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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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216話 新しい生活


 サクラに帰ってきて真っ先に取り掛かったのは、移住を希望した村の村ごとの移植だ。

 アネモネのゴーレム魔法と俺の重機で森を切り開き、アイテムBOXに収納した村を設置するという前代未聞の試み。

 最初は村の丸ごとの移植に半信半疑だった村人たちも、アイテムBOXから家が出されて並べられていくと――俺の言ってることが本当だと解ったようだ。


 ゴーレムで木を倒しては、重機で整地して家を並べていく。

 彼らの希望では、前の村と同じ配置にしてほしいということだったので、出したり入れたりを繰り返す。

 これが結構大変だ。

 村長の家は大きくて特徴があったのだが、他の家は似たようなものなので、どれがどれだか。

 切った木は、アダマンタイトの大剣を装備したコ○ツさんを出して、ぶつ切りにしてからアイテムBOXに入れる。

 これも大工たちに渡せば家の材料になるってわけだ。


 1/3ほど家を並べたところで、昼になった。


「お~い、昼もこちらで用意するか?」

 一応、村長にたずねてみる。


「いいえ! もう我々だけで食事の用意はできますので。これ以上、領主様に甘えるわけには参りません」

「湖にはマスもたくさんいるから、食料には困らないと思うぞ」

「そうですか!」

「まぁ、釣りの腕が問われるかもしれないが」

 俺が渡した小麦粉などは、村長の家の納屋に置いていたようだ。

 その納屋はすでに設置済みなので、村人たちはパンを焼いたりはできるようだな。


「早く畑を広くしたいです」

 村人の本音だろう。


「ここは腐葉土がたくさんで、栄養たっぷりだ。作物はたくさんできると思うぞ。ここは水も多いしな」

 そういえば、村といえば井戸も掘らないとな。

 やれやれ、やることがたくさんある。


「本当に村を丸ごと移築するなんてぇ」

 俺の作業を見ていたエルフが驚いている。


「エルフの話の中でも、こんなのは聞いたことがないだろ?」

「あるはずないでしょ」

 それでは、エルフたち1000年以上の歴史の中でも、アイテムBOXに家を入れて移築した話はなかったということだ。


 村人たちも、村長の納屋から農具を出して周りを耕し始めたが、使っている農具を見ればボロボロだ。

 シャングリ・ラから買った農具をやることにした。

 この世界のものとは少々違うが、十分に使えるだろう。

 以前、農民に農具をプレゼントしたことがあったが――彼らはとても喜んでいたし、農業のプロの目から見ても十分に使える代物と解ったのだろう。


「村長、農具をやる」

「ええ?」

 とりあえず、くわすきなどを10本ほど。

 受け取った村人たちは、農具をまじまじと見ている。

 この世界の農具は手作りなので、1本10万円とかする。一生モノだ。

 シャングリ・ラに売っているのは大量生産品なので、1本2000円ほどだが品質もいい。


「領主からの下賜だ。お前達が頑張って農地を広げれば、領も潤う。これは投資なのだから、遠慮なく受取り、皆で大切に使うように」

「はは~っ!」

「「「ありがとうございます!」」」

「あ、そうだ。猫もやろう」

「猫?」

 俺は、シャングリ・ラから一輪車を購入した。1万円ぐらいだな。

 鉄製の船にタイヤが1個ついているものを、俺の地元では猫と呼んでいた。


「ほら、これだ。俺は猫車と呼んでいる。ここに土や農作物を載せてこうやって運ぶ」

 猫車のデモンストレーションを行う。


「「「おおお~っ!」」」

 タイヤはゴムタイヤだが、ノーパンク仕様なのでパンクの心配はない。


「にゃー!」

 真っ先に飛びついたのはミャレーだ。

 猫車を押して走り回っている。


「私も乗る!」

 船に、アネモネが乗り込んだ。


「みゃみゃみゃみゃ」

 山を越え、谷を走り、凸凹でバウンドさせている。


「きゃぁぁ!」

 アネモネが笑いながら地面の凹凸で飛び跳ねている。

 笑っているのだが、そんなに面白いのか。

 ジェットコースター感覚だろうか?


「面白いねぇ」

 セテラが興味深そうに猫車を見ている。


「エルフの村にも持っていくか?」

「う~ん、面白いけど男どもの玩具になりそうだしぃ……」

 エルフたちは、畑作みたいのをしてなかったみたいだしな。

 毎日、森の中をうろついては食い物を探す――そんな生活か。

 知能はかなり高いはずなので、畑作もできるはずだが……。


「ミャレー、アネモネ! そいつを彼らに返せ。飯は食わないのか?」

「にゃ?」「食べる!」

 腹が減ったのか、ミャレーが飛んで戻ってきた。


「何を食う?」

「カレーにゃ!」

 ミャレーが俺の問に間髪容れず答えた。


「カレーでいいのか?」

「いいにゃ!」

 おいおい、他の2人の意見は無視か?

 そう思って、アネモネとニャメナも意見も聞いてみたのだが――カレーでいいという。

 簡単でいいけどね――俺はそう思いつつ、アイテムBOXに保存してあるカレーを出す。

 カレーは大量に作って、アイテムBOXの中に小分けにしてある。

 いつでも手軽に食えて美味い。

 独身でオッサンの俺の食事の友も、カレーだったし。

 大量に作っては、小分けにして冷凍庫に入れる。

 俺が住んでいた北海道は、冬に買い物ができなくなることが多いので買いだめする。

 そのため大きな冷蔵庫や、冷凍庫が必須なのだ。

 そう考えると――ここは雪が降らないし、一年中暖かいのがありがたい。


 俺たちはカレーを食っているが、エルフはカップ麺を食べている。

 彼らは獣人たちと違い、香辛料のきつい香りが苦手のようだ。

 それに、いつも虫を食べているので、細長い食べ物にも抵抗がない。


 皆でカレーを食って、再び作業を始める。

 獣人たちは、切った木の枝払いをして、エルフには草刈りをしてもらう。

 草刈りといっても鎌で刈るのではない。魔法で枯らすのだ。

 魔法で成長の促進ができるなら枯らすこともできるらしい。

 ただ草を枯らすなら地面を加熱すればいいのだが、そうすると土中の微生物まで死んでしまい土地が死んでしまう。

 草が要らない場所ならそれでもいいが、農地には使えなくなってしまう。


 皆が作業を行い、半分ほど家を設置したところで、夕方になってしまった。


「ふう……」

 作業が終わりアネモネが深呼吸している。


「お疲れさん。村長、今日の作業は終了だ」

「ありがとうございます」

「ここに泊まるのが心配なら、一旦サクラに戻るか?」

「いいえ! 半分でも村ができましたので、今日から私たちはここで生活をいたします」

 俺たちが作業をしている間に、村人どうしで話し合いをしたようだ。


「ここらへんには魔物はいないと思うので大丈夫だと思うが――いても黒狼ぐらいだな」

 狼なら家の中にいれば襲ってはこない――とはいうものの、初めての土地で心細いかも知れないな。

 俺は、アイテムBOXからクロスボウを5台取り出した。


「村長、初めての土地で心配だろうから、こいつを預ける」

「こんなに立派な弩弓を……」

「立派だけど、扱いは簡単にゃ」「まぁ、俺でも使えるぐらいだし」

 そうは言っているが、獣人は読み書きができないだけで、頭は悪くない。


 クロスボウのデモンストレーションをしてやる。

 近代的なコンパウンド式のクロスボウだが――弦を引っ張り矢をつがえる。

 やることは一緒。

 村人たちも、俺から説明を受けて藁束に向けて試射をした。


「「「おおっ!」」」「凄い威力だ」「これは凄い!」

「黒狼ぐらいなら貫通するからな」

「ありがとうございます、ケンイチ様! これで自衛をしてみます」

「あまり無理はしないようにな」

 彼らもやる気を出しているので任せよう。

 嫌々、ここまで引っ張ってきたわけじゃないからな。


 アイテムBOXからラ○クルを出すと、森猫たちを呼ぶ。


「お~い! お母さん~!」

 へんじがない、ただの――ってアキラならいいそうだ。


「あれ? 今度は違う箱なのねぇ?」

 エルフがSUV車の周りをぐるぐる回っている。


「まぁな」

 助手席にアネモネ、後ろにはエルフ、そして獣人たちが3列目のシートに乗り込んだ。

 日が傾き森の中は暗くなってきているので、ヘッドライトを点灯する。


「村長! 明日、また来るので残りの半分と井戸も掘ろう」

「え? 井戸も掘っていただけるのですか?!」

「ああ、俺の鉄の魔獣を使えば、あっという間だ」

「「「おおお!」」」

 しばらく待ってみたのだが、森猫はやってこなかったので、そのまま出発することにした。

 この距離なら十分に森猫たちの行動半径に入っているので、サクラに戻ってこられるだろう。


 歓声を上げる村人たちに別れを告げると、サクラに戻る。

 湖畔の砂地を走ると、光る目がたくさん見える。

 夜行性の動物が湖の水を飲んだり狩りをしているのだが、危険な動物はいない。

 小型の哺乳類ばかりだ。


「これは、あの大きい箱より、乗り心地がいいねぇ」

 俺の後ろからエルフの声が聞こえてくる。

 赤く染まる空と湖面を見ながら、サクラに到着した。


「もう、着いたの?! はやーい!」

 セテラの驚く声を聞きながら車を降りると――外ではテーブルが並べられて、食事の準備が整いつつあった。

 エルフは食べるものが違うので、作っている料理が食べられそうなら事前にもらい、駄目なときは自分で用意をする。

 獣人たちは離れた場所にあるテーブルについて、すぐに食べ始めた。

 

 自分で作らなくても用意されているというのは、本当にありがたい。

 メイドたちが並んで俺を出迎えてくれた。


「「「お帰りなさいませ、御主人様」」」

「今、帰ったよ」

 料理が並んでいる長いテーブルにつくと、リリスが話を切り出した。


「どうじゃ、新しい村の設置は?」

「今日は半分しか終わらなかったよ。明日、残り半分を設置して井戸を掘ろう」

「――しか、とケンイチは申すが、普通は村の移植など不可能なのだぇ?」

「ははは、まぁな。アネモネが頑張ってくれたからな」

「むふー!」

 アネモネが、肉を頬張りながら鼻息を荒くしている。

 テーブルにプリムラがいないが、しばらく留守にしていたので仕事が溜まっているらしい。

 アストランティアで、泊まり込んで仕事をしているという。

 その付添でメイドのマーガレットも一緒らしい。

 マロウ商会は、辺境伯領と隣の子爵領の両方の経理業務を担当しているので大変だ。

 通常、各領には専門の経理部門があるのだが、小さな領などは商会に任せているところもある。

 それは問題ないのだが、商会の言いなりになったり好き放題されてしまうこともある。

 領に経理部門があっても不正や腐敗の温床になったりと、良し悪しだ。

 正解というのは中々ない。

 俺もマロウ商会を信用しているから任せているのだが、これが代替わりしたらどうなるか解らんし。


 皆で食事をしていると、ユリウスがやってきた。


「ケンイチ様」

「留守中に、なにかあったかい?」

「カナン様から連絡がございまして、帰領したのであれば顔を出してほしいと……」

「ああ、解った。暇を見てアストランティアに行ってこよう」

「お願いいたします」

「それから、王都から連絡がございました」

 彼が差し出したのは、赤い封蝋が押された手紙。

 これは王家の紋章だ。

 中身を読んでいると、アマランサスが心配そうな顔をしている。


「聖騎士様、なんと書いてあるのでございますかぇ?」

「う~ん、アルストロメリア様からだ。ゴーレムコアだけのコアモーターの使用を認めるという内容だな」

「やったね!」

 アネモネが喜んでいるし、コアだけなら許可なしで使えるとなると、色々とはかどることになる。

 もっとも、コアにそんな使いかたがある――ということを知っているのは、ほんの一部の魔導師だけなのだが。

 この世界には特許がないのでパクリ放題。

 マロウ商会から売りに出されたものを真似して、コアモーターを使った商品が作られるかもしれないが、ゴーレム魔法を使えるレベルの魔導師が少ない。

 実際、どれだけパクられるか未知数だな。

 それに、従来のゴーレム魔法にはコアが簡単に乗っ取られるという欠点もある。


「それから、扇風機をあと10台ぐらい送ってくれと書いてあるな」

 お城にお伺いを立てるときに、サンプルで扇風機を送ったのだが、それを気に入ったようだ。


「ユリウス、マロウ商会に扇風機の本体の製作を頼んでくれ。数は10台な。できあがってくるまでに、こちらでコアモーターは作っておく」

 前の試作品も本体は、マロウ商会お抱えの職人によって作られたものだ。


「かしこまりました」

 一礼してユリウスが下がる。


「ユリウスの部屋にも一台どうだ? よく働いてくれるから褒美として」

「もったいないお言葉……」

 彼はそれ以上なにも言わなかったが、俺の言葉にピクリと反応した。

 多分、興味を持っているのだろう。


「それじゃ、マロウ商会には11の製作を頼んでおいてくれ」

「承知いたしました」

 手紙は、俺のアイテムBOXの中に入れておく。

 屋敷ができたら大金庫を作って、そこに入れたほうがいいだろうか。

 まぁ屋敷ができるのは、いつになるか解らんが……。


 食事が終わったので後片付けをしていると、暗闇から黒い影が2つやってきた。


「にゃー」「みゃ」

「お母さん、呼んでも返事がなかったので、帰ってきちゃったよ」

「にゃー」

 彼女の話では、森に魔物がいないか広範囲に索敵をしてきたらしい。

 あそこに村ができるので、彼女なりの気遣いだろう。

 さすが、大人の女。


「そうか、ありがとな」

 ベルとカゲに猫缶をやると、黒い毛皮をなでてやる。

 空き缶はアイテムBOXに入れて、ゴミ箱へ投棄した。


「お~い、リリス。上に行こう」

 俺がそう言うと、待ってましたとばかりにリリスが抱きついてきた。


「久しぶりじゃのう!」

「そんなに久しぶりか?」

「久しぶりに決まっておるじゃろ!」

 抱きつく彼女は、嬉しそうに俺の腕に掴まっている。

 それを見たアネモネは不機嫌そうだが、これは順番なので仕方ない。

 リリスは、ここに残ってまつりごとをしていたのだから、ご褒美もあげなくては。

 すでに暗くなったサクラの道を、アイテムBOXから出したLEDライトを点けて歩く。

 崖の上に登ろうとすると、魔法の光を点けたエルフがやってきた。


「どこに行くのぉ? 私も行くぅ」

「はい、ダメダメ」

「え~? ずるいぃ~」

「ずるくないだろ。そのうち相手にしてやるから」

「ふん……」

 エルフは不機嫌そうに暗闇の中に消えていった。


「随分とモテるのぅ。旅先でも、さぞかし女が寄ってきたのじゃろ?」

「そこらへんは、他の子たちから聞いてるだろ? それ以上はないよ」

「本当かのう……」

「嘘をついたって仕方ない。ちゃんと、これ以上は増やさないという言いつけは守ってるぞ」

「あのエルフは?」

「まだやってないから、セーフじゃない、ノーカンでもない、え~と、大丈夫だろ?」

 暗闇の中を、リリスと一緒に足場を上る。

 昼間は、石工たちが石を切り出していてにぎやかだが、当然今は誰もいない。

 上まで上るとサクラを見下ろす。

 大分開けてきて家も増えてきたが、まだまだ住宅不足だ。

 早く村を作って、アイテムBOXに入れている家を吐き出さないとな。


 反対側の崖の上を見ると――崖の上に置いてある離れまで真っ暗な道が続く。

 ここにも街灯を点けたいがなぁ。

 庭に置く、太陽電池式の街灯でも置いてみるか……。

 あれなら動力がいらないし。

 草むらの中の道を歩き、離れに到着。

 中は真っ暗なので、持ってきたライトを梁に引っ掛ける。


 ベッドに寝転がると、さっき思いついた街灯を検索してみた。

 高さ2mほどの太陽電池式の街灯が1本1万3000円ほどで売っている。

 こいつがいいな。

 鉄製に見えるが軽量と書いてあるので、それっぽい塗装をしたプラ製なんだろ。

 それなら錆びる心配もない。

 地面に杭を打ち込んで、そこに固定すればいいし。

 ――そんなことを考えていると、リリスが白いドレスを脱いで、素っ裸になった。

 LEDの光に映し出される凹凸の陰影は、本当に美しい。

 彼女が俺の上に乗ってくる。


「この崖の上に、転移する魔法陣があるというのじゃろ?」

「そうだ。崖の上を測量しつつ、その場所も探さないとな」

「やることがたくさんあるのう」

「まったくだ。滝に流れている川も、どこから流れてくるのか確かめないと気になるし」

 広大な台地の上なのに、どこから流れてくるのか不思議なのだ。

 だが、元世界のギアナ高地みたいなテーブル・マウンテンにも滝はあったしな。

 台地の上に降る雨とかで十分な水源になるのだろうか?

 ギアナ高地は、かなり雨が多い場所らしいのだが、ここらへんはあまり雨が降らないしなぁ。

 まったく不思議である。

 川を遡って確かめてみないと。


 そのあと、久しぶりのリリスとの夜を楽しんだ。


 ------◇◇◇------


 ――村の移築を始めた次の日。

 リリスと一緒にベッドの上で目覚める。

 朝日に輝く、彼女の裸体が美しい。

 こんな美しいものを独り占めしていいものなのだろうか?

 ――そんなことを考えつつ、彼女を起こすのだが起きない。

 抱え上げて抱き寄せるも――起きない。


「ううん……むにゃむにゃ……」

 普通、こんなことをされたら起きると思うがなぁ……。

 彼女のお尻を揉みつつ思う。

 仕方なく、リリスをまたベッドに寝かせて外に出てみると、まさかと思いつつ呼びかけてみる。


「お~い、誰かいる?」

「はい、ここに」

「うわ!」

 家の脇から、クロワッサンのようなおさげを巻いた赤髪のメイドが出てきた。


「もしかして、ずっとここで待機してるの?」

「仕事ですから」

 なにもないここで待ってるのもなぁ。

 一応、数時間おきに交代はしているようだが。

 それじゃ可哀想だ。

 シャングリ・ラから、15万円ほど出して三角屋根の小屋を買う。

 一見木造に見えるが、なんちゃって木造の鉄板製だ。

 2畳分ぐらいの大きさしかないが、折りたたみの木製椅子を置いて、小さなテーブルも置いた。

 小さな窓もついているし、外で待っているよりはいいだろう。

 油のランプを取り付けた。

 少し離れた場所に小屋を置いたのだが――。


「申し訳ございません。家に近づけていただいてもよろしいでしょうか?」

 メイドを呼んだ声が聞こえないとマズいということらしい。

 それじゃ――ということで家のすぐとなりに設置した。


「これでどうだ?」

「メイドのために、このような立派な部屋を――ありがとうございます」

「色々と世話になっているからな。小物などで欲しいものがあれば言ってくれ」

「ありがとうございます……」

 何を思ったか、メイドがしくしくと泣き始めた。


「なんだ? なんだ?」

 戸惑っていると家の窓が開く。

 裸にシーツを巻いた、リリスが顔を覗かせていた。


「ほう! 朝っぱらからメイドを泣かせておるのかぇ?」

「リリス、おはよう。まぁ誤解だからな。詳細はこの子から聞いてくれ。先に行ってるからな」

 女の着替えには時間がかかる。

 これからメイドが持ってきた服に着替えて、身だしなみを整えて――いったい、いつになるか解らん。


 先に足場を降りて崖を下り、朝食の準備をしている皆の所に行った。


「おはよ~」

「「「おはようございます、御主人様」」」

 並んだメイドたちの朝の挨拶を受ける。


「マイレン!」

「はい」

 メガネをかけたメイドが一歩前に出る。


「上にある部屋の隣に、1人用の小屋を建てた。メイドの待機所として利用してくれ」

「ありがとうございます」

 彼女が礼をする。


「にゃー」

 ベルがやってくると俺の脚にスリスリをする。


「お母さん、今日も行くのか?」

「にゃー」

 魔物がいないのを確認したので、今日は行かないらしい。


「むー!」

 突然抱きつかれたので、見ればアネモネだ。


「おはようアネモネ。今日も頼むよ」

「……解った」

「今日も行くにゃー!」「旦那、手伝うぜ!」

「別に手伝わんでも、狩りに行ってもいいんだぞ?」

「俺たちが手伝えない仕事のときはそうするよ」「そうだにゃー!」

 まぁ、獣人たちの好きにさせよう。

 俺がオダマキから連れてきた獣人たちは、早速仕事を見つけて働くようだ。

 犬人のワルターは、1人で巡回の仕事をするらしい。

 いまのところ犬人は彼1人なのだが、心細くはないだろうか。


 料理ができあがると、メイドと一緒にリリスが崖から降りてきた。


「ふぅ――ケンイチの愛が重くてまいるのぅ」

 そんなことを言って、リリスがアネモネのほうをチラ見する。


「うー」

「ふっ」

 アネモネの悔しそうな顔を見て、リリスが得意げな顔をしている。


「え? そんなに重かったなら、昨晩だけでいいか……」

「待つがよい! 3日は相手にしてくれるはずであろ」

 俺の言葉にリリスが慌てた。


「いやぁリリスは、俺の愛が重いらしいし……」

「そんなことはない! もっと重くてもいいくらいじゃ!」

「そんじゃ、マイレンも一緒にやるかぁ」

 俺の言葉に、マイレンがメイド服を翻してシュバってきた。


「お呼びでございますか?」

「今晩頼む」

「かしこまりました」

 キラリ! ――マイレンのメガネが光った気がする。


 さてさて、村の移築を済ませて、アストランティアのカナンの所に行ってこないとな。


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