っていると、ミャレーがなにかを持って走ってきた。
「ケンイチ、魚にゃ!」
「魚? ここにいるのか?」
ミャレーの手を見れば、虹色のマスが握られていた。
身体は少々小さいが、湖にいる種類と同じものらしい。
下から滝を上ってきたのだろうか?
そういう話も聞いたことがあるが、さすがにあの滝は上れないと思う。
鳥に食われた魚の卵が消化されずに出てきて、そこで孵る――なんて話も聞いたことがあるが……。
「う~ん」
まぁ、こんなことで悩んでいても仕方ない。
いるものは、いるのだ。
ミャレーたちは、独自に焼き魚のカレー風味を作るらしい。
それじゃ、俺たちはなにか別のものを食うか……。
メニューを考えていると、獣人たちと森猫たちが耳をくるくる回している。
「どうした?」
「鉄の召喚獣の音にゃ」
「ええ?」
しばらくすると、川辺を白いプ○ドがやってきた。
運転しているのは――アキラしかいない。
「ケンイチ!」
こんな所までやってきたのか。
俺は窓から手を出して手を振るアキラを見て、心の中で苦笑いをした。





