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第66話 すごいよ! ニーナちゃん!(後編)

 材料収集は思いのほか順調に進んだ。


 私と要塞に湧く『ブレイズ』を狩るニーナちゃん。

 彼女のAIM(弓や銃などで敵を射貫く能力)はかなり正確で、攻撃範囲外から一方的に敵を倒していく。負けじと私もトライデントで敵に大ダメージを与える。

 気が付けば『ブレイズパウダー』の材料は集まっていた。


 もう少し狩りを楽しみたいが――今日の目的はエンドラ討伐。


「そろそろ戻ろっかニーナちゃん! レッツゴーエスケープ!」


「OK! エスケープ!」


 追いかけてくる『ブレイズ』を牽制しながら、私たちは元来た通路を戻った。


 一方、すず先輩とあひる先輩は――。


「なにこの断末魔! すずちゃん! この敵めっちゃ怖いんだけれど!」


「大丈夫大丈夫! そのうち癖になるから!」


「癖になるのォ⁉」


「おうおうエンダーマン! 今日もいい声で鳴いてくれるじゃねえか! その鳴き声が、すずの嗜虐心を昂ぶらせてくれるぜ! ふへへへへ!」


「すずちゃん⁉」


「今日もエンダーマンの悲鳴で、ごはんがうまうまうまうま!」


「大丈夫⁉ ゲームのしすぎでおかしくなってない⁉」


 順調に『エンダーマン』(エンダーパールを落とすモンスター)を狩っていた。

 ブレイズと違い『エンダーパール』のドロップ率が低い『エンダーマン』。集めるのに手間取るかなと心配していたけど、うまくやっているみたいだ。


 流石はすず先輩。


 あひる先輩は、エンダーマンに負けないくらいうるさかったが。


「よし! ばにらちゃん、ニーナちゃん! こっちも10個、エンダーパールゲットしたよ! これからあひるちゃんと一緒に戻るね!」


「おつかれさまですバニ! すず先輩! あひる先輩!」


 ここまでは順調。

 時間もほぼ予定通り。

 むしろ早いくらいだ。


 やはり、ニーナちゃんとすず先輩のマイクラの腕が凄いのが大きい。

 私も公式サーバーの公開に合わせて練習したけれど――とても敵わない。

 あひる先輩が「ニーナちゃんは元々アイドル」だと言っていたが、とても信じられない。ゲーマー顔負けの確かなゲーミングセンスを感じた。


 これはとんでもない逸材が現れた。

 うかうかしていると、あっという間に抜かされる。


 未来のニーナちゃんの人気に思いを馳せながら、私はネザーゲート前でアイテムを整理する。エンダーチェスト(特殊な道具箱。中にアイテムを入れると他のエンダーチェストと中身が共有される)に、『ブレイズパウダー』の材料を収めながら、私はふと液晶画面の下に置いたスマホに目を向けた。


 スマホには美月さんとりんご先輩の配信が流れている。

 予告していたマイクラコラボだ。


 ミュートにしているので何を話しているかは分からない。

 だが、どうやらブランチマイニング(マイクラで鉱石を採掘する効率的な手法)をしているらしい。


 鉄ピッケルと鉄スコップで、もりもりと地下を掘っていく青葉ずんだ。

 地味な配信だが、その姿に、私は一瞬だけ我を忘れた。


 その一瞬が命取りだった――。


『(インドネシア語)ばにら先輩! 上! 上をみてください!』


「へっ……? きゃああああっ!」


 ニーナちゃんが叫んでいるのは分かった。

 ただ、咄嗟にインドネシア語が出たのだろう。

 意味が分からないうちに――私は爆発で吹き飛んだ。


 アバターが炎に包まれる。

 マグマへの落下死こそ免れたが、一瞬にして体力の半分が奪われた。

 私は無我夢中でネザー要塞に向かう通路へ逃げ込む。


 炎に包まれるネザーゲート。

 その時、ヘッドホンから亡霊のような鳴き声が聞こえた――。


「どうしたのばにらちゃん! 事件性のある悲鳴が聞こえたけれど!」


「……がっちゃんです! がっちゃんに遭遇しました!」


 がっちゃん。

 正式名称『ガスト』。


 ネザーで最も出会いたくない危険なモンスターだ。


 ネザーの空をふよふよと浮遊する巨大な白いクラゲ。

 体力は『エンダーマン』や『ブレイズ』と比べると低いが攻撃を当てにくいのだ。


 さらに、厄介なのはその攻撃。

 口から吐く火炎弾は周囲のブロックを巻き込み爆発し、直撃すれば大ダメージを受ける。また、爆心地の周囲のブロックを炎上させ、ダメージ床に変換する。


 近接武器しか持たずにエンカウントしたらほぼ詰み。

 火炎弾を打ち返せるが――慣れないとタイミングを合わせるのが難しい。

 さらに、他のモンスターと交戦している状態なら最悪だ。


 幸い、今回は周囲に他のモンスターはいなかったが――。


「……あっ! しまった、さっきの爆発でネザーゲートが!」


 ガストの放った攻撃で、私たちのネザーゲートが破壊されていた。

 ゲート自体は残っているが中のワープホールが消失している。


 これでは、元の世界に戻ることができない。


「ニーナちゃん、『火打ち石』持ってる? ドゥーユーハブ、ファイアロック?」


「ファイアロック? ソーリ、アイドントハブ……」


「やっちまったバニ。ばにーらも、ネザーゲートが破壊されるのは想定外ばによ」


 再びワープゲートを開くには、『火打ち石と打ち金』で黒曜石のゲートに火をつける必要がある。しかし、冒険に必要のないアイテムを持っているはずがない。


 万事休すか。

 まさかネザーに閉じ込められるとは。


 すず先輩に向こう側からネザーゲートを再起動してもらおうか。

 いや、その前にガストをどうにかしなくては。

 マイクラはワープの待機中にも敵が攻撃してくる。


 私は急いで対策を練った――。


「まずは、こっちでガストを倒す。それから、なんとかしてネザーゲートを再起動する。あるいは、すず先輩に向こうからネザーゲートを再起動してもらう……」


 まさかニーナちゃんの初配信でこんなピンチに陥るなんて。

 不甲斐なさに、私は液晶モニタの前でうなだれた。

 FaceRigが、そんな私の表情を読み取り『川崎ばにら』の顔を曇らせる。


 その時だった――。


「ばにらシャチョー! ジャストモーメントプリーズ!」


「……ニーナちゃん?」


 英語で「ちょっと待って!」と言うと、ニーナちゃんが通路から飛び出す。

 威嚇するがっちゃん。しかし、爆発音より早く、矢が風を切る音が聞こえてくる。続いて響いたのは、丸石の壁越しにも聞こえるがっちゃんの断末魔。

 どうやらニーナちゃんが、がっちゃんを倒したようだ。


 しばらくすると、彼女は通路に戻ってくる。

 それから――何を思ったのかおもむろに作業台を設置した。


『(英語)ネザーゲートは「火打ち石と打ち金」がなくても起動することができます。ようは炎を発生させればいいんです』


「え、なんて? なんて言ってるバニ、あひる先輩!」


「他のアイテムでネザーゲートを起動できるって!」


「嘘でしょ⁉ そんな方法あるバニか⁉」


『(英語)ガストがドロップした「火薬」と私たちが集めた「ブレイズパウダー」、そして念の為に持って来ていた「木炭」を混ぜれば……「ファイヤチャージ(発火剤)」の完成です! これをネザーゲートにぶつけてゲートを再起動します!』


 クラフトしたのは『ファイヤチャージ』。

 ニーナちゃんはネザーゲートに近づくと、黒曜石の端にそれを投げつける。


 すると――紫色をしたワープホールが本当に復活した。


 すごい。

 こんなネザーゲートの起動方法があったなんて。

 まったく知らなかった。


 すず先輩も知らなかったらしく、「えーっ! そんな方法でも着くんですかぁ⁉」と声をあげる。『エンドラRTA走者』の彼女も知らないなんて――。


「ニーナちゃん! 恐ろしい子やで!」


「ばにらシャチョー! ハリアップ! ゴー、エスケープ!」


 ニーナちゃんに呼ばれるまま、私は急いでネザーゲートへと飛び込む。

 彼女の機転により、私たちは窮地をなんとか脱出した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 今回は純粋なマイクラ回ですね。やってる人には伝わるけど、やってない人にはいまいち分からないかもしれないです――筆者の筆力が足りない。(一応プロなのに)

 チート知識で無双を素でやっちゃうニーナちゃん。本当に末恐ろしい新人の登場に、はたしてDStarsはどうなってしまうのか。ばにら、自分を慕う後輩を前に威厳を保ち続けられるんですかね……。

 

 なにはともあれ、ニーナちゃんの「シャチョー」呼びがツボった方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m

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