207話 ゾンビアタック
南の港町、オダマキでの仕事を終え帰路につく予定だったのだが、街が騒がしい。
話を聞けば、この地方での重要産業である石灰の鉱山から魔物が溢れ出たという。
さすがに無視してこのまま帰るわけにも行かず、俺たちは石灰鉱山へ向かうことにした。
海を渡れば早いと思い、アイテムBOXから出した船で鉱山を目指す。
鉱山に到着すると、崖に開いた鉱山の入り口が見え、その前で沢山の者たちが戦っていた。
甲冑を着た騎士や、雇われたと思われる獣人達。
戦っている敵は、剣を持った白い骨――スケルトンだ。
敵がスケルトンと解って、歴戦の勇士のアキラは少々渋い顔をしている。
彼の必殺技である、マヨネーズが使えないからだ。
マヨから作る油を使った火攻めも使えない。
俺たちは車を降りると、アイテムBOXに収納。
軍を指揮している領主――ハナミズキ男爵の所に向かった。
「男爵! ハマダ辺境伯、義を以って助太刀いたす!」
俺の突然の出現に彼はかなり驚いた様子だったが、周りに聞こえるような大声で叫んだ。
「手出し無用! 外様には関係のないことゆえ!」
「おいおい、そんなこと言ってる場合か?!」
多分断るんじゃないかな~と思っていたのだが、本当に断られるとは思わなかった。
「我らだけで片付けられる。辺境伯様は黙って見ておられるがよい」
2人のやり取りに吟遊詩人が声を上げた。
「あの男爵様! 恐れながら申し上げます! この辺境伯様は、ドラゴンを倒して王女殿下をお救いになられた方なんですよ!」
「なに?!」「そのようなことが」「確かに街の噂では……本当か?」
彼女が叫んだ言葉に、貴族たちが動揺している。
吟遊詩人の歌の噂を街で聞いたのだろう。
「我々が、吟遊詩人の戯言を信じるとでも思うのか?」
「そ、そんな……」
男爵の言葉に、周りの貴族や獣人たち、そして傭兵たちも笑い始めた。
やはり嘘か――そう思ったに違いない。
「それに、そのような勇者様にお手を煩わせるほどのことでもない。ゆるりと見物でも、なさるがよい!」
男爵がチラリとアマランサスのほうを見た。
このぐらいの敵はさっさと片付けて、彼女にいいところを見せたいのかもしれない。
さっきも言ったが、そんなことを言っている場合ではないと思うのだが……。
「おい、ケンイチどうする?」
アキラがやってきたが――。
「まさか無理やり参加するわけにもいかんだろう。しばらく見学だな」
「つまらぬ意地を張って、犠牲者を増やしてどうするつもりなのかぇ」
「アマランサスにいいところを見せたいんだろ」
「呆れたのう――そのようなことで、妾が心を動かすと思われておるほうが心外じゃ」
「いいじゃん旦那、見てようぜ。やつら意外とやるかもしれねぇし」
「そうだにゃ。手出したら手柄を取られたと怒り出すかもしれないにゃー」
「いいの? ケンイチ……」
アネモネは心配そうな顔をしている。
「まぁ、手出し無用って言うんだから、様子を見ていよう」
「うん」
彼女の心配はもっともだが、少々離れた場所で見ていることにした。
幸い死人が出ているようには見えない。
俺とアキラで、戦いに備えてエナジードリンクを飲む。
「どうなるかなぁ」
「さぁな――さっきから見ているが、あまり数が減ってないように見えるがな、ははは」
アキラの言うとおり、戦っている人数は多いし、かなり倒しているように見えるのだが、数が減っていない。
半端に倒しても、バラバラになった骨がすぐにくっついて起き上がってくるのだ。
「アンデッドだから、死を恐れないしな」
「最初から死んでるっちゅーの! ははは」
アキラのツッコミのとおりだ。
ゲームでゾンビアタックってのがあったが、まさにそれ。
やられてもやられても突っ込んでくる。
男爵側が優勢に見えるが、そのうち徐々に息切れをしてくるのではないだろうか?
それに、やられた分が、鉱山から追加されているようにも見える。
それで減ったように見えないのだ。
こういう戦いでは、貴族たちは戦闘に参加せずに後ろで見学――そんなイメージがあるのだが、ここでは皆が戦いに加わっている。
「そりゃ、ここを突破されれば、まずは貴族街が蹂躙されちまうからな。やつらも必死だろ」
アキラがエナジードリンクを飲みながらつぶやく。
「そうなると全財産がなくなるにゃ」「旦那みたいに、全財産がアイテムBOXに入っているなら、いつでも逃げられるけどな。あはは」
獣人達が笑っているが、そのとおりだ。
大体金目のものは、すべてアイテムBOXに入っているが――サクラに屋敷などが建てば、俺もそれなりに失う財産が増えるかもしれない。
サクラに建てる屋敷のことを考えていると、俺のところに吟遊詩人がやってきた。
「あの、辺境伯様――見てていいんですか?」
「手柄を取られたと言われたくないしな。やつらも危なくなれば援助を要請してくるだろ? 財産や命は失いたくないだろうし」
すごくもどかしいが、手を出すなと言われたんじゃ仕方ないじゃないか。
人でなしと言われるかもしれないが、ありがた迷惑って言葉もある。
しばらく黙って見ていたのだが、乱戦の中から3体ほどのスケルトンが俺たちの所にもやってくる。
そいつらは暇そうにしている獣人達にまかせた。
「うにゃー!」「おりゃー!」
獣人達が剣を振り回す。以前にも戦ったが、1個体はあまり強くない。
剣が当たるとすぐにバラバラになるのだが、しっかりと砕かないと骨が集まって元の形に戻ってしまう。
骨は結構硬く、砕くのは文字通り骨だし、下が地面だとショックを吸収してしまい上手く砕けないようだ。
俺はシャングリ・ラを検索して、5000円の鉄床と、3000円の両手持ちの大型ハンマーを購入した。
「こいつの上で叩いてみろ」
獣人達が鉄床の上に骨を乗せてハンマーで叩き始めた。
粉砕された骨はさすがに復活しないようで、砕いた骨の中から石が出ると、スケルトンは動きを止めた。
出た石は魔石のようだ――ああ、こういう仕組みだったのか。
それじゃ、前に倒したスケルトンから魔石を回収し忘れたな。
過去の行動に俺は少々後悔した。
魔石が出るのは解ったが存在している場所はまちまちのようで、どの骨に入っているかは解らない。
こいつは厄介だ。
たとえば頭蓋に入っていると解れば、頭を砕けば終了なのだが。
「うにゃー! こんな鉄床なんて、普通は持って歩かないにゃ」
「あはは、旦那だからできる芸当だよな」
「なんで、あの旦那はこんなのも持ってるの?!」
三毛も加わり、獣人達が笑いながら骨を砕く。
小気味よい音を立てて、骨が砕かれるのを見て――ふと、考える。
ダンジョンからスケルトンを吐き出す量を調整できれば、カルシウム鉱山として使えないだろうか?
それに魔物は剣を持っているから、鋼の鉱山としても使えるぞ。
アホなことを考えつつも、スケルトンの復活を遅らせる方法は解った。
背骨を1個砕けばいいのだ。
そうすると、上半身と下半身が合体できない。
上半身だけでは剣を振れないし、下半身だけでは、なにも怖くない。
スケルトンが消滅したあと残った剣も拾ってみたが――こりゃなまくらだ。
ロクに切れないが、こいつで殴られたらそれなりのダメージは入ると思う。
数で押し寄せたら危険なことに変わりはない。
まぁ、鉄の材料にはなると思う。
「にゃー」
黒い毛皮のベルとカゲが俺の所にやってきてスリスリしている。
ベルはやつらの心配をしているようだ。
「そう言うなお母さん。一応、やつらにもメンツはあるんだし」
「にゃー」
彼女は、人間のやることに呆れている様子。
俺もアホらしいとは思うが……。
たまにやってくるスケルトンを捌きつつ、戦闘を見守る。
戦っている中には魔導師もいるようで、ファイヤーボールの魔法を使う者がいた。
それが草むらに引火してモウモウと白い煙を上げている。
スケルトンは炎や煙を物ともしないが、人間はつらいだろう。
「魔導師、炎の魔法は使うな! けが人の介護に当たれ!」
男爵が指揮をして、戦力差で押していた男爵軍だったが、疲れが見え始めたのか徐々に後退を始めた。
そりゃ、スケルトンはアンデッド、最初から死んでるんだから疲れ知らず。
カタカタと動き続け、このまま昼夜進撃とかもできるのだろう。
対する人間は疲れる、腹が減る、眠たくなる――ジリ貧で苦しくなるのは目に見えている。
「だ、男爵様! もはや援軍を受け入れては?!」
指揮をしている領主の所に貴族たちが集まり始めた。
明らかな劣勢になったので、作戦の変更を求めているのだ。
「成り上がりの、あのような奴らに何ができると言うのだ!」
俺の耳に、男爵の言葉が聞こえる。
最初は好意的に見えたのだが、やはり心の奥ではそう思っていたのか。
まぁ、そう思われてても仕方ないといえば、仕方ない。
成り上がりは事実だし。
「し、しかし、このままでは!」
「ええい! アマランサス様が見ておられるのだぞ!」
男爵が発した予想外の言葉に貴族たちが慌てふためく。
「ええ?!」「アマランサス様?」「王妃様が?!」
貴族たちの目が、一斉にアマランサスの方を向くが――いや、今はそれどころじゃないと思うがなぁ。
すでに前線が崩れ始めて、1人2人と逃げ出す。
「う、うわぁぁぁ!」「助けてくれぇ!」
まるで決壊したダムのように、前線が一気に崩れた。
「こら! 逃げるな! 戦え!」
男爵の言葉も、逃げる兵士たちには届かない。
「アマランサス! 上位貴族の権限を使って、強引に介入できるんだよな?」
「もちろんだわぇ。なぜ聖騎士様が、それをなさらぬのか疑問に思うておりましたが」
「そりゃ俺は優しいからな。手を出すなと言われたら出さないよ」
「ほんに、聖騎士さまはお優しいわぇ」
扇子で顔を隠している、アマランサスの目がいやらしく笑っている。
「アネモネ、奥の人のいない場所に爆裂魔法だ」
「解った! むー! 爆裂魔法!」
スケルトン軍団の真ん中に青い光が集まると、赤い爆炎に姿を変えた。
巨大なきのこ雲が天を突き、魔法によって引き起こされた衝撃波が白い骨の敵を薙ぎ払う。
もちろん、こいつでスケルトンが死なないのは解っている。
ただの時間稼ぎだ。
「「「おおお~っ!」」」
「このような魔法を使う高位の魔導師が!」
俺も久々の相棒を呼び出した。
「コ○ツ、戦闘バージョン召喚!」
黄色い車体のアームの先にアダマンタイトの巨大な剣を装着した、鉄の戦闘魔獣が地を揺るがして落ちてきた。
「「「おおお~っ!」」」
「あれはいったい!?」「鉄の魔獣?!」
貴族たちが突然現れた鉄の塊に慌てふためく。
俺はコ○ツさんに脚をかけると、男爵に告げた。
「ケンイチ・ハマダ辺境伯の名において、この戦闘に強制介入する。お前のためではない。あくまでも陛下の臣民のためだ。男爵、異存はあるまいな!」
「……」
男爵がこちらを睨んでいるが、もはやそんなことを言っている場合ではない。
チラリとアマランサスのほうを見ると、彼女が黙ってうなずいた。
俺は運転席に乗り込むと、エンジンを始動――黄色い鉄の魔獣が目を覚まし、咆哮を上げる。
座席にカゲも乗り込んできて膝の上に乗った。
「おい、そこに乗るのか?」
「みゃー」
「おっしゃ! いくぞ~! コ○ツ大回転! それは、闇から生まれた黒き不死者を輪廻に返す白き一撃!」
巨大な剣でスケルトンの軍団を薙ぎ払い、鋼鉄のカタピラでバキバキと踏み潰す。
さすがに重機の重量で踏みつければ、バラバラになって復活することはない。
「みゃー!」
カゲの声に合わせて、スケルトンがヒックリ返る。
彼の特殊能力、影車輪だ。
どういう理屈かは解らないが、敵をひっくり返すことができる。
地面に影がないとできないという欠点はあるのだが、これは使える力だ。
ヒックリ返った骨を重機を使って粉砕していく。
「「「おおお~っ!」」」
「こ、これは?!」
「これが辺境伯様の魔法ですよ!」
吟遊詩人が興奮した声を上げて、はしゃいでいる。
巨大な重機のパワーに貴族たちも驚き、逃げ始めた兵士や傭兵たちも戻りつつある。
崩れた群れも支えになる柱が生まれれば、再びそれを中心にして人々が集まり始めるのだ。
「にゃー!」「おっしゃぁ!」「おりゃ!」
獣人たちは、俺が渡した巨大なハンマーを使って骨を砕き、一緒に連れてきた三毛も奮闘している。
細身の剣が一閃、アマランサスが振った剣がスケルトンの胸骨を抜き砕いた。
これでもうスケルトンは元に戻れず、上下に分かれたまま。
それを獣人たちがハンマーで叩き潰し、そこに同じ得物を持ったアキラも参戦した。
「にゃー」
ベルが体当たりしてバラバラになったスケルトンを、アキラがハンマーを振り下ろして砕いた。
「スマン、ケンイチ! 今回、俺は役に立たねぇわ! フヒヒサーセン!」
「まぁ気にするな。相手がアンデッドじゃ、しゃーない。車でロードキルしても復活するだろうし」
「まったく厄介な相手だぜ」
相手が普通の生き物なら、彼のマヨネーズは無類の強さを発揮するのだが、相手は最初から死んでいる。
死んでいるやつに窒息攻撃は効かない。
俺たちの会話の横で、青い光が再び集まり始めた。
「むー! 光弾よ! 我が敵を討て!」
アネモネの周りに顕現した4本の白い光の矢が、次々と発射されてスケルトンを貫通していく。
マジックミサイルが通ったあとが、1列にバラバラになったのだが、またすぐにくっつき始めた。
「むー!」
効果的な攻撃を与えられないアネモネがイラついている。
相手が魔物だということで、魔法の効きもあまりよろしくないらしい。
カゲがひっくり返しても意外と早く起き上がり、重機で踏み潰そうとしても逃げてしまう。
アンデッドのくせに、チョコザイである。
かなり踏み潰したりバラバラにしたのに、湧いてくる魔物に追いつかない。
「なにかいい方法はないのか? 相手がアンデッドだしなぁ……アンデッドか、アンデッドってことは、死んでるんだろ? ――もしかして!」
俺はあることを閃いて重機から飛び降りた。
「カゲ!」
「みゃ」
カゲも一緒に降りてきて、俺の足下につく。
「奴らを、ひっくり返してくれ」
「みゃ!」
彼の声で、目の前に迫っていたスケルトンが一斉にひっくり返った。
「よし! 収納!」
俺が試したのは、スケルトンのアイテムBOXへの収納。
こいつらは死んでいる――つまり物だ。それならアイテムBOXに収納されるはず。
俺の考えどおりに、スケルトンが目の前から消えた。
アイテムBOXの画面を見る――【骨格標本×1】
「骨格標本扱いかよ!」
思わず画面にツッコミを入れてしまった。
「ケンイチ! なにをやったんだ?!」
俺の行動にアキラが驚いている。
「スケルトンを、アイテムBOXに入れたんだよ」
「あ? あー! なるほどなぁ! そいつは盲点だったぜ! 収納!」
アキラのアイテムBOXにもスケルトンが収納された。
「アキラ、あまり入れると、車が入らなくなるぞ」
「そうだ! やべぇ! それじゃ、アイテムBOXはケンイチに任せるわ!」
「よし! どんとこいや! 収納! 収納! 収納!」
カゲが特殊能力――影車輪でひっくり返して、俺がアイテムBOXに収納する。
そのコンビネーションで、どんどんスケルトンはその数を減らしていった。
「「「な、なんと、これは!?」」」
「こんなことが……」
貴族たちがあっけに取られて、いいところを持っていかれた男爵が、苦虫を噛んだような顔をしている。
そこにアマランサスが行く。
「閣下、妾が聖騎士様の下にいる理由が解ったかぇ?」
「くっ……」
彼女の言葉に男爵が膝をついた。
まぁ彼のことはどうでもいい――それよりもだ。
「あとは、ダンジョンの中にいるのを仕留めないと駄目なんだろ?」
「そうしないと、どんどん湧いてきちまうからな」
アキラの話では、こういったダンジョンの中にはボスみたいのがいるらしい。
サクラの近くの洞窟に、巨大な蜘蛛が住み着いたことがあったが――あれは自然の洞窟に魔物が住み着いただけで、こういうのが本物のダンジョンのようだ。
俺は、外に出ていたスケルトンをすべて収納した。
「おおい! これから俺たちは中に進入する。誰か案内をしてくれ!」
傭兵たちが顔を見合わす。
当然、貴族たちがそんな仕事をするわけがないし。
「それじゃ、私が」
1人の犬人が手をあげた。
マズルが長く深い藍色の毛皮を着た、グレイハウンドのような細身の男。
革のベストとズボンを穿いていて、まるでモデルのよう。
元世界でも、モデルとして活躍できたかもしれないぐらいにスマート。
彼の案内で坑道内に足を踏み入れたのだが、俺たちと一緒に吟遊詩人がついてくる。
「おい、危険なんだぞ?!」
「こ、こんな英雄様の活躍が目の前で見られるなんて、またとない機会じゃないですか!」
「言っておくが、危なくなっても助けんからな」
「承知しております!」
吟遊詩人が、ふんす! ――と鼻を鳴らしている。
彼女は放置して、案内してくれている犬人と歩きながら話す。
「洞窟の中で発掘作業をしているのは、獣人たちが多いのか?」
「はい」
道の案内をする犬人に、うちの猫人の女たちが警戒している。
「大丈夫にゃ?」「犬人は信用ならねぇ」「そうだよねぇ」
実際、三毛は犬人にやられそうになってたからな。
彼女たちの見立てはともかく、この男は紳士のように見える。
暗くなってきたので、頭につけるLEDヘッドライトを皆に渡す。
漫画やアニメのダンジョンというと、妙に明るくなぜか視界が開けているのだが、ここは明かりがまったくない真っ暗な世界。
坑道で働く人々は、魚油のランプを持って入るという。
獣人たちは、そのままで見えるのでヘッドライトは要らないだろう。
俺たちが出す光で十分に見えるはずだ。
暗くなってくると同時に気温が下がり始めて、ひんやりと空気が冷たくなってくる。
オダマキの外は汗ばむぐらいの常夏だったが、ここは天然のクーラーが利いているよう。
「涼しいにゃー!」「そうだな、クロ助」
特に獣人たちは暑さに弱いので、涼しい所は嬉しいだろう。
「貴族さま、それは魔道具でございますか?」
犬人の男がLEDライトを眩しそうにしているが、光が当たると目が光る。
「ああ、そうだ」
「さすが、貴族さまはすごいものを持っておられるのですね」
猫人の男たちのガサツさから見ると、この犬人はかなり紳士に見える。
猫人には、このタイプはいなかったな。
「猫人族が夜目が利くのは知っているが、犬人族も夜目は利くのだろ?」
「はい、このぐらいの光があれば十分に見えます……なにか来ました」
彼の言うとおり、LEDライトの光に照らされた暗闇の中から、カタカタとスケルトンが姿を現す。
暗い場所で出会うと、それなりにホラーだ。
彼らの言うとおり、この奥で坑道がダンジョンと繋がっており、そこから魔物が湧いてきているらしい。
「ははは、学校の怪談で、理科室の骨格標本が動くってネタがあったが、それを彷彿させるな」
アキラがハンマーを振り下ろしながら、ヤケクソ気味に笑う。
ここは石灰岩なので、土の地面よりは衝撃が伝わりやすく、簡単に骨が砕ける。
「人体模型ってのもあったろ?」
「あったあった!」
昔の学校の怪談話をしながら、動く骨を叩き潰すとアイテムBOXに収納した。
「アイテムBOXですか? すごいものですね。まさか魔物をアイテムBOXにいれるなんて」
一緒にいる犬人が驚いているが、中に生き物は入らない。
アンデッドは最初から死んでいるから収納できるだけだ。
それに気がついただけでも僥倖。
経験値が一杯になって、レベルアップしたようなものだ。
「まぁな。俺も、アンデッドをアイテムBOXに入れられるなんて思わなかったよ」
彼と話していると、ミャレーが俺に抱きついてきた。
「ケンイチ! 犬コロと仲良くなんてするんじゃないにゃ!」
「案内してもらってるんだから、そんなこと言うなよ。彼は中々紳士だぞ?」
「べぇーにゃ!」
ミャレーが舌を出すと、他の女たちが同調した。
「そうだよ、旦那!」「あたいがやられそうになったの、忘れてるんじゃない?」
「やれやれ、これだから猫どもは……」
犬人が首を振る――紳士っぽいのだが、やはり節々に仲の悪さが窺える。
しばらくそのまま進み、暗い坑道の奥に開いた黒い穴が見えてきた。
ぽっかりと開いた穴から、再びスケルトンが姿を現す。
「うにゃー!」「どっせい!」「おりゃ!」
獣人たちが叩いてバラバラになった骨を、次々とアイテムBOXに収納する。
臨時で参加している三毛も中々戦闘力が高い。
収納した骨の中に魔石が含まれているものがあると、残された骨は直ちに活動を停止。
ただの骨にもどる。
ここから、スケルトンがやってくるのは間違いがないようだ。
一緒についてきている吟遊詩人に確認する。
「おい、ここで戻ったほうがいいんじゃないのか? え~と、名前忘れた」
「ひどーい! ポポーですよぉ!」
「ああ、そんな名前だったな。悪い悪い」
「もう!」
たんぽぽのポポだな。
それで覚えよう。
俺たちは武器を構えると、穴の中に踊り込んだ。





