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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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206/275

206話 鉱山に向かう


 南の港町オダマキにやってきている。

 船の建造にも目処がついたのだが、この地方の領主を訪ねると、すぐに追い返されてしまった。

 どうやら、ここの領主――ハナミズキ男爵は、アマランサスになにか特別な感情を持っていたようである。

 そりゃ、自分の想い人が奴隷になっていたりしたら、相手の男を許せないかもしれない。

 はっきりと彼に聞いたわけではないが、おおよそそんな感じだと直感したのだが――。

 男爵とのことは残念だったが、仕事はこなした。


 あとは帰るだけだったのだが――街が突然騒がしくなった。

 俺が世話になっているシュロの屋敷にも多数の人々がやってきて、大騒ぎをしている。

 シュロが俺の所にやってきた。


「石灰の鉱山がダンジョンと繋がったらしく、そこから魔物が溢れてきたと……」

「ええ?! そりゃ大変だ!」

「ケンイチ、どうする?」

 アキラが俺の所にやってきた。


「まさか、見て見ぬ振りで帰るわけにもいくまい」

「そうだよなぁ」

 マロウとプリムラを呼んだ。


「悪いが、聞いての通りだ。ちょっと様子を見てくる」

「はい、お気をつけて」

 プリムラが心配そうな顔をしている。


「鉱山から魔物ってのはよくあるのか?」

 マロウに話を聞く。俺はこの世界の常識に疎いからな。


「そうでございますねぇ。運悪くダンジョンにつながるということはたまにあるようですよ」

「アキラ、帝国ではどうだ?」

「ああ、たまにあるぜ。スタンピードで近くの街が滅んだり」

「ええ? そんなにワラワラ出てくるのか?」

「そういう奴らには、デカい中ボスみたいのがいるんだよ。そいつを仕留めればいい」

 中ボスなんてゲームみたいだが、アキラが言うんだ、本当にいるのだろう。

 中ボスがいるなら、もしかして大ボスもいるのか?

 考えたくもないが……。


「それじゃ、オダマキもヤバいんじゃ――」

「あわわ……いったいどうすれば……」

 シュロが悪い脚でウロウロしている。


「アキラ、悪いが頼まれてくれるか?」

「はは! まっかっせっなっさっい!」

「ウチらも行くにゃー!」「おうよ!」

 戦闘といえば獣人たちも欠かせない。彼女たちも参加するようだ。


「行くに決まってるでしょ!」

「当然、妾もじゃな」

 アネモネは鼻息を荒くしている。

 アマランサスは俺の護衛ということになっているので、当然ついてくるだろう。


「みゃー」「にゃー」

 カゲとベルも行くらしい。

 マロウ親子とアマナは留守番だな。


「旦那、大丈夫かい? なんか旦那の行く所、騒ぎばっかりなんだけど」

「大丈夫だアマナ。心配するなって」

 皆と打ち合わせをしていると、カールドンがコンテナハウスから出てきた。


「ケンイチ様。なんの騒ぎですか?」

「石灰の鉱山がダンジョンと繋がって、魔物が出てきたらしい」

「はぁ、そりゃ運が悪いですねぇ。ここの重要な産業の一つなのに……」

「要は、穴を塞げばいいんだろ?」

「それはそうですが――魔物を掃討する国軍を投入するまで、ここが保ちますかね?」

「ええ? 国軍まで入れる必要があるのか?」

「規模によりますが、地方の騎士団では荷が重いと思いますが……」

 このオダマキは、王都から一番遠い領だ。

 一番脚の速い獣人の飛脚を使って、王都まで1週間。

 国軍がここに到着するのに、早くて1ヶ月半はかかる。

 そして、往復で3ヶ月も王都の防衛が薄くなると、果たして王家が要請に応えてくれるだろうか?

 王国内で一番王家と疎遠と言われてる、この領のために。


「それは、ちと難しいじゃろうのう。普段から地方自治を豪語している男爵相手じゃ」

「そんなに自治に自信があるのなら、自分たちでやれと?」

「まぁ、そうじゃのう」

 アマランサスが扇子でパタパタしている。

 元王家の本人がここにいるのだから、そのとおりなのだろう。

 あまり王家からも良くは思われていないようだ。


「強力な大魔導師でもいれば別でしょうけど、ここら辺でそんな噂は聞きませんし」

 有名な大魔導師ってのは、大体居場所が把握されている。

 大魔導師級なのに有名じゃない例ってのは、ウチのアネモネぐらいのもんだろう。

 俺も変な魔法を使う魔導師ってくくりになっているらしいが。


「男爵本人も王家のことはよく思ってないが、アマランサス個人には特別な感情があるようでな」

「らしいのう……」

「あの――そうなのでございますか?」

「らしいんだよ、困ったことに」

「はぁ……」


「そうだとしても、貴族と王家のいざこざに民は関係ないだろ? 街の皆が可哀想だ」

「そうだのぅ――国軍は無理でも地方の騎士団を集めて、討伐する命令は出すかものぅ」

 それなら軍の展開は早いし、王都の防衛も薄くなることもない。


「それだと、タダってわけにもいかないだろ?」

「貴族たちから戦費やらを請求されるかものぅ。払えなくば領地の割譲や、石灰鉱山の所有権の譲渡などを求められるかもしれぬ」

 こういうときのためにも、仲のいいお友達ってのは必要なんだよなぁ。


「それだけで済みますかね?」

 カールドンが腕を組んで唸っている。


「――というと?」

「民に多大な犠牲者が出れば、不始末を責められて王家から領地を取り上げられる可能性も……」

「妾はやらぬが――アルストロメリアなら、やるかものぅ……」

「貴族や王家のいざこざは放置して、なにがどうなっているのか確認をしなくてはな」

 俺の言葉にカールドンが異を唱える。


「地元の貴族がいい顔しないのでは?」

「貴族のメンツなど知らん。街の皆が可哀想だ。皆! 戦闘の準備しろ!」

「うにゃー!」「俺はやるぜ! 俺はやるぜ!」

 獣人たちの装備をアイテムBOXから出してやる。

 何が出たのか解らんから、フル装備だ。

 アキラも、帝国の黒い制服に着替え、アネモネも青いローブを羽織った。


「ケンイチ、どうやって向かう?」

「崖の上からも行けるが――鉱山から海岸まで道があって、港から石灰を運んでいるらしい」

「――ということは、海で行けるってことだな」

「そっちのほうが早い気がする」

 貴族街に上る道は、車が使えないしな。


 さて誰かに道案内を頼みたいが、シュロは脚が悪いしな。

 娘のキキョウは女の子だ。

 俺は、ベルと一緒に柵の所に集まっている獣人たちの所にいくと、彼らに声をかけた。

 獣人たちは平均して戦闘力が高いし、逃げ足も速い。


「鉱山から魔物が出たって話なんだが、海から鉱山へ向かう道順を案内してくれるやつはいないか?」

 俺の言葉に、獣人たちが顔を見合わせている。


「あたいが行くよ!」

 手をあげたのは、俺が犬人から助けてやった三毛の女だ。

 つり上がった目に三毛の毛皮、短いノースリーブと、半ズボンを穿いてへそを出している。

 髪の毛は短いが、よく見れば頭も3色だ。

 右耳が少し欠けているように見える。


「化け物が出ているって話なんだが、大丈夫か?」

「助けてもらったんだから恩返しはしないとね! 森猫様にもいいところ見せないとダメだし」

 俺の足下からベルが出てきた。


「にゃー」

「うへへ、それほどでもぉ――」

 俺には聞こえなかったが――女が照れてくねくねしているので、ベルがなにか言ったらしい。


「みゅー」

 デレている三毛の後ろから、小さな三毛が恐る恐る顔を出している。

 三毛の女の子だ――5歳ぐらいだろうか。耳をピコピコさせてふわふわの毛皮に覆われている。


「なんだお前、子持ちだったのか」

「ふにゃー! かわいいにゃ!」

 子どもが好きなミャレーが目をキラキラさせている。


「おい、子持ちはマズいだろ。お前になにかあったらどうする?」

「大丈夫さ! それに恩は返さないと獣人の流儀に反するじゃないか!」

 三毛が譲らないのでアマナを呼ぶ。


「なんだい旦那」

「ちょっと、子どもの面倒を見てやっててくれ」

「あれま~、こりゃかわいいねぇ」

 アマナも三毛の女の子を見て、完全にデレている。

 確かに恐ろしいほどの破壊力だ。

 俺ももふもふしたいところだが、今はそんな場合じゃない。

 子どもの面倒はアマナに任せて大丈夫だろう。


「うし! それじゃ行ってみるか~?」

「「「お~っ!」」」

 俺とアキラの車を出して、アーマーなどの装備をつけた皆で乗り込む。

 俺が飼っているスライムはカールドンに預ける。

 案内をしてもらう三毛の女は、森猫たちとアキラの車に乗ってもらうことにした。


「も、森猫様と乗れるのは嬉しいんだけど、この鉄の箱って噛みつかないだろうね」

「大丈夫だから、さっさと乗れ」

「ふぎゃー!」

 女がアキラに押し込められた。

 彼は獣人の扱いが雑だ。家族に獣人のミャアがいるので、嫌いではないはずなのだが……。


 車に乗るとアキラの所に連絡を入れる。


「アキラ、そっちで先行頼む」

『オッケー!』

『オッケーにゃ!』

『なんだい? 声が聞こえるけど?!』

『気にするな』

 無線機の声に三毛の女が驚いているようだ。

 車の窓を開けてシュロと話をする。


「俺たちは、海から鉱山へ向かってみる」

「よろしくお願いいたします」

「地元の貴族たちはいい顔をしないかもしれないけどな」

「そんなことを言っている場合ではありませんし」

「そのとおりだ」

 貴族たちも同じ考えならいいんだけどな。

 窓を閉めると、2台の車が出発した。


「おおっ! 馬なしで動いている!」「魔法か?!」

 シュロのところに集まっている商人仲間が、車を見てワイワイと騒いでいるが、相手にはしていられない。

 車は広い通りを下り、海岸にやって来た。

 目指すは――俺たちが海岸沿いを走ってきたときにぶち当たった桟橋だ。

 白い石でできた桟橋が、真っ直ぐに海の中まで延びている。

 皆で車から降りると、鉄の箱をアイテムBOXに収納。

 桟橋を歩いていく。


「旦那たち、これからどうするのさ? 船を借りるのかい?」

 三毛の女が船の心配をしているのだが、事情を知っているウチの獣人たちは「やれやれ」といった顔をしている。


「大丈夫だ。船もアイテムBOXに入っているからな」

「ええ? 船まで持っているのかい?!」

 桟橋の先まで行くと、船の停泊していない所を探して俺の船を出した。

 空中から、30フィートの漁船が落ちてくる。

 この街で、こいつの2倍の大きさがある船を建造するのだが、その大きさだとアイテムBOXには入れることが不可能だ。

 誰かに管理を任せるしかない――それがマロウ商会ってわけだ。


「本当に船が……」

「ケンイチのアイテムBOXにはなんでも入っているにゃ」「ちなみに俺たちの全財産も入ってる」

 なぜか、ミャレーとニャメナがドヤ顔をしている。

 いや、そんなことをしている場合ではない。皆で船に乗り込む。

 乗員数的には大丈夫だろう。

 最初に獣人たちに乗ってもらい、補助してもらう。

 ミャレーの手に掴まって、アネモネが乗り込んだ。


「ケンイチ、この船は海でも平気なの?」

 アネモネが波に揺られている船の上で、ちょっと心配そうな顔をしている。

 ここにいるほとんどが、海での航海は初めてだろう。


「こいつは、元々海用の船だから平気だ」

「そうなんだ」

「おほっ! 久々の海だぜ!」

 アキラがジャンプして乗り込んできた。

 彼は久々の海に張り切っているが……。


「アキラ、海での運転は大丈夫だよな?」

「はは、無問題!」

 ベルとカゲが乗り込んできて、最後に飛んできたアマランサスがふわりと船に脚をついた。


「あ~もう、なんかベタベタするにゃ」「毛皮まで塩辛くなっちまいそうだぜ」

 ニャメナの言葉に三毛の女が反応する。


「海で仕事するとさ、毛皮が真っ白になって塩まみれになるんだぜ」

「毛皮が傷むにゃ~」

 ピカピカの毛皮が自慢のウチの獣人たちは、海辺が苦手のようだな。


「妾の髪の毛もベタベタになりそうじゃ」

「後で風呂にでも入るか」

「そうじゃのぅ」

「私も入る!」

「そのためにも、さっさと片付けねぇとな! よっしゃ! エンジン始動!」

 アキラの掛け声で船の船外機が動き出した。


「ちょっと! 船が唸ってるけど、大丈夫かい?!」

 三毛の女がエンジンの咆哮にビビりまくっている。


「大丈夫にゃ」「心配するなって!」

 出港の準備ができたので皆に注意を促す。


「よ~し、海は波があるからな。皆、シッカリと掴まれよ」

 アキラが船外機の出力を上げると、船がゆっくりと桟橋を離れ始めた。

 船は海岸に沿って並行に走るが、すぐに貴族街が乗っている岩盤の崖が見えてくる。

 崖は岬のように海に突き出ているので、そいつを迂回するようにぐるりと回り込まなければならない。


「揺れるぞ!」

「アキラ、お手柔らかにな」

「ははは、落ちない程度に行くぜ!」

 そういうと船は波間に飛び出した。


「おおおおっ!」

「ひゃぁぁぁっ!」

 三毛の女が叫び声をあげた。

 船は波の頂点から頂点へとジャンプするように進む。


「うにゃー!」「湖のときは、鏡の上を滑るようだったが、こいつは空を飛んでるぜ」

 船が進むと波しぶきがかかる。


「塩だらけになるー! しょっぱーい!」

「ははは、しゃーない。我慢してくれよアネモネちゃん」

 別に操縦しているアキラのせいではない。

 海だから仕方ないのだ。


「ウチは、2度と乗らないにゃ!」「俺もだよ!」

 獣人たちには不評だが、こいつはこの世界の他の船と違うからな。


「普通の船は、こんなに波しぶきはかからないと思うぞ」

 三毛の話では、鉱山がある海岸までは6~7リーグ(10kmほど)で、距離は船で商人から聞いたらしいので間違いないようだ。

 船が時速30kmで進んでいるとすれば、20分で着く。

 左手に延々と切り立った崖が見える。

 崖はこのまま鉱山のある所まで続き、途切れて低くなっている場所に浜と港があるらしい。


「ケンイチ! なにかいる!」

 アネモネが右手を指差した。

 なにかヒレのようなものが見えている。


「なんだ? サメか?!」

「ああ、アレは大丈夫だよ。おとなしい海獣だ」

 三毛が正体を知っているらしいが――おとなしいといっても、たまに遊びでぶつかってきて船をひっくり返すこともあるらしい。


「イルカみたいなものか?」

 俺のつぶやきも、アキラにしか通用しない。


「ああ、そんな感じかもな。イルカはあんまり美味くねぇし」

「いや、食うなよ」

「フヒヒ、サーセン。でも、とりあえず食ってみないと」

「まぁ気持ちは解る」

「ケンイチ、イルカってなぁに?」

 アネモネはイルカという単語が気になるようだ。


「海にいる生き物で、とても頭がいい。この辺にはいないと思うが……」

「へぇ~」

 右手に並走する生き物にヒヤヒヤしながら海を進むと、崖の切れ目に海岸が見えてきた。


「あそこだよ!」

「港が見えるな。人が集まっているようだが……」

「船で逃げようとしているんだろ?」

 アキラの言うとおりだろうが、船が少なくてパニックになっているように見える。

 この世界には何百人と乗れる巨大な船はない。

 せいぜい数十人ってところだ。


「アキラ、桟橋は無理っぽい。砂浜にそのまま乗り上げてくれ」

「オッケー!」

「オッケーにゃ!」

 アキラの操船で船で砂浜に対して直角に突っ込んで、乗り上げた。


「よし! 皆降りろ~!」

「にゃー!」「やるぜぇ!」

 獣人たちは、前方宙返りをしながら船から飛び降りた。

 三毛の女も一緒だ。


「わーい!」 

 アネモネとアマランサスに続いて、森猫たちも飛び降りた。

 

 最後に船長のアキラが降りたので、俺は船をアイテムBOXに収納した。

 岸から陸地のほうを見ると、途中から砂浜は切れて上り坂の草むらがずっと続いている。

 その真ん中に道が開けているが、この道が鉱山まで続いており、採掘した石灰岩を運び出しているのだろう。


「はぁ~、結構な上り坂だな」

「そうだな」

 俺とアキラが話していると、そこにちょっと太った商人らしき男がやってきた。

 緑色の服と帽子を被っていて、ちょび髭を生やしている。


「その船で私を運んではくれまいか?! その船……ないぞ?! 船は?!」

「ああ、俺のアイテムBOXに入れたんだよ」

「アイテムBOX? それはどうでもいい、私を乗せて街まで行ってくれ! 金なら出す!」

「いやいや、俺たちは状況を把握するために来たんだ。領主のハナミズキ男爵がどこにいるか解らないか?」

「領主様なら、上の方で魔物と対峙しておられる」

「そうか、それじゃそういうことで」

「待て! 待ってくれぇ!」

 俺たちが行こうとすると、背中にリュートのような楽器を背負った女が走ってきた。

 黒く長い編み込んだ髪と、浅黒い肌。へそが出た赤くて短い服とズボンを穿いている。


「辺境伯様!」

「あ~、え~と。吟遊詩人の――」

「はい、いつぞやは大変お世話になりました」

 女はペコリとお辞儀をした。


「え?! 貴族様!?」

「はい! この方は、ケンイチ・ハマダ辺境伯様ですよ」

「へ、辺境伯様?! これは、ご無礼をいたしました!」

 さっきまで威張っていた商人は、砂浜に這いつくばった。


「ああ、いいからいいから。それどころじゃないみたいだし」

「辺境伯様は、やっぱり魔物を退治をしにいらしたのですか?」

「う~ん、とりあえず様子見だな。俺は他所様だし、地元の貴族たちのメンツを潰しちゃまずいだろうし」

「そ、そんなことを言っている場合じゃないと思いますが」

 皆に同じことを言われるが、俺もそう思う。


「でも、拒否されれば、俺たちは引き下がるしかない」

「辺境伯様が魔物退治を?」

 商人は俺たちが歴戦だというのを知らないからな。


「私が歌で歌っていたでしょ? ドラゴンを倒して王女殿下をお救いしたと」

 まぁ、ワイバーンもドラゴンの一種なので、間違いではない。


「ええっ!? あれは事実なのか?」

「当たり前じゃない」

 吟遊詩人の女は商人のセリフに憤慨している。


「お前はなぜここに?」

「鉱山の慰安に呼ばれていたんです。それなのに魔物が出てきてしまって……」

「魔物って、どんなのか解るか?」

「チラリとしか見なかったのですが、骨の化け物みたいでした」

「骨――スケルトンか」

「ありゃー!」

 魔物の種類を聞いたアキラが頭を抱えた。


「アキラのマヨネーズが一番効きそうにない魔物だな」

「そうなんだよ。あいつら火も効かねぇし」

「まったく効かないのか?」

「そりゃ、骨が灰になるぐらいの火力があればべつだが――そんなのデキッコナイスだろ?」

「ああ」

 そこにニャメナが入ってきた。


「旦那たちがよく言っているデキッコナイスっていうのは?」

「俺たちの地元にいた偉人だ」

「そうそう」

「へぇ~」

 もちろん大嘘である。


「騎士団の中に神官でもいればいいが……」

「アキラ、神官って帝国ではいたのか?」

「あまりいねぇなぁ。この世界は、宗教はあまり強くねぇからな」

「街で、教会とかも見たことがないし……」

「そうなんだよ」

 ここであれこれ話していても仕方ない。

 なにはともあれ、現場に行ってみることにした。


「ここ、車で登れるかな?」

「大丈夫だろ」

 アキラと一緒に車を出して、皆で乗り込んだ。


「あの! 私も行きます!」

 叫んだのは吟遊詩人だ。


「お前、逃げてきたのに、現場に戻るっていうのか?」

「辺境伯様の実際の活躍を目のあたりにできるなんて、またとない機会ですし!」

「言っておくが、危なくなっても助けてはやれんぞ?」

「心得てます!」

 覚悟は完了しているようなので、アキラの車に乗ってもらう。

 2台の車に分乗が完了すると、草むらの中にできた坂道の一本道を上り始めた。

 海岸に集まっている人々が、坂を上っていく鉄の箱に大騒ぎをしている。

 車は、坂道を物ともせずに、ぐんぐんと上がっていく。


「すごいにゃ!」「こんな坂も上れるんだな!」

「すごーい! 急な坂道も上れる!」

 助手席に乗っているアネモネがはしゃいでいる。


「これはすごいのぅ……」

 アマランサスも感心しているが、こんな急斜面初めて――いや、地元の港町で上ったような……でも、あそこは舗装されていたしな。


「俺も初めて上ったよ」

 TVの番組や、動画サイトですごい坂道を上る動画を見たことがあったが、自分でやる羽目になるとは……。


 ラ○クルの頑張りも、崖のような急斜面が出てきて上れなくなった。

 道がジグザグのカミナリのようになっているのだ。

 斜面は上れるのだが、コーナーで車が転回できない。

 切り替えしても無理。


「ケンイチ、どうする?」

「しょうがねぇ、一旦降りてくれ」

 車から降りると、すぐに後ろにアキラの車がやってきた。

 彼が窓を開けて叫ぶ。


「ケンイチ、どうすんだ?」

「一旦アイテムBOXに入れて、反対に向けて出す」

「なーる!」

 車を方向転換させて再び出す。

 バックカメラもあるし、バックでも上れないこともないと思うが――。

 こんな坂道を後ろ向きで上りたくない。

 アイテムBOXに入れたり出したりを2回繰り返すと、坂の上に出た。

 アキラたちも、俺の真似をして上ってくると2人でガッツポーズ。

 そこからはゆるい坂が続き、10分ほどで鉱山の入口が見えてきた。


「ケンイチ! あそこ!」

 助手席のアネモネが叫んだ。

 鉱山の入口の前で、多数の兵士たちが沢山の白いなにかと戦っている。

 甲冑を着た兵士たちも多いのだが、獣人達も多いようだ。


「あれは、おそらくギルドを通じて金で雇った傭兵だろうのぅ」

「それにしても人が多いな」

 スケルトンらしき敵も多いが、兵士も多い――数百人はいるように見える。


「ここを突破されたら、貴族街へ一直線。貴族たちは全戦力を投入したのじゃろ」

 ここで食い止めねば、真っ先に貴族街が破壊されてしまう。

 逃げでもしたら全財産を失う。そりゃ貴族たちも必死になるはずだ。

 とにかく戦える男は全員やってきたって感じだな。


 その中で指揮をしている領主を見つけると――俺は彼の所に向かった。



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