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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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209/275

209話 おおっと!


 南の港町にある石灰鉱山から魔物が溢れたというので、勝手に押しかけて戦闘に参加した。

 地元の貴族たちのメンツが潰れるとか、そんなことは関係ない。

 ここから魔物が溢れたら、港町の皆が困るじゃないか。

 敵は多数のスケルトンだが、アイテムBOXに入れるという裏技を使って退治した。

 退治したといっても、アイテムBOXに入れただけなので、活動を停止したわけではない。

 アイテムBOXから出せば、また動き出す。

 生き物じゃないのでアイテムBOXに入れられるし、入れても死なないのだ。

 アネモネの感想だと、これらはゴーレムに近いものだという。

 なるほど――ゴーレムやロボットの類だとすれば、アイテムBOXから出せばまた動き出すのもうなずける。


 雑魚のスケルトンを片付け、ダンジョンの奥で待っていたのは、巨大なドラゴンのスケルトン。

 カゲの力を使って、白い山のような敵をひっくり返した。

 大きな頭蓋を俺のアイテムBOXに収納すると、敵は活動を停止。

 俺たちは戦いに勝利した。


 今回活躍してくれたのは、大きな魔法を使いまくってくれたアネモネだ。

 彼女を抱き上げてキスをする。


 ドラゴンの頭蓋を収納して動きが止まったということは、中に魔石があるに違いない。

 外に出てから、そいつを取り出す必要がある。

 それは山のように収納されているスケルトンも同じだ。

 処理をするだけなら、ステータス画面のゴミ箱に投入すれば簡単なのだが、せっかく貴重な魔石が手に入るのに捨てるのはもったいない。


 どこかで魔石を取り出す作業をする必要があるのだが――それはおいおい考えるとして、俺は点呼を取った。


「皆、大丈夫か?」

 皆に確認するが大丈夫だ。


「獣人たち、アネモネを背負ってやってくれ」

「大丈夫だよ?」

 アネモネはそう言っているが、フラフラだ。

 顔は青ざめて、連発した大魔法でかなり消耗しているのは、目に見えて明らか。


「ニャメナ」

「そうだよアネ嬢。黙っておぶられな!」

 ニャメナが強引にアネモネを背中に乗せた。

 彼女はちょっと不満そうだが、彼女のためでもある。

 アネモネの頭をなでて、ナチュラル回復ヒールを使う。


「ふわぁぁ」

 青かった彼女の顔に、赤みが増してくる。

 これで大丈夫だろう。


「こいつも収納しておくか。なにかに使えるかもしれん」

 主がいなくなって動かなくなった巨大な骨格をアイテムBOXに収納する。


「帝国にも骨を加工する職業もあるし、使えると思うぞ?」

 アキラが骨の加工について教えてくれる。


「骨をなにに使うんだ?」

「よくあるのは、ボタンとかだな」

「ああ、なるほど……」

 この世界には、プラスチックなどはない。

 ボタンといえば木などが多く、高級なものは貝殻とかになる。

 これだけ巨大なら様々なものの原料になるだろう。


「そうだ――」

 試しにスケルトンをシャングリ・ラの査定に突っ込んでみた。


【査定結果 骨格標本 買取価格10万円】

 買い取るんかい! しかし、スケルトンの中には魔石が入っているので、これでは売れない。

 魔石はシャングリ・ラに売ってないものだからな。


「この骨の化け物は奥から来たな。そこになにかあるのかもしれない」

「宝箱とかな」

「そういうのがあるのか?」

「ある」

 アキラによるとあるらしい。

 そういえば、サクラの上でスケルトン退治をしたときに、祠の中に色々アイテムが入ってたなぁ。

 ああいう感じか?

 なんのために、こんな仕組みになっているのか、不思議ではあるが……。

 昔いた大魔導師やらが、遊びや嫌がらせのために、仕掛けた罠なのだろうか?

 ちょっとはた迷惑すぎるが……。


 先人たちの行いに、少々ぶつぶつと愚痴を言いながら、洞窟の奥に進む。

 頭につけたLEDライトの光に、なにかが反射しているようでキラキラと光っているのが見えた。


「ケンイチ危ない!」

 アキラが俺にぶつかってきたが、なにも危なくない。彼が、ふざけているのだ。


「アキラ、止めろって」

「フヒヒ、サーセン!」

「アキラは、活躍できなかったから拗ねてるんだよ」

 ニャメナに背負われているアネモネがそんなことを言う。

 まぁ確かに、今回の戦闘ではアキラはいいところなしだった。


「うぉぉ! アネモネちゃん! 俺のことを解ってくれるのはアネモネちゃんだけや!」

 アキラがアネモネの手を握ると、彼女が困った顔をしている。


「そういうことをしていると、レイランさんに色々と言っちゃうぞ」

「ははは、それは勘弁!」

「意外とアキラは、面倒なやつだったにゃ」

「面倒なやつ言うなや!」

 アキラのツッコミが入るが、ミャレーの率直な感想だろう。本当にそういうやつはいるからな。

 まぁ、アキラのことはいいとして、キラキラがなにか確かめないと。


「辺境伯様、なんでしょう? また敵ですか?」

 ポポーが心配そうに奥を見ているが、中ボスは倒したし問題ないはずだが……。


「お~い、なにか音とか気配はするか?」

「いいえ、特になにも……」

 ウチの獣人たちや、一緒についてきている犬人も耳を回しているが、特に気配はないらしい。


 ――とはいえ、罠があるかもしれないので、アイテムBOXからユ○ボを出した。

 運転席に乗り込むと、辺りをバケットで突く。

 罠があるなら、これで反応するはずだ。

 ユ○ボの上部にはライトがついているので、そいつを点灯させた。

 光の中に浮かび上がったのは箱。


「た、宝箱?」

 そう、それはもう、絵に描いたような宝箱。

 ゲームの中に出てくるような、その形をしていた。

 ユ○ボで近づいて周りを突いてみる。

 なんともない。


「ケンイチ、ミミックのときもあるから気をつけろよ」

「ミミックか――聞いたことがあるが、ここのはどんなのだ?」

「箱に入ってるカニとかサソリみたいなやつだな。毒持ちだ」

「へぇ? そういうのもいるのか?」

 ヤドカリみたいな感じか?

 戦闘で活躍できなくても、彼は実戦経験豊富なので、こういう情報は重宝する。


 ユ○ボのバケットで箱を転がす。

 生き物なら、これで出てくるだろうが、なにも出てこない。


「よしケンイチ! 俺に任せろ!」

 どうやら、アキラが開けてくれるようだ。

 俺も重機を降りて加勢する。


「開けられるのか?」

「こんなの簡単な鍵だ。俺のパーティーにいたシーフに、鍵の仕組みを教えたのも俺だし」

 アイテムBOXから、使えそうな道具を出し彼に渡す。

 彼は太い針金をペンチで曲げ、それを使って箱を開け始めた。

 アキラの横で、ベルとカゲが箱をクンカクンカしている。

 開始して5分ほどで箱が開いた。


「やったぜ!」

「すごいにゃ!」「アキラの旦那やるぜ!」

 活躍できたので、アキラの機嫌も直ったらしい。

 得意げに彼が箱から取り出したのは木の杖。

 上部には、緑色の石が嵌っている。

 でも、なにか不自然だ。


「ちょっと待て、この宝箱から、こんな長いものが出てくるのは不自然だろ?」

 箱は普通の箱なのに、出てきたのは1m半ほどある長い杖。


「一種の魔法の箱だろ。アイテムBOXと似たようなもんだ」

 アキラに言われて中を覗く――外の見た目と中身の広さが釣り合ってない。


「こいつを解析できれば、部屋の中を魔法で拡張できるかもしれない」

「そうだな。ダンジョンなんかも、そういう魔法で広げられてるんだぞ」

「そうなのか」

 ダンジョンが見た目より広いってのは、そういうことらしい。

 ドラ○もんのポケットか、空間拡張ってやつだよな。

 SFなんかには出てくるが……本当にこんなことができるとは……。

 発達した科学は魔法と変わりないっていうが、これは科学なのか?

 この箱をカールドンのお土産にしたら、喜ぶに違いない。


「しかし、この杖は――?」

 彼から杖をもらう。

 こんな所にあるってことは、なんらかの魔導的アイテムだろう――と思う。

 振ったり掲げたり、LEDライトの光を先端についている緑色の石に当てたりしていたのだが、あることを思い出した。

 そういえば――俺のアイテムBOXは、アイテムを入れると名前が表示されるよな。


「よし」

 アイテムBOXに杖を入れてみると――名前が、【豊穣の杖】と表示された。


「アキラ、豊穣の杖って知っているか?」

「お? 帝国の公爵が持っていたぞ? 使っているのは見たことがなかったが、1度使うと1年は豊作が約束されるとかいうアイテムだったはず」

「へぇ、魔法で空気中の窒素を固定するとかかな?」

「ああ、そういうのかもしれねぇな。原理は不明だが……」

 いくら魔法でも、無からなにかを生み出すことはできまい。

 カリウムまで生み出すことができるなら、火薬を作りたい放題になるが……。

 窒素だけでも固定できれば、蓮華やクローバーなどを植えなくても済むようになる。

 もしかしたら連作障害もキャンセルできるのかも。

 調べてみる必要がある。


 今は化学肥料を使っているが、こいつがあれば俺がいなくなっても、肥料に困ることはなくなるな。

 その前に、こいつを使える人間がいるかどうかって話になるが。

 そんなすごい魔法を使うなら、使う魔力の量も膨大なはずだ。

 すくなくとも、アネモネクラスは必要じゃないだろうか。


「これって俺がもらっていいんだよな?」

 一応、アマランサスに確認を取る。


「それはもちろん、聖騎士様がお倒しになられたのですから、聖騎士様のものですわぇ」

「よっしゃ! やっぱり報酬があると、やる気が違うな!」

「まぁ、なにもない時のほうが多いけどな」

 アキラの話では、自然に発生したタイプのダンジョンには、こういうアイテムの類はないらしい。

 ――ということは、ここは作られた人工的なダンジョンってことになる。


「辺境伯様! すごいですぅ!」

 ポポーが喜んでいるのだが、釘を刺す。


「この杖のことは歌うなよ?」

「え~? なんでですかぁ?」

「宝物があると解れば、襲ってくるやつらが出るかもしれん」

「そうですねぇ」

「魔物退治の話は、どんだけ歌ってもいいからさ」

「解りました~」

 金は持っていない――というのに限る。

 金があると解ると、ろくでもない連中がGのように集まってくるからな。

 サクラにそんな連中がやってきても、即座に追い出してしまうが。

 厄介なのは一見善人に見えるタイプだ。


 もう、なにもないか、周囲を探索させる。

 魔物の湧き出しも止まったようだ。


「ケンイチ! こっちになにかあるにゃ!」

 ミャレーがなにか見つけたらしい。

 その場所に行くと地面になにか模様が描かれており、一面を覆っている。

 かなり大きくて、直径5mほど。

 すぐに、ベルとカゲが走っていき模様の匂いを嗅ぐ。


「魔法陣だな、こりゃ。センセがいれば解るんだが……」

 センセってのは、アキラの最愛の人――魔導師のレイランさんだ。


「どうやって使うんだ?」

「描かれた魔法陣に魔力を流すと発動する」

「非接触型の電子マネーみたいなもんか?」

「そうだな。魔力コンロも、鉄の板に描かれたこいつで動いてるんだぞ」

 なるほど魔石からの魔力で回路が動いて、ものが温まるのか――一種の電子回路みたいなものなのかもしれない。


「しかし、こんな大きい魔法陣じゃ、流す魔力も半端じゃないぞ? いったい、なんに使うもんなのか……」

 アキラが考え込んでいるが、俺でも動かせるだろうか?

 通常の魔法は使えないが、聖騎士になったということで魔力はある。

 ナチュラルヒールみたいなものも使えるしな。


 しゃがみ込むと魔法陣に触れ、力を流してみる。

 病気やけが人に触れるときのように。

 俺の期待どおりに、魔法陣を構成している線がうっすらと光り始めたが――なにも起きない。


 もう少し力を入れてみる。

 光が明るくなるが、なにも起きない。

 まだ足りないのか?

 それじゃ、フルパワーだ!

 魔法陣の線が、暗闇に光る蛍光灯のようになったとき、周りに光が満ち溢れた。


「おい、ケンイチ大丈夫なのか?!」

「解らんが、もう止められん!」

 アキラの声に後悔したときには、もう手遅れになっていた。

 注がれた魔力によって、魔法陣が発動してしまったのだ。

 光の粒子が徐々に増えていき、天に上るように流れていく。


 辺りが真っ白になったと思った途端――俺たちは青空の下にいた。

 真上には白い雲が流れており、鳥の声が耳に届く。

 正確には、上に屋根らしきものがあり、その隙間から空が見える。

 俺は直感的になにが起きたか理解して、自分のやった不用意な行為に血の気が引いた。

 これは、他の場所に飛ばされたのだ。

 とりあえず問題はないようだが、生存不可能な場所に皆を追いやる危険性もあった。


 周りは背の低い薄い森で、木々の隙間の遥か彼方には山脈が白く連なる。

 自分のやった愚かな行為に少々フラつきながら――足下を確かめて踏み鳴らす。

 円形に作られた石畳の上に、洞窟の中にあったと同じ巨大な魔法陣が彫られていた。


「おおい、皆いるか?!」

 慌てて確認してみると、皆がお互いをキョロキョロと確認していた。


「なんにゃー!」「旦那、なんだよこりゃ?!」

 ニャメナに背負われている、アネモネも無事だ。


「スマン皆! 俺の不注意だ。もっと確認してから行動を起こせばよかった」

 俺は皆に向かって頭を下げた。


「ケンイチのやることなら大丈夫にゃ」「そうだよ旦那」

 彼女たちはそう言ってくれるが、ここが水没した海の底だったり、土砂で埋まった脱出不可能な場所だったりすれば、いきなり詰んだ可能性があったのだ。


「スマン――」

「まぁ、ケンイチ。気にするなって」

 アキラもそう言ってくれるが……。


「なんだなんだ? ここは?」

 一緒についてきた三毛が、キョロキョロと辺りを見回す。

 ベルとカゲは、周りをクンカクンカしまくっている。


「妾たちは、ダンジョンの中にいたはずだが……」

「まさか、また別の世界に飛ばされたとか?」

 アキラが不吉なことを言うので、アイテムBOXを開いてみる。


「アイテムBOXは開けるな。中身もちゃんとある」

「へ、辺境伯様!」「貴族様、いったいこりゃ……」

 ポポーと犬人も無事だ。

 屋根の下らしき場所から出ると、そこは円錐状の屋根がかかった古い石造りの建物だった。

 頭につけていた、LEDヘッドライトを外す。


「はぁ、なんじゃこりゃ――」

 皆で周りをウロウロしていたのだが、ニャメナがあることに気がついて叫んだ。


「旦那! 多分ここはアキメネスの近くだぜ!」

 アキメネスは、アストランティアの隣街だ。


「え?! 間違いないか?」

「ああ、ここから見える山の形が似てる。それに反対側にも山が見えるし。ほら、旦那が水路を掘ったじゃないか」

 ニャメナが反対側の山脈を指す。


「ああ、あの辺りか……」

「い、いったいどういうことだよ!」

 想像もできないできごとに、三毛がパニくっている。


「それじゃ――もしかして、サクラの隣にある台地の上か?」

 森にしては木が小さいし薄い。

 台地の上は腐葉土が少ないので、木が大きく育たないのだ。


「ああ、そうかもな」

 アキラがうなずいているところに、アマランサスが叫んだ。


「聖騎士様! これは古に失われたといわれている、転移魔法でございますぇ!」

 アマランサスの話では、お城の書庫にある禁書の中に、それが記されているらしい。

 書庫の本は全部コピったのだが、やはり隠されているものがあるようだ。


「転移魔法?! テレポートってやつか……? アキラ、帝国にこんな魔法があったか?」

「ないない! センセの話では昔にあったとか、古文書に書いてあるとか聞いたことがあったが……」

「あの魔法陣からここの魔法陣に飛べるってことなんだろ?」

 俺は円錐の建物を指差した。


「た、多分な……」

「えええええ! これって、すごいんですけどぉ!」

「ポポー、こいつも喋るなよ」

「うっ! 駄目ですかぁ?」

「そんな上目遣いで見ても駄目に決まってるだろ」

 そう言ったところで、目の前が真っ黒になり、その場にしゃがんで手をついた。


「ケンイチ、どうした?!」

 アキラとベルが駆け寄ってきた。


「腹減った――」

「ああ、力の使いすぎだろ。あんなデカい魔法陣を動かしたんだ、相当消耗したと思うぜ」

 とりあえずシャングリ・ラからエナジーバーと、栄養補助食品を買って食いまくる。

 回復しないと元の場所に戻れない。

 アネモネがニャメナの背中から降りて、俺の膝の上に座った。


 俺ばっかり食ってても悪いので、皆にも分ける。


「おおっ! これも甘くて美味い!」「本当ですねぇ」

 犬人とポポーが、エナジーバーをムシャムシャと食べている。

 三毛にも同じものを渡した。


「うまいよ! 貴族様! 子どもにも持っていってもいいかい?!」

「もちろんだよ」

 甘い食べ物なら三毛の子どもも喜ぶだろう。


「ほい、アキラには特別に冷えたビール」

「おほ! こいつはかっちけねぇ!」

 彼は、アルコールをすぐに分解することができるからな。

 ミャレーとニャメナもエナジーバーを食べているので、ベルとカゲには、チュ○ルをやった。


「アマランサスはチョコがいいか?」

「あうう……」

 食べたそうなのだが、手を出さないでいる。


「どうした? ここに座って」

 俺の隣に座るように促すと、アイテムBOXから取り出したチョコを割って、口に入れてやった。


「おいひい……」

「ケンイチ! 私にも!」

「ほいほい」

 アネモネにもチョコを食べさせてやる。


「ケンイチ! このまま、サクラに帰ってもいいんじゃないのきゃ?」

「プリムラとかアマナを置いたままだろ。それに途中の村で住民を拾っていく約束だし」

「クロ助! お嬢を置いていったなんてバレたら大変だぞ。怒らせたら怖いんだからな」

「そうだな」

 それに意外と根に持つタイプだしな。

 まぁ、俺が全部悪いんだが……。


「戻れるか?」

 アキラが心配そうだが、それはやってみないと解らん。


「魔法陣が使い捨てだったら、もう一度オダマキに向かうしかないだろ」

 そうなんだよ。これで飛ばされたのが近くだったからよかったものの、魔法陣が使い捨てで転移先が地の果てだったりしたら、ヤバかった。

 結果的にセーフだったとはいえ、やはり俺のやったことは迂闊すぎた。


「聖騎士様、マロウ商会には、鳥を使って連絡ができる手段があると――」

「ああ――でも、オダマキとの間で可能だろうか? まだ準備段階じゃないか?」

 マロウ商会のオダマキ支店はこれから作る予定だからな。


「これで魔法陣が何回も使えるなら、オダマキまでひとっ飛びできるってことになる」

「聖騎士様、これは革命的ですわぇ」

 アマランサスは感激しているが、使えたらの話だ。


「多分、俺と同じ祝福を受けたアキラにも使えると思うが――アネモネはどうかな?」

「試してみる!」

「それはいいが、今日は駄目だぞ。大きい魔法をたくさん使ったからな」

「……解った」

 駄々をこねずに、引き下がってくれてよかった。

 さっきナチュラル回復ヒールを使ったが、大事を取ったほうがいいだろう。

 子どもを酷使なんてできないし。

 子どもって言ったら怒るけどな。


 飯を食ってかなり落ち着いてきた。

 腹が一杯になれば、どんどん自動で回復ヒールがかかるからな。


「さて、戻ってみるか?」

「オッケーにゃ!」

「その前に、ここの周りを確認しておくか……」

 アイテムBOXから、ドローンを出して飛ばした。


「ふぇ! 空を飛んでいる!」「なんだありゃ!」

「あれも、ケンイチの召喚獣にゃ」

 驚くポポーと三毛に、ミャレーが得意げに説明をしている。


「これは驚いた……」

 犬人も上空を見つめている。


 それを横目に俺はドローンを最大高度まで上げた。

 こいつの上昇限界は約100mだが、モニタに映し出された中には、低木しか映っていない。

 ――ということは、半径4~5km以内には、なにもないってことだ。

 サクラの近くにある、あの台地の上はかなり広いってことになるな。


「いや……」

 俺はモニタの中に川を見つけた。

 この川は、サクラの滝に繋がっている川だろう。

 こんな台地の上をどこから流れてくるのだろうか、まったくの不明だが、この川を下ればサクラにたどり着くことができるってわけだ。

 逆にいえば、川を遡ってくれば、魔法陣があるこの建物にやって来ることも可能ってことだな。


 そのうち、この台地も詳しく調べねばなるまいが、今はオダマキに帰ることが先決。

 皆で揃って円錐状の建物の下に行くと、大きな魔法陣の上に乗った。


「皆、乗ったか?」

「おう!」「にゃ!」

 一応、全員いるか確認する。


「ここから、サクラに戻りたいやつがいるなら、もどってもいいが……」

「旦那! 今更、それはないぜ」「そうにゃ」

「ほんじゃいってみるか」

「おおっと! テレポーター」

 アキラのふざけた声を聞きながら魔法陣に力を込めると、線が光り始めた。

 これって、まだ魔法陣が生きているってことだろ。

 行けそうだ――そう思った瞬間。

 俺たちは光に包まれた。


 光の粒子に包まれて、身体が軽くなったと思ったら、いきなり真っ暗になった。


「うわ! 真っ暗!」

「にゃー!」「うわ!」

 明かりがないので、真の暗闇だ。

 自分の手や脚さえ見えない。


「いしのなかにいる」

「この声はアキラだな。止めてくれ洒落にならん」

「フヒヒ、サーセン!」

「にゃー」「みゃー」

 ベルとカゲの声もするが、真っ暗でなにもみえない。

 慌てて、アイテムBOXからLEDライトを取り出して点灯させた。

 足下を照らすと、魔法陣が見える。

 元のダンジョンに戻ってきたらしい。

 他の者もヘッドライトを点けはじめた。


「成功したみたいだな」

「すごーい!」

「聖騎士様! これは快挙ですわぇ!」

「でも、しばらくは人に話せないな。それに使える者も限られるし」

「このような聖騎士様の偉業が自慢できぬとは……」

 アマランサスは不満そうだが仕方ない。

 ただ、オダマキに簡単に来られるようになったのは素晴らしい。

 船が完成したらすぐに見学にやって来れるな。

 海鮮などが簡単に手に入れられるし、金がなくなったらあのサンゴを取りにやってくればいい。


「にゃー」

「お母さん、これってすごいよな」

「にゃー」

「みゃ」

 カゲの言葉は解らんが、彼もすごいと言っているだろう。

 皆の無事を確認すると、俺は再び飯を食う。

 とりあえず腹が減って仕方ない。

 満腹になって回復すると、ダンジョンを戻り始めた。

 ここまでほぼ1本道だったので、迷うことはない。

 一応、途中に目印も設置した。

 これで大丈夫だろう。


 途中の池も渡る。


「ここには橋を架けたいな」

「ここにか? なかなか大変そうだぞ」

 ゴムボートに乗りながらアキラと話す。


「ドラム缶をたくさん浮かべて、板を渡して浮き橋を作ればいい」

「おお~なるほどな~」

「まったく、貴族様のお力の凄さに感服いたしました」

 神妙な顔をしているのは犬人だ。


「今日のことは人には話さないでくれよ。これは口止め料だ」

 彼に銀貨2枚を見せたが、受け取ろうとしない。


「僭越ながら――今日の働きに対する、褒美をいただきたく……」

「お前はよくやってくれたからな。銀貨2枚じゃ足りないってことかい?」

「生意気にゃ!」

 騒ぐミャレーを止める。


「いいえ、お話を聞いていると、貴族様は領地を持っておられるようで」

「ああ、ハマダ辺境伯領だ」

「そこの領民にしていただきたく」

「それは構わないが、うちの領は猫人が多いんだぞ?」

「構いません」

 それを聞いた、別のボートから声がする。


「そんなやつ、信用ならないにゃー!」

「やれやれ、犬人の忠誠心を知らぬとは、これだから猫どもは……」

 犬ってのは主人に忠実な印象があるが、犬人もそうなのだろうか。


「なんでー! それでいいなら、あたいだって領民になるよ!」

「待て待て」

 俺の制止も三毛は聞かない。


「子供連れじゃだめなのかい!」

「そんなことはないけどな。旦那はどうするんだよ」

「いないよ、そんなの」

「ええ? まぁ領民は募集しているし、断る理由もないけどな」

「やったー! 決まったぁ!」

「言っておくけど、愛人枠は無理だにゃ!」「俺たちで埋まっているからな」

「ガキがいるのに、そんなことは言わないよ」

 三毛は意外と物分りがいいようだ。

 犬人も本当に大丈夫かな?

 まぁ、この超常現象を体験したこのメンバーの全員を手元に置けば、秘密が漏れる心配はなくなるけどな。


 俺たちは、ダンジョンから這い出た。

 ちょっと混乱するが、さっきまで本当にサクラの近くにいたのだ。

 こんなの元世界でも無理なんだが。


 科学でも説明できないテレポートってやつを体験してしまった。

 これって人類初だよな。

 いや、この世界に転移してきたのがテレポートなら、初でもないのか……。


 俺は、外で待っていた貴族たちの所に向かった。

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