122話 奴隷だと?!
俺たちは王都に戻ってきたのだが、国王との謁見で、またひと悶着あった。
王妃からの攻撃を受けたのだが、なぜ攻撃を受けたのか理由が不明なのだ。
王族たちと話し合いをしていた王女――リリスの話でも、理由が解らないという。
国王や宰相、そして大臣たちも、なぜこんなことになったのか解らないようだった。
大きなトラブルはあったが――騒動のあと、国王が褒美の約束をしてくれた。
宰相から「留まってくれ」と頭を下げられてしまったのだが、俺としては――褒美は、もうどうでもいいので早く帰りたい。
仕方なく、お城の裏庭に戻ってきて、皆でちょっと早い夕飯を食べる。
和気あいあいと食事を摂っていた皆の動きが、突然止る。アキラの言葉に後ろを向こうとすると誰かに抱きつかれた。
甘い香りと辛子の匂いをさせて、白いドレスで抱きついてきたのは、王妃だったのだ。
「王妃!」
「聖騎士様……」
「懲りずに再戦するつもりか? 今度は容赦しないぞ?」
「いいえ――」
「それじゃ、なんだ? 王族の遊びに付き合っている暇はないんだ」
険悪な言葉を吐き捨てる俺に向かって、王妃がとんでもないことを口走った。
「聖騎士様、妾も一緒に旅の供させてたもれ……」
王妃は俺に抱きついたまま、うっとりとした表情で、わけのわからんことを言い出した。
「はぁ? なんで、お前を連れていかなくちゃならん。お前をベッドに運んだ陛下はどうした?」
「動けない妾を手篭めにしようとした故、死なない程度に痛めつけたわぇ」
「なんだって!? お前、そんなことをしたら……」
「ぷい!」
王妃が横を向いて、目をそらした。
チラリとアキラのほうを見ると――「あ~あ」みたいな顔をしている。
動けない女をやる――みたいな性癖があると、アキラが言っていたが、本当にそれだったのだろうか?
「だいたい、夫婦なのに……」
「夫婦でも、意にそぐわないまぐわいは、慰みものにすると同義であろ?」
「たしかに、それはそうだが……」
「聖騎士様は、妾を暗い部屋から助け出すために、やって来てくれたのであろ?」
「はぁ?」
そういえば王妃は、以前にそんな話をしていたなぁ。暗い部屋で小さな机に縛り付けられて、来る日も勉強させられたと。
「あの暗い部屋で来る日も来る日も、ずっと聖騎士様を待っていたのじゃ……でも、きっと来てくれると信じて待ち続けた……」
「俺が聖騎士になったのは、王女の力でつい最近のことだろ?」
「いいえ、アストランティアからの噂を聞いた時から予感があったわぇ」
「もしかして、それで俺たちを呼びつけたのか?」
「――そのとおりじゃ。そして悪夢に悩まされていた妾の寝室の闇を、たやすく解いた御業をみて確信に変わった」
その割には、謁見の間で戦闘になったじゃねぇか。
「なぜそれが、謁見の間で戦闘になるんだよ」
「聖騎士様の力を確かめる意味と、ナスタチウム侯爵のあの娘の鼻を折るのと、後はゴニョゴニョ……」
「そのゴニョゴニョは、なんなんだよ」
「だって……」
「だって?」
「だって聖騎士様は、妾を無視してリリスと遊んでばかりではないかぇ! 妾はずっと、あの暗い部屋で待っておったのに! 褒美にリリスを選ぶなど、酷いのじゃ!」
「まさか、褒美でお前を選ぶとか、本気で思っていたとか?」
「……」
彼女は黙っているのだが、自分を褒美に選んでくれるだろうとマジで思っていたようだ。
このメンヘラピーが、そんなわけあるかい!
「大体、王女の方が若くて処女だし、そっちを選ぶに決まってんだろ?」
「妾だって処女じゃ!」
王妃がそう言うのだが……。
「それじゃ、子供ができないんじゃなくて、子作りしてなかったんじゃねぇか……」
ちょっと頼りない国王陛下だったが、あまりにも不憫過ぎる……。
あの得体の知れない威圧能力で睨まれたら、普通の男なんてシオシオのパー(死語)だろう。
狩りをしていたとか言っていたが、男を引っ掛けても、散々弄んでキャッチ・アンド・リリースを繰り返していたらしい。
つまり、そういう遊びだ。こんな女に引っかかった男たちも不憫だ。
「それじゃ、お前の嫉妬で俺の家族を危険に晒したというのか? それに、お前の部下も死んでいるんだぞ?」
「それは聖騎士様が悪いのじゃ」
王妃が、プイとまた横を向いた。
「ふざけんなよ――」
王妃を引き剥がすために、彼女の身体を掴むと、聖騎士の力を使う。ナチュラル回復のオーバードーズだ。
「あひっ! ひいいいいいぃ!」
途端に、王妃がひっくり返って、ビクビクと痙攣し始めた。
やはり、さっきの戦闘の後遺症が残っているようだ。彼女の力からすれば、このぐらいの攻撃を躱すことぐらい、造作もないはずだ。
それを見たリリスが、立ち上がると割って入ってきた。
「母上、何ということを!」
ひっくり返っていた王妃だが、リリスを無視してゾンビのように起き上がると、俺の脚にしがみついた。
まだ動けるのか?
「聖騎士様! どんなことでもいたします故、妾も連れていってたもれ!」
「どんなことでもするのか?」
「はい!」
王妃の顔がパッと明るくなる。
「それじゃ、そこに立って、白いドレスの裾を捲ってみせろ」
それを聞いた王妃は、黙って立ち上がると、ドレスの裾を持ち上げ始めた。
その顔は紅潮し、目をつぶり横を向いている。
「もっとだ!」
「あの、見えてしまうのじゃ……」
「見せろって言ってるんだよ」
ギリギリのところで、スカートが止まっているのだが、しゃがみこんで下から見れば金色の茂みが見える。
俺が指を伸ばしてそれに触れると、王妃がストンと腰を落とし、ピクピクと震えている。
「よし! お前の覚悟は解った!」
「では! 妾も一緒に!」
王妃の顔が、再びパッと明るくなる。
「ははは! だが、断る!!」
その言葉を聞いて、王妃が俺に抱きついてきた。
「そんなぁ! 聖騎士様ぁ! なんでもいたしますゆえぇ!」
「うぜぇ! 放せ、このピーが!」
すがりついてくる王妃を必死に引き剥がす。やはり、いつものパワーを感じないので、身体は本調子ではないようだ。
そりゃ熊スプレーかけられて、スタンガンくらって、聖騎士の力を思いっきり使われたのだから、普通の人間なら数日は動けないはずだ。
動けるだけでも只者ではないのは確かだが、それがなんだというのだ。こんなピーと一緒に旅をするなんて、俺と家族に何のメリットがあるというのか。
「それならば、これを見るがよい!」
王妃が何か黒い輪を取り出した。直径10cmほどで装飾が施されている。
「母上、それをいかがなさるおつもりなのです!」
叫ぶ王女を王妃が制す。王女はそれが何か知っているらしい。
そして俺の指を取ると、彼女の指と一緒に輪の中にいれた。
「古の習わしに従い、ここに隷従の契約を交わす。アマランサス・ラナ・カダンよ、この契約に同意するか? はい!」
王妃の言葉とともに、黒い輪が青い光を発する。
固く指を握られていたために引き抜けず、何かの契約が済んでしまった。
そして光が王妃の首元に巻き付くと、黒い鎖の模様になった。
「母上、何ということを!」
「なんじゃこりゃ!?」
王妃が首の黒い鎖を誇らしげに見せている。
「ケンイチ、それは隷属の契約じゃ。つまり母上は、ケンイチの奴隷となった……」
「はぁ?! なんじゃそりゃ!」
そういえば、アキラが奴隷契約出来るアイテムがあると――。
「これで、妾と聖騎士様は一心同体! もう離れられぬ!」
「おい、ふざけんなよ! 契約を解除しろ!」
「いやじゃ! ぎゃぁぁぁぁ!」
俺の言葉を否定した王妃が転げ始めた。
「どうしたんだ?」
「契約奴隷にとって主人の命令は絶対だ。それに逆らえば、全身に激痛が走る」
「ひぃひぃ……」
王妃が地面に転がり、息も絶え絶えになっている。
「わけが解らん。どうすんの、これ?」
「命令を取り消せばよい」
「命令取り消し!」
王妃が、身体を起こすと肩で息をしている。
「こ、これで、妾も聖騎士様と一緒に……」
「なるほど! お前の思いは確かに受け取った」
「それでは!」
王妃の顔が明るくなる。
「だが、断る!!」
「そ、そんな! 後生じゃぁ! 妾を一緒に! 聖騎士様ぁ!」
「うぜぇぇ! 離れろ!」
「いやじゃ! ぎゃあぁぁ!」
また、王妃が地面を転げ回る。
「命令解除!」
「「「……」」」
皆、言葉もない。当然だろう。まったく意味不明なのだ。
「んじゃあ! 解った! 俺の命令を伝える!」
「は、はい! それでは……」
王妃が起き上がった。本当にタフだな。
「お前はここに残って、国王陛下との間に、子をなせ!」
「いやじゃ! ぎゃぁぁぁぁぁ!」
俺の命令に逆らった王妃が、ふたたびゴロゴロと転がる。
転げ回る王妃に向かって、命令を解除する。
「はい、命令解除!」
俺は、しゃがんで王妃の身体を掴むと、聖騎士の力をフルパワーで使う。
「んひぃぃぃっ!」
その場でブリッジした王妃は、白いドレスを濡して滴らせ、そのまま動かなくなった。
また暴れだして、けが人が出たりするとマズいな……何かいい方法は――。
「そうだ!」
俺は――帝国の街でアダマンタイトの手かせを買ったのを思い出した。
アイテムBOXから黒い手かせを取り出して、王妃の手首にはめる。
そして立ち上がると、辺りを見回して叫んだ。
「お~い、マイレンさ~ん! いるんでしょ?」
俺の言葉を聞いて、柱の陰からマイレンさんが現れると、スタスタとこちらへ向かってくる。
いったい、いつからいたのか不明だが、こんな具合にいつ呼ばれてもいいように、影に徹しているのだろう。
「お呼びでしょうか?」
「王妃様、ご乱心だ。一部始終見てたよね?」
「……はい」
「このまま寝室まで運んで、国王陛下にも報告して。この首の痣についても。それから、この手かせはアダマンタイトだから、王妃でも壊せないはず」
「承知いたしました」
彼女が合図すると、他のメイドたちもわらわらと集まってきた。
「妾も行ってくるぞぇ。父上に説明せねば、信じてもらえぬかもしれぬ」
「リリス、よろしく頼むよ」
「任せよ。それにしても――この分だと、また王族会議じゃぞ?」
メイドたちに運ばれていく王妃について、呆れ顔のリリスも一緒にお城へ向かった。
王妃が半殺しにしたという国王陛下の容態も気になるところだ――確認をしてもらう。
他の王族の連中も、この王妃の奇行には頭を抱えるだろう。
「はぁ――なんじゃこりゃ」
俺はその場で座り込んだ。
「よ! これで、寝取り仲間だな」
「まだ、寝取ってねぇし! あれが、アキラが言ってた奴隷契約するアイテムか?」
「少々形は違うが、この国にもあるんだな」
「でも、王妃様のお気持ちも解るような気がします。家や国の事情で意にそぐわない相手とまぐわわなければならないのですから」
そうつぶやいたのは、アンネローゼさんだ。
彼女も家の借金の形として、商人に嫁がされて、子供まで生んだ。
「それにしたって限度ってもんがあるだろ。あいつの悪ふざけで人も死んでいるわけだし」
「それは、そうですが――思いつめた女性というのは、なにをするかわかりません」
「まぁ、アンネローゼも、国を捨ててしまったしなぁ。あの王妃が国を捨ててもおかしくはないぞ?」
そう言われれば、アキラの言葉にも一理ある。
「マジかよ……」
「帝国皇帝も中々大変でしたけど、この国も大変そうですね」
「センセ、やんごとなき方ってのは暇なんだよ。生きるか死ぬかっていってる貧乏人は、こんなことやってられない」
レイランさんと話すアキラの言うとおりだ。
俺は疲れて、アイテムBOXからエアマットを出すと、その上に寝転がる。
近くにベルがやって来ると、俺の腹の上に彼女が載ってきた。
「にゃー」
「どうしよう、お母さん」
ベルの身体をなでながら悩む。
「でもよ~、旦那のことだから、そのまま連れていくかと思ったぜ」
「ニャメナ、いくら俺でも人は選ぶ」
「でもにゃー、なんだかんだと、流されて結局連れていくような気がするにゃー」
ミャレーはそう言うのだが、国王や王族がそれを認めるか?
だいたい、リリスがお城を出ることだって認めないと思うが――。
「むー!」
アネモネが不機嫌だが、どうしようもない。まったく想定外だし。
プリムラは諦めている様子。
本当に困ったもんだが、しょーもないことで悩んでも仕方ない。
アイテムBOXから小屋を出して、皆で風呂に入ることにする。風呂の準備をしているとメイドさんがやって来た。
お城の浴場が使えると言う。
「それじゃ、女性陣はお城の風呂に入ればいい。俺の所から石鹸やらシャンプー、タオルも持っていってもいいぞ」
「それでは、そうさせていただきます」
立ち上がったレイランさんは、お風呂と聞いて嬉しそうだ。
「プリムラ、ついていってやってくれ」
「解りました」
プリムラが、お風呂道具をまとめて、準備を始めた。
「レイランさんの髪の毛は、ずいぶんと綺麗になったな」
「やっぱり、シャンプーとリンスのおかげだなぁ。この世界じゃ手に入らないからな」
「石鹸はあるみたいだから、作れそうな気がするが……」
シャングリ・ラを検索すると、手作りスキンケア・コスメの本が売っている。
「リンスは作れなかったが、センセの髪に卵パックはやったぜ」
「ああ、なるほど。そういう手もあるか……でも、ここは卵も高級品だからな」
「まぁな」
メイドさんに話を聞くと、泊まる部屋も用意してくれるようだ。
完全に、お客さんモードになったな。女性陣はお城の部屋の方がいいだろう。
「アネモネも入ってくればいい」
「私は、ケンイチと一緒に入るから要らない」
「風呂も一緒ってのは、マズいんじゃねぇの?」
アキラの言うとおりだ。
「俺もそう思うんだが、彼女が言うことを聞いてくれないんだよ。アネモネ、もう大人なんだから、一人で入りなさい」
「や!」
プリムラは、お城のお風呂へ向かう。プリムラとアンネローゼさんが嬉しそうに話している。
彼女と話が合いそうな女性がいなかったからな。
女性陣はお城に向かったが、獣人たちは中には入れないので、ここで風呂に入ることになった。
謁見の間に、ミャレーとニャメナを入れるのだって、やっと認めさせたんだからな。
風呂なんて入れてもらえるはずがない。
まぁ、ひと騒動あって疲れたので、のんびりしたいところだ。
俺たちとは裏腹に王族の連中は、王妃の奇行で一晩中もめることだろう。
ストレスが溜まったので、お風呂とジェットヒーターでふかふかになった獣人達と、一緒に寝ることにした。
この世界で最高の癒やしだ。どんな高級毛布も、これには敵わない。
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――次の日。朝起きて、飯を食う。
お城の風呂に入った、プリムラやレイランさんたちは戻ってきていない。
朝やってきたメイドさんの話によると、朝食もお城の食堂で摂るようだ。
リリスは帰ってこないので、王族の話し合いがどうなったかは解らない。
あまり結果は聞きたくないし、早く帰りたいのだが、峠を開通させたことについては、褒美をもらわないと割に合わないからな。
もらえるもんは、もらわんと――それで、なんでここまで話がこじれるんだ。
プリムラがいないので、皆で簡単にグラノーラを食べる。
パンはアネモネが焼いてくれた。
「おほ~焼きたてのパンは、うめぇ!」
アキラが喜んでいる横で、アネモネが俺の顔を覗き込んでいる。
「ケンイチ、怖い顔をしている」
「ごめんよ、アネモネ」
「誰にでも優しいケンイチが怒るなんて、よっぽどだにゃ」
「そりゃ、旦那だって怒るだろ。訳が解らねぇもん」
ニャメナの言うとおりだ。本当にわけが解らん。
「まぁ、お城の風呂を使わせてくれたり、朝食も出してくれるんだから、危機は去ったんじゃねぇの?」
アキラがパンを頬張りながら答える。
「危機になること自体が、わけが解らんのだけどな」
「それは王妃が自分で言ってたじゃん。ただ嫉妬だって」
ただの嫉妬で、死人が出るのは勘弁してほしいのだが……。
そこへ、リリスが戻ってきた。
「ケンイチ、朝食じゃ」
「はいよ~」
「――とはいったものの、リリスにグラノーラだけじゃ……」
「ケンイチ、妾は鳥を揚げたものが食いたいの」
「朝から、唐揚げかぁ――昨日食べたやつでいいのか?」
「無論じゃ」
またシャングリ・ラから、○将の唐揚げの袋詰を買う。
そして大皿に盛って、アネモネに温めてもらう。すぐに茶色の唐揚げがチリチリと白い湯気をたて始めた。
「うむ、美味い」
「ウチも食べるにゃ」
「俺も摘んでもいいか?」
「私も食べる」
眼の前にあると、摘みたくなるようだ。アキラとアネモネも大皿から唐揚げを摘んでいる。
「ケンイチ、タルタルソースはないのか?」
「タルタルか……ちょっとまってくれ」
アキラの言葉に、シャングリ・ラを検索するとマヨネーズと同じ会社のものが売っている。
「ポチっとな」
チューブに入っているタルタルソースが落ちてくる。そういえば――これって原料は、ほぼマヨネーズと同じだと思うのだが……。
「アキラ、マヨネーズが作れるなら、タルタルソースも作れるんじゃないのか?」
「ええ? タルタルソースなんて、どうやって作るのか知らないぞ?」
そう言われれば、タルタルソースは作ったことがないな。
「ふぉっ! このソースは美味い!」
「美味しい!」
リリスとアネモネが喜んでいるが、朝からこんなものを食べていたら、絶対に身体に悪い。
いやいや、タルタルソースはどうでもいい。お城はどうなったのだろうか?
「それで、リリス。お城は、どうなった?」
「円卓会議の連中は頭を抱えておったぞ。王族が奴隷になるなど聞いたことがない!」
前代未聞ということだが、初代国王が奴隷上がりだったのだから、原点に戻ったともいえる。
「まぁ、落ちぶれたり、滅ぼされた国の王族が堕ちることはありますがねぇ」
アキラの話にリリスが渋い顔をしているのだが、王妃は落ちぶれたわけではなく、現役の王族なのだ。
「奴隷契約の解除をしなければ、王族籍を廃籍させることに決まった」
「肝心の王妃はどうなんです?」
「拒否している」
話を聞いたアキラが唐揚げを摘み、タルタルソースをつけながらつぶやく。
「そいつは面倒だなぁ、下手したら自害されたりして……」
「アキラ、そんな玉じゃないんだよ。今は俺にやられて弱っているだろうけど、身体が本調子になったら、騎士団なんて木っ端みたいなもんになるぞ?」
「それは、かなり面倒なことになるなぁ――お城が血の海になるか?」
「それは避けなくてはならん!」
気になる国王陛下の容態も聞く。
「命には別状ないが、相当落ち込んでおったようだ。王都中の大魔導師を呼んで治療に当たらせておる」
大魔導師っていうと、メリッサも来てるのかな?
「落ち込んでいるのは、王妃に拒否されたからってことでよろしいので? 王女殿下?」
アキラの言葉にリリスが唐揚げを頬張りながら答えた。
「そなたの言うとおりじゃな。父上が子供の頃から憧れの女性だったらしいからの」
「でも、王妃の目の前に立つと、なにもできなかったらしいんだ」
「ああ、それで! 王妃が動けなくなった今回が、最後のチャンスだったと……」
アキラが手を叩いた。ちょっと歪んだ愛情なのは間違いない。
最後のチャンスも失敗し、他の男と奴隷契約を結んでしまった。この顛末に国王の気持ちも王妃から離れてしまったのかもしれない。
いや、離れてどうする? もう嫌な予感しかしねぇ。
リリスの話では、今日中に国王と会うのは無理のようだ。
しょうがねぇ、1日ゆっくりしよう。レイランさんたちは、俺たちが出発するまでお城の来賓室に泊まれることになった。
まぁ裏庭で野宿するよりは、いいだろう。
そう思ったのだが、リリスの下にやって来たメイドの話を聞くと――。
どこから噂を聞きつけたのか、夜烏のレイランにひと目会いたいと貴族たちが押しかけてきているという。
帝国の大魔導師で美人、しかも爆乳。もう会うっきゃない! ――ということなのか。
ミーハー(死語)な連中は異世界でも、変わらないらしい。
そしてプリムラは、王族たちにシャンプーやリンスを売り込んでいるというのだが――本当に、どんなものでも売っちゃうんだからなぁ……。
そして午後になり、プリムラがシャンプーとリンスの追加が欲しいと俺のところにやって来た。
「あの、ケンイチ。王族の方々が真珠もご所望なのですが……」
「ああ、相手が王族ならいいぞ」
商品を片手に王族に取り入って、マロウ商会の王都進出のコネを作るらしい。
今までは、王妃と王女のコネを使おうとしていたのだが、その二人がヤバくなったので、他の王族に乗り換えるつもりなのかも知れない。
我が妻ながら、さすがしたたかだ。
いつものとおりに夕食を食べ終わって、皆で暇つぶしにゲームをやる。
そして後は寝るだけ――だが問題が持ち上がった。
女性陣がお城に泊まっているので、王女とメイドさんに俺の家を開放した。
俺と獣人たち、そしてアネモネはテントの中。
だが、リリスが俺の所へやって来て一緒に寝るというのだ。
俺の目の前に――寝巻きに着替えた彼女が、腰に手を当てて立っている。
俺がシャングリ・ラで買った、うすピンク色のリボンがついたワンピースの寝巻きが、とても似合っている。
いや、そうじゃない――王族と同衾? う~ん、どうしよう……。





