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【完結】囚われの王女は敵国の宰相にしあわせを所望する。  作者: 当麻リコ


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悪虐拷問官様

書類にペンを走らせながら、ふと小さく笑いをこぼす。


「なんです?」


吐息程度の音量だったのに、執務室で共に仕事を片付けていたロランが顔を上げた。


「思い出し笑いですか? 珍しい」


奇妙なものでも見るような顔でこちらを見る。

本当に無礼な部下だ。


「いや、どうやらアシュリーは気づいているようだなと」

「なんの話ですか?」


分かっているくせに、ロランが知らん顔で書類に視線を戻した。


「悪虐拷問官様が本当は誰なのか、だ」


笑いながら言う。


噂が流れた要因のうち、半分はアシュリーに話した通りだ。あの話に嘘はない。

だがその噂を助長する要因は他にあった。

それがこのロランだ。


そもそも宰相自ら拷問に駆り出されるというのがおかしな話なのだ。

宰相の仕事は多岐にわたり、捕虜や罪人を長々拷問していられるほど暇ではない。

監獄塔の管理責任者ではあるが、俺の役割はあくまで罪人を締め上げ情報を吐かせるよう指示を出すだけ。

そしてそれを実行に移すのは部下であるロランだ。

それさえも本当はロランのさらに下の者がやるべきなのだけど。


「罪人をいたぶるのが趣味だもんなぁ?」

「心外ですね、私は普通の罪人や捕虜には優しいですよ」


揶揄を込めて言えば、手を止めて不服そうにロランが返す。

ロランの言葉に嘘はないのだろう。

確かに止むに止まれず窃盗の罪を犯した庶民や敵国の捕虜には「悪逆宰相」の名をチラつかせるだけで済ませている。

それを優しいと形容できるのかは謎だが。

言い換えれば、チクチクと言葉で精神力を削り追い込むことに長けているということでもある。

こいつは人を精神的に追い込むのが本当に上手いのだ。


だがひとたび悪人を前にすると、ロランの理性は消失してしまう。

部下として心から信頼している俺でさえ引いてしまうほどに。


「なんだっておまえはそんなに悪人に厳しいんだ」


前々から気になっていたことをこの機に聞いてみる。


「だってやつら散々人を理不尽に痛めつけてきたくせに、捕まった後でさえ自分が虐げられる側になるなんてこれっぽっちも思っていないんですよ」

「歪んだ正義感だな」

「正義感? まさか。私にそんなものはありません。ただ悪人が泣き叫ぶのが好きなだけです」

「悪趣味極まりないな」


悪びれる様子もなく認めるロランに呆れてしまう。


「まあ与えた仕事をこなしさえしてくれれば、空いた時間に好きなことをするのは構わんがな」


ため息交じりに言う。


ロラン曰く、悪人の拷問は楽しくて仕方ないらしい。

それはもう時間と手間暇をかけて、入念に痛めつけるのだ。

彼の手にかかれば、どんな悪党でも心を折られ罪を告白してしまうほどに。

善人相手にはその食指が動かないのが幸いだった。


拷問大好き悪虐宰相。

その不名誉な噂を甘んじて受け止めているのは、ひとえにロランがそうだと言っても説得力がないからだ。

線が細く甘いマスクの男より、強面でガタイのいい男の方がよほど真実味がある。

拷問なんかせず、ランドルフの名を出すだけで白状してくれるならそれが一番だ。

最近では俺に捕まることを恐れて国内の犯罪率自体減っているのだから、噂というものはなかなか馬鹿にできない。


「おかげでストレス発散の場が減りました」


ボヤくようにロランが言う。


「罪人でストレス発散するんじゃない」


すかさず部下を窘める。

その言い方では私利私欲の職権乱用だ。

だいたい、クリーンな職場環境のどこでストレスが溜まるというのか。


「……私に閣下の拷問をさせないでくださいね」


ロランが静かな声で言う。

書類から顔を上げて見れば、真剣な目がこちらを見ていた。


「……そうだな」


ロランの言いたいことは分かっている。


アシュリーのもたらす情報は逐一陛下に報告しているが、一部を意図的に伏せていた。

具体的に言うなら、いますぐにでもカラプタリアに攻め入ることができるほどの情報を。


ロランにそれを伝えたわけではないが、有能な部下だ。とっくに気づいているだろう。


「このままでは国家反逆罪で捕まってしまうからな」

「笑いごとですか」


笑いながら言うと、ロランが呆れた顔になった。


「そうなったら俺の拷問官はおまえだな」

「うえ、勘弁してくださいよ。全然楽しくなさそうです」


すぐにいつもの調子にもどって、しばらく軽口を言って笑い合う。


だがロランに言われなくても、もう本当にケリをつけなくてはならないということは分かっていた。

無意味に引き延ばしてアシュリーをここに留めおくのは、誰にとってもいい結果にはならないのだから。

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